「高齢者に炭水化物は毒」は大ウソである…長寿国では「パン、そば、うどん」をもりもり食べている事実
プレジデントオンライン / 2024年9月20日 15時15分
※本稿は、高田明和『20歳若返る習慣』(三笠書房)の一部を再編集したものです。
■45歳以上になると、体はあまりカロリーを必要としない
かつて中高年の体型について、「少し太り気味のほうがいい」「小太りのほうが長生きだ」などと言われた時期がありました。
たとえば、茨城県で男性3万人、女性6万人を10年間にわたって追跡調査した結果によると、年齢とともに少しずつ体重を増やしていくことが健康的だと結論づけています。
人間の場合、肥満は「BMI」(Body mass index=体重kg÷身長mの2乗)という数値で表されますが、60代の男性でBMI「25.1」、女性でBMI「22.8」。
70代では男性「25.5」、女性「24.1」と、標準である「22」という数値よりもかなりオーバーした値が、この追跡調査では理想値と位置づけられていました。
しかし最近になって、この考え方ははっきりと否定されています。
動物による実験の結果は、カロリー摂取を減らした動物のほうが、摂取量の多い動物よりも長生きであることを示しました。一般的にはBMI18~25の値が正常値で、25以上が肥満とされます。
以前は、先の茨城県の研究データのように、25~30の「過体重」とされる数値が、実際のところは「もっとも健康的だ」とする医学者も多くいたのです。
しかし現在は、数々のデータから、やはり「BMI25以下に抑えたほうがいい」というのが、多くの医学者の間で共通する認識になっています。
健康で長生きしようと思ったら、「あまり食べすぎないほうがよろしい」というのが、最新医学における解答なのです。なぜ食べすぎないほうがいいのか――簡単にいえば45歳以上になると、体はあまりカロリーを必要としなくなるからです。
必要以上のカロリーをとった場合、体はそれを皮下脂肪として蓄えたり、排泄したりするのですが、いずれも本来は必要のない作業であり、臓器には作業負担がかかってしまいます。
こうして疲弊した内臓の修復に多くのエネルギーを注げば、それだけ見た目には疲れた雰囲気が漂います。
食べる量を減らしていくと、体が処理する物質量が減り、さらに排泄する量も減るので、内臓にかかる負担が減らせるのです。
■食べる量を変えたら、マウスの寿命はどうなった?
2020年代に、アメリカのテキサス大学の研究者が、数百匹のマウスを用いた4年間にわたる実験によって、食事を低カロリーにすることで寿命が10%延長することを指摘しました。
さらに食事を夜間のみに限った場合では、寿命が35%延長するとのこと。
マウスは夜行性なので、人間に置き替えると、これは食事を日中の時間のみに限定することと同義です。
また、最近の臨床を伴った研究でも、中年以上になると、それまでより30%くらい食事量を減らしたほうが病気になりにくく、長生きだということが示されました。
しかもこの研究では、食べるものが野菜ばかりでも、糖質ばかりでも、結果には影響を与えなかったということです。
そこで、「あなたが食べている食事の量は多いのか? 悪いのか?」という問題ですが、まず紹介した研究のように「食べるものがなんでもいい」という説は、今のところ一般的ではなく、指示エネルギー(とるべきとされる一日の摂取カロリーの目安)の割合は、50~60%が糖質、15~20%がタンパク質、20~25%を脂質から摂取するのが望ましいとされています。
「糖質をそんなにとっていいのか?」と疑問を持つ方もいるでしょうが、これについてはのちほど説明しましょう。
そして量については、近年では高齢者の栄養失調も重大問題となっています。量を食べているつもりでも、食事に含まれる栄養素の偏りや、胃腸の吸収力が落ちているので、不足してしまうのです。
日本老年医学会が定める「高齢者肥満症診療ガイドライン2018」でも、「減量による利益とリスクを勘案して減量を行なうべきである」としていますが、目安として「BMIの数値が25を超えている」か「それ以下か」で、食事への対処を変えることが望ましいと思われます。
■BMI25以上なら、絶対に食事を減らしなさい!
BMIの数値が25以上と高く、普段から間食なども多い傾向にある方は、やはり食事の量を減らすことが、優先してやるべきことになります。
といっても、「それが簡単でない」という人も多いでしょうが、詳しくは後述の「プチ断食」という方法でやり方を考えてみることにしましょう。
一般的に、食事というのは、みんなで一緒に食べることによって人間関係を深めるという面もあり、人生を楽しむための大切な行為でもあります。とくに家族団欒での食事は、夫婦や親子の絆をつくるためにも、欠かせないでしょう。
しかし、子どもが独立し、特別な日以外には一緒に食事をすることもない、といった状況になると、食べる量や食べる回数を変えるチャンスになります。
しかも最近は、会社勤めをしている人でも、アフター5に飲みに行くような風潮は減っていますから、自宅での食事量のコントロールはしやすいでしょう。
そう、逆にいえば、現在は食事に関しては、自己コントロールがしやすい時代になっているのです。自分が健康かどうかは、人生の後半における幸福度に関わってきますから、すべては個々人の意識改革によって決まるといえそうです。
逆にBMIが25以下の方は、しっかりと一日3回の食事をとることが重要になってきます。
とくに一人暮らしの方は、食事をスーパーやコンビニの総菜や単品などで簡単にすます傾向がありますが、できるだけ食材の種類やおかずの品目を増やして、しっかり食べるようにしてください。
とくに2019年の厚生労働省「国民健康・栄養調査結果の概要」によると、BMI20以下の低栄養の人が、65歳以上の男性で12.4%。女性で20.7%も存在しています。
5~6人に一人は栄養が不足していることになります。
そうした方は医師と相談のうえ、必要ならカロリーを多く摂取できるゼリーや、総合栄養ドリンクなど、「栄養機能食品」を摂取するようにするといいでしょう。
■「高齢者に炭水化物は毒」という、真っ赤なウソ
年をとったら、BMI25以上の人は食事量を減らすべきだ、ということはよくわかった。でも、あらゆる食事の量を減らせばいいということなのでしょうか?
たとえば肉や糖質は減らして、もともと摂取量の少ない野菜などは減らさないほうがいいのでは?
多くの研究が行なわれた結果、現在はそれぞれの研究者によって、減らすように推奨する栄養素が大きく異なった状態になっています。一番意見が分かれるのは、糖質、すなわち炭水化物をどの程度減らすべきか、でしょう。
肥満や糖尿病の原因になるからという理由で、健康診断の問診の際に医師から、米やパン、麺類、甘いものなどの炭水化物の摂取量を減らすよう、指導された方も多いのではないでしょうか。
確かに現在でも、「炭水化物を減らせ」「糖質制限をしなさい」と主張する医師や研究者は少なからず存在します。
しかし、地中海沿岸諸国の人々や、日本の長生きで知られる地域の人たちの実際を見れば、パン、そば、うどんなどを毎日のように食べており、「炭水化物を多く摂取しても問題ない」ということにもなるでしょう。
■ご飯を食べないことで、意識がボーッとしたら大損
先に紹介した日本老年医学会の「高齢者肥満症診療ガイドライン2018」は、「高齢者における糖質摂取制限の安全性は確認されていないことから、極端な糖質制限はのぞましくない」としています。ですから日々の食事の、50%から60%は糖質を食べても構わないとしているわけです。
私自身にしても、パンかそば、パスタ、米などの炭水化物(糖質)は、毎食必ず摂取しています。量はあまり多くならないように心がけていますが、炭水化物を目の敵にする意見には賛成できません。
脳はブドウ糖をエネルギー源としていますから、これが不足すると、注意力が散漫になり、疲労感が出て判断力がなくなります。ひどいときは、意識障害を起こすこともあります。
ご飯を食べないことで、意識がボーッとしてしまえば、変な詐欺にうっかり引っかかったり、よろけて骨折したり……などというリスクも出てきます。
健康のために控えたことで、かえって健康を損なうなんてことのないように、ほどほどに減らすことを心がけましょう。
■「1種類だけ」がNG。全体を少しずつ減らすのが賢い
BMIの数値が25以上の人は、食事の量を減らすべきだと先に述べました。
その減らし方も、糖質制限だとか、肉を避けるといったように「何か一つだけ、栄養素を減らす」というやり方ではなく、全体的にバランスよく食べながら、全体の量を少し抑えることがポイントです。
昔から「腹八分目に病なし」といわれますが、若々しい外見を保っている人の多くは、たいていはその鉄則を守っているものです。
何ごとも、極端なのはいけません。何か一つだけを減らすのではなくて、全体的にちょっとだけ減らせば、いい塩梅になるのです。
そしてBMIの数値が25以下の方であれば、栄養素のバランスを見直してみることが必要です。
BMI数値が低いのに糖質をあまりとらないようであれば、毎日の食事のなかで、米やいもなどの炭水化物をきちんと摂取するようにしたいものです。ご飯だと、一日に2杯分くらいは必要です。
なお、妊婦、子ども、スポーツをしている人は、食事量を減らすべきではありません。また医師からカロリー摂取を指示されている人は、かかりつけ医に従ってください。
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浜松医科大学名誉教授 医学博士
1935年、静岡県生まれ。慶應義塾大学医学部卒業、同大学院修了。米国ロズウェルパーク記念研究所、ニューヨーク州立大学助教授、浜松医科大学教授を経て、同大学名誉教授。専門は生理学、血液学、脳科学。また、禅の分野にも造詣が深い。主な著書に『HSPと家族関係 「一人にして!」と叫ぶ心、「一人にしないで!」と叫ぶ心』(廣済堂出版)、『魂をゆさぶる禅の名言』(双葉社)、『自己肯定感をとりもどす!』『敏感すぎて苦しい・HSPがたちまち解決』(ともに三笠書房≪知的生きかた文庫≫)など多数ある。
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(浜松医科大学名誉教授 医学博士 高田 明和)
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