円安株高の真因は「アベノミクス」よりも「米景気回復」
プレジデントオンライン / 2013年2月14日 14時15分
プロと称される市場関係者の目は、衆議院の解散から安倍政権発足以降の円安株高に対して意外と冷ややかだったのではないか。不思議なもので、お金でお金を生むエゲツない世界にいながらも、ディーラーというのは、相場そのものに対しては畏敬の念に似た感覚を抱いている。それは人智を超えた何かを感じるからなのだが、安倍首相が「私の発言によって円安となり株高になった」と語ったことで相場参加者は引いてしまったのではなかろうか。気分が高揚しすぎて勇み足になっている、といった指摘も見られたが、市場へのリスペクトを欠いた口上はやはり国際金融取引の最前線近くにいる人ほど受け容れ難いのだろう。
中央銀行の役目であって、一国の首相の役割ではないとおっしゃるかもしれないが、各国当局が市場との対話を重視しているように、せっかくであれば、国際金融市場の参加者をも味方につけたほうが、安倍首相の今後の政策運営もぐっと楽になるはず。使えるものは何でも有効に使えばよいわけで、不用意なコメントはいかにも勿体ないと思ってしまうのだ。
冷ややかな反応の裏には、今回の円安株高が本当にアベノミクスだけでもたらされたのか、という疑問がある。これまで散々各国の通貨切り下げ競争になすすべもない日本の立場が言及されていたはずだが、新政権が誕生した途端にアベノミクスという国内要因一色となり、海外に目を向けないのは奇異な話である。
昨年の大納会から1月末時点まで日経平均株価の上昇率は7.2%。同時期、米ダウ工業株30種平均も同じく7.2%上昇した。株高は日本固有の現象ではなかったのだ。ましてや米国株式は住宅バブルのピーク時につけた史上最高値1万4164.53ドル(終値ベース)を間もなく更新する勢い。同時期1万8000円を見た日経平均は完全に出遅れており、今回の株高ドル高(円安)は、むしろ米国発の要素が強いと考えるほうが現実的だ。
米国の景気動向の先行指標となる在庫調整は昨年末に終了したとの見方が一般的で、景気循環からすれば米国は立ち直るタイミングであった。ピンポイントで言えば、日本で衆議院解散が党首討論会で発表された同じ週に、米国では主要メディアが一斉に「米国がサウジアラビアを抜いて2020年には世界一の産油国に」とする報道を流した。以前からシェールガス・オイルの話は伝わってはいたものの、米大統領選直後の時期に異口同音にエネルギー政策に力を入れてきたオバマ大統領の後押しをしたこと、具体的な数値を提示しながら革命的な様相を伝えるさまにはいささか恣意性を感じるが、市場参加者からしてみれば、相場を動かす好材料である。万年貿易赤字だった米国が黒字化するのではないか、といった思惑を先取りして相場は盛り上がる。実のところ、米国の景気回復が今回の相場の牽引役という側面は否めない。
■秋口に米国発の株価“大幅調整”も
米国株の1月の急騰率を過去100年ほど遡っていくと、1975年・76年が14%台、続いて87年が13.8%、89年が8.0%となっていた。70年代は高インフレの時代ということで、80年代を参考にすれば、1月の出だしが好調だった87年・89年は同じ年の10月に大幅な調整が入っている(87年はブラック・マンデー)。国際金融市場はボーダーレスであり日本の動向だけで動くものでもない。今後大きく日米株価が上昇してゆくなら、秋口の米国発の株価の調整局面も視野に入ってくる。
シェール革命を否定するつもりはないし、米国経済もこれで確実に変化していくだろうが、相場参加者は節操がない。何十年もの材料を前倒しして織り込み、バブル化するのが通常のパターンである。クリントン、ブッシュ、いずれも2期目の最後の年にITバブル・住宅バブルが崩壊した。オバマ大統領に3期目がない以上、最終年の16年に向けバブル化し、弾ける可能性ありというシナリオもこれまでの定石から描ける。日本では15年10月に消費税が10%まで引き上げられ、当然16年からの景気腰折れ懸念があるわけだが、外部・内部要因が重なったとき、日本経済はその悪影響を凌げるのか。例えば、米国でさえ自給自足に向けたエネルギー革命が起こっているのに、日本は独自のエネルギー開発に力を入れないままでよいのか。今だからこそ数年先の世界情勢を鳥瞰して日本の経済基盤を整える必要があろう。円安株高に浮れている暇はない。
(大阪経済大学経営学部客員教授 岩本 沙弓)
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