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カネがあっても「幸せな老後」はやってこない…要介護者になった「おひとりさま高齢者」を待ち受ける悲惨な現実

プレジデントオンライン / 2024年9月21日 17時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/byryo

幸せな老後を送るにはどんなことに気をつければいいのか。淑徳大学総合福祉学部教授の結城康博さんは「老後は孤独を感じやすくなるため『すぐに頼れる人』が周囲にいることが重要だ。介護施設に入る際は、身元保証人や緊急連絡先を求められる場合が多いため、親族に頼れない人は施設への入居を断られる場合もある」という――。(第2回)

※本稿は、結城康博『介護格差』(岩波新書)の一部を再編集したものです。

■「人間関係の希薄化」が老後の重要課題

介護生活は経済状況に大きく影響を受けるのだが、「人間関係の希薄化」も大きな課題の1つである。

筆者は、これまで多くの介護関係者に話を聞いてきたのだが、独居高齢者、老夫婦高齢者、家族同居高齢者において、それぞれの「孤独」があり、それによって介護生活も左右される。これは在宅であれ施設であれ違いはない。なぜなら要介護者となれば、自分で自由に体を動かすことができず行動範囲が縮小していくからだ。

認知症ともなれば、当然、人間関係は健常時と比べて希薄化していく。心身の機能低下が避けられない要介護者は、どうしても「寂しさ」を感じる時間が増えてしまいがちになる。そして、人間関係も希薄化していくなかで「生きがい」「充実感」なども減退していく可能性が高くなる。

例えば、特別養護老人ホームや有料老人ホームの生活相談員の話によれば、入居高齢者が元気か否かは、定期的な面会人がいるか否かで違うという。コロナ禍で家族らの面会制限があった時期を除けば、家族や友人が適宜、面会に来る高齢者は介護生活も充実しているそうだ。しかし、全く面会人が来ない高齢者は、それなりに元気ではあっても寂しげな表情を目にするとのことである。

安心して介護生活を送るには、一定の人間関係が継続・維持されていることが鍵となる。

■若い頃から人付き合いをしているかが重要

しかし、要介護者となっても親族であれ友人であれ定期的に交流を保つには、若い時から人間関係の重要性を認識し「人付き合い」を心がけておく必要がある。確かに、要介護1・2となり、デイサービスなどを利用することで、新たな要介護者同士の人間関係を構築できる機会はあるが、要介護者となって、新たな人間関係を構築していくことは非常に難しい。また、有料老人ホームやサービス付き高齢者住宅(サ高住)に入居することで、高齢者同士で友人をつくることもできるだろう。

しかし、要介護者同士で人間関係を構築するのには若い時から「人付き合い」の重要性を心がけていることが不可欠である。仮に、若い時は人との交流を避けて過ごしていたが、高齢者となって急に生き方を変えるとしたら相当な努力が必要となる。

寝たきりや常時車椅子といった中重度の要介護者ともなれば、新たな人間関係の構築はさらに難しくなる。もっとも、パソコンやSNSに精通している要介護者は例外かもしれないが。

■80代になると一気に孤独感が深まっていく

内閣府資料によれば、年齢別にみると「孤独」を感じている割合は、70代がもっとも低くなっている。男性と女性を比べると80歳以上を除くと男性のほうが「孤独感」を感じやすい傾向だ(図表1)。

【図表1】孤独感が「しばしばある・常にある」と回答した人の割合
出所=『介護格差』

このデータで興味深いのは、年齢を重ねるごとに「孤独感」を抱く割合が減少傾向であるものの、80歳以上となると一挙に上がっていくことである。高齢者といっても70代は元気であり心身ともに良好である者が多い。旅行、カラオケ、ゴルフなど趣味の活動をしたり、アルバイトなど仕事をしている人も珍しくない。

しかし、80歳をすぎると心身機能の低下が際立つようになる。なお、生産年齢人口(15~64歳)層の「孤独感」と、80歳以上のその捉え方は、若干、異なると推察され「老い」「介護」「死」といった心情が複雑に重なり合っての「孤独感」であろう。そのため介護の良し悪しに関しては、本人の「感情」という主観的な側面も無視できず、「孤独感」に陥らないようにしていくことが明暗の分かれ目ともなる。

■「おひとりさま」の老後リスク

雑誌記事などで「おひとりさま」の老後の暮らし方について、1度は見聞したことがあるだろう。気楽な生き方かのような論調も見られ、ある種ブームとなっているようにも思える。しかし、介護生活となると「おひとりさま」は、かなり厄介な生き方になる可能性が高い。しかも、たとえ経済的に裕福だからといっても安心とは限らず、親族や頼れる知人がいなければ苦労することがある。

なぜなら、病院への入院もしくは介護施設等への入居には、親族による身元保証人が必要となることが一般的だからだ。もし依頼できる親族が1人もいなければ、友人もしくは知人に依頼することもできなくはないが。なお、「身元保証人」という呼び名を使用せず、「緊急連絡先」といった名目で求められることもあるが、役割としては同様の意味合いを持つ。

2018年3月厚労省委託事業による調査結果から、介護施設等への入居時に交わす「契約書」において、「本人以外の署名がなくとも、そのまま入所(入院・入居)を受け入れる」は僅か13.4%に過ぎなかった。しかも「本人以外の署名がないままでは入所(入院・入居)は受け入れていない」が30.7%となっており、身元保証人等がいなければ約3割の介護施設等には入居できないことが分かった(図表2)。

【図表2】介護施設等における「本人以外の署名欄」に記載ができない場合の入所(入院・入居)の取扱い
出所=『介護格差』

■経済的な補償もなく、死後対応の負担も大きい

もっとも、身元保証人がいないことで入居を拒む理由とすることは、法令に抵触する可能性が高いため、介護施設側は別の説明をするのが一般的だ。例えば、今、「ベッドが空いていません」など差しさわりのない理由で婉曲(えんきょく)に拒否するのである。

なぜ身元保証人が求められるのかというと、経済的な保証という意味合いもあるが、さらに重要な理由がある。それは、亡くなった場合には葬儀や遺骨供養の手続きなど、死後対応も担うことが求められるからだ。なお、介護現場で問題となる「身元保証人」とは、債務者が金銭を返済しない場合に債務者に代わって返済する「連帯保証人」を意味するものではない。

某介護施設の生活相談員に、身元保証人がいない高齢者を受け入れた際の苦労話を聞いた(2022年5月7日)。この施設では身元保証人がいないケースでも、やむなく例外的に受け入れるが、亡くなった際の対応はかなりの負担となるという。葬式等は行わないまでも棺の手配、火葬場へのご遺体の移送、そして、無縁仏への埋葬など、本来、介護施設の生活相談員が担うべき業務を超えて対応しなければならないそうだ。

このような埋葬に関する対応は、通常の要介護者であれば親族らの身元保証人が行うのだが、いなければ全て介護施設側が負うことになる。

■供養する設備を持っている施設は対応できるが…

しかし、身元保証人らがいなくとも常時受け入れてくれる介護施設を、かつて訪ねたことがある。

共通していたのがいずれも仏教もしくはキリスト教などの宗教法人系の介護施設であるということだった。また、それらの施設長の話によれば「身寄りがいない」「頼る人がいない」などの高齢者の受け入れ先として、50年以上も福祉・介護事業を担っているとも。

印象的だったのが、教会や寺院などが隣接され、墓地も敷地内にあり無縁仏の供養ができるようになっていたことだ。宗教系法人の介護施設の多くは、高齢者のケアから埋葬まで人生の全てを締めくくる福祉支援を理念として掲げているため、身元保証人がいるか否かで受け入れを判断することはないようであった。

その他にも要介護者の病状が悪化したら、延命治療の有無や治療方針などを身元保証人らにも判断してもらうことになる。特に、急変して本人の意識がなくなれば「人工呼吸器装着?」、口から物が食べられずお腹にチューブを通して栄養補給する「胃瘻(いろう)手術は?」などは、医療機関側が身元保証人らにこれらの判断を仰ぐことになる。いってみれば病院や介護施設では、終末期医療(ターミナルケア)の判断等の責任を負いたくないのである。

■些細な判断でも身元保証人がいないと負担が大きい

稀(まれ)に尊厳死などの「リビング・ウィル」を宣言している患者もいるが、大部分の高齢者は、病気になる前から延命治療の有無について意思表示はしていない。だから、いざそうなった時には、医療機関は身元保証人に判断してもらうのだ。

在宅介護現場においても、ケアマネジャーやヘルパー、デイサービス職員らが、些細(ささい)なことでも判断を要する場面があり、身元保証人もしくは緊急連絡先となる人物がいるか否かで業務負担は大きく違うという。たとえば、援助者が買い物支援を行う際に、高齢者本人が購入したい物を全て受け入れるのに躊躇(ちゅうちょ)する場面がある。

具体的には独居高齢者に高価な買い物を頼まれる場合、本当に購入していいのか、認知症ではないが高齢者が後先を考えずに買い物をしていないかなど、援助者と高齢者間のみのやりとりでは微妙に不安を抱く際、身元保証人に確認をとることで安心して本人の要望に応えることができる。

また、些細な理由で高齢者が通院先のクリニック(診療所)を変えたいと相談を受けたケアマネジャーが、近隣の別のクリニックを探すにも身元保証人の確認を得ることで気持ちのうえでは楽になるようだ。

高齢女性の手を握る若い女性
写真=iStock.com/kokouu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kokouu

■甥や姪が身元保証人を担うケースはほとんどない

どうしても、在宅介護現場の援助者は日常生活を支えることも介護の一部となり、本人からの依頼でも本当にその要望を受け入れても差し支えないのか判断に迷うのである。特に、高齢になればなるほど、本人の意思判断に疑念を抱く場面がみられるため、身元保証人らの確認は援助者の精神的な支えとなる。

車椅子に座った高齢者の手を取る介護者
写真=iStock.com/kazuma seki
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kazuma seki

通常、関係がそれほど悪くなければ息子や娘ならば、同居していなくとも身元保証人として入院もしくは入居の手続き、その後の家族対応はしてくれるに違いない。また、子どもがいない高齢者は姪や甥、年下の従兄妹といった親族が身元保証人として引き受けてくれるだろう。

しかし、筆者が話を聞いたあるケアマネジャーによると、娘や息子以外での親族が身元保証人を担うケースは、高齢者本人が若い時から親戚付き合いに心がけていた場合に限るとのことであった。当然のことではあるが、甥や姪に連絡して身元保証人を断られるケースも多々あるそうだ。「甥や姪といっても、人生のうちで2、3回程度しか会ったことがないので」と、全く他人の関係であることは珍しくない。

■「身元保証」「死後事務」「医療同意」が関心事に

筆者が研究者として関わっている都内の地域包括支援センター449カ所から回答を得た226カ所の調査結果によれば、身元保証人の有無は要介護者を介護施設等に入居させる重要なポイントであることがわかった〔東京都社会福祉協議会(ソーシャルワークヴィジョン検討小委員会)「さまざまな問題を抱えた高齢者の行き場・実態調査報告書」2019年10月〕。

「施設系サービスを決めるときに何を重視して決めていますか」(複数回答最大3つまで)という問いに対して、複数回答ながらも高齢者の「経済的なニーズへの対応」が一番多く約23%、「待機者が少なく早期の入所が可能」約13%、「信頼できる施設であった」約12%、「医療的ニーズへの対応」約11%、「身元引受人・成年後見人が不在でも入所できる」約10%と続いた。

また、自由意見として「保証人、身元引受人をどのようにしていくかが大きな課題」「施設の相談員さんは『身元保証』『死後事務』『医療同意』はだれが行うのかを常に気にしており、この3点をクリアすれば行き場が広がる」「身元保証や財産管理、死後事務等を費用をかけずに保証する仕組み、法制度」「保証人がいなくても借りられるような制度」といった回答が寄せられた。

■安心できる老後には「すぐ頼れる人」が不可欠

結城康博『介護格差』(岩波新書)
結城康博『介護格差』(岩波新書)

この調査から、介護現場では身元保証人問題について援助者が苦慮していることが分かるだろう。

人は社会の中で生活しているため、どうしても社会秩序の範囲の中で対処していかなければならない。特に、日本社会では「身元保証人」という仕組みが社会に根付いている。学校入学、就職(バイトを含む)、賃貸物件の手続きなど、あらゆる場で身元保証人が求められる。

昨今、熟年離婚も増えており、子どもがいない高齢者夫婦も増加している。また、親族がいたとしても兄弟姉妹や従兄妹が80歳を超える同年代の場合は、身元保証人として認めてもらえない場合が多い。つまり、介護格差を考えるうえで、「身元保証人」もしくは「緊急連絡先」といった頼れる人がいるか否かで大いに違ってくるのである。

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結城 康博(ゆうき・やすひろ)
淑徳大学総合福祉学部教授
1969年生まれ。淑徳大学社会福祉学部卒業。法政大学大学院修了(経済学修士、政治学博士)。1994~2007年、東京都北区、新宿区に勤務。この間、介護職、ケアマネジャー、地域包括支援センター職員として介護関連の仕事に従事(社会福祉士、介護福祉士)。現在、(社会保障論、社会福祉学)。元社会保障審議会介護保険部会委員。著書に『日本の介護システム 政策決定過程と現場ニーズの分析』、『医療の値段』、『介護 現場からの検証』、『在宅介護 「自分で選ぶ」視点から』、『介護格差』(いずれも岩波新書)、『介護職がいなくなる ケアの現場で何が起きているのか』(岩波ブックレット)などがある。

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(淑徳大学総合福祉学部教授 結城 康博)

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