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「母さん死んだら生活保護を受けるからほっといて」借金700万円の83歳母と同居の51歳息子が渡すのは月5000円

プレジデントオンライン / 2024年9月15日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Hanafujikan

夫に先立たれた年金暮らしの83歳の女性は51歳の息子と同居している。以前はひきこもりがちだった息子だが、現在は平日8時間以上働いている。だが、家に入れるお金は月に5000円のみ。女性は以前、親戚などから医療費や生活費として700万円を借りているが、カツカツの生活の中で返済のメドは立っていない。ここ2年で7回も無料の家計相談を受けているFP畠中雅子さんは「本気で事態を改善しようという気持ちが感じられない」という――。
本連載では、働けていない子どもの生活設計を考え、金銭的に再生できることを目指した記事を執筆しているが、今回取り上げるのは、数年にも及ぶ相談を繰り返しても、家計改善どころか、現状把握すらできないケースである。だが、働けない子どもを持つ家庭向けの相談では、今回のような相談事例は少なくない。アドバイスをおこなったあと何年も、時には10年以上足踏みを繰り返すケースもある。そこで今回は、悪い相談事例として紹介する。

■平日は8時間以上働いている51歳長男と同居する83歳母

東京都内に住む小川研一さん(仮名・51歳)は、高校を卒業後、芸術系の専門学校に進学した。本人が希望する進学先だったが、1年生の夏休み明けから学校に行かなくなった。母親の印象では、いじめに遭ったわけではなさそうだというが、学校に行けなくなった理由はわからないままだという。

専門学校を中退後は、20代半ばまで自宅にひきこもっていた研一さん。ひきこもるといっても、父親が仕事に行っているあいだは、家の中を自由に動き回っていた。

「働かない息子」に常にいらだっていた父親は、研一さんの顔を見ると、「早く仕事を探せ」と怒鳴りつけた。父親に叱責されたことから、ときどきアルバイトをすることはあったが、そのアルバイトも数カ月くらいで辞めることが多かった。アルバイトを辞めた後は、数カ月くらい何もせずに暮らし、次のアルバイトを探すといったサイクルを繰り返してきた。

アルバイトをしていない時期は、自室に閉じこもり、食事は母親が部屋の前に運ぶという生活を送っていた。40代に入った頃には、アルバイトをしている期間よりも、働かない期間のほうが長くなってきた。

本人が40代の半ばの頃、父親が78歳で逝去した。

口うるさかった父親が亡くなったことで、働くのを辞めるのではないかと母親は心配をしたそうだが、予想に反して、研一さんは新たに配送のアルバイトを始めた。しかも、平日は毎朝8時に家を出て、19時過ぎに帰ってくるのが、研一さんの1日のルーティンとなっている。自宅にいない時間から逆算すると、1日8時間以上は働いている計算になる。

小川家の家族構成
母親(83歳)
長女(54歳) 結婚して別居。子どもなし
長男(51歳) 当事者

資産状況
母親の貯蓄 ほぼ0円
年金 月18万円
長男の貯蓄および収入 不明

■毎日8時間は働いているはずが家に入れるお金は月に5000円

「8時間以上も働いているなら、アルバイトではなく、社員になっているのではないでしょうか?」と尋ねたところ、母親(83歳)は「そのあたりはまったくわかりません」とのこと。

「ご長男はどのくらい、家にお金を入れてくれていますか?」と聞いたら、ひと月5000円とのこと。「えっ、5000円だけですか? それでは、ご長男の月収はどのくらいかわかりますか?」と母親に尋ねても、「息子が教えてくれないので、わかりません」。

5枚の千円札
写真=iStock.com/Lcc54613
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Lcc54613

そんな研一さん宛てに少し前、国民健康保険料の滞納通知書が届いた。働いている時間が長くなったので、母親は厚生年金と健康保険に入れたのではないかと考えていたため、滞納通知書が届いたことには驚いた。

研一さんに「国民健康保険料をなぜ滞納しているの?」と尋ねたところ、研一さんは母親の問いかけには答えず、無言のまま自室へと入っていった。以来、研一さんとの関係性は悪化。それまでは一緒に食事をとることもあったが、最近では、研一さんが母親と顔を合わせないように、避けているようだという。

国民年金保険料についても、滞納をしているか、免除の申請をしているのかを母親にたずねたところ、「それもわからない」そうである。

■無料相談の場合、相談が前に進みにくい傾向がある

実は小川家の相談は、無料の相談センターを通じて受けている。そのため、何回、相談を受けても、小川家から相談料を受け取ることはない。無料が影響しているからか、母親にはアドバイスを活かして、長男の生活設計を立てようという強い気持ちが見受けられない。相談の中で、嫌な話が出てくると、母親は世間話に逃げることも多く、話が進まないことに苦慮している。

2年以上、回数にして7回は相談を受けているにもかかわらず、初めての相談のときと変わらないところで足踏みをしたままである。「ご長男は社員として働かれているのか、アルバイトなのか。本当は何時間くらい働いているのかなどを知りたいので、ご長男の社会保険加入状況について確認してほしいんですが」と何度も頼んでいるが、いまだに判明していない。

そのため、「あまり勧めたくはないのですが、ご長男のお財布に入っている健康保険証を携帯で写メしていただけないでしょうか。2年以上経っても、ご長男が社会保険に入っているかすら判明せず、相談がまったく進んでいませんよね。健康保険証を見て、ご長男が社会保険に加入しているのか、現在も国民健康保険なのかを確認したいんです」と伝えた。

健康保険証を写メしてほしいと頼んでから、数カ月後。次の相談がおこなわれた。「ご長男の健康保険証を写真に撮っていただけましたか?」と尋ねたところ、「なかなかお財布を放置している時間がなくて……」ということで、写メ作戦も不発に終わっている。

■貯蓄はほぼゼロ借金は700万円を超える

研一さんの就業状況を確認する必要があるのは、母親自体が生活に窮しているからである。母親は自分の老齢基礎年金と亡き夫の遺族厚生年金を合わせて、月に手取りで18万円くらいの年金を受け取っている。持ち家であり、母親ひとりの生活費であれば、なんとかまかなうことも可能な金額と言える。

ところが、正社員並みの勤務時間で働いているはずの研一さんは、家に5000円しかお金を入れず、研一さんの携帯電話代なども母親が支払っている。国民健康保険料の滞納通知も届いたのを発見している。

そんな小川家の貯蓄はゼロ。マンションの管理費と修繕費を7カ月も滞納している。滞納月が4カ月目に入った頃から、マンション内でも小川家の滞納は問題視されているそうだ。管理費と修繕積立金は、年金が入った月に2~3カ月分ずつ払っているそうだが、ほかにも母親は、知人や親戚から合計で700万円ほどの借金をしている。

入ってきた年金は、滞納している管理費や修繕積立金、知人などへの借金の返済によって、すぐに出ていってしまう。手元にはわずかな生活費しか残らず、最近では電気代などの公共料金の支払いにも窮する機会が増え、困窮度は日に日に高まっている。

一通りの準備が整った質素な食卓
写真=iStock.com/Hanafujikan
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Hanafujikan

このような状況にもかかわらず、生活費を5000円しか家に入れず、働いている状況についても、まったく教えようとしないのが、小川家の置かれている状況である。おそらく研一さんは、自分の家がそこまで追い詰められている現実を理解していないのではないだろうか。

母親はときどき、次のような質問を研一さんに投げかけているという。「お母さんも80代に入っているから、いつ、病気になったり、介護が必要になるかもしれない。そうしたら、あなたはどうするの?」この質問に対して研一さんは、「お母さんが死んだら生活保護を受けるから、俺のことはほっといてくれ」と言い返されるという。

母親は現状を研一さんにきちんと説明しないまま、時間だけがすぎている。研一さんの働き方や収入などを把握することと同じくらい、研一さんに家計の現状を知ってもらうことも緊急の課題である。そのため、研一さんにも相談に同席してもらうように頼んでいるが、実現の可能性はかなり低い。

■リバースモーゲージを利用して借金をきれいにしたい

研一さんの生活設計にかかわる相談がまったく進まない中、母親は「知人や親戚への借金を返すために、リバースモーゲージを利用できないか?」とたずねてきた。調べたところ、母親が住んでいるマンションは、リバースモーゲージの対象になることがわかり、借りられる金額もおおよそつかめた。

ただし、リバースモーゲージを申し込むときには、相続人である長女や長男の同意が必要になる。借りた金額を、相続人となる研一さんは返せないだろうし、長女は配偶者と共有名義でマイホームを持っているため、実家を相続することはないのが、小川家の状況だ。リバースモーゲージを利用すれば、母親亡き後、家を手放すことになり、研一さんは住む家を失う。そのことを研一さんが理解しないまま、リバースモーゲージを利用することはできない。

またリバースモーゲージを利用した場合、借金の元本部分の返済は契約者が亡くなるまで先送りできるが、存命中には利息を支払うことになる。滞納している管理費・修繕積立金を支払い、知人や親戚への借金を返済できるだけの金額を借りれば、目の前の生活はいったん楽になれるが、利息の分だけ、生活コストはかさむ。

小川家には貯蓄がないため、今までは母親が入院した場合などは、知人や親戚に医療費を借りてしのいできた。医療費も、知人や親戚への借金の理由となっている。今後は、まとまった医療費が発生したとしても、手持ちのお金で支払えるようにするため、予備資金分も上乗せして借り入れをしたいという希望もある。

借りる金額で、支払う利息額も変わってくる。いずれにしてもリバースモーゲージを利用すれば、親亡き後の研一さんの生活設計に大きな影響を与えるため、リバースモーゲージを申し込むのであれば、申し込みの前に研一さんと面談したいと、再度強くお願いした。

■83歳の母親に万が一が起こるのはそう遠くない日のことなのに

母親はすでに83歳。長女と長男の仲は悪く、親亡き後は絶縁状態になることが予想される。生活能力の乏しい研一さんがひとりで暮らす時期のことは、1日でも早く、相談を前に進めたい。

「お母様のご年齢を考えても、先送りする時間的な余裕はありません。必要であれば、私が長男さんに相談に来てもらえるように電話で説得します。相談というよりも、『今、考えていることを、私に教えてほしいんですが』と誘ってみますので、お母様にもご協力をお願いできませんか」と頼んでみた。

このようにお願いしても、母親は気が進まなそうな顔をするだけだった。結果として小川家の相談は進展しないまま、時間だけが過ぎている。今後も同じようなことが、延々と繰り返されるのだろう。そのうち母親に介護が必要になったり、万が一母親が亡くなるということも十分に考えられる。

長年、会話が成立しない長男との生活に、母親が疲れ切っているのは理解できる。それでもなんとか、勇気を出して長男と向き合い、相談の場に連れてきてほしいと頼み続けるしかなさそうだ。

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畠中 雅子(はたなか・まさこ)
ファイナンシャルプランナー
「働けない子どものお金を考える会」「高齢期のお金を考える会」主宰。『お金のプロに相談してみた! 息子、娘が中高年ひきこもりでもどうにかなるってほんとうですか? 親亡き後、子どもが「孤独」と「貧困」にならない生活設計』など著書、監修書は70冊を超える。

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(ファイナンシャルプランナー 畠中 雅子)

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