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「実家のゴミ屋敷化」はこうして始まった…50代女性が絶望した"冷蔵庫の中身"と"父親の変わり果てた姿"

プレジデントオンライン / 2024年9月24日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/shaunl

ゴミ屋敷にはどんな人が住んでいるのか。公認心理師の植原亮太さんは「ゴミ屋敷は独り暮らしの人に多いと思われがちだが、2人以上で暮らしていてもなることがある」という。第2回は、アルツハイマーに罹った父と同居する妻の事例を紹介する――。(第2回/全4回)

※事例は個人情報に配慮し一部加工・修正しています。

■認知症はゴミ屋敷と密接に関係する

今回は、認知症によるゴミ屋敷問題を取り上げます。

認知症は、アルツハイマー型認知症・血管性認知症・レビー小体型認知症・前頭側頭型認知症などの総称です。これらは「認知機能障害により、判断力が低下して、社会生活機能が障害される疾患」で「大脳の特定部位が障害される」と定義されています。

発症初期から中期までは運動機能などは維持されているのも特徴ですが、やがては脳の病変が全体へと広がっていき、末期にはほぼ寝たきりの状態になるのも共通していると言っていいでしょう。

その認知症の中でも代表的なのがアルツハイマー型認知症です。おそらく読者の方々が想像する認知症といえば、これのはずです。認知症全体の約70%を占めているとされ、代表的な初期症状は短期記憶の障害です。最近の出来事から忘れていく(覚えられなくなる)のが特徴ですが、やがて「社会生活機能が障害」される部分も大きくなっていきます。

具体的に言うと、いままではできていたことができなくなってくるのです。たとえば、洋服を正しく着られなくなる(着衣失行(しっこう))、蓋(ふた)があるのに水を注ごうとしてしまう(観念失行)などです。よって、周囲のサポートが欠かせなくなっていきます。これを欠いているときに、ゴミ屋敷化してしまうことがあるのです。

※ 疾病定義は「日本精神神経学会『認知症診療テキスト』」を参考。

■2人以上で暮らしていてもゴミ屋敷になることがある

認知症によって、どのようにゴミ屋敷化するのか。そのパターンは2通り存在します。

●独居+認知症の発症
●家族問題+認知症の発症

独居している方が認知症を発症して、やがて生活技能が低下していきゴミ屋敷化するというのは想像に容易いのではないでしょうか。周囲からのサポートを得にくい状況だからです。

その一方で、もともと起きている家族問題の上にさらに認知症が加わってゴミ屋敷化してしまうこともあります。このケースは困難化することが多いように思います。認知症以外の問題も影響が色濃いからです。

家族の認知症を理解せず、世話をしない。

ゴミ屋敷化しても改善しない、改善の指導にも従えない。

こうした多問題を孕(はら)んでいるのです。家族がいるのに、その家族からのサポートがないのです。

これから紹介していくのは「家族問題+認知症の発症」事例です。

おそらく、ごく普通の家族で育ってきた方には想像もできないことだと思います。しかし、大変な家族問題を抱えてきた人にとっては、共感できるか心当たりさえあるものかもしれません。

■酒浸りの父と、発達障害疑いの母

田中恭子さん(50歳・仮名)は、「親とのことを解決したい」と私のカウンセリングオフィスに来談しました。

彼女はこれまでの人生を一気に話しました。

「家は居心地が悪かったです。母は専業主婦だったのですが、家の片付けとかも苦手で。それで、父が『ちゃんと掃除しろ!』と注意していました。そのせいで機嫌を悪くした母は私に当たってくるので、私が家の掃除をするんです。要望が通らないと金切り声を上げて騒ぐような人なので、仕方がなく私は母の言うことを聞いていました。掃除しようにもどこから手をつけていいのかわからず、半べそで家の中をうろついていると、父が近寄ってきて『いっしょに片付けような』と言ってくれたのを覚えています。普段はお酒ばかり飲んでいる父でしたけど、時折優しいことがありました。

いま思えば母には発達障害があったのかも。料理もダメで、生焼けか焦げたハンバーグしか作れなかったんです。お友達の家に遊びに行ったとき、その子のお母さんが夕食にハンバーグを作ってくれたんですけど、『本物の』ハンバーグは、こんなに美味しいんだとびっくりしたのを覚えています」

■相談者は「アダルトチルドレン」だった

私は彼女に、いわゆる機能不全家族で育ってきたのだろうと見解を伝えました。

共感不全のある母親と、依存症問題を抱える父親です。

機能不全家族とは、家族としての機能が十分に働いていないことを指します。現在はより広い意味でも用いられるようになりましたが、もともとは嗜癖臨床の現場で使われていた用語です。その中でも、特にアルコール問題を抱える父親とその妻との間に生まれた子のことを「アダルトチルドレン」と呼ぶようになりました(クラウディア・ブラック著『私は親のようにならない』誠信書房)。

この機能不全家族では児童虐待が起きていることも稀ではなく、田中さんもその被害者であることは間違いないでしょう。

しばらくは、大変な家庭に生まれ育ってきたことを共有するカウンセリングが続きました。

■真夏に冬物のセーターを着てニコニコしている父親

初回のカウンセリングから約2年が経過した日に、彼女は次のように話し始めました。

「急に母から電話がかかってきたんです。受話器の向こうで喚(わめ)いていたので、何を言いたいのかわからなかったんですけど、とにかく父の悪口を言っていました。ここでカウンセリングを受けるようになったおかげで、母とも父とも気持ち的には距離が取れるようになりました。いままでなら、こうして母と電話するたびに汗をかいていたのですが、それがありませんでした。私は冷静になって、

『それじゃ何を言っているのかわからないよ。家に来てほしいの?』と聞くと、『そうよ』って、拗(す)ねた子どもみたいに返事してきたんです。それで、ずいぶんと久しぶりに実家へ行きました」

ここまで話してから、田中さんは私に見てほしいものがあると言ってスマホを差し出し、動画を再生し始めました。動画には、ゴミ袋・書籍・新聞紙・座布団・洋服・父親の趣味である釣竿……など、たくさんの物に囲まれた中心で、彼女の父親が真夏なのに冬物のセーターを着て、しかも下半身は薄汚れた下着だけを身につけてニコニコしながら座っているのです。

それを彼女の母親が、「お父さんは、なんにもできなくなった! できなくなった!」と騒いでいます。

■冷蔵庫には液化した野菜、賞味期限切れの大量のマヨネーズ

動画の中の田中さんが父親に話しかけます。

(お父さん、私だよ、わかる?)
(そんなの、忘れるわけないじゃないの)
(私の名前、言ってみて)
(恭子だよ。昨日、会ったばかりじゃないの。きのう〈昨日〉なのにきょうこ〈恭子〉だよ)
(私の誕生日わかる?)
(親だもん、忘れるわけがないじゃない)
(言ってみて)
(そんなの、言ったって、しょうがないじゃない)

画面の中で父親がはぐらかすように言います。とっさには娘の誕生日が出てこないのでしょう。その傍で彼女の母親は「お父さんは迷子にばかりなる」「もう面倒見きれないから、あんたが引き取ってほしい」などと言っている声も聞こえます。

家の様子はというと、完全なるゴミ屋敷だったと話します。冷蔵庫の中にはドロドロに溶けた野菜や腐った肉、それから大量のマヨネーズ。これは「父が好きだった」らしく、買ったことを忘れて再び買ってしまったのでしょう。賞味期限は3年前のものや5年前のものなどがあり、おそらくはこのころから父親に異変が起きていたのだろうと思われます。

マヨネーズ
写真=iStock.com/kuppa_rock
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kuppa_rock

部屋が掃除されている気配はなく、床は散乱した衣類などで見えなくなっていたようです。そして父親がいつも過ごしている部屋の周囲には、田中さんが小学生のときに描いて贈った父親の似顔絵が、ネズミの糞にまみれて落ちていたとのことです。

以前からヒステリック気味だった母親に変わりはありませんが、父親のその変貌ぶりに彼女は言葉をなくしてしまったのでした。

■「いつからゴミ屋敷になったか」は賞味期限でわかる

この数日後に田中さんは父親を連れて認知症外来へと行くのですが、そこで医師は「どうしてここまで放っておいたの!」と強く言ったそうです。しかし彼女は母親のせいにはせず「すみません」とだけ返したそうです。

下された診断は、アルツハイマー型認知症でした。

もともとゴミ屋敷ではなかった場合、ゴミ屋敷化し始めた時期がわかることがあります。食品の賞味期限などが、ある一時期に集中し、明らかに食品の管理が行き届かなくなっている形跡があるからです。あくまでも推測なのですが、やはり田中さんの父親は3〜5年前くらいから認知症の初期症状が出始めたのでしょう。

缶詰の生産と賞味期限
写真=iStock.com/JYis
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/JYis

これが、認知症の発症という「出来事」をきっかけとしたゴミ屋敷問題の特徴です。

しかし通常は、同居している家族がいれば発症に気づき、かつ生活環境がここまで乱れることはありません。もちろん、それを支える家族には苦労が伴いますが、認知症者をネグレクト(放置)することは絶対にありません。家族が家族を支えるという「あたりまえ」の機能があるからです。

■父親の認知症発症で家事が回らなくなった

父親の認知症の発症はショックだったのは間違いないでしょう。そんな田中さんの気持ちは、母親へと向かいます。

「母は何をやっていたんですか? どうして、父があんなになるまで放っておけるんですか? 母は父のことを面倒くさがっていました。世話してあげるとかの感覚がまったくないんです。病院に連れて行ったのも、私だったし……。

病院から帰って、父が認知症だと診断されたと母に伝えると『やっぱりね、ほら見なさいよ』って。その瞬間『あぁ、この人はダメなんだな、人のことを考えられない人なんだ、なんにも気づくことができないんだ』と心底思いました」

私は専門家としての意見を伝えました。

「おそらくはお父さんがずっとお母さんの能力を補っていたのでしょう。だけど、お父さんの発症を機に家のことができなくなったので、ゴミ屋敷化してしまったのだと思います。

お母さんが生活できていたのは、お父さんの支えによるものが大きかったのでしょうね。そしておっしゃる通りで、悪く言って申し訳ないのですが、お母さんには共感不全がありそうですね」

「父と母と私の3人で暮らしていたころは、私も母の『対処』をしていたと思います。母の機嫌をとったり、父と言い合いをして泣いている母のことを慰めたり。母は自分では掃除ができないくせに、私には掃除をしろと怒ってくることがよくありました。母は父に『子どもの環境を考えてちゃんと掃除をしろ』と言われていたので、それが気に食わなくて、そのまま私に言ったんだと思います。

母の機嫌が悪くならないように私も母の言うことを聞いていましたし、いつからか父もあまり母にはうるさく言わなくなったように思います。

父のこともあまり好きではなかったけれど、父のおかげで家がまわっていた部分もあったのかと思うと、なんだか複雑な気持ちになります」

■施設に入った父は娘のことも忘れてしまった

その後、田中さんのがんばりによって父親は介護施設に入りました。少し話が逸れますが、認知症になると緊張が緩んで、気難しかった人の意外な一面が見えてくることがあります。それは、発症前には抑圧されていた気持ちです。

「施設に会いにいくと父は私のことはもう忘れてしまっていて、職員さんだと思っているんです。だけど会うたびに『こんなに世話してもらってありがたいね、あんたみたいな娘がいたら、親父さんは嬉しいだろうね』って……」

そう言って田中さんは涙を流していました。

ここでは詳しくは述べませんが、親の認知症の発症を機に家族が再構築されていくこともあるのです。

■なぜ「ペア」でもゴミ屋敷化は起こってしまうのか

話を戻します。

実は認知症によるゴミ屋敷問題で最後まで難題として残るのは、機能不全家族の主翼を担う人物への対応です。

たしかにゴミ屋敷化した原因は、この事例では父親の認知症の発症でしょう。

しかし、この問題に無関心な人物がいるのです。この事例では母親になりますが、これは高齢の夫婦もしくは兄弟(姉妹)などで暮らしている場合のゴミ屋敷問題にもあてはまります。

その構造としては共通していて《家族運営の中心を司ってきた人物が病気などで生活技能が低下》→《これにより十分な家事ができなくなりゴミ屋敷化》→《しかし周辺家族がこれに無関心》という順で起こります。

テレビで特集されるゴミ屋敷の住人を思い出してみてください。認知症が疑われる人がいる側(かたわら)で、一方的な主張をまくし立てる人物とペアになっている光景が浮かんできませんか。

もちろんこれだけで断言はしませんが、ある時期を境にゴミ屋敷化してしまったような場合には、認知症の方と共感不全の家族成員というペアリングがとても多くあるのです。これは私の精神科病院と福祉事務所での勤務経験が言わせます(そのほかには「軽度」知的発達症のペアなどがありますが、いずれも精神疾患が関係していることが多い)。

■「独居」よりも問題は難航することが多い

田中さんの場合も例外ではなく、最後まで問題となったのは母親でした。ゴミの処分に関しては母親が頑として譲らなかったのです。「これは私のモノでもあるんだから、勝手に触るな」という主張で、害虫やネズミによって近隣への迷惑になると散々伝えても、耳を貸さなかったそうです。

こうした場合には強制的な清掃や片付けも難しいことが多く、やはり認知症の方が独居している場合のゴミ屋敷問題よりも困難化します。逆を言うと、認知症だけが原因の場合には、さほど困難化しないのです。やや言い方が悪いですが、本人のモノへの執着や聞き分けの悪さによって、モノが多くなっているわけではないからです。

■「私は掃除婦じゃないのに…」

その後の田中さんですが、いまだに母親はゴミ(モノ)への処分については承知していないとのことです。月に数回、彼女が実家に赴いて清掃する日々が続いています。周囲への迷惑に心を痛めているからです。

「片付けても片付けても、母は自分でゴミを分別したり、水回りを掃除したりはしないんです。……私は掃除婦ではないと心の中で叫んでいます」

父親の認知症発症に端を発したゴミ屋敷問題。

その根っこにあったのは、機能不全家族という問題です。

家族機能という観点で見ていくと、ゴミ屋敷問題にはこうした一面もあるのです。

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植原 亮太(うえはら・りょうた)
公認心理師
1986年生まれ。公認心理師。汐見カウンセリングオフィス(東京都練馬区)所長。大内病院(東京都足立区・精神科)に入職し、うつ病や依存症などの治療に携わった後、教育委員会や福祉事務所などで公的事業に従事。現在は東京都スクールカウンセラーも務めている。専門領域は児童虐待や家族問題など。

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(公認心理師 植原 亮太)

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