「発送電分離」決定の裏で、交わされたある「密約」
プレジデントオンライン / 2013年2月22日 9時45分
「大きな改革を実行することにした。懸念があるから、前に進めることができない、今はまだ決められないでは、困る」
1月30日、電気事業連合会(電事連)会長の八木誠(関西電力社長)、電力業界の首脳を前に、茂木敏充経済産業大臣は断言した。茂木が“大きな改革”と言ったのは、「発送電分離」のことだ。なぜ、大臣が、発送電分離を大きな改革と明言したのか。
昨年1月、電力市場に対して競争原理を持ち込む「電力システム改革専門委員会」が発足し、電力システム改革の議論が始まった。委員会の議論の中心は、「発送電分離」を実行するかどうかだった。
1月21日、「電力システム改革専門委員会」から発送電分離を盛り込む「電気事業法改正案」が発表された。これで発送電分離の流れは固まり、順調に進むはずだったが、簡単にはいかなかった。
「電力システム改革専門委員会」案が提出された同じ日に、電事連も、A4用紙4枚の意見書を提出したのだ。電事連は、電力会社で構成され、原子力事業を推進して発送電分離に反対してきた、いわば業界団体だ。電事連は、日本の電力市場は、発電部門、送電部門が高度に統合されていて、発送電分離を行えば、良質で安定した電力を供給しづらくなるという主張を繰り返してきた。さらに、電事連は、今回提出された意見書の「電力システム改革の進め方」で、反対の理由を、こう述べている。
「原子力事業リスク(不稼働、無限責任、バックエンド、ストランテッドコスト化等)が今後、どのようになるのかが判然としない中、さらに経営の不透明さを増すような分離形態の是非を今判断することは、経営として極めて困難であることをご理解いただきたい」
原子力事業を続けるのが困難な環境下で、「発送電分離」が盛り込まれたら、経営が成り立たないという論調である。電力会社は自民党に、選挙協力や資金など様々な形で支援してきた過去がある。
「電事連の幹部が、自民党の経済再生担当大臣、甘利明(旧商工族、経産相経験者)や自民党政調会長、高市早苗などを頻繁に訪ねて、発送電分離反対である電事連の立場を説明して協力を求めていた」
と、経済産業省の幹部は語る。
それだけに、21日に「発送電分離」への「賛成」と「反対」の2案が提出されてから、電力事業の所管大臣、茂木が、どのような判断をするのかを、電力業界は息を殺して見守っていた。それから、9日後に告げられた「発送電分離」のGOサイン。この茂木発言に、電力業界幹部は一瞬表情を強ばらせたが、激烈な拒否反応はなかった。それはなぜか?
発送電分離が決定しても、電力小売りの完全自由化までには、数年かかる現実もある。しかし、電力業界が、「電力システム改革」をしぶしぶ受け入れた理由は、安倍晋三政権とある「密約」が交わされたからだとの指摘がある。発送電分離とのバーターとして、「原発再稼働の約束が結ばれた」と自民党の関係者はいう。
■原発利権の裏に、経産省官僚の動きあり
安倍首相自身、昨年末に政権に復帰するやいなや、民主党が決めた「2030年原発ゼロ」の見直しを明言した。
安倍は、福島第一原発の事故原因を冷静に見極めたうえでと前置きしながらも、「今後、新たに建設する原子力発電所は、40年前に造られた福島第一原発とは全然違うものだ。国民的な理解を得ながら新たに造っていくことになる」と、原発の新設・増設に対し、前向きな発言をしている。さらに安倍だけでなく現政権には、原発の再稼働、新設、増設に対して意欲的な政治家・官僚が多い。
現政権で経済再生を担う甘利は、経産相在任中の2007年4月、世界第2位のウランの埋蔵量が確認されているカザフスタンを訪れるために、官民挙げて結成した大訪問団の中心にいたことがある。この大訪問団には、東京電力をはじめとする電力各社の社長だけでなく、原子炉メーカー、商社の首脳も加わっていた。
当時、世界的な“原子力ルネサンス”の動きに対して、経産省の立場で支援したのが、柳瀬唯夫総理秘書官(当時資源エネルギー庁原子力政策課課長)だ。そして経産省から政務秘書官となった今井尚哉。今井は、民主党政権時代に陰の首相といわれた仙谷由人(元国家戦略担当大臣)の懐に飛び込み、国家戦略として“原発輸出”を掲げさせ、UAE(アラブ首長国連邦)、トルコ、ベトナムなどへ原発を売り込んだ。今再び、原発の“政官タッグ”が生まれている。
今夏の参議院選挙まで“寝たふり”を決め込んだ自民党。参院選挙後は、一気に原発再稼働へのギアが入れられる。
(ロイター/AFLO=写真)
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