「論破」は最悪の手段…バツ3が自省とともに伝授「謝罪で得られる人間関係の長期的リターン」3つ
プレジデントオンライン / 2024年9月21日 10時15分
■謝ることは人間関係の長期投資
「ごめんなさい」が必要な場面というのは、とてもストレス度が高い、人間にとっての危機的状況です。
しかも、「ごめんなさい」を伝えた先に、報酬があるかどうかは未知数。謝ったからといって相手が許してくれるかどうかはわからないし、「謝って損した」というケースもあると思います。
ただ、それはあくまで「短期的には」です。長期的にはリターン「しか」ありません。「小さなごめんなさい」は、人間関係の長期投資だと私は思っています。
そのリターンとは、たとえば次のようなことです。
●リターン① 相手のことを深く理解できる
普段、人の価値観やコンプレックスなど、その人の「核心」にふれる機会は、身近な関係においても、ほとんどないのではないでしょうか。普段の会話は、たわいのないもの。相手の深い話は大切ではあるのですが、通常時には重すぎるわけです。
ですが、相手を不快にさせたり、怒らせたりといった異変時、つまり「ごめんなさい」が必要な場面では、相手の深い部分が自然と出てきます。相手が異変時に発する言葉や思いには、その人の価値観や大切にしていること、されて嫌なこと、コンプレックス、これまでの人生などがつまっているのです。
相手とトラブルになりそうになったときに「ごめんなさい」のひと言で立ちどまって、相手の価値観や真意を知ることができると、相手との関係性がぐっと深まります。おたがいにヒリヒリするような思いを味わいますけどね(笑)。
つまり、「ごめんなさい」は、相手の深い部分への扉を開く言葉でもあるのです。
逆に、異変時に「ごめんなさい」を言わないまま、相手と向きあうことを避けていると、問題は先に持ちこされ、どんどん大きくなっていきます。
そういった関係が、1年、3年、5年と続いていくと、どうなるでしょうか。私が3度離婚した大きな原因も、ここにあったと今ならわかります……。
相手に「ごめんなさい」を伝えることは、とてもストレス度が高く、また勇気のいる行為ですが、おたがいをより深く知るチャンスにもなるのです。
●リターン② 相手と対等な関係を結べる
「ごめんなさい」を言いにくくしている壁のなかで、もっともやっかいなのが、「相手に優位に立たれたくない」心理です。「謝った側が負け」のような気がして、つい「でも」「だって」「しょうがなかった」といった言い訳や反論が出てくる、あの状態です。
たしかに、短期的には相手に負けた気分になるかもしれませんが、長期的には「ごめんなさい」を伝えたほうが、相手と対等な関係を結びやすくなります。
なぜなら、先ほどお伝えしたように、「ごめんなさい」をきっかけに、相手の深い部分を知ることができて、本音で語りあえる「仲間」になれるからです。夫婦なら同志に、友人なら親友と呼べるような関係になっていくでしょう。
「ごめんなさい」を重ねていった関係というのは、一時の「勝った、負けた」を気にする「もろい関係」とは別次元のものになります。
■多く人の後悔が「あの人に謝りたい」
●リターン③ 人生の質が上がる
私のコーチングのセッションでは、お客様に「やろうと思っているけれど、やれていないことは、どんなことですか?」とお聞きすることがあります。
そこでは、たとえば、「返信していないメールがある」「捨てようと思っているけど捨てられない思い出のものがある」「お隣さんにまわさなきゃいけない回覧板を1週間もとめている」といった感じで、さまざまなことが語られます。
お話を聞きながら、「やろうと思っているけれど、やれていないこと」を実際にお客様に行動に移してもらうのも私の仕事の1つなのですが、その過程で「できた!」「やれた!」という報告をいただく瞬間のお客様のスッキリした表情やエネルギーみなぎる姿に、逆に私が勇気をもらっています。
そして、その会話のなかで、たびたび出てくるのが「あの人に謝りたい」「今さらだけど『ごめんなさい』を伝えたい」という言葉です。本当に多くの方が、だれかに「ごめんなさい」を伝えられていないことに後悔しながら生きているのです。
その後悔とちゃんと向きあい、勇気を出して相手に「ごめんなさい」を伝えられたとしたら、なにが起こるでしょうか。
「ごめんなさい」をきっかけに人生が好転して、確実に人生の質が上がります。
相手の反応がどうだったにせよ、「ごめんなさい」を伝えられた自分への信頼感が高まり、それはその後の人生の大きな支えになってくれるのです。
■謝らないのは「ひび」を入れる行為
「『ごめんなさい』は、人間関係の長期投資」とお伝えしましたが、これはつまり、「その人間関係に投資するかどうか」は、あなたが自分で決められるということを意味しています。
もし、あなたが「この関係は切れてもいい」と思うなら、「ごめんなさい」を言わないという選択もできるということです。
相手に「ごめんなさい」を伝える行為は、「これからも、あなたと関係を続けていきたい」という意思表示になります。逆に、「ごめんなさい」を言わないというのは、相手との関係に小さな「ひび」を入れていく行為だということを認識しておいてください。
わかりやすいのが、「陶器の壺」を想像してみることです。相手に「ごめんなさい」を伝えなかったり、「でも」「だって」「しょうがなかった」といった言い訳や反論で乗りきったりするたびに、壺に少しずつダメージが加わって、ひびが入っていくイメージです。
1回では壺はわれないでしょう。100回でも、まだ大丈夫かもしれません。1000回なら? 次の1回で粉々にわれるかもしれません。
■「論破」は人間関係を破壊する
「論破」の破壊力は、それ以上です。
10回、いや5回で壺の寿命がくるかもしれません。論破というのは、自分とは異なる意見を持つ相手を「おまえは間違っている!」と一方的にねじふせる、きわめて強引な方法です。
論破された相手は、一見納得した顔をしているように見えても、内心は「この人には近づきたくない」「もう関わりたくない」と思っているはず。
「ごめんなさい」が必要な場面というのは、「この人との関係を、これからも続けていきたいか」を問われている分岐点に立っているともいえます。あなたにとって、目の前の相手は、どれくらい大切な人でしょうか。
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否定しない専門家/コーチ
2 万人以上を指導したコーチ。リーダー育成家。ナンバーツーエグゼクティブ・コーチ。一般社団法人国際コーチ連盟日本支部(当時)創設者。1973年、東京都生まれ。バンダイ、NTTコミュニケーションズなどに勤務後、エグゼクティブ・コーチングの草分け的存在であるアンソニー・クルカス氏との出会いを契機に、プロコーチを目指して海外修行に出る。帰国後、2010年にコーチとして独立。これまでに大手企業などで2万人以上のリーダーに指導してきた。否定しないコミュニケーション術をまとめた『否定しない習慣』(フォレスト出版)が14万部を超えるベストセラーになる。このほか『できる上司は会話が9割』『優れたリーダーは、なぜ「傾聴力」を磨くのか?』『できるリーダーになれる人は、どっち?』(いずれも三笠書房)、『いまを抜け出す「すごい問いかけ」』(青春出版社)など著書多数。
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(否定しない専門家/コーチ 林 健太郎)
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