朝食前に歯を磨かない人は「糞便の10倍の細菌」を飲み込んでいる…免疫細胞をヨボヨボにする歯周病菌の怖さ
プレジデントオンライン / 2024年9月20日 14時15分
※本稿は、飯沼一茂『倍速老化』(サンマーク出版)の一部を再編集したものです。
■40代からは「免疫暴走」が起きやすくなる
あらゆる病気の裏に、免疫暴走がある――。
そう気づいたのは、ホルモン測定などで抗体を扱い、さまざまな病気の原因を学んでいたころのことでした。この免疫暴走とはいったい何なのか、どのようにして起きているのか、本稿でよりくわしくお話ししていきましょう。
40代からは、体内が「免疫暴走」状態に陥りがちになります。それは、攻撃役の攻撃力が低下し、処理すべき対象(=ウイルスや細菌、古びた細胞や傷ついた細胞などといった体内のゴミ)が溜まっていくからですが、もう一つ重要なファクターがあります。まず以下の3つをご覧ください。
②体内がゴミ屋敷になる
③免疫の「制御役」が減る・弱る
つまり、免疫の攻撃役(以下、攻撃免疫と呼びます)が体に不要なものを破壊できなくなるだけでなく、免疫の制御役(以下、制御免疫と呼びます)が減るというファクターが加わることで、暴走した攻撃免疫を止められなくなってしまうのです。
こうして免疫細胞たちが機能不全に陥るとと、年老いた細胞を破壊し新しい細胞をつくり出している「若返りシステム」をまわすどころではなくなり、体の中から急速に老いていきます。
一つずつ見ていきましょう。
■年をとると免疫細胞たちも「ヨボヨボ」になる
免疫暴走が起きる原因① 攻撃免疫が「老眼」「ヨボヨボ」になる
私たちが加齢とともに老眼になり筋力も衰えていくように、免疫細胞たちもだんだん衰えます。この衰えによって攻撃免疫は、破壊すべき敵と破壊してはならない味方の見分けが曖昧になっていき、ところかまわず攻撃するようになってしまうのです。
外敵を破壊してくれていた、攻撃免疫という強力な味方が暴走する。こう考えると、そのおそろしさをイメージしやすいのではないかと思います。ただ、老化しているぶん動作は緩慢で攻撃力も弱いため、悲しいことに外敵をなかなか破壊できないのですが……。
厄介なのは、攻撃免疫は攻撃中に「ヤバいのがいるぞ!」というサイン、つまり炎症性サイトカインを出して、仲間の攻撃免疫を呼ぶ性質があることです。外敵駆除は基本的にスピード勝負なので、こうしたサインを出すこと自体は、もちろん間違ってはいません。
厄介なのは、攻撃免疫は攻撃中に「ヤバいのがいるぞ!」というサイン、つまり炎症性サイトカインを出して、仲間の攻撃免疫を呼ぶ性質があることです。外敵駆除は基本的にスピード勝負なので、こうしたサインを出すこと自体は、もちろん間違ってはいません。
■正常な細胞まで傷つける「壊しすぎ」状態に
ただし、それはウイルスなどが体内に入ってきた緊急事態での話です。サッと敵の居場所に集まりサッと退治するのが理想ですが、ヨボヨボの攻撃免疫はなかなか攻撃対象を破壊しきれません。そのため、炎症性サイトカインが出っぱなしになってしまうのです。
攻撃免疫からすると、四六時中呼び出しがかかり続けているようなものですから、すっかり疲労困憊に。それでも休むことなく働き続けるしかなくなります。
こうして多数の攻撃免疫が延々と破壊を続ける状態が続くと、うっかり正常な細胞まで傷つけたり壊したりするように。結果的に体内には、ウイルスや細菌といった異物の「壊し損ね」や、正常な細胞まで壊す「壊しすぎ」が至るところに発生してしまうのです。
免疫暴走が起きる原因② 体内がゴミ屋敷になる
攻撃免疫のターゲットは、細菌やウイルスなどの外敵や、傷ついたり古びたりした細胞だけではありません。がん細胞や太りすぎた脂肪細胞、さらには活性酸素などまで含まれます。活性酸素というと悪者のイメージが強いですが、私たちが消化した食べ物を体に取り込む「代謝」はもちろん、免疫細胞が外敵を殺す際にも使われる体に不可欠なものです。
■体内のゴミが増え続け、がん細胞が生まれることも
しかし殺傷能力があるということは、正常な細胞まで傷つけてしまうリスクもあるということです。活性酸素があまりに増えすぎると、成果より体内におけるダメージのほうが大きくなってしまいます。攻撃免疫の攻撃対象は、このような体内のあちこちに生じた「処理に困ったものたち」です。いわば体内におけるゴミすべてだと思ってください。
40代以降は、この体内のゴミが急速に増えがちです。まず、攻撃免疫の攻撃力が落ちて病原体が増えやすくなりますし、この年代はストレスを抱えがちで、特にビジネスパーソンは会食や運動不足も重なり脂肪を溜め込みやすい。すると太りすぎた脂肪細胞も増えていく。喫煙すれば活性酸素も増えてしまう。
活性酸素は細胞や血管を傷つけ、そこからがん細胞を発生させてしまうこともある。こうして体内のゴミが増える一方になる、というわけです。
■人体は飢餓の時代のまま設計されている
ここで少し疑問に思った方もいらっしゃるかもしれません。太りすぎた脂肪細胞もがん細胞も、「外敵」ではなくもともとは自分の細胞です。にもかかわらず攻撃免疫のターゲットになるのは、なぜでしょうか。
人類は数万年ものあいだ飢餓の危機にさらされてきたため、脂肪という貯蔵庫に余剰エネルギーを溜め込もうとする習性があります。それ自体は理に適っていますが、いまはいつでもどこでも食べ物を好きなだけ食べられる時代です。
一日一食や二食、粗末なものだけ食べてでも飢えをしのいでいた時代に設計された人体にとって、ここまで脂肪をたっぷり溜め込むような事態は想定外。だから免疫は、太りすぎた脂肪細胞を攻撃しないまでも「異常なものだ!」と警告するわけです。
がん細胞は、正常な細胞なら出さないはずのものを細胞の表面に出しています。そのため、免疫はこれも「異常なものだ!」と判断し、攻撃することが可能となります。ちなみに、がん細胞は健康な人でも1日に5000個できているのに、すぐさま発症に至るわけではないのは、免疫細胞が毎日破壊し処理してくれているからです。
ほかに農薬や合成洗剤などに含まれる化学物質も、人類の歴史に登場してからわずか百年ほどしか経っていない「異物」なので、攻撃対象になります。
■除菌を過度に行う生活で制御免疫も弱まっている
このような異物は、もちろん若いころから体内に生じたり取り込んだりしていましたが、そのころは細胞が全体にフレッシュで、免疫システムも免疫細胞たちも元気なので打ち勝てていました。
ところが40代以降は、そうはいかない。こうして出た大量のゴミや攻撃免疫が壊し損ねたゴミ、誤って壊した正常な細胞などは、すべて攻撃免疫にとっての処理対象です。体内では、ヤバいのがいることを示す炎症性サイトカインが出っ放しになって、攻撃免疫がオーバーワークになってしまうというわけです。
免疫暴走が起きる原因③ 制御免疫が減る・弱る
こうなると頼みの綱は攻撃免疫の活動を制御してくれる制御免疫ですが、もともと数が少ないうえ40代以降はさらに数が減ります。というのも、攻撃免疫は人体のシステム上かならず生み出されるようになっている一方で、制御免疫は菌やさまざまな食べ物など、多様な自然物に触れることで、初めて生み出されたり稼動したりするよう設定されているものだからです。
つまり、除菌・殺菌を過度に行う生活や偏った食生活などを続け、そうしたものに触れる機会が少ないと、どんどん減っていってしまうのです。
制御免疫は、もともと全体の10%程度しかいないので、減れば9%、8%、……とごくわずかな量になっていきます。「それでも、いるなら機能するのでは」と思われるかもしれませんが、彼らが反応しようにも「閾値(いきち)」というものがあります。閾値とは、あまりに少なくなると反応できなくなってしまうことを示す値です。
■朝から便の10倍もの細菌を食べている?
体内に生じたゴミが免疫暴走を加速させてしまうことは、先にお話ししました。じつは現代人の多くは、日々の生活で体内にゴミを大きく増やす行為をしています。
口内の細菌は、よく歯を磨く人でも1000億~2000億個はいるそうで、あまり磨かない人は4000億~6000億個、ほとんど磨かない人になると1兆個もの細菌がいると言われています。
この口内の細菌数が最も増えた状態になるのは起床直後です。睡眠中は食事も会話もしないため殺菌作用のある唾液の分泌量が減り、口の中が渇きがちになります。
さらに口呼吸をしている方は口の中が乾燥するため、なおさら唾液による殺菌が進みません。そのため睡眠中は口内細菌の数がかなり増えてしまうのです。起床直後の唾液1ccに含まれる数は、なんと糞便1gに含まれる細菌数の約10倍とも言われています。できれば、この状態では食事をしたくないですよね。
これらの菌でも特におそろしいのが歯周病菌です。歯周病菌は体内に侵入しようと歯肉を攻撃しますが、それによって歯肉が腫れてくると容易に血管内に入り込んでしまいます。これは、まさに攻撃免疫が処理すべきゴミである菌が血管を通じて全身にばら撒かれる状態です。
■歯磨きは必ず朝食前に行うこと
さらに歯周病菌が生み出す毒素にはインスリンの機能を抑制し血糖値を上げるはたらきがあるため、糖尿病の原因にもなります。また、歯周病菌を食事のときに飲み込み、それらが腸まで届いてしまえば腸内環境も悪くなって、免疫細胞たちにもダメージを与えるのです。
睡眠中に口で繁殖した歯周病菌をわざわざ体内に送り込まないためにも、ぜひ歯磨きは朝食後ではなく朝食前に行ってください。
過食や運動不足が健康に悪影響を及ぼすのはよく知られた事実ですが、これは免疫の観点からもやはりNGです。どちらも脂肪細胞を太らせることにつながるからです。脂肪細胞が太っていくと脂肪細胞から飽和脂肪酸が放出され、これが例の炎症性サイトカインを発令させます。さらに脂肪細胞にマクロファージなどが浸潤して炎症性サイトカインの量が増加。
すると、その刺激を受けた脂肪細胞から遊離脂肪酸が放出され、これが血中を巡って全身へと広がっていくのです。肥大した脂肪細胞、飽和脂肪酸、遊離脂肪酸、どれもみな攻撃免疫のターゲットとなります。
また、運動不足は血行も悪くするため、免疫細胞たちが活動しにくくなるという側面もあります。40代以降は消費エネルギーが減るため、若いころと比べて食べる量や回数を減らしても大丈夫になるものですが、そういう実感のない方は要注意です。免疫暴走によって、レプチンやグレリンといった食欲をコントロールするホルモンの分泌に異常が生じているおそれがあります。
■人間は長い歴史をかけて食べ物を取り入れてきた
農薬や合成保存料、合成着色料、合成洗剤、輸入牛肉に投入されている合成肥育ホルモン剤などに含まれる化学物質も、免疫細胞たちにとっては「見知らぬ異物」であり、駆除すべきゴミとなります。
そもそも食べ物も異物でしたが、人間を含む多くの生き物は長い歴史の中でそれらを取り込み、有害でないと判断しながら生き残ってきました。私たちは、いまや多くの食べ物を簡単に消化できるさまざまな消化酵素を持つに至っています。消化酵素は、人類が身を賭して食べ物を体内に取り込んできた歩みの結晶でしょう。
このように、体に有害でないと判断された異物を攻撃しないよう制御免疫が働いており、このしくみは「免疫寛容」と呼ばれています。
■タバコの煙や紫外線、ストレスやマイクロプラスチック…
ところが化学物質は人体の歴史上まったくの異物ですし、そもそも有害性があるものも多い。それらを消化するための消化酵素なんて持ち合わせていない。こうした、どう対処してよいかわからないものに対しては活性酸素が使われがちです。つまり化学物質を体内に取り入れれば取り入れるほど体内は活性酸素だらけになり、これまた体内のゴミを急増させてしまうわけです。
化学物質は、ほかに消化管で吸収され血液により肝臓に運ばれて分解され、尿として排泄されたりマクロファージなどによって処理されたりするルートもあるにはありますが、簡単に処理できない厄介なものであることには変わりありません。
ほかにもタバコの煙や紫外線、大気汚染、精神的ストレスなども活性酸素を生み出します。近年では、生態系のうえでも問題となっているマイクロプラスチックが人体にも取り込まれ、免疫細胞がこれを抱え込むなどして、機能障害に陥るケースもあることがわかってきました。
現代人の生活環境には、こうした免疫が正常に機能しなくなってしまう「免疫暴走」の火種となる、体内のゴミとなりうるものが思った以上に多いのです。
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医学博士
純真学園大学客員教授。日本機能性免疫力研究所代表。1948年生まれ。1971年立教大学卒業後、ダイナボットRI研究所(現:アボットジャパン)入社。1987年大阪大学医学部老年病医学講座にて医学博士取得。1995年、米国アボットラボラトリーズ・リサーチフェロー。2008年よりアボットジャパン上級顧問。2010年より国立国際医療研究センター・肝炎免疫研究センター客員研究員。2012年から純真学園大学客員教授。著書に『それでは実際、なにをやれば免疫力があがるの? 一生健康で病気にならない簡単習慣』『免疫アップの最強セットリスト ~自分で選ぶ健康寿命の延ばし方~』(ともにワニブックス)がある。
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(医学博士 飯沼 一茂)
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