「楽器の演奏」「人とのおしゃべり」はさほど効果なく登山は逆効果…認知症の予防に本当に効くスポーツの名前
プレジデントオンライン / 2024年9月29日 15時15分
※本稿は、高田明和『20歳若返る習慣』(三笠書房)の一部を再編集したものです。
■「仕事に生きがいがある」人は認知症リスクが低い
脳を活性化させ続け、人生の最後まで認知症にならないために、私たちは何をすべきでしょうか?
実はこの問題は、今、医学界でもっともホットなテーマと言ってもいいくらい、注目されている研究テーマです。
というのも、老人斑があり、軽度から中等の認知症だとされる人の約40%が、「生きているときにまったく認知症の症状を示していない」ことがわかってきたからです。このことは、「脳には、高齢になってから生じる異常を補うシステムが備わっている」ことを示しています。
注目されているだけあって、近年までに「脳の老化防止」について、数多くの論文が発表されています。これらの研究から、脳の老化防止には何が有効だとわかるのでしょうか?
まず、「仕事に生きがいがある」という人は、そうでない人にくらべて認知症の危険が低いことがわかっています。
さらに、チェスなど知的な刺激のある趣味のある人の危険率も低いこと、また、読書をよくする人も、非常に認知症のリスクが低いことが明らかになっています。
それに比べて、「楽器の演奏をすること」や「文章を書くこと」「人とおしゃべりをすること」などには、さほど認知症のリスクを下げる効果がなかったのですが、それでも何もしないよりはずっと効果的です。
要するに、「引きこもってボーッとしてしまうこと」が、認知症の予防には一番よくない習慣であるわけです。読書や囲碁、将棋、麻雀など、楽しいと思える知的な趣味を持つようにすることが大切でしょう。
■認知症対策に効くスポーツの種類と意外な活動
認知症への対策として、運動はどのくらい効果があるでしょうか? 2003年に医学雑誌(The New England Journal od Medicine)に発表された論文での数値をご紹介しましょう。
もっとも効果的とされるのはダンス(社交ダンス)です。運動をしていない人を1とすると、危険率は0.24に下がります。ほかに有効なのは、水泳が0.71。
しかし、そのほかの激しい肉体運動は必ずしも効果があるといえず、たとえば登山は危険率が1.55。つまり、「平均的な行動をする人よりも認知症の危険が55%増す」ということです。
これは、「自然のなかで歩く」という行為だけをとれば、脳を刺激して認知症の対策になるけれど、それ以上にケガをして歩けなくなって、結果的に認知症になるリスクが高いことが考慮されているわけです。それほど山道は、ケガのリスクが高いということです。
そのほか、サイクリングは、2.09という高い危険度。サッカーや野球などのチームスポーツは、意外にもほとんど認知症対策としての効果はありませんでした。
多くのスポーツが「効果なし」とされるのに対し、ごく普通の「家事」は認知症を発症する危険率を0.88に低減させます。散歩はさらに発症リスクを0.67に低減させます。
■激しい運動をすれば酸素を大量に消費する
高齢になると、強めの運動をして得られるメリットより、ケガによって動けなくなるリスクのほうが大きいことは、別の記事でも説明しました。
大ケガによって動けなくなることで脳の機能が低下するリスクに加え、関節炎や筋肉痛など、よくある軽度の症状が長引くこともあります。
さらに老化防止の研究から指摘されているのは、激しい運動をすれば酸素を大量に消費することです。酸素を消費すればするほど体内で活性酸素が増え、体の細胞が酸化することになります。細胞の酸化とは、すなわち老化です。
だから、若いときに激しい運動に打ち込んでいた人は、意外にも長生きしないことがよくあるのです。まして高齢者の場合には、逆効果にしかならないのが現実だということでしょう。
もしも運動をするなら、「歩く」くらいが健康にもよく、若返りにもちょうどいいのです。これにさまざまな種類の知的活動を組み合わせて運動をする人ほど、認知症になりにくいという調査結果もあります。
■私たちは「いつまでも若々しくいられる」
知的活動については、何より楽しく頭を使うことが大切です。興味のないことを無理やりやっても意味はありません。
チェスやダンス(社交ダンス)が認知症予防に効果的なことからも、仲間と一緒に「楽しく頭を使うこと」が理想だと考えられます。無理をして脳にストレスをかけてはいけません。
もう一つ補足すると、医学というのは「統計(確率)」の話なのです。統計上で「認知症の対策に効果的」な習慣を私は紹介していますが、ダンス好きな人でも認知症になったり、激しい運動が好きな人が健康で長生きしたりしている事例はいくらでもあるでしょう。
また、ある習慣が脳によくても、別の習慣が脳に悪いということはいくらでもあります。さらに、せっかく「いい習慣」を続けたけれど、たまたま遺伝子の変異が起こったことで認知症になるケースだって考えられるわけです。
でも、だからといって、医学上のアドバイスを無視していい理由にはなりません。
すべての健康法に言えることは、正しいアドバイスに従うことで、健康的な生活が続けられる可能性は高まるし、健康であればあるほど、幸福を享受できる可能性も高まるということです。
そこを理解して、私たちは「いつまでも若々しくいられるのだ」と信じながら、毎日の知的生活をエンジョイすることが大切なのです。
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浜松医科大学名誉教授 医学博士
1935年、静岡県生まれ。慶應義塾大学医学部卒業、同大学院修了。米国ロズウェルパーク記念研究所、ニューヨーク州立大学助教授、浜松医科大学教授を経て、同大学名誉教授。専門は生理学、血液学、脳科学。また、禅の分野にも造詣が深い。主な著書に『HSPと家族関係 「一人にして!」と叫ぶ心、「一人にしないで!」と叫ぶ心』(廣済堂出版)、『魂をゆさぶる禅の名言』(双葉社)、『自己肯定感をとりもどす!』『敏感すぎて苦しい・HSPがたちまち解決』(ともに三笠書房≪知的生きかた文庫≫)など多数ある。
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(浜松医科大学名誉教授 医学博士 高田 明和)
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