なぜセブン-イレブンは「売れない時代」も売れ続けるのか…「コンビニの父」鈴木敏文が実行した3つの賢策
プレジデントオンライン / 2024年9月14日 9時15分
■消費者がモノを買わない時代に急成長
鈴木(すずき)敏文(としふみ)氏は日本に初めてコンビニを持ち込み、日本の小売業界に革命をもたらした実業家です。彼が仕掛けた戦略は世間をあっと驚かせるものばかりでした。鈴木氏の戦略を遂行し、セブン‐イレブンは急成長、業界のトップブランドとなりました。
セブン‐イレブンが急成長した時代は日本人が豊かになり、消費者がモノを買わなくなっていった時代です。大前研一氏の言う「低欲望社会」です。なぜ、セブン‐イレブンがそんな「モノ余りの低欲望社会」の中でも、消費者のニーズをつかみ、売れ続けることができたのか? その答えは鈴木敏文氏独特のビジネス観(ビジネスとの向き合い方)にあると筆者は考えています。
そこで今回は、鈴木敏文氏のビジネス観を紐解きながら、売れない時代に売れ続ける仕組みを作るために企業はどんな策を打っていけばよいのかをご一緒に考えてみましょう。
■初出店後、わずか2年で100店舗に
1932年、長野県で生まれた鈴木敏文氏は、戦後の復興期に育ちました。彼は幼少期から勉強熱心で、中央大学経済学部に進学します。大学卒業後、東京出版販売(現・トーハン)に入社。ここで販売戦略とマーケティングの基本を学び、小売業の重要性を理解する機会を得ました。
イトーヨーカ堂に転職し、マーケティング部門の責任者として活躍した後、アメリカのセブン‐イレブン(当時はサウスランド社が運営)との提携により、セブン‐イレブン・ジャパン株式会社を設立しました。鈴木氏はこの新事業の責任者として、アメリカで成功していたセブン‐イレブンのコンビニエンスストアモデルを日本に導入する使命を担います。
そして、1974年、東京都江東区豊洲に日本初のセブン‐イレブン店舗をオープン。その後、わずか2年で出店数100店舗を達成し、現在は国内で20000店舗を超えています。
経営の鍵はPOSシステム(販売時点情報管理)に基づく「データベースマーケティング」です。これにより、単品管理が可能となり、効率的な在庫管理と顧客ニーズに応じた商品展開を実現しました。この鈴木氏の革新的なマーケティング戦略と徹底したデータ活用によりセブン‐イレブンは急成長していきました。
それでは、具体的にどんな策がセブン‐イレブンを成功に導いたのでしょうか?
ここでは3つの要因に焦点を絞って分析してみます。
■「売れないもの=死に筋」を見える化
1.データベースマーケティングへのアプローチ
今でこそ当たり前となったデータベースマーケティング。当時は、モノを売るには、「経験」と「勘」と「度胸」が大切だとされている時代でした。靴底を減らしてなんぼ、頭を下げてなんぼの世界です。
そんな時代に鈴木氏はこちらが売りたいものを売るのではなく、顧客が欲しいものを提供することが大切と考え、POSシステムを活用して各商品の売れ行きを詳細に把握できるようにしました。
セブン‐イレブンでは各店舗での売上データをリアルタイムで収集し、分析しています。売上が低い商品はすぐに棚から外され、売れ筋商品が増やされます。この迅速な対応が可能なのは、POSシステムを駆使したデータベースマーケティングのおかげです。結果的に、売上の最大化と在庫管理の効率化が実現しています。
多くの人が勘違いしていますが、POSシステム導入の最大の効果は、「売れるもの=売れ筋」がわかることではありません。「売れないもの=死に筋」がわかることです。
コンビニのスペースを思い出してください。決して広くありません。スーパーマーケットの数分の1です。その中で売上を最大化しようとすれば、死に筋を棚に置いている余裕はありません。限られた経営資源しか持たない弱者が強者に勝つためには、やらないことを決めることです。
コンビニも当初はスーパーに対して圧倒的な弱者でした。鈴木氏はPOSを使い、やらないことを決める戦略を徹底し、弱者であったコンビニを勝者へと転換させることに成功したのです。
■顧客の「実は欲しいもの」予測もうまい
2.需要創造の巧みなアプローチ
セブン‐イレブンのもう一つの強みは、需要創造にあります。顧客の「いま欲しいもの」だけでなく潜在ニーズを掘り起こし、新しい市場を開拓しています。これは単に過去のデータに頼るだけでなく、顧客心理を深く理解し、未来の需要を予測するアプローチです。
例えば、1996年の消費税引き上げ時、セブン‐イレブンは「消費税還元セール」を実施しました。この大胆な戦略は、消費者の消費税負担に対する抵抗感を見越したものです。このセールは大成功を収め、売上を大きく伸ばしました。
■釣り客が多い店舗では梅おにぎりが売れる
鈴木氏が挙げる好例として「釣具店前の梅おにぎり」があります。釣りに出掛ける人は腐りにくいご飯を求める傾向があることを読み解き、腐りにくいイメージが強い梅のおにぎりを大量陳列し、大幅な増収に成功しています。
鈴木氏も著書で言及していますが、鈴木氏はマーケティングを数字の分析で終わらせずに、そこに心理学の要素を付加しています。
過去の分析は大切ですが、それだけでは顧客の心理は読み解けません。過去の数字を分析した後は、人が心を持つ生き物であることを前提に、「これまでがこの数字であったのであれば、こんな商品を置いたらこんな購買行動をとるのではないか」との仮説を立てることが大切です。
そして、その仮説を実行しデータで検証する。この積み重ねが新しい需要を創造することに繋がっていきます。
■週1回、大規模会議を開催した理由
3.徹底力への半端ないこだわり
セブン‐イレブンの成功の根幹には、並外れた徹底力があります。鈴木氏は毎週1回、加盟店と本部をつなぐ全国のオペレーション・フィールド・カウンセラー(OFC、店舗経営相談員)を東京に集めて会議を行ってきました。その規模は千数百人にも上ったそうです。
この会議では、鈴木氏が自ら指導し、各店舗の運営方針を徹底します。現在は隔週でオンライン開催となっているようですが、これは驚異的な取り組みです。
この徹底的な管理体制により、店舗運営の質が均一化され、顧客満足度が高まり、リピーターの増加に繋がっているのは間違いないでしょう。ですが、わざわざコストをかけてまで全国からOFCを集める必要があるのかと疑問に思う人も多いのではないでしょうか?
私もその一人です。ですが、鈴木氏がコストをかけてまでOFCを集めていたのには別の狙いもあったと考えます。それは、「なぜやるのか?」の徹底ではないでしょうか。
■社長の意図を社員たちに腹落ちしてもらう
OFCの業務は俯瞰して見ればシンプルです。流通網が整備され、店舗にはPOSがあるため、やるべきことはPOSデータを見て、死に筋を排除し、売れ筋を売る、これに尽きます。ですが、先に挙げたように、数字の分析だけをしていては顧客の心理を動かし、お客さんに商品を選んでもらうことはできません。
戦略には明確な意思がなければなりません。具体的には、「この戦略はどんな意図をもって作り上げられているのか」「どんなお客さんのどんなお困りごとを解決するためにこの商品は開発されているのか」、つまり「なぜその戦略が必要なのか」を、現場を指揮するOFCが理解しておく必要があります。
人はなぜやるのかを心から理解した時、いつも以上に徹底した行動ができます。例えば、ただ単に「売上を伸ばしたい」と思っている人と、「この商品を売ることは世の中の困っている人を助けることにつながる」と思っている人では、行動の徹底度合いが変わってくることは容易に想像がつくのではないでしょうか。
「何をやるか」だけではなく、「なぜやるのか」まで徹底していた。これがセブン‐イレブンの強さの源泉だったと言えます。
■コストをかけずとも、戦略の浸透は可能
以上見てきたように、鈴木敏文氏の独自の商売観に基づくデータベースマーケティング、需要創造、徹底力の3つの要因がセブン‐イレブンの成功の要因と言えます。これらの要因を理解し、自社のビジネスに応用することで、他の企業も同様に成功を収めることができるのではないでしょうか。
データを活用して死に筋商品を把握し、在庫管理を効率化することが重要です。また、顧客の心理を理解し、新たな需要を創り出すアプローチも必要です。例えば、顧客の購買履歴を分析し、顧客が必要とする商品やサービスを提供することで、売上を増やすことができます。さらに、徹底力を強化するためには、社員に「何をやるか」だけではなく「なぜやるのか」を浸透させることが大切です。
鈴木氏の時代とは違い、今はオンラインのミーティングも進化しました。リアルで集めずとも戦略の浸透は可能です。その際には、あれをやれ、これをやれと「何をやるのか」の徹底だけではなく、「なぜそれをやらねばならないのか」を問うことで顧客、企業、世の中にはどんな良いことがあるのかを浸透させることが効果的です。
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経営コンサルタント、プレジデンツビジョン社長
1973年、愛知県生まれ。上智大学経済学部経営学科卒業後、出光興産に入社。2008年、34歳の時に独立起業。2012年法人化し、プレジデンツビジョンを設立。経営者・士業、120社のコミュニティ「五つ星★メンバーシップ」を主宰。「東洋経済ONLINE」、『月刊ガソリンスタンド』などメディア出演多数。著書に『社長! お金は「ここだけ」押さえれば会社は潰れない 2枚のシートで利益とキャッシュを確実に残す!』(ダイヤモンド社)、『父が子に伝える 13歳からのお金に一生困らないたった3つの考え方』(三笠書房)がある。
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(経営コンサルタント、プレジデンツビジョン社長 石原 尚幸)
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