立体駐車場のような巨大"納骨タワー"の驚きの中身…建設費数十億円のコンピュータ制御の棟への"入居費"
プレジデントオンライン / 2024年9月10日 10時15分
■立体駐車場のような巨大“納骨タワー”の驚きの中身
前編では最近増えている「永代供養」(※)の基礎知識とメリット、デメリットを説明した。
※「永代供養」の定義は墓地管理者にもよるが、概して①宗旨不問、②檀家になる必要なし、③料金明示、④供養期間を設定(7年、13年、23年、33年など使用期限が決められ、その後は別の場所に移され合祀されることが多い)
特に永代供養納骨堂は、手ごろで比較的安価であるものの、納骨期間や合祀先を調べておかねば、結局コスト高になってしまうこともある。
後編の本稿では、最先端の巨大納骨堂から散骨・手元供養までを紹介する。巨大納骨堂や散骨にも落とし穴があるので、慎重な検討が必要だ。
ロッカー式納骨堂とは別に「自動搬送式」と呼ばれる巨大な納骨施設が、東京・大阪などの大都市圏に存在する。こちらは、6〜7階建てのビル1棟全体が納骨堂になっている。立体駐車場をイメージするとわかりやすい。1階で係員に車を預ければ、クレーンでどんどんビル上階へと収蔵されていく。出庫する際はボタン操作一つでまた、1階から出てくる。
自動搬送式納骨堂の基本構造はこれと同じ。必要な時にICカードを端末にかざして数分待つ。すると、収蔵されていた遺骨が自動的に運ばれてきて、扉が開く。参拝ブースにはモニターが付いていて、遺影や戒名などが映し出される仕組みだ。
この自動搬送式納骨堂は現在、東京都内で35棟ほどあるとみられる。一見すると瀟洒なマンションにしか見えない。自動搬送式納骨堂は、とにかく至便な立地が最大のメリットだ。「買い物や、仕事帰りに墓参り」がコンセプトである。
そのため、参拝者が用意するものは何もない。すでに花が生けられており、電熱式の火がついた焼香台が用意されている。冷暖房設備はもちろん、各階には清掃が行き届いた洗浄式トイレ、休憩用の洒落た椅子が複数置かれる。年配者に配慮したつくりだ。換気も十全で、香の匂いが服につく心配がない。従来の境内墓地の墓参りとは比べものにならない快適性を誇る。
自動搬送式納骨堂を運営するのは寺院が多いが、基本は永代供養なので檀家になる必要がない。キリスト教や新宗教まで宗教宗派を問わず受け入れる。ここでは参拝者の迷惑にならない限り、他宗の宗教家を呼んで、供養してもらうことも可能だ。
価格はロッカー式納骨堂に比べれば割高だが、都心で家墓を求めるよりは安価。例えば、新宿区や港区などで家墓の区画を買おうとすれば、1平方メートルあたり300万円ほどはするかもしれない。それに比べ、自動搬送式納骨堂ならば100万円前後の費用で利用できる。
だが、自動搬送式納骨堂にはリスクがあることも知っておかねばならない。
■民間企業と寺院がタイアップ…外資系金融会社も納骨堂事業に参入
自動搬送式納骨堂は、民間企業と寺院とがタイアップして運営にあたるケースが多い。近年では、外資系金融会社も納骨堂事業に参入していた。遺骨を収められるカロート数は1棟あたり、数千基から1万基以上の規模感である。1棟あたりの建設費は数十億円に上る。
しかし2010年代後半に入ると供給過多になり、需要が追いつかなくなってきている。自動搬送式納骨堂では破綻事例も出てきている。アナログのロッカー式納骨堂とは違い、自動搬送式納骨堂はコンピューター制御だ。通電が止まり、システムが動かなくなれば遺骨の取り出しは難しくなる。
現在、自動搬送式納骨堂に代わってトレンドの主流になりつつある永代供養が、樹木葬である。樹木葬は、野山での散骨のイメージを持つ人も少なくないが、自然の山中で散骨できるタイプは限られている。
多くの場合は、霊園内の樹木葬エリアに設けられた場所に納骨する。樹木葬には小さなプレートや自然石などを設置する個別型と、合祀型がある。合祀型の場合は敷地の隅に樹木を植え、大きなドラム缶のような容器に骨をどんどん入れていくスタイルが一般的だ。「自然に還る」とのイメージと大きく乖離し、失望するケースもあるので事前に確認が必要だ。また、個別型樹木葬の場合は先述のように、永代供養期限が定められていることがほとんどだ。
「墓を持ちたくない。海に撒いてほしい」という人のための海洋散骨も、一般的になりつつある。海洋散骨とは遺骨を粉骨して、海にまく葬送である。インターネットで検索すると多数の業者がさまざまなプランを出している。大手流通業イオンも人とペットの海洋散骨プランを出しており、全国各地の海で散骨できるという。
たとえば、北海道の小樽沖から日本三景の松島沖、ビル群が陸地にそそりたつ東京湾、富士山が望める駿河湾、桜島が雄大な鹿児島湾、サンゴ礁の沖縄の海など。遺族が乗船しない「代理プラン」では、価格は5万5000円(イオンの場合)となっている。
現在では火葬後の埋葬法として、1%ほどが海洋散骨を選んでいるともいわれている。将来的には海洋散骨を選択する人は2%ほどに拡大するとの見通しもある。
だが、「手をあわせる場所がなくなってしまう」として、遺族の合意が取れず、全部散骨をする割合はさほど多くはない。結局は、遺族は折衷案をとって分骨する割合が7割以上にのぼるとの報告もある。故人の遺志は大事にしたい。一方で、きちんとした墓を持ちたいと考える遺族もいる。結局は海洋散骨と分骨の両方をすることになり、二重コストになってしまう。海洋散骨も一長一短だ。
■遺骨を人工ダイヤモンドのアクセサリーとして加工
「墓も納骨堂も、結局、寺との付き合いやコストがかかるので必要ない」、もしくは「散骨は手を合わせる場所がなくなってしまうのでイヤだ」といった人には「手元供養」という弔いがあるのをご存じだろうか。
手元供養のサービスは、遺骨をミニサイズの洒落た骨壺に入れて保存できるようにしたり、遺骨を人工ダイヤモンドのアクセサリーとして加工してくれたりするものだ。実は墓地埋葬法では、自宅に遺骨を置いておくことを禁じてはいない。特に、古い仏壇では水子の遺骨を小さな壺に入れて仏壇に置いたままになっているケースがよくある。
遺骨アクセサリーには主に2種類ある。
遺骨や遺灰、遺髪から抽出した炭素を、高熱高圧をかけて人工ダイヤモンドにし、それをネックレスや指輪にするタイプ。もう一つは遺骨の一部をペンダント内部に納めるタイプ。いずれも数万円から高いものになると数十万円の価格が付く。最近ではインターネットからの申し込みができる。
こうした少量の骨を手元で供養する背景のひとつには、散骨の流行がある。先述のように海にすべてを撒いてしまっては、供養する場がなくなってしまう。また、散骨に反対する親族もいる。ある意味、現代風の分骨と言えるのが、この手元供養だ。
だが、遺骨への執着はあまり推奨できるものではない。亡き故人への想いや悲しみを、年回法要や墓参りという手法で、段階的に和らげてきたのが、これまでの日本人の供養のあり方であった。
故人と近しい関係の人は、遺骨を肌身離さずずっと持っていたいと思うかもしれないが、関係性が遠くなればなるほど、「手元の遺骨」は面倒な存在になる。結果的に、アクセサリーの持ち主が亡くなると、その遺骨は供養されなくなってしまう。アクセサリーの持ち主が亡くなった際に、一緒に埋葬するのがよいだろう。
以上のように現代の墓事情を解説してきたが、イメージや価格だけを重視して選ぶと「そんなはずではなかった」と後悔してしまうことがある。新規で墓を求める場合は少なくとも、1年以上前から親族間で話し合い、複数の物件を比べてみることだ。墓探しを進めていくうちに、自分の死生観が変わることもある。墓選びのコツは、死後の住まいを決めるつもりで慎重に、また同時に、楽しんで探すことだ。
民俗学者の柳田國男は終戦の年に著した『先祖の話』の中で、日本固有の祖先崇拝について語っている。
《人が死後には祀ってもらいたいという念願は一般であった》
柳田の祖先観では日本人は「死後、先祖になること」を前提にしている。死者の精霊は故郷の土地(墓やイエ)に根ざして留まり、普段は故郷の山々から子孫を見守る。そして、精霊は盆や正月にはイエに戻ってくる。死後への想像を巡らせていただきながら、よきお墓に巡り合っていただきたいと思う。
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浄土宗僧侶/ジャーナリスト
1974年生まれ。成城大学卒業。新聞記者、経済誌記者などを経て独立。「現代社会と宗教」をテーマに取材、発信を続ける。著書に『寺院消滅』(日経BP)、『仏教抹殺』(文春新書)近著に『仏教の大東亜戦争』(文春新書)、『お寺の日本地図 名刹古刹でめぐる47都道府県』(文春新書)。浄土宗正覚寺住職、大正大学招聘教授、佛教大学・東京農業大学非常勤講師、(一社)良いお寺研究会代表理事、(公財)全日本仏教会広報委員など。
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(浄土宗僧侶/ジャーナリスト 鵜飼 秀徳)
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