1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. ビジネス

「発売されたら買いますよ」を真に受けるのは危険すぎる…消費者心理を正確に聞き出す"冴えた質問"

プレジデントオンライン / 2024年9月22日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Huseyin Gercek

本当に売れるサービスとは、どのようなものか。起業家で新規事業・投資に関するアドバイザーの中村陽二さんは「人間や法人が新しいものを買い、日常に溶け込ませるには強い理由が必要だ。そのため何らかのサービスを顧客となり得る候補にプレゼンし、フィードバックを得る際には、『発売されたら買いますよ」という反応をそのままニーズがあると受け取らないことだ。回答の信頼度を上げるためには、『課題解決に向けて行なっている取り組み、それに対して使っている時間や対価、検討プロセス』を聞くといい」という――。

※本稿は、中村陽二『インサイト中心の成長戦略 上場企業創業者から学ぶ事業創出の実践論』(実業之日本社)の一部を再編集したものです。

■対象市場・顧客に関する知見を持つ人に聞く

正確かつ鮮度のよい情報を仕入れ続けることを、実業家らは極めて重視している。調査方法は数多く存在するが、ここでは実業家らが実際に行っている方法について簡単に説明する。

鮮度も質も高い情報を手に入れる一般的な方法は、対象領域に関しての知見を持つ人に実際に聞くことである。専門家や業界関係者、顧客、協業先の候補などさまざまな対象が存在する。それぞれどのように接近すればいいかみていこう。

専門家・業界関係者

対象市場に詳しい業界の経営者や投資家などで構成されているコミュニティから得られる情報の価値は高い。ここから得られる情報は対象領域選定や先行者インサイトにつながる重要な情報となる。

特に自社や自分自身が投資関係者であれば、入手出来る情報の量と質は格段に向上する。これがCVCを持つ大きな理由の1つである。

筆者が知る限りでも、このようなコミュニティ経由で得られる情報を重視している実業家や投資家は多い。

本書に登場する実業家たちはもちろんだが、中でもTWOSTONE&Sons共同創業者の高原克弥氏は、経営者・投資家らのコミュニティで情報を仕入れ、多くの企業の情報に関する知見を得ている。経営者・投資家のコミュニティでは外部に開示されない情報が大量に議論されているのだ。

■良質なコミュニティから情報を得る3つのポイント

コミュニティというものはあまりに重要であるため、ポイントを3つほど簡単に説明しよう。

①コミュニティに貢献をする

貴重な情報をコミュニティにもたらすとそれは新しい貴重な情報となって返ってくる。新たなコミュニティに招待される機会も多くなる。逆に登場するだけで情報取得だけを繰り返す状態だと、コミュニティに呼ばれなくなる日はそう遠くはない。高原氏のように自らが入手した知見を積極的に共有することで、自らもそのリターンとしての情報を得ることができる。

②発信をする

自分がなにをしたいのか・何に取り組んでいるのかを発信することによって良質なコミュニティに誘われる確率は格段に上がる。例えば筆者は「M&A関係の事業により取り組みたい、自分が思うにはこのような切り口であれば独自性があると考えている」と発信を続けていたところ、多くの人の紹介を受けることができた。方針を発信することにより、重要な人物と出会う機会を引き込むことができる。

③実績がある人らの内部に入る

コミュニティといっても誰とでも話せばいいというものではない。それでは疲弊するだけだろう。自らが実績のある人物になる・独自性を持つことによって、事業に対する知見が豊富な人たちの内部に入っていくことができる。高原氏が情報交換をしているのも実績のある経営者や投資家が主であって、誰とでも会っているわけではない。

プログリットの岡田氏は英語業界に参入する際に業界内部の人間と対話機会を持ち、競合の強さや慣習を把握していった。筆者の場合、知見のない業界に単独で新規参入を進めるときは、アドバイザーと共に進めることも多い。

知らない業界の水先案内人であるアドバイザーと共に進めば、単独よりも格段に早く進める。時間が重要と考える場合は良いアドバイザーを探すとよいだろう。

調査がかなり初歩的な段階であれば、デスクトップサーチに加え、業界内部で勤務している人と話す、展示会に赴くなどして対話をするとよいだろう。

展示会の光景
写真=iStock.com/GermanS62
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/GermanS62

■協業先候補の企業からフィードバックを得ていく

協業先候補

対象領域において、協業し得る企業から情報を得よう。例えば、ナイルの高橋氏は自動車業界に興味を持ったタイミングでディーラーやリース会社など協業先となり得る会社にアポイントメントを取り、自らのアイデアをプレゼンする機会をもった。

そのようにして、対象領域で先行して事業をしている協業先候補の企業からフィードバックを得ていくのである。アイデアをプレゼンし、フィードバックを得るという方法は極めて有効な情報取得手段である。初期的なアイデアが既にあるならば真っ先に行うとよい。

高橋氏の場合は協業先は共同で商品を作るリース会社となったが、筆者が大企業向けのシステムを作った事例では、販売パートナーとなるSI(システムインテグレーター)と協議しながらサービス像を練り上げていった。

SIは顧客に対してサービスを売り慣れているため、顧客内部状況に関する詳細な情報を持っており、かつ自社の新規事業創出にもつながるため、新サービスに関する議論に付き合うインセンティブを持つ。

相対的には、顧客は何度も議論に付き合うインセンティブを持ちづらいため、複雑なサービスを企画する際はSIのようなパートナーと議論し、サービスを練り上げる方法が有効だ。

■顧客候補へのヒアリングで回答の信頼度を格段に上がる声かけ

顧客候補

顧客について最も詳しいのは顧客自身である。

既に顧客にプレゼンできるアイデアがあるならば顧客となり得る人物にアポイントメントを取り、フィードバックを得るとよい。この際に注意するべきは反応に対する解釈である。

「いいですね、この課題には本当に困っていて、発売されたら買いますよ」という反応をそのまま受け取ってはならない。

やや憚れるかもしれないが、以下のように質問してみよう。

●課題に対して本当に困っているということは、その解決に向けてなんらかの取り組みを行っており、それに対して時間を使ったり対価を払ったりしているか(支払い意思の確認)

●なんらかの取り組みをしていたり、サービスを買ったりしている場合はどのような検討プロセスを経てそれにしたのか(情報チャネル、購買決定要因の把握)

この質問をすることで回答の信頼度は格段に上がる。そうでなければ「痩せたいと思っている(何もしていないが)」「英語を上達させたいと思っている(何もしていないが)」という回答を「ニーズがある」と解釈してしまうことになりかねない。

筆者もこの場面には非常によく出くわす。顧客の反応をどう解釈するかは、文字にはしづらい非常に感覚的なものである。事業リーダー自身が顧客との対話を通じて感じ取る必要がある。

抽象的な表現にはなるが、対話を繰り返す中で顧客の感情と共感できるようになりなんらかのアイデアを考えた際にも「あの人はこういった反応を示すだろうな」と頭の中でシミュレーションできる。

白と黄色の吹き出しを持つ手
写真=iStock.com/simarik
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/simarik

人間や法人が新しいものを買い、日常に溶け込ませるには強い理由が必要だ。「自分自身が最近3カ月で購入し、習慣として定着したものは何か。なぜそれを購入したのか」と考えてみよう。どの程度の動機が必要かの感覚を理解できるだろう。

■デスクトップリサーチを行う

デスクトップリサーチは書籍・文献・webで簡単に仕入れることができる情報を用いた調査方法である。ここで重要なのはデスクトップリサーチは簡単で時間を取らないことに意義がある、ということだ。

対象領域の調査でデスクトップリサーチを行う時間の目安は、長くて1週間と捉えている。なぜならデスクトップリサーチで得られる情報量は多いが、インサイトを得るには至らない表面的な情報が多いからである。

デスクトップリサーチを3カ月継続したとしても、事業リーダーが高い情熱を持つに至るインサイトに巡り合うことは難しい。これにはそもそも人間は文章・資料だけでは心を揺さぶられないという感情的な理由もあるだろう。

事業立ち上げの必須要素に事業リーダーの熱意がある。他人が作成した資料から得られる情報だけでは長期間持続する熱意は形成しづらい。だからこそ事業リーダーが積極的に顧客と話すというプロセスは、情報取得の面のみならず、感情面からも必須といえる。

ただし、これはリサーチを疎かにしてもいい、ということではない。実業家らは驚くほど自社が置かれた市場の状況を把握している。実業家らはそれぞれのリサーチに加え、市場内で既に事業を行っているため、実務を通じても多くの情報を入手できる立場にあるのだ。

■「数値」は趣味のように見る

これを効率的に進める方法がデスクトップリサーチである。ここでは特に筆者が意義があると思う調査方法を簡単に紹介しよう。

企業調査

企業調査の優先度は非常に高い。調査対象が上場企業であれば、顧客獲得コストや主力商材、セグメント別利益などの貴重な情報を投資家向け資料で大量に出している。

ここからその企業が儲けている理由をある程度把握することができる。投資家向け資料というのはプロモーション資料なので、自社の強みや成長戦略に関してはかなり割り引いて見る必要があるが、「数値」は特に有効な調査対象である。趣味のように見るとよいだろう。

非上場企業であっても営業資料や採用サイト、経営者インタビューからわかることは多い。

またデスクトップリサーチとは言えないが自分が興味を持っている領域の製品は積極的に利用してみるべきである。例えばAIやXRについて論じるなら真っ先に関連サービスや商品を購入し、利用してみることが大切だ。

■YouTube映像は文章よりも情報量が多い

事例調査
中村陽二『インサイト中心の成長戦略 上場企業創業者から学ぶ事業創出の実践論』(実業之日本社)
中村陽二『インサイト中心の成長戦略 上場企業創業者から学ぶ事業創出の実践論』(実業之日本社)

導入事例は貴重な情報である。興味を持ったアイデアがあれば、国内外の類似サービスの導入事例を見るとよいだろう。顧客像、顧客が導入した背景、サービスを選定した理由、得られた効果、今後の方針について記載されている。

ただしこれもプロモーション資料である。掲載されている事例は大成功事例であり、平均的な事例ではないことには注意するべきだ。

筆者は国外企業が自社のプロモーションとして出しているYouTube映像は文章よりも情報量が多く、興味深い情報源であると思っている。趣味のように日常的に見るとよいだろう。

構造調査

「人に聞く」というのは深い情報を得ることができるがデスクトップリサーチよりも格段に時間がかかり、かつ聞ける情報はその人個人の感情を多分に含んでいる(だからこそ価値があるのだが)。

高橋氏は自動車市場に興味を持った際に、この巨大産業がどのような構造で成立しているのかを数値を含め、レポートなどを使い把握していった。

機会がありそうな領域をデスクトップリサーチで絞り、初期的なアイデアを持って人に聞くというプロセスが効率的だろう。

----------

中村 陽二(なかむら・ようじ)
ストラテジーキャンパス代表取締役
東京大学工学部卒・同大学院工学系研究科修了後、2014年新卒でマッキンゼー・アンド・カンパニー入社。2015年退社後、事業再生を目的とした株式会社サイシード設立、代表取締役に就任。人材・広告会社を買収し代表として事業再生を行う。事業再生の後、会社を売却し、売却先の取締役に就任。2017年より新規事業としてAI事業を立ち上げ売上20億円・営業利益11億円に到達後、投資ファンドへ売却。2021年、取締役として東証グロース市場へ上場。2021年、エンジェル投資先企業の東証グロース市場への上場を経験。現在はストラテジーキャンパスの代表として、国内および海外を対象とした新規事業・投資に関するアドバイザリーに多数取り組んでいる。

----------

(ストラテジーキャンパス代表取締役 中村 陽二)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください