ホリエモン「これをやらないやつはアホ」…申請すれば誰でも得をする「最強の節税術」の知られざる効果
プレジデントオンライン / 2024年9月28日 7時15分
※本稿は、堀江貴文『ニッポン社会のほんとの正体 投資とお金と未来』(徳間書店)の一部を再編集したものです。
■増税をグチるまえにやるべきこと
会社員は増税のターゲットにされやすい。個人事業主は自分で所得税を計算して納税するが、会社員は給与から自動的に天引きされるだけだ。だから実質的な増税を課されても実感しづらい。また個人事業主に比べて税制にまつわる知識も不足しがちだ。
さらに言えば、彼ら現役世代の投票率の低さも問題だろう。2021年の衆議院議員総選挙での40代以下の投票率は46%(※1)。あまりに低い。増税に鈍感で、税制の知識も乏しく、投票にも行かない。となれば、会社員が狙い撃ちされるのも仕方ない。
※1 総務省「国政選挙における年代別投票率の推移について」
そんな税金弱者の会社員だが、頼れる味方はいる。だれでも簡単にできる節税対策がある。NISA(少額投資非課税制度)、iDeCo(個人型確定拠出年金)、ふるさと納税がその代表格だろう。
特にふるさと納税は太っ腹な制度である。ふるさと納税は、都道府県や市区町村にお金を寄付することで、その寄付金額のうち2000円を引いた残り全額が、住民税・所得税から控除される制度だ(※2)。
※2 控除とは、一定金額を差し引くことを意味する。税金の控除には2種類ある。「所得控除」は課税対象となる所得額から差し引くこと。「税額控除」は納めるべき税額から差し引くこと。一般的に税額控除のほうが節税効果は大きい。ふるさと納税では、この税額控除が適用される。
なぜそれが太っ腹なのかと言えば、寄付先からその支援のお礼として返礼品(その地域の特産品やサービスなど)が届くからだ。
■「ふるさと納税をやらないやつはアホ」
ふるさと納税において自治体が返礼品を用意する際の費用は、寄付額の3割以下という決まりになっている。つまり、あなたが10万円のふるさと納税をした場合、それと引き換えにだいたい3万円くらいの品を受け取れるわけだ。
その10万円はどのみち支払わなければならない10万円である。通常の税金のまま徴収されて終わりにするのか。もしくは、ふるさと納税により3万円の品を手にするのか。どっちが得だろうか。考えるまでもない。ふるさと納税をしないやつはアホだ。
■2000円の自己負担で食品や家電が手に入る
いまだに誤解している人がいるので断っておくが、「ふるさと」といってもあなたの出身地である必要はない。全国どこでも自由に寄付できる(複数個所の寄付も可)。
ということは返礼品も自由に選び放題だ。全国の自治体(およそ1785団体)がそれぞれ自慢の品を取りそろえている。米や肉や魚といった食品のみならず、家電や家具やパソコン、さらに旅館の宿泊券もある。まさに選り取り見取り。なんでもある。
ふるさと納税のやり方はシンプルだ。「さとふる」「ふるなび」「ふるさとチョイス」といった仲介サイトで返礼品を選んでポチるだけ。その際、税金の控除申請が必要だが、それも仲介サイトで簡単にできる。申請手続きが終われば、あとは自動的にあなたの住民税から控除されることになる(※3)。
※3 ふるさと納税において確定申告なしで控除が受けられるこの仕組み(ふるさと納税ワンストップ特例制度)は、会社員(給与所得者)が対象。もともと確定申告をするのが前提となっている個人事業主は、確定申告により控除・還付される。
10万円のふるさと納税をしたなら(10万円の返礼品を選んだら)、9万8000円が控除されるわけだ(10万円のうち2000円は自己負担)。
■節税効果を実感するまでにラグがある
ふるさと納税に面倒な作業はいらない。ただし留意点が2つある。ひとつは、実費で立て替えておく必要があること。たとえば10万円のふるさと納税をする場合(10万円の返礼品を選ぶ場合)、まずその10万円を実際に支払わなくてはならない。そして会社員であれば、支払ったのちの翌年6月から1年間、12回(12カ月)に分けて計9万8000円が住民税から控除されるという段取りである(※4)。つまり、節税効果を得るまでにタイムラグがある。
※4 確定申告のない会社員の場合は、9万8000円の全額が住民税から控除される。一方、個人事業主の場合は、確定申告から1~2カ月後に所得税の還付を受け、その確定申告後の6月から住民税の控除を受ける。その還付と控除の総額が9万8000円となる。
もうひとつの留意点は、ふるさと納税の控除額には上限があること。無限に控除されるわけではない(上限を超えた分は自己負担)。年間の控除上限額は年収や家族構成で異なる。これも仲介サイトのシミュレーターですぐわかるので確認しておこう。
いずれにしろ、ふるさと納税でやるべきことはわずかだ。上限額を把握し、寄付先(返礼品)を決め、控除申請をする。それだけだ。あとは返礼品が届くのを待てばいい。
ふるさと納税は税金弱者にとってなにより手厚い制度なのだ。
■納税義務者の15%しかやっていない
さて一方、ふるさと納税の制度的な趣旨は、国民それぞれが自発的にお世話になった地域、応援したい地域を支援するという点にある。魅力は返礼品だけじゃない。制度の趣旨に基づくメリットがさらにある。それは寄付の使い道を指定できることだ。
たとえば、私が住民票を置いている北海道大樹町なら〈子育て・教育の支援〉〈農林水産業の振興〉〈ロケット開発プロジェクト〉といった具合に計7つの選択肢が用意されている。つまり自分の寄付金に明確な役目を持たせることができるのだ。
ご存じのとおり、この国では税金の無駄遣いがあふれている。閑散とした公共施設。しょうもない地域振興イベント。まったくもって無駄だ。私たちの納めたお金が捨てられているようなものだ。しかし政治家や官僚にとってそれは無駄ではない。利権につながるからだ。かくして今日も明日も私たちのお金は勝手に溶かされていく。
でもふるさと納税なら、私たちのお金に意志を込められる。社会に有意義な貢献ができる。2022年度のふるさと納税の利用者数は約890万人(総務省調べ)。納税義務者のわずか15%だ。あまりに少ない。居酒屋で税金の不平不満をこぼすくらいなら、ふるさと納税をしよう。そして投票にも行け。すべては自分自身のためだ。
■ふるさと納税の狙いは「ステルス地方分権」
菅義偉元首相が総務大臣時代に打ち出し、官房長官時代に強化したふるさと納税制度。この制度の真の狙いは”ステルス的地方分権政策”だと私は睨んでいる。
多くの人はふるさと納税について「特産品がお得にもらえるサービス」くらいの認識だろう。では、これがなぜステルス的地方分権政策なのか。
日本は政治の権限が政府に集中した、いわゆる中央集権的な体制にある。政府が政策を決め、地方自治体はそれに従い仕事をする。戦後、日本が目覚ましい経済復興を果たせたのは、政府の統率力のもとで一丸となれたからだ。
しかしその反面、中央集権型には地域それぞれの特性に対応できないという弱点がある。高度経済成長を経て日本が成熟期を迎えたころから、今度はその弱点が深刻な影を落とすようになった。地域社会ごとの志向や課題がどんどん多様化し、全国画一的な基準がほとんど通用しなくなったのだ。事情はいまも変わらない。むしろ、さまざまな事柄が急速に変化しているなか、状況は悪化の一途である。
■「中央集権」を変える画期的システム
戦後の日本を牽引した中央集権システム。だが時代は変わった。いまやそれは地域社会のイノベーションをさえぎる足かせだ。脱・中央集権なくして日本の未来はない。
もちろん政府もそんなことは百も承知だ。自治体みずからが決め、実行し、問題解決をはかる――。そうした分権型社会への転換を実現すべく、試行錯誤を繰り返している。政府が地方分権改革を掲げ、具体的な政策を練りはじめたのは遡(さかのぼ)ること実に30年前(※5)。
※5 1993年、衆参両院で地方分権推進が決議された。
そこから今日にいたるまでこまめな法改正を経ながら段階的に、政府から自治体へ権限の移譲がなされてきた。しかしまだまだ不十分だ。分権型社会にはほど遠い。政府と自治体それぞれの思惑に隔たりがあり、いまだ綱引き状態である。
一方、分権型社会を実現するうえで、かねてから議論されているのが「道州制」の導入だ。現状の「都道府県」の行政区画を廃止し、より広域な「道・州」に再編しようという構想である。ひとつひとつの自治体(道州)の担う統治領域が拡大すれば、政府による権限移譲も大規模かつスムーズに果たされる。となると、日本全体の底力は格段に増すだろう。
■菅元首相の本当の狙い
しかしその道州制構想もそれはそれで実現の道のりは険しい。ようするに日本のかたちを根本的に変えようというものだ。変化を嫌う日本人にはなかなか受け入れがたい。事実、これまで少なからぬ自治体の首長たちが反対を表明してきた。その言い分はさまざまだが、いずれにしろ現存47都道府県の利害調整は容易ではないだろう。
部分的な権限移譲を繰り返したところで埒が明かない。かといって道州制実現のハードルは高い。しかし今後、日本の人口は一気に減少していく。国のことは国がやり、地方のことは地方でやる。そんな地方行政の自立と効率化は待ったなしだ。
おそらく菅元首相は地方分権改革の停滞に強い危機感を持ったのではないか。そこで現実的な次の一手を打った。起爆剤になりうる一手だ。それがふるさと納税である。
■「悪夢のような事態」と嘆く自治体も
自治体にとってふるさと納税は自由競争の場だ。工夫を凝らし、魅力的な地域であることを人々に示せれば多額の寄付が集まる。つまり「自治体みずからが決め、実行し、問題解決をはかる」という分権型社会の原則がそこにあるわけだ。
このふるさと納税を用い、地方分権の道を押し拡げる。それが政府の真の狙いだろう。菅元首相の卓抜した実務家としての手腕からしても、そう見なして間違いない。
このステルス的地方分権政策は、目に見える成果をあげている。実際、大都市から地方に巨額の税金が移っていて、その額も年々増大しているのだ。たとえば東京世田谷区では2023年度のふるさと納税による住民税の減収額が約98億円に及んだ(東京23区で最多額)。ほかの自治体に98億円が流れたわけだ。世田谷区長はその巨額の流出に「悪夢のような事態」と不満をあらわにしている(※6)。一方、財源の乏しい地方の自治体にとっては歓迎すべき状況だろう。
※6 NHK政治マガジン「ふるさと納税過去最高も 明暗くっきり『悪夢』のなぜ?」(2023年8月1日)、総務省「ふるさと納税に関する現況調査結果(令和5年度実施)」(2023年8月1日)
■税収減は「ただの努力不足」
この世田谷区にかぎらず、巨額流出に瀕している大都市はいずれも制度の見直しを訴えている。税収が失われると行政サービスが低下してしまう。それでは本末転倒。地域を支援するという、ふるさと納税の本来の趣旨に反する。そんな主張である。
しかしそれは単なるポジショントークだ。ふるさと納税の競争ルールは公平である。創意工夫を尽くした自治体に寄付が集まり、そうでない自治体には寄付が集まらない。それだけの話だ。大都市における巨額流出は、人口の多さにあぐらをかいてきたツケだろう。ようするに努力不足であり、制度を非難するのはお門違いだ。今後、大都市は負けずに創意工夫をして巻き返すしかない。より魅力的な地域社会を目指すのだ。
自治体みずからが決め、実行し、問題解決をはかる――。ふるさと納税は、まさにそのうねりを起こしている。地方分権のうねりだ。菅元首相の目論見どおりだろう。
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実業家
1972年、福岡県生まれ。ロケットエンジンの開発や、スマホアプリのプロデュース、また予防医療普及協会理事として予防医療を啓蒙するなど、幅広い分野で活動中。また、会員制サロン「堀江貴文イノベーション大学校(HIU)」では、1500名近い会員とともに多彩なプロジェクトを展開。『ゼロ』『本音で生きる』『多動力』『東京改造計画』『将来の夢なんか、いま叶えろ。』など著書多数。
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(実業家 堀江 貴文)
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