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アマゾンの逆襲がはじまった…動画配信の王者・ネットフリックスが「広告の安売り」を強いられている理由

プレジデントオンライン / 2024年9月19日 16時15分

2022年11月27日、ポーランドのクラクフで撮影されたイラスト写真で、スマホ画面に表示されたネットフリックスのアイコンと、ノートパソコン画面に表示されたプライム・ビデオのロゴ。 - 写真=NurPhoto via AFP/時事通信フォト

■広告単価の急落に巻き込まれたNetflix

業績好調のNetflixが、熾烈な価格競争に巻き込まれようとしている。ユーザーに請求するサブスクリプション料金の話ではない。同社の今後の収益の柱となり得る、広告単価の話だ。

ライバルの動画配信プラットフォーム「Amazon Prime Video」は今年、世界2億人以上のユーザーのうち対象地域に住む人々の全てを、「広告あり・追加料金なし」のプランに自動的に一括移行させた。

これにより、広告市場に売りに出される出稿枠が急増し、単価が下落。すでにユーザーの購買傾向を把握しターゲティング効果の高い広告を表示できるAmazonを前に、Netflixは戦略の見直しを迫られている。

現在、Netflixの料金は、広告なしの場合で月額1490~1980円、アメリカでは月額最大23ドル(約3400円)と、高額化の傾向にある。同社が広告での収益化に苦戦すれば、ユーザーにも影響が及ぶ可能性がある。

さらに引き上げられた月額料金を支払うか、頻繁に広告が挿入される安価なプランに甘んじるかの2択を迫られる、とのシナリオもあり得る。

■生活に浸透しすぎたストリーミング、月額料金が痛手に

各種ストリーミングサービスでの動画視聴は、もはや生活の一部になったと言っても過言ではない。米『フォーブス』誌によると、平均的なアメリカ人は動画・音楽を含むデジタル配信の視聴に、1日あたり3時間9分を費やしている。

現在、アメリカの家庭の99%が少なくとも1つ以上のストリーミングサービスに加入しており、平均して毎月2.9件のストリーミング・サービスに料金を支払っているという。平均金額は、毎月46ドル(約6700円)に上る。

すでに相当な出費となっているだけに、新たなサブスクリプションを購入する余地はほとんどない。

実際のところ、消費者はコストに敏感だ。『フォーブス』誌によると45%のユーザーが、過去1年間に少なくとも1つのストリーミングサブスクリプションを解約した理由として、「高額なコスト」を挙げている。値上がり傾向にあるサブスクリプション料金を考慮すると、新規ユーザーがNetflixに流入する可能性はますます低くなると考えられる。

■新規加入者の45%が広告付きプランを選択

ウォール・ストリート・ジャーナル紙によると、Netflixは来年初め、これまで投資家に開示してきた四半期ごとの会員数と会員一人当たりの平均収益の情報提供を終了する。ユーザー数の成長鈍化を見込んだ措置とみられる。

新規ユーザー獲得のカギになるのが、安価な広告付きプランの導入だ。Netflixは2022年11月、広告付きプランを導入した。

Netflixのアメリカでの料金プランは、画質が中程度の「スタンダード」で月額15.5ドル(日本国内では1490円で提供)、4K高画質の「プレミアム」で23ドル(同1980円)となっている。「広告付きスタンダード」なら、月額7ドル(同790円)だ。広告付きの場合、アメリカの場合はスタンダードの半値以下となっており、日本でも大幅に安い。

広告付きプランは非常に好調だ。今年5月には、全世界で4000万人の月間アクティブユーザーを記録し、前年の500万人から大幅に増加した。ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、新規加入者数に占める広告付きプランの割合が、当該プランが提供されている国と地域において、45%以上に上ると報じている。

ノートパソコンの画面にNetflix webサイト
写真=iStock.com/wutwhanfoto
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/wutwhanfoto

■広告単価で優位のNetflixだが…

しかし、状況は急速に変化している。業界メディアのストリーミングTVインサイダーは、Amazon Prime Videoの自動移行により、「動画広告のエコシステムは、一夜にして劇的に変わった」と指摘する。広告単価が急速に低下したのだ。

Amazonが広告導入地域のほぼ全ユーザー分の広告視聴枠を市場に放出したこと、さらには広告単価を競合他社よりも低く設定したことで、業界全体に大きな影響を与えている。これにより、Netflixを含む他のストリーミングサービスも、広告単価を引き下げざるを得ない状況だ。

米広告測定会社EDOのケビン・クリムCEOは、米芸能メディアのハリウッド・リポーターに対し、AmazonのCPM(広告を1000回表示させる料金)は50ドル程度(約7300円)との推算を示している。1年前にNetflixが広告付きプランを開始した当時と比べ、低い価格になっているという。

■Amazonの殴り込みで「一夜にして激変」

なぜ、ストリーミング広告の価格破壊が可能だったのか。英フィナンシャル・タイムズ紙は、ネット小売りを本業とするAmazonだからこその措置だったとみる。

Amazonは既存の小売業の強みとして、ユーザーごとに膨大な量の購買履歴データを持っている。これをもとにPrime Videoの広告は、極めて高度なターゲット化を実現している。

「ファービー」などを製造する米玩具メーカーのハスブロは、イギリスでのテスト期間中、Amazonのデータを活用して子を持つ親をターゲットにした広告を配信した。結果、幼児向けTVアニメ『ペッパピッグ』関連製品の購入者の66%が、新規に獲得した顧客であったという。高度なターゲティングにより、新規顧客を効果的に開拓した一例だ。

さらに、視聴者をオンラインストアに誘導する機能もすでに整備している。製品コマーシャルを視聴したユーザーがリンクをクリックすれば、自社ECサイトに誘導でき、Amazonの本業である小売り事業の収益に直結する。こうした相互作用も、広告単価を抑制できる理由の一つだ。

Amazonの広告ビジネスは急速に成長しており、2024年の第1四半期には118億ドルの売上高を記録した。Prime Videoの広告収入も今後さらに増加すると予測されており、Amazonの広告ビジネスの重要な柱となる見込みだ。

■広告と感じさせない広告手法「プロダクト・プレイスメント」

広告単価の低迷を、Netflixとしてどう補うか。ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、カギは「プロダクト・プレイスメント」にあると指摘する。

プロダクト・プレイスメントとは、番組や映画の中に特定のブランドや製品を自然に映し込む手法だ。街頭シーンの背景にコカ・コーラのトラックが走っていたり、主人公がBMWでカー・アクションを繰り広げたりしている場合、ブランドが製作側に広告料金を支払い、意図的に登場させていることがある。これがプロダクト・プレイスメントだ。

映画の制作現場のイメージ
写真=iStock.com/ppengcreative
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ppengcreative

視聴者は、広告を見ているという意識を持つことなく、無意識に製品に親しみを覚える効果がある。視聴者が番組内で製品を目にし、その後にその製品のコマーシャルを見ることで、広告の効果が一層高まるとされる。Netflixは、広告主に対してプレミアム価格の広告パッケージを提供している。その一部として、特定の番組内でのプロダクト・プレイスメントが含まれている。

より効果的なマーケティング・ツールとしてプロダクト・プレイスメントを売り込むことで、Netflixは広告単価の減少を補うことができるかもしれない。米メディアのクォーツによると、Netflixと広告契約を締結した企業(プロダクト・プレイスメント以外も含む)には、オンライン旅行予約サイトのエクスペディア、コカ・コーラ、フォード、ロレアル、マクドナルドなどがある。

■動画配信の王者・Netflixに表れていた行き詰まりの予兆

米テックメディアのデジタル・トレンズによると、Netflixは2億6960万人の有料会員を擁する「世界最大のストリーミングサービス」となっている。2位Amazon Prime Videoの2億人、3位Disney+の1億5360万人を引き離す。

だが、広告業界の情報を伝えるウェブメディアの「キャンペーン」は、ユーザー数が頭打ちとなり、今後は広告モデルが成長のカギになるとみる。

そんな中、Netflixの強気の広告価格の設定にクライアントは二の足を踏む。コンサル企業・R3のシニアコンサルタントであるジン・イン・ウォン氏は、Netflixの広告価格について、他のCTV(ストリーミングやセットトップボックス)やOTT広告(オーバー・ザ・トップ広告;ネット広告)の在庫販売価格と比べ、2倍から10倍も高いと指摘する。

Netflixは広告付きプランを2022年11月に導入したが、インプレッション(表示回数)が不足しており、自社で設けた広告視聴数の保証を満たすことができていない。広告主に対して約束した視聴数を実現できず、広告費の一部を返金する事態にまでなっているという。

■広告は増やせず、料金は上げられず、会員は増えない…

堅調な成長を維持してきたNetflixはいま、ジレンマを抱えている。以前は月額料金を取る代わりに広告なしで番組を配信し、コマーシャルだらけのTVに辟易した人々の心をつかんだ。アプリを開けば、ストーリー性あふれる独自作品群に、広告なしで没入できる時間が約束されていた。

スマートフォンの画面上に動画ストリーミングアプリケーションのグループ
写真=iStock.com/EnDyk
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/EnDyk

だが、いまや高額のサブスク料金を好まない視聴者が増えている。アメリカだけで、Hulu、Disney+、Max、Peacock、Paramount+など、10種近くの主要動画配信メディアが乱立している。観たい作品が分散してしまい、個々のサービスに十分な予算を割けないのが現状だ。ユーザーたちはたとえ広告が表示されても、少しでも割安のプランを選ぶ傾向がある。

ストリーミングの未来は、広告まみれになるのだろうか? 良いニュースとして、Amazonは既存のTVと比較し、広告の挿入時間を控えめにする意向を示している。Netflixもこれに倣うだろう。米広告企業・モロコ社の成長戦略部門の責任者であるデイヴ・サイモン氏は、英BBCに対し、「多くのストリーミングサービスはCM時間を短縮しており、中には大幅に抑えているところもあります」と語る。

TV番組のように、30分番組においてコンテンツが22分しかなく、広告が8分もある時代は終わった、とBBCはいう。例えばDisney+は、コンテンツ1時間あたりの広告時間を4分に抑えている。

高額なサブスク料金とプロダクト・プレイスメントで収益を高めたいNetflixと、基本料金を無料化する代わりに大量の広告枠を販売するAmazon Prime Video。視聴者の支持を得るのはどちらの戦略か――。そんな目でストリーミング・サービスを比較するのもまた面白い。

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青葉 やまと(あおば・やまと)
フリーライター・翻訳者
1982年生まれ。関西学院大学を卒業後、都内IT企業でエンジニアとして活動。6年間の業界経験ののち、2010年から文筆業に転身。技術知識を生かした技術翻訳ほか、IT・国際情勢などニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『ニューズウィーク日本版』などで執筆中。

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(フリーライター・翻訳者 青葉 やまと)

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