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「普通の知事」ならとっくに辞めている…斎藤元彦知事が「味方ゼロ」でも兵庫県トップに居座れる本当の理由

プレジデントオンライン / 2024年9月18日 7時15分

兵庫県庁で取材に応じる斎藤元彦知事=2024年9月12日 - 写真提供=共同通信社

兵庫県職員へのパワハラやおねだり疑惑に揺れる斎藤元彦知事を巡って、19日開会の県議会で不信任決議案が可決される見通しだ。ジャーナリストの小林一哉さんは「斎藤知事が県議会の解散を選ぶと、百条委員会も解散してしまう。そうなると告発文書に記されていた『もっと重大な疑惑』の追及が終わってしまう」という――。

■斎藤知事の失職は避けられない状況

兵庫県の斎藤元彦知事(46)は、県議会議員86人全員に辞職を求められる状況となりながら、続投の意思を強固に変えていない。

自民党、維新の会、公明党などすべての会派は、9月19日開会の県議会9月定例会の初日に不信任決議案を提出して、その日のうちに採決まで行い、不信任決議を成立させる方針を示している。

こうなると、どんなにあがいても、斎藤知事の失職は避けられない。

辞職が、いつになるのかというだけである。

斎藤知事が出席した2度の百条委員会を傍聴していて感じたことは、県政最高責任者としては非常に若い斎藤知事に思いやりの欠ける言動や行為があったとしても、それらをパワハラと断定するには大きな疑問が残るということだ。

また、企業、自治体からのおねだり疑惑を列挙していたが、金額等を踏まえてもほぼすべて常識範囲内で、どこにでもある知事へのおみやげ程度のものでしかなかった。

それで知事に強く辞職を迫るほどの疑惑とは言い難かった。

ことし5月10日に任期を1年余残して突然辞職した静岡県の川勝平太前知事も、そのほぼ1年前の6月県議会で、度重なる舌禍を招いたとして不信任決議案が突きつけられた。

静岡県議会での不信任決議案の採決。1票差で否決された
筆者撮影
静岡県議会での不信任決議案の採決。1票差で否決された - 筆者撮影

それでも、知事与党・ふじのくに県民クラブの議員全員が反対票を投じたため、かろうじて1票差で否決された。

それからほぼ1年間、知事職を続けたのである。

■維新が斎藤知事を守ることをやめた理由

ところが、兵庫県の場合、斎藤知事を擁立、支援した日本維新の会が対応を変えたことで、9月県議会を前にして「知事降ろし」の勝敗が決した。

もともと維新の会は「真実はどこにあるのか、見極めるべきだ」としていた。

斎藤知事の出席した2度の百条委員会が行われたあと、知事のパワハラ疑惑を認定するような発言までして、「県政の混乱を招いた責任を取れ」に変わってしまった。

斎藤知事への辞職を迫る報道が繰り返され、ほぼすべてのメディアが「辞職しろ」を連呼した。その大合唱は「世論」となり、誰も異を唱えることができなくなった。

自民党総裁選後に予想される衆院解散、総選挙を見据える維新の会は「世論」を敵に回すことはできなかったようだ。

知事与党だった兵庫県議会の第2会派・維新の会が9日に知事辞職を求めたことで、今回の騒動の帰趨(きすう)がはっきりとした。

その後、雪崩を打つように、すべての県議会議員が斎藤知事に辞職を迫る異常事態となったのだ。

維新の会が斎藤知事を支えていれば、不信任決議案が否決され、川勝知事のように持ちこたえられた可能性もあった。

斎藤知事が辞職してしまえば、そのまま「兵庫県政の闇」の部分に蓋をしめてしまう恐れが高い。

本当に、それでいいのだろうか?

■9月兵庫県議会は「異例ずくめ」となる

すべての県議会議員が斎藤知事に辞職を迫る中で、斎藤知事は物価高対策などを盛り込んだ約100億円の補正予算を9月県議会でしっかりと成立させることが役割であるとして、辞職要求を退けた。

「県民のために」を最優先する斎藤知事の姿勢は間違っていない。

県議会各派は、議会初日の19日に斎藤知事の不信任決議案を提出して、その日のうちに可決してしまおうとしている。

補正予算など県民生活に直結する重要案件はすべてその日中に処理する方向で調整している。

斎藤知事の提案説明が行われたあと、各常任委員会に付託して、採決まで行う。

その後、再び県議会本会議に持ち返って、補正予算、災害対応など重要案件を可決する段取りだというのだ。

普段の県議会であれば少なくとも1週間程度は掛かる日程を、たった1日ですべて行うことになる。あまりにもイレギュラーな緊急対応と言える。

どんなにスピードアップを図っても県議会の審議は深夜に及ぶことになる可能性が高い。

そのあと、斎藤知事に対する不信任決議案を提出して、採決して可決させるのである。

■「県議会解散」なら百条委も解散してしまう

不信任決議案が可決されれば、知事は10日以内に議会を解散させるか、辞職しなければならない。

斎藤知事がこれまですべての県会議員による辞職要求を撥ねつけてきたことを踏まえると、不信任決議を突きつけられたからといって、自ら辞職するという選択肢はないだろう。ふつうに考えれば、斎藤知事は議会解散に踏み切る可能性のほうが高い。

県議会議員選挙には16億円程度の費用が掛かるとメディアは牽制するが、すべて兵庫県内で費消される予算である。県民が注目する大イベントでもあり、その費用対効果は大きい。

いちばん重要なのは、県議会解散となれば、斎藤知事のパワハラ疑惑などを調査してきた県議会特別委員会の百条委員会が自動的に解散してしまうことだ。

10月24、25日に予定されている百条委員会は開かれなくなる。

斎藤知事が県議会を解散させると、40日以内に県議選が行われる。

選挙戦を経て、新たな県議86人による県議会臨時会が開かれ、そこで、知事不信任の決議を行い、今度は過半数の賛成で斎藤知事の失職が決まる。

斎藤知事が辞めたあと、県議会があらためて百条委員会を設置するかはわからない。

百条委員会を設置するかどうかは、新たな県議会議員が決めることとなるからだ。

■斎藤知事が辞めれば「知事選一色」になってしまう

百条委員会ではパワハラ、おねだり疑惑の事実を詳らかにし、斎藤知事の道義的責任を追及して、辞職を迫っていた。

肝心の斎藤知事が辞めてしまえば、パワハラ、おねだり疑惑への批判はおさまり、百条委員会は役割を失うことになる。

知事辞職とともに、県政の立て直しを最大の焦点とした知事選の日程が決まる。

次の知事が誰になるのかに県民の関心は集中するだろう。当然、県議全員もそちらに奔走する。マスコミ報道も県知事選一色になるだろう。

ところが、「兵庫県の闇」の部分ともいえる、犯罪行為を疑わせる告発について百条委員会はまだ調査していない。

亡くなった元西播磨県民局長の告発文書の5番目の「知事の政治資金パーティー券購入」と6番目の「阪神・オリックスの優勝パレードの費用に関わる公金横領、公費の違法支出」は、まさしく法律違反の疑惑である。

県議会は2つの疑惑について、斎藤知事を含むすべての証人を呼んで事実関係をしっかりと調べるべきである。

■「兵庫県政の闇」から目を背けているのは誰か

告発文書には、2023年7月30日の斎藤知事の政治資金パーティーで、県内の商工会議所、商工会に補助金削減をほのめかせて、パーティー券を大量に購入させたとある。

また兵庫県信用保証協会の保証業務を利用して、パーティー券購入を依頼させたともある。

他にも、昨年11月23日の阪神・オリックスの優勝パレードの費用が集まらなかったことから、信用金庫への補助金を増額させてキックバックした疑いがある。

寄付集めに奔走した産業労働部課長はうつ病を発症した。公金横領、公費の違法支出の陣頭指揮には片山安孝前副知事が当たったとしている。

その後斎藤知事は、課長が4月に亡くなっていたことを発表している。

 9月県議会の日程を見れば、9月25日から27日、休会をはさんで30日に代表質問、一般質問のために4日間を充てている。 

県議会各派は斎藤知事を1日も早く辞めさせることだけを優先して、9月県議会の代表質問、一般質問を省略してしまうつもりのようだ。

これでは、「兵庫県政の闇」の部分に目を向けることを避けているようにさえ見える。

県議会は本会議の代表質問、一般質問を行い、告発文書にある「政治資金パーティー券購入」と「公金横領、公費の違法支出」について、知事をはじめとする関係者から“真実”を引き出すよう取り組むべきなのだ。

■「パー券購入」「公費支出」こそ取り上げるべき

これまでの斎藤知事の言い分は、「法的にはすべて正しく処理していること」である。「法律違反は犯していない」と断言している。

そもそもパワハラやおねだりなどは公益通報制度の対象に該当しない。

同制度が対象とするのは500本の法律違反であり、犯罪行為や過料を受ける行為である。

元西播磨県民局長が告発した7つの疑惑のうち、法律違反に当たるのは「政治資金パーティー券購入」と「公金横領、公費の違法支出」しかない。

その他の告発は、斎藤知事が「誹謗中傷とも取れる」と表現するような怪文書に近いものだった。

元西播磨県民局長による個人的な恨みや不満が随所に見られ、5期20年の長期政権を敷いた井戸敏三・前兵庫県知事(78)に近かった人物だと推測される。

斎藤知事に辞職を迫る包囲網の裏側には政治的な思惑が透けてみえていた。

だからこそ、公益通報制度に該当する「政治資金パーティー券購入」と「公金横領、公費の違法支出」の疑惑はちゃんと解明すべきである。

取材に応じる兵庫県知事選に初当選した斎藤元彦氏=2021年7月21日午後、大阪市
写真提供=共同通信社
取材に応じる兵庫県知事選に初当選した斎藤元彦氏=2021年7月21日午後、大阪市 - 写真提供=共同通信社

9月9日公開のプレジデントオンライン(なぜ「兵庫県知事のイス」にしがみつくのか…「おねだり」「パワハラ」と言われても斎藤元彦知事が辞職を拒むワケ)で紹介したように、ことし2月県議会で、ひょうご県民連合(立憲民主党系)の上野英一県議は、詳しい手口には触れなかったものの、片山前副知事らが告発文書で指摘した2つの疑惑に関与していたことを取り上げていた。

もし、告発文書にあるような法律違反の疑いを少しでも承知していたならば、上野県議の追及も変わっていたのかもしれない。

■兵庫県の膿を出し切る機会は失われる

県議会の役割は、知事と県議による本会議での論戦によって、県政の発展に結びつけることである。

となれば、9月県議会本会議で法律違反とされる2つの疑惑を取り上げて、斎藤知事へ厳しい責任追及を行うのが筋である。

その論戦の中で、2つの疑惑に知事の関与が疑われるのならば、斎藤知事の政治姿勢を問題にして、不信任決議案を提出しなければならない。

しかし、初日の19日に不信任決議が成立すれば、斎藤知事は29日までに議会解散をするかどうかの選択を迫られる。 当然、代表質問、一般質問はすっ飛ばされ、議会として斎藤知事を追及する機会は失われる。

維新の会は真実の追及よりも、政治の主導権争いを優先して、斎藤知事の辞職を求めた。

県議会全体で「兵庫県の闇」の部分をうやむやにしてしまえば、多くの県民の期待を裏切ることになる。

斎藤知事を辞めさせることで、「真実はどこにあるのか」(維新の会)はわからなくなり、長年の膿(うみ)を出し切る機会は永遠に失われてしまう可能性が高い。

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小林 一哉(こばやし・かずや)
ジャーナリスト
ウェブ静岡経済新聞、雑誌静岡人編集長。リニアなど主に静岡県の問題を追っている。著書に『食考 浜名湖の恵み』『静岡県で大往生しよう』『ふじの国の修行僧』(いずれも静岡新聞社)、『世界でいちばん良い医者で出会う「患者学」』(河出書房新社)、『家康、真骨頂 狸おやじのすすめ』(平凡社)、『知事失格 リニアを遅らせた川勝平太「命の水」の嘘』(飛鳥新社)などがある。

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(ジャーナリスト 小林 一哉)

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