「100年に一度の大雨」はなぜ毎年のように発生するのか…気象庁が定義する「人生で一度きり」ではない驚きの意味
プレジデントオンライン / 2024年9月23日 9時15分
※本稿は、金藤純子『今すぐ逃げて!人ごとではない自然災害』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
■約50年前と比べて雨の降り方が激変している
桝谷さんに、私がまず聞きたかったのは、西日本豪雨でなぜ河川が氾濫したのかということです。その質問を投げたところ、
「近年は雨の降り方がだいぶ変わってしまっていて、小田川という器が耐えられる以上の雨が降ってしまったということにつきますね」
とのことでした。
え? 器?
「始まるはずの工事が始まっていなかったから」とか、そういう答えが来るものだと思っていたのに、違うのですね。「川の器以上の雨が降っちゃったから」だなんて……。こんな発言が世の中に出たら、クビになったりしないのかしら、と私のほうがびっくりしてしまいました。
そこで、もう少し詳しく雨の降り方についてお話を伺いました。図表1を見るとわかる通り、最近では雨の降り方が非常に激しくなってきています。時間雨量50ミリを超える回数が1976~1985年の10年間では平均174回だったものが、2010~2019年では平均251回となり、1.4倍ほど増加しているのです。
■水害被害額も毎年のように更新されている
特に図の黒の矢印で示していますが、毎年のように大きな災害が全国のどこかで発生しているというような状況です。
2019年の水害被害額が統計開始以来最大になりましたが、この年はあの西日本豪雨に見舞われた年の翌年です。その翌年が最大になってしまったのです。ちなみに2019年には令和元年東日本台風が上陸し、関東・東北地方を中心に142カ所で堤防決壊が発生しました。
この年の一年間の水害被害が2兆1800億円です。2番目は台風が10個も日本に上陸した2004年で、2兆200億円です。この年は、京都府舞鶴市の由良川の堤防が決壊し、観光バスが立ち往生して、バスの屋根の上に助けを求める人がたくさん乗っていたのが印象的でした。なお、西日本豪雨が発生した2018年の水害被害額は約1兆4050億円です。
なぜこんなに雨の降り方が変わってきたのか。それはやはり地球温暖化の影響だというのが専門家の見解です。産業革命があった1800年代や1900年の初頭以降からどんどん気温が上がっていて、21世紀末になる頃には、2~4℃上昇するようなシナリオもあります。
■「晴れの国」だからこそ起きた水害だった
そして、世界の中でもいわゆる中緯度の陸域、すなわち日本が含まれる地域では極端な降水が発生するのではないかというレポートもあります。
さて、台風の通り道にあたる四国や九州は「台風銀座」と呼ばれている地域で、毎年のように大雨が降っています。そこで、そこに流れている河川には多くの税金が投じられて、氾濫しないように改修が行われてきました。
その一方で、岡山県は「晴れの国」といわれるように、大雨による河川氾濫はあまり起きてきませんでした。それよりは、むしろ土砂災害のほうが発生しやすい傾向にあったのです。
ですから、岡山県の河川の改修は、それまで降ってきた雨の量に合わせた河川の整備が行われてきたそうです。結果として、西日本豪雨では、高梁川の本流は氾濫しなかったものの、高梁川の支流が溢れてしまったのです。
「川が溢れてしまったのは、それらの河川の大きさ以上の雨の量が川に流れ込んだからです。私から見れば、『あのときの岡山に降った雨が、九州や四国に降ったなら。同じような災害が起きますか』と尋ねられると、『おそらく起きていない』と答えます。なんといっても、九州や四国で大雨が降ってきた河川では、その大きさが違いますからね」(桝谷さん)
■人の手によって大きさが変わる河川のしくみ
この桝谷さんの言葉を聞いて、私の頭の中に「?」マークが浮かびました。「九州や四国の大きな川なら、岡山で降った雨でも溢れなかったかもしれない」とはどういうことなのでしょうか。まるで、河川の大きさは、その地域で降ってきた雨の量に合わせて人が決めているかのようです。もともと大きな川だった、小さな川だったというわけではないのでしょうか。
「河川というのは、『堤防と堤防の間』で定義されるものなのです。今の河川の堤防というのは人の手で作られています。つまり、河川の大きさは人為的に作られた堤防の幅によって、川幅が決められています。結局、人が『ここからここまでが河川』というように、その大きさを決めているということですね」(桝谷さん)
たしかに、言われてみれば堤防のない川はありません。今までそんな当たり前のことに気づいていませんでした。では、その河川の大きさはどうやって決めるのでしょうか。
■「100年に一度の大雨」とはどういう意味か
桝谷さんによるとそれは、「これまで、この場所では過去にこのような水害があったから、その量を流すことができるように、川の大きさを決めましょう」などと考えて決めるのだといいます。小田川などの岡山の河川も、それまで経験してきた雨の量から、堤防を作ったり川底を掘削したりしているのです。
なお、国が管理している多くの川は、「100分の1~200分の1の確率で降ると考えられる大雨(1/100年)にも耐えられるようにつくりましょう」という前提で整備されることになっています。
高梁川は150分の1の確率で降る雨の量を考えて、整備を進めていますが、関東の荒川や利根川など、決壊したら大災害が発生するような大きな河川では、200分の1の確率で降る大雨にも耐えられるように整備されています。この「○○分の1の確率」という言葉の意味するところは、岡山大学学術研究院・環境生命自然科学学域の西山哲教授に聞きました。
【金藤】雨の降る確率の表現がよくわかりません。たとえば100年に一度の雨というのはどう考えたらよいのでしょうか?
【西山】100年に一度発生する洪水の確率を専門的には「1/100年」と表現しますが、正確には一年のうちに発生する確率のことを指します。なんとなく、「100年に一度発生する洪水」というと、「100年生きるとしたら、その間に一度は経験するかもしれない雨が『1/100年』なのかな」と思うかもしれません。
■「30年間で数%の確率」だった能登半島地震も起きた
【西山】しかし、「1/100年」は一年間にその規模を超える降雨が1回以上発生する確率が1/100(1%)であるという意味です。つまり、1%の確率で毎年発生する可能性があるのです。「1/100年」は、一度発生すれば100年間は決して起こらないと考えてしまいそうなのですが、そうではありません。
「1/100年」の場合、3年以内に起こる確率は、ほぼ3%です。あくまでどのような大きさのことを表現しているのかであって、次の災害がいつ起きるのか、絶対にその大きさになるのか、などを表現するものではないのです。
【金藤】要は、「1/10年の規模の洪水」よりも「1/100年の規模の洪水」の方が、大きな洪水と捉えること、そして「1/100年」という表現があっても、可能性は少ないけれども毎年発生することがあり得る、ということですね。
【西山】令和6年能登半島地震でも、2020年から30年間に震度6弱以上の揺れに見舞われる確率は数%というデータが公開されていたのですが、その数%しか発生しないという地震が実際に起きてしまいました。繰り返しますが、「1/100年」の雨も、ひょっとしたら明日発生するかもしれないと考える必要があります。
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株式会社EnPal代表取締役
岡山大学大学院環境生命自然科学研究科博士後期課程在学。西日本豪雨で家が全壊した経験をきっかけに2020年6月EnPalを起業。防災研修、イベントを通じて防災啓蒙活動を行う。岡山大学では、事前防災における自助共助公助の役割と防災まちづくりについて研究。倉敷市真備町出身。
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(株式会社EnPal代表取締役 金藤 純子)
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