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モンスター社員はいないのに全員が疲弊している…「親切でやさしい人の集まり」が職場を崩壊させる意外な理由

プレジデントオンライン / 2024年9月19日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AnVr

仕事が進まないとき、原因はどこにあるのか。労働者メンタルヘルスの専門家である佐藤恵美さんは「産業構造の変化で職場には“名もなきフォロー”が多く生まれている。部下のモチベーションを高めて疲弊させないために、上司が身につけるべきことがある」という――。

※本稿は、佐藤恵美『職場の同僚のフォローに疲れたら読む本』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。

■人のフォローがしんどくなる職場が生まれた理由

なぜ、人のフォローがしんどくなる職場が生まれるのでしょうか。まずは、その社会的背景から見ていきましょう。

産業構造の変化という個人のレベルではどうしようもない大きな流れが背景にあります。以前は生産性の高い産業分野に人材が集まっていましたが、2000年代に入るとこの動きに変化があり、生産性の低い分野に労働力が流れる傾向が生まれました。

その要因には、製造業からサービス業への移行や、高齢化社会の影響などがあげられます。こうした変化により、一部の分野では人手不足が叫ばれる一方で、ほかの分野では過剰な労働力が生まれ、労働者の待遇低下が起こり、パートタイマーや契約社員といった非正規従業員の割合が増加しています。

常に人手が足りない職場が、さまざまな雇用形態の人で構成されると、どうしても業務と業務のあいだ、人と人のあいだの穴を埋める必要が出てきます。

たとえば、「パートタイマーの人の仕事がうまくまわるように、正社員が各方面と調整する」といったことや、逆に「本来は正社員の仕事だけど、だれもやる人がいないので契約社員がフォローしている」という場合もあるでしょう。これが、ほかの人からはなかなか見えない「名もなきフォロー」です。

■「名もなきフォロー」が積み重なると衝突を生む

名もなきフォローが増えていくと、職場の余裕がどんどんなくなっていきます。また、人手不足の職場では、先のことを考える余裕はなく、目の前の仕事に対応するので精いっぱいです。

そんな余裕のない職場でよく耳にする言葉は、次のようなものです。

「これは自分の仕事じゃない」
「この仕事は、あの人に任せられない」
「この業務について、なにも聞いていない」
「自分の業務をわたしたくない」

これ以上、業務を増やしたくないけれど、自分の業務はとられたくない――そんな職場の状況をあらわしている言葉です。

メンバーの動きが「守り」になっていて、おたがいが柔軟に業務をまわすことができず、評価されない穴埋め仕事は、だれもやりたくない状況です。

たまたま穴を埋めざるをえなくなったメンバーは、当然「なんで自分が⁉️」という理不尽な気持ちになって、職場で対立や衝突が起こりやすくなります。

また、日本の美徳の1つといわれる「おもてなし精神」も、職場の名もなきフォローを増やしている一因になっています。

おもてなし精神は、かつての豊富な労働力を前提に実現できていたものです。現在の人手不足の職場で、これまでのような質の高いサービスを提供しようとすると、どうしても無理なかたちで1人にかかる負担が増えていくことになります。

このように、個人のレベルではすぐには改善できない構造的な問題が、職場の名もなきフォローという現象を生んでいるのです。

■“報われ感”があると疲弊しづらい

職場には「もう勘弁してほしい……」と言いたくなるような疲弊するフォローもあれば、それほど負担に感じないフォローもあります。その違いは、どこにあるのでしょうか。

「自分のやったことに『報われ感』という報酬があるかどうか」です。

報酬には、もちろん金銭的なものもありますが、それだけではなく「自分のやったことには価値や効果がある。役に立っている」と感じられる心理的な報酬もあります。たとえば、次のようなことです。

・自分がやったことに対して同僚から感謝の言葉があってうれしい
・Aさんへの指導は、今後の自分の成長にとっていい経験になったと思える
・後輩が自分のやり方を受けついで成長してくれてうれしい
・自分が提案したことが職場全体に広がっていって満足
・自分がいることで職場をうまくまわせている感覚がある

こうした心理的な報酬があれば、自分のフォローは無駄ではなくなります。人をフォローすることにエネルギーは使いますが、その見返りとしてのエネルギーがチャージされるので、ただ疲弊して嫌になってしまうことは避けられるわけです。

■怒りの感情があるとドッと疲れていく

一方で、エネルギーを急激に奪う要素もあります。「怒り」の感情です。

怒りは、最も自分を消耗させる感情です。しかも、やっかいなことに私たちは自分が怒っていることを自覚しにくいという特徴があります。なぜなら、怒りは七変化するからです。

たとえば、「イライラ」も怒りの1つですし、ほかに「理不尽」「嫌悪」「失望」「後悔」「悲しみ」「攻撃」「落ちこみ」といったものも怒りの親戚の感情です。

こうした感情が自分の心を占めていると、「なんで、あの人はこんなことを私にやらせるの」「私がこんなに犠牲になってやっているのに、よく平気な顔をしていられるよな」といったネガティブな考えが、「怒り」の感情というエネルギーを使いながら無意識にぐるぐると頭をまわりつづけて、脳が疲れはてます。

(1)「報酬」というエネルギーチャージがない
(2)「怒り」の感情で消耗している

この2つが合わさると、とたんに自分のなかのエネルギーが底をつき、つらいと感じたり、心身に不調が出たりします。

これが「もう勘弁してほしい……」と言いたくなるような疲弊するフォローに直面している人の内面で起こっていることです。

■「あとは任せた」で丸投げ…部下が疲弊する上司の口癖

では次に、この「報酬」と「怒り」をキーワードに、人のフォローが嫌になる職場の典型例を見ていきましょう。

どんな職場だと、人のフォローがしんどくなるのでしょうか。そこには、どういった心の動きがあるのでしょうか。フォローする立場にある人が疲弊する典型的なパターンを見ることで、今の自分にもあてはまる部分がないかを振り返ってみてください。自分を客観視することにつながります。

例:上司は、いつも私を呼びだして思いつきを話す。いいアイデアではあるけど「あとは任せた」と丸投げ。結局、私がこまごまとした調整をやるしかない。自分の仕事もあるのに、上司のためのお膳立てばかりしているような気がする。

いわゆる「お膳立て仕事」が多いと嫌になってしまうことがあります。

本来の自分の業務ではない(と感じる)フォローに「こんなことばかりやらされて手柄はいつも上司や先輩ばかり……」と思うような状況です。

仕事には、その職場のメインの業務である「主体業務」と、そのまわりにあるこまごまとした「付帯業務」があります。

この付帯業務は、1つひとつは本当にちょっとしたことなのですが、仕事をスムーズに進めるためには欠かせない業務です。付帯業務をする人がいるからこそ主体業務が成り立って、職場全体の仕事がまわっていくわけです。

■付帯業務こそモチベーションを高めてあげる

しかし、大切な業務にもかかわらず、この付帯業務は「だれがやるのか」という役割が明確に決まっていないことが多く、「気がついた人がやる」とか「なんとなく特定の人の役割になっている」ということも少なくありません。

積み重なったファイルの後ろに疲れたビジネスウーマン
写真=iStock.com/AndreyPopov
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AndreyPopov

また、よく気がつく人や文句を言わずに黙々と仕事をこなす人に業務が流れていくという謎の法則もあります。

職場によっては、「昔から新人がやる」「それは女性がやる」といった無意識のバイアスと圧力によって決まっていることもあります。正当な理由がないのに年齢や性別などの属性で「やるべき」「やるべきではない」と決められる職場は、お膳立て仕事のストレス以前に、旧態依然とした差別意識によるストレスがあるともいえます。

最後の仕上げだけやって、すべての仕事を自分だけでやっているかのような顔をしているだれかのうしろには、もしかしたら、そこに至るまでの準備に汗を流している人の働きがあるかもしれないのです。

主体業務をやっている人だけに光があたる職場は、それ以外の人のモチベーションを下げてしまう可能性があります。

■“丸投げ感”を“成長の機会”に変えるために

とはいえ、お膳立て仕事を丸投げされることが、そのまま「悪い上司」とか「不当な職場」になるとはかぎりません。

部下がこまごまとした調整をやることで職場全体を見わたすことができて、成長するきっかけになることも少なくないのです。

ここでも重要なのは「報酬」です。

なかでも最も大切なのが「上司が自分のやっていることを認識してくれているかどうか」という心理的な報酬です。部下は「上司が自分の仕事を理解してくれている」と感じられると、「面倒なことを丸投げされている」から「成長に必要な経験ができている」に変わっていきます。

佐藤恵美『職場の同僚のフォローに疲れたら読む本』(PHP研究所)
佐藤恵美『職場の同僚のフォローに疲れたら読む本』(PHP研究所)

よくあるのが、上司もプレイヤーとして忙しく、上司・部下の役割が曖昧な職場において、部下がこまごまとしたお膳立て仕事をしてもねぎらいの言葉がなく、上司が仕事の意味や意義をきちんと伝えられていない状況です。

そうなってしまうと、部下の立場からすれば「だれがやっても同じ。つまらない仕事をやらされている」という感覚になってしまいます。

上司のフォローばかりで徒労感を覚えている人は、上司との関係性を見直す必要がありそうです。今の自分の仕事の意義を言葉にして上司に伝えてみたり、上司の考えを一度じっくり聞く時間を持てるよう上司にお願いしたりすると、仕事に対する印象が変わる可能性があります。

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佐藤 恵美(さとう・えみ)
メンタルサポート&コンサル沖縄代表、精神保健福祉士、公認心理師、キャリアコンサルタント、臨床発達心理士
20年間で1 万人以上の相談実績がある、労働者メンタルヘルスの専門家。北里大学大学院医療系研究科産業精神保健学修了。医科学修士。日本産業精神保健学会理事。埼玉県内の精神科単科病院医療相談室、東京都内の医療法人社団弘冨会神田東クリニック副院長、同法人MPS センター副センター長を経て、2020年に「メンタルサポート&コンサル沖縄」を設立。現在、沖縄在住。県内外の企業や官公庁に対して、さまざまなメンタルヘルスサービスを提供し、年間500人以上にカウンセリングを行なっている。著書に『もし部下が発達障害だったら』『「判断するのが怖い」あなたへ』(以上、ディスカヴァー携書)などがある。

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(メンタルサポート&コンサル沖縄代表、精神保健福祉士、公認心理師、キャリアコンサルタント、臨床発達心理士 佐藤 恵美)

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