1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. ライフ総合

無年金、生活保護より深刻…「貯金あり・国民年金だけの独居老人」が直面している"最も貧しい介護生活"の実態

プレジデントオンライン / 2024年9月20日 17時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Kayoko Hayashi

老後の介護生活における格差が深刻化している。淑徳大学総合福祉学部教授の結城康博さんは「介護生活を送る高齢者のなかで、もっとも貧困を実感するのが国民年金のみで生活するケースだ。まとまった貯金がある場合は生活保護を受給することができないため、生活保護以下の水準で暮らしている高齢者も少なくない。金銭的に余裕があり民間保険にも頼れる層と、社会保険しか利用できない層との“介護格差”は今後さらに深刻化していくだろう」という――。(第1回)

※本稿は、結城康博『介護格差』(岩波新書)の一部を再編集したものです。

■食費が足りず、福祉団体の支援を受ける

筆者は、貧困要介護者の生活実態を把握するため某「地域包括支援センター」を訪ね社会福祉士に話を聞いた(2022年8月25日)。「地域包括支援センター」とは市町村が設置主体となっている機関で、おおよそ中学校区に1カ所設けられている「高齢者支援・相談センター」である。

ここには高齢者及び家族、ケースによっては介護専門職自らが相談に訪れる。そして、日々、相談を受けている専門職の1人が社会福祉士だ。多くの相談・支援ケースに対応しているが、まさに「介護格差」を実感しているということであった。

この地域は都市部駅近に位置することから超高級マンションが建ち並ぶ反面、未だ昭和をほうふつとさせる木造2階建てアパート6畳1間(風呂なし・トイレ付き)、家賃は1カ月約2万8000円といった物件もあるとのことだった。このようなアパートに独りで暮らす高齢者は生活保護受給者が多いのだが、最も「貧困」を実感するのが国民年金のみで暮らすケースだという。

中田トシエさん(88歳、仮名)は、要介護1で毎月6万円の年金受給額で暮らす。そこから家賃約3万円及び光熱費、社会保険料、医療や介護の自己負担分などを差し引くと手許に残るのが5000~8000円弱でほぼ食費となる。当然、これだけで充分な食生活を送ることはできないこともある。

そのため、定期的に福祉団体などが慈善事業の一環として行っている「食料支援」サービスを活用しているそうだ。特に、コロナ禍では企業や慈善事業による食料支援の回数が多かったため、要介護者といえども杖歩行で行列にならび食料を得ていたという。

■お金持ちこそ金銭感覚がシビア

しかし、身体機能が低下しているため重い米などは持てないため、頻繁に菓子類などを取得しているようだ。6畳1間の部屋も閑散としていて、ほとんど物がない状態。入浴は週2回のデイサービス(通所介護)で済ませる程度である。

担当社会福祉士は生活保護申請を勧めるが、おそらく預貯金が100万円程度あるため難しいのだという。徐々に預貯金を取り崩しているようだが、できるだけ使わないようにしている。とりあえず預貯金さえなくなり生活保護を申請すれば、いまのような貧しい介護生活からは脱却できるのにと、その社会福祉士は話す……。

いっぽう超高級マンションに住む、田中キミさん(90歳、仮名)は要介護1で独居高齢者。3LDKに独りで住み、時々、家政婦を雇うこともあるようだ。介護保険によるヘルパー(訪問介護員)利用は、介護人材不足の影響もあって派遣できる時間帯に制約があって希望に合わないこともあるからだという。

その社会福祉士は何度かマンションを訪ね相談にのったようだが、リビングの家具には高級感が漂い、家政婦が出してくれたコーヒーカップなどは「セレブ生活感」を思わせるものだったという。毎月の年金額は自身の国民年金と夫の遺族年金を合わせると約8万円ぐらいだというが、よほどの資産家であると推測される。子どもはいないため、亡くなったら甥(おい)や姪(めい)が遺産を相続するのかもしれないと……。

しかし、毎月の介護保険料が、年金から天引きされる(自動的に引き落とされる)ことに対してはシビアだそうだ。また、介護保険の自己負担に関しても本人は細かくチェックしており、例えば、ヘルパーの派遣回数をしっかり覚えている。

介護保険は出来高払いの料金体系であるため、1回ごとのヘルパー派遣回数によって自己負担分が計算されるためだ。話を聞いた社会福祉士の経験では、裕福な高齢者ほど金銭問題には1円単位でシビアで、毎月の請求書及び明細書などの問い合わせが多い傾向にあるという。もっとも、金銭感覚に敏感だからこそ、裕福になれるのかもしれないとも語っていた。

■生活保護世帯の5割は「単身の高齢者」

生活保護受給は世帯単位でなされており独り暮らしであっても1世帯、4人暮らしでも同様である。全国の生活保護受給世帯数は約165万世帯で、実際の保護受給者数は約202万人である〔厚労省「生活保護の被保護者調査(令和6年3月分概数)の結果」2024年6月5日〕。

もっとも、いまや生活保護受給者の約55%は高齢者層である。そのうち高齢者世帯の約9割が単身高齢者世帯(独居高齢者)となっている。具体的な受給額は、大都市部と地方農村部で差があり物価などが考慮されている。

基本的には生活費に相当する「生活扶助」と、住宅費といった家賃代に相当する「住宅扶助」が大きく占め、基準額として単身高齢者世帯では約10万~13万円。老夫婦世帯の2人暮らしであれば約14万~18万円程度である。もっとも、年金収入等があれば、その基準額から差し引いた金額が毎月支給される。仮に、基準額10万円であれば、毎月年金5万円の収入があるとすれば差額の5万円が生活保護受給額となる。

スマホを使用する高齢者の手元
写真=iStock.com/VioNettaStock
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/VioNettaStock

■高齢者が生活保護を受ける場合のメリット

それに医療保険料、介護保険料、そして、これらのサービス利用者負担分(自己負担分)は、「介護扶助」「医療扶助」といった受給として認められており負担はない。つまり、生活保護受給者となれば医療や介護には、一切の負担がなく一定のサービスを受けられる。

特に、毎月の年金額が8万円であった場合、生活保護受給者となれば差額2万円分の受給額が保証されることよりも、医療保険や介護保険における負担が「ゼロ」となるほうが実質的なメリットは大きい。もっとも、生活保護申請が認められ受給が決定されるには、貯金は「ゼロ」であることが原則である。

しかも、申請者の「扶養照会」が親族になされることもある。扶養照会とは、3親等内の親族に当該申請者に何らかの支援はできるかといった問い合わせを福祉事務所(市役所)が行うものだ。ただ、扶養照会の程度は福祉事務所によって差があり、必ずしも詳細な問い合わせがなされないこともある。

高齢者が独りでアパート暮らしをしている場合、要介護者となれば、適宜、ヘルパーに頼んで身の回りの世話になると考えるだろう。確かに、このような状況が大半ではあるが、一部、都市部には生活保護層を対象とした高齢者アパートがある。もちろん、住人は独り暮らしが大半である。

■「介護生活の最下層」は生活保護の受給者ではない

大阪市西成区にある高齢者アパートを取材した(2021年11月12日)。このアパートは家賃が約4万円で、居住者は全て生活保護受給世帯である。要介護者が多く、ここからデイサービスやリハビリ(リハビリテーション)施設に通う者も多い。

20年前は日雇い労働者用の簡易な宿泊所(ドヤ)であったが、現在、日雇い労働者がそのまま高齢者となり、宿泊所経営も生活保護受給世帯層に特化したそうだ。各部屋に風呂はなく共同のシャワー施設はある。近くに銭湯もあるが、多くの要介護者は、昼間、デイサービスに通うことで入浴は済ませている。

部屋の間取りは6畳1間で小さなキッチンが設けられトイレは各部屋に設置されていた。ある要介護者が住む部屋を本人同意の下、垣間見させてもらったのだが、畳部屋に、ちゃぶ台1つと小さなテレビぐらいしかなかった。住人の大半は天涯孤独で、身元保証人もいない。ただし、アパートの大家さんにとってみれば、何かトラブルが生じた際には全世帯が生活保護受給者であるため、大阪市役所のケースワーカーが対応してくれるので安心のようだ。

このように預貯金など財産もなく生活保護受給者となれば、「介護」生活においては必ずしも「最下位層」とはならない。必要であれば介護保険サービスも、自己負担額を気にすることなく区分利用限度額内であれば利用できる。毎月の介護保険料負担もなく、無年金者であっても心配はない。

西成労働福祉センター
写真=iStock.com/Koshiro Kiyota
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Koshiro Kiyota

■低年金世帯のほうが生活が苦しい

実際、このようなケースに携わるケアマネジャーやヘルパーの大半は、生活保護受給者に関しては、少なくとも介護生活においては「貧困」層とは認識していない。むしろ、低年金層の介護生活と比べると、介護サービスの利用に関しては生活保護受給者のほうが有利であるとの認識だ。

介護格差を分析するうえで、所得などの収入格差との因果関係を避けることはできない。これまで述べたように経済的に余裕があれば介護生活も安心して送れる可能性は高くなる。いっぽう生活保護受給者を除けば、低所得者は厳しい介護生活となるのは明らかである。そのため、高齢者の所得格差を探求することは、そのまま「介護格差」を分析することにも繋がる。

そこで所得格差を測る尺度として用いられるのが「ジニ係数」だ。イタリアの数理統計学者コッラド・ジニが考案したもので、具体的には「ジニ係数」は0から1までの数字で表され、0に値が近いと、当該国(もしくは地域・集団)は所得分配が機能しており「格差」が少ないという評価になる。

逆に1に近づくにつれ、その国(もしくは地域・集団)は所得分配が機能しづらく「格差」が拡大していることになる。図表1はジニ係数を年齢別に示したもので、1つは単純に社会保障等を加味せずに自力で得ることができる所得のみで測る「当初所得」である。

【図表1】世帯主の年齢階級別ジニ係数
出所=『介護格差』

■生活保護以下の生活水準で暮らす人も

これにおいては60歳、65歳から急激にジニ係数が1に近くなり世代内格差が拡充していることがわかる。60歳を過ぎると、どうしても正社員での就職機会が減少していき、再雇用や低賃金バイト収入しか見込めなくなる傾向だからだ。

いっぽう「再分配所得」は、税負担調整、社会保障サービスや福祉サービスなどの利用状況を加味しての所得である。年金や生活保護などの受給を加味した再分配所得においては、75歳以上と50歳~59歳とを比べても差がなくなっていく。つまり、社会保障制度によって高齢者間の格差は是正されているといえる。

ただし、再分配所得はあくまでも社会保障サービスを享受できる人を対象としているため、実際にはサービスに繫がらない高齢者も多い。特に、生活保護受給に繫がらず、狭い6畳1間のアパートに独りで暮らしている人は珍しくない。このような生活保護水準以下で暮らしている高齢者は、かなりの低所得者層である。

日本弁護士連合会(日弁連)資料によれば、本来、申請すれば生活保護受給が可能であるにもかかわらず申請せずに困窮状態にある人の割合が8割ではないかとの推計値を示している。同様な数値は2018年5月29日参議院厚労委員会にて厚労省の責任者が、議員の質問に対して答弁している。つまり、生活保護の「捕捉率」といって、本来、生活保護を申請すれば該当するにもかかわらず、実際は2割程度しか受給されていないとなる。

■民間の介護保険に加入できればいいが…

そもそも当初所得において年齢を重ねるにつれ格差が拡大しているということもあって、生活保護の「捕捉率」が低いということは高齢者層において格差問題はより深刻であると考える。

結城康博『介護格差』(岩波新書)
結城康博『介護格差』(岩波新書)

そもそも、老後生活で「格差」が生じることは、一部、個人の長年の生き方が大きく影響しているかもしれない。例えば、老後を見据えて民間の介護保険に加入する者が増えつつある。実際、各民間保険会社は「介護保険」の商品化を進めており、これらの実績も増えている。

先の生命保険文化センター資料によれば、民間介護保険及び介護特約の世帯加入率は2021年度16.7%と2009年度13.7%とを比べると増加傾向だ。特に、世帯年収別では「1000万円以上」22.4%、「300万~400万円未満」9.9%と年収があがるほど加入率が高くなる。

社会保障サービスでは充分でないと考える人らが、現役世代のうちから民間保険会社の「介護」「年金」「医療」保険に加入し老後生活に備えているのであろう。しかし、このような民間保険に加入できるのは一部である。今後、民間保険にも頼れる高齢者と、社会保険しか利用できない人たちとで二極化し、「介護格差」問題は深刻化していくであろう。

----------

結城 康博(ゆうき・やすひろ)
淑徳大学総合福祉学部教授
1969年生まれ。淑徳大学社会福祉学部卒業。法政大学大学院修了(経済学修士、政治学博士)。1994~2007年、東京都北区、新宿区に勤務。この間、介護職、ケアマネジャー、地域包括支援センター職員として介護関連の仕事に従事(社会福祉士、介護福祉士)。現在、(社会保障論、社会福祉学)。元社会保障審議会介護保険部会委員。著書に『日本の介護システム 政策決定過程と現場ニーズの分析』、『医療の値段』、『介護 現場からの検証』、『在宅介護 「自分で選ぶ」視点から』、『介護格差』(いずれも岩波新書)、『介護職がいなくなる ケアの現場で何が起きているのか』(岩波ブックレット)などがある。

----------

(淑徳大学総合福祉学部教授 結城 康博)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください