1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. ライフ総合

生まれつき運動神経が悪い子はいない…元プロ野球選手が子供の指導で「声出し」をまずやらせる合理的な理由

プレジデントオンライン / 2024年9月26日 16時15分

楽天イーグルスアカデミーで指導者を務める聖澤諒氏 - 撮影=黒澤 崇/提供=辰巳出版

なぜ野球の指導では「声出し」が重視されるのか。元東北楽天ゴールデンイーグルスの外野手で、現在は同アカデミーで子どもに野球を指導する聖澤諒氏は「『大きな声を出すことが大事』なんて話すと精神論に聞こえるかもしれないが、そうではない」という――。

※本稿は、聖澤諒『弱小チーム出身の僕がプロ野球で活躍できた理由』(辰巳出版)の一部を再編集したものです。

■プロ引退後、子どもに野球を教えるセカンドキャリアへ

2019年から楽天イーグルスアカデミーで子ども達に野球を教えることになりました。セカンドキャリア、第二の人生のスタートです。

当時スクールには5・6歳クラス、小学1年・2年生クラス、小学3年・4年生クラス、小学5年・6年生クラス、中学生クラス(硬式)があり、宮城だけでもスタジアム室内練習場を含めた4校、その他に東北全県でも開講しており、僕は中学クラスも含めた全てのクラスを担当しています。

東北は隣の県といっても東京と神奈川のようにすぐに電車で行ける距離ではないので移動だけでもかなり大変です。青森校へは新幹線で移動して泊まりになりますし、秋田校へも移動は車で片道3時間以上かかるので泊まりになります。

岩手校、山形校、福島校への移動は車で日帰りになりますが、一番大変なのが岩手校です。21時まで指導して、そこから車で2時間30分かかりますから帰宅はいつも24時近く。現役時代以上になかなかハードな生活を送っています。

■元野球選手だけでなくコーチの経歴はさまざま

楽天イーグルスアカデミー全体では14人のコーチがいて、僕のような元楽天の選手だけではなくアマチュア野球出身のコーチや、小学校の教員免許を持っているコーチ、中・高の保健体育の教員免許を持っているコーチ、体操教室で教えていたコーチなどいろんな経歴を持ったコーチがいます。そういったコーチが各クラスでどのように指導をしているのか? 最初は研修として3カ月、勉強させてもらいました。

ちなみに楽天イーグルスアカデミーのコーチ陣は、定期的に専門家を招いて小さい子どもにどのように教えるのが良いのか、子どもとの距離の縮め方、子どもに人気のあるコーチは何が違うのかなど、日々勉強し続けています。

■なぜ声を出すと野球が上達するか、言葉にして説く

練習前には全員整列して大きな声で挨拶を行っています。

「まずは挨拶から」「大きな声を出すことが大事」なんて話すと精神論に聞こえるかもしれませんが、そうではありません。なぜかと言うと「野球は声を出すスポーツ」ということを意識させる必要があるからです。

試合でフライを捕るときが分かりやすいと思いますが、大きな声で誰が捕るのかを指示を出す、自分で捕るなら大きな声を出してアピールすることが大事になります。「大きな声」は野球のプレーに必要なことですし、ぶつかって怪我をすることの回避、自分の体を守ることにもつながります。

ですが、ランニングやウォームアップで「イチ、ニー、サーン」と大きな声を出すことを恥ずかしがる子がとても多いのです。大きな声を出そうと思えば出せるけど、そのことと野球が上手くなることのつながりがまだ理解できてない。どうしてもボールやバットを使った練習をやりたがり、「声」を疎かにしてしまいがちになります。

練習で大声を出さなくても試合で出せるのであればいいのですが、そういう子は今まで見たことがありません。練習で大声が出せない子は試合でも出せないのです。

「練習のときから大きな声を出すことも練習の一つ」「まずは挨拶から大きな声で言えるようになろう」と根気強く言い続けていますが、ただ何度も言うよりも、子ども達の心に届くタイミングを逃さずに言うことが大切です。

ノックをしているとき、野手の間に上がったボールをお見合いして落としてしまったり、声は出しているけど相手が気付かずにボールを投げてもらえなかったり。そういうときは絶好のチャンスです。プレーを止めてすかさずこう話します。

「相手に聞こえなかったら声を出しているうちに入らないよね?」「こういうときに大きな声が出ないから、練習前の挨拶やアップのときから大きな声を出す練習をしているんだよ」

こういうプレーが実際にあったときに話すことで、子ども達も聞く耳を持ってくれますし、納得してくれるようになります。逆に言えば、子ども達が聞く耳を持ってくれるタイミングがくるまで、聞く体勢ができるまで教える側は何度も言い続ける必要があるということかもしれません。小学生を指導するのは本当に根気が必要です。

■「わからなかったら『わかりません』とちゃんと言おう」

こちらが何かをアドバイスしたときに、それに対して何も言わない子がいます。それだと子どもが分かったのか分かっていないのか、教える側は判断がつきません。

「教えても返事も何もしてくれなかったら、次からもっと教えてあげようという気持ちになるかな? どう思う?」

そんなふうに子どもに考えさせたり、「分からなかったら『分かりません』とちゃんと言うことも返事の一つだよ」そんなことを伝えています。返事をするにもロボットみたいに何でも「はい!」と言っていればいいのではありません。「しっかり返事をしてコミュニケーションをとろうよ」と子ども達にはいつも話しています。

「聞く」は、「耳で聞くだけではなくて相手の目を見て聞くと二倍の効果があるよ」と話しています。耳からの情報プラス話している人の表情、身振り、手振りを見て目からの情報も入れた方が理解する力が二倍になるからです。

「同じ時間に同じ話を聞いても、耳だけで聞いている人と、目で見て耳で聞いている人とでは大きな差が出るよ」

そんなことも話しています。

コーチの話を聞く少年野球の選手たち
写真=iStock.com/DenisePoshard
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/DenisePoshard

■野球を辞めても人として大事な姿勢が残ることを目指す

各クラスの練習時間は決まっています。そのなかでみんなが一番楽しみにしているのがバッティング練習です。では、バッティング練習をたくさんやりたいのであればどうしたらいいか? 「もうちょっと打ちたかった」と思うのであれば「どうしたらもっと打てたかな?」とそこも子ども達に考えてもらいます。

限られた時間を有効に使うためにはどうすればいいか?

例えば、集合のときにはダラダラ集まらずにパパッと集まる。そうやって行動を素早く行うことでバッティングの練習が少し多くできるようになるかもしれません。まずはそういうことに気付いてもらうことが大切かなと思っています。

リーダーシップのある子、意識の高い子は「早く集まって!」「早く! 早く!」なんて声を出してくれたり、良い効果が出ていると感じています。

挨拶、返事、聞く、行動を素早く。この四つが今日はできていても、翌週になると元に戻ってしまったり、なかなかすぐに身につけるのは難しい部分があります。だから根気強く言い続けますし、1年かけてできるようになれば良いなと思っています。

これらは学校生活にも通ずることですし、この先中学、高校、大学、社会人と進んでいっても無駄にならない大事なこと。野球はいつか辞めてしまう日が来るかもしれませんが、こういったことは野球を辞めてもその人のなかに残るとても大事な部分です。むしろ野球よりもこちらの方が大切だと、楽天イーグルスアカデミーでは考えています。

■小学生のうちは運動神経の良い悪いはまだ決まっていない

スキップをさせてみると同じ側の手と足が一緒に出てしまったり、右足を上げてと言っても左足が上がってしまったりする子も多いものです。そういうときに「僕は運動神経が悪いからできない」「僕には無理だから」とすぐに諦めてしまったり、投げやりになる子が多いと感じています。いますぐにはできなくても、小さい頃にこういった動きを繰り返しやっておくことが後々大事になってくるのに、もったいないなぁと思っています。

自分でもいろいろな本を読んで勉強していますが、小学生のうちは運動神経が良い、悪いはまだ決まっていません。自分で判断して諦めるのは早すぎるのです。生まれつき運動神経の悪い子はいないのです。

■脳と手足の連動を高めて運動神経を良くする

「運動神経」とは脳からの運動指令を筋肉に伝える通り道のこと。自分のイメージ通りに身体を動かせる子は「野球が上手い」「センスがある」など言われ、自分のイメージ通りに身体を動かせない子は「野球が下手」「センスがない」などと言われがちです。

ですが、たくさんの動きを経験し、たくさんのスポーツにチャレンジすることで「神経回路」を育て、運動神経を鍛えることはできるのです。

だからこそ、楽天イーグルスアカデミーでは運動神経自体を高める練習もたくさん取り入れるようにしています。頭でイメージした動きを正確に早くできるようにする。難しく言うと脳と手足の連動、協調を高める。そういうことにも力を入れています。

まずは自分の体を思い通りに動かせるようになること。それができるようになると運動神経も少しずつ良くなっていきますし、野球が上手くなるスピードも上がります。小さい子は特にそういうところからスタートしています。

「えー! できなーい」「むりー!」という子もいますが「こういう練習が大事なんだよ」「これを頑張ると野球が上手くなるんだよ」と言い聞かせながら根気強く子ども達にやらせています。

■「もっと水平に振って」では子どもには伝わらない

プロで経験してきたこと、培ってきたことをそのまま子どもに教えてもまず伝わりません。どういう言葉で伝えれば子どもの心に届くのか? そこは言葉を選びながら学年ごとに慎重にやっています。

聖澤諒『弱小チーム出身の僕がプロ野球で活躍できた理由』(辰巳出版)
聖澤諒『弱小チーム出身の僕がプロ野球で活躍できた理由』(辰巳出版)

特に技術面では「ここをもっとこうしなさい」と直接的に指導するのではなく、頭のなかでその子にも分かりやすい言葉に変換させてから指導するようにしています。

例えば、極端なダウンスイングをしている子がいたとして、それをレベルスイングで振らせたいと思ったときに「バットが上から出ているからもっと水平に振るようにしなさい」そんな直接的な言い方をしても、子どもは理解して修正できるわけではありません。

そうではなく「ちょっと天井に向かって打つ感じで振ってごらん」そんな言い方に変換してあげれば子どもにも分かりやすいですし、スイング軌道がちょっとレベルスイングに近づくようにもなるのです。

僕の恩師である國學院大野球部の竹田(利秋)監督は「指摘は簡単だけど指導するのは難しい」とよくおっしゃっていました。僕もそこは常に意識しています。

この子にはどんな言葉で伝えるのが良いのか、その子にあった「魔法の言葉」をプレゼントする気持ちで子ども達に向き合っているつもりです。言葉一つでその子を伸ばしてあげられる、そんな指導者でありたいと思っています。

----------

聖澤 諒(ひじりさわ・りょう)
元プロ野球選手
1985年11月3日生まれ。長野県出身。長野県松代高校、國學院大學を経て2007年に大学・社会人ドラフト4巡指名で東北楽天ゴールデンイーグルスに入団。背番号は「23」。2012年に54盗塁で盗塁王のタイトルと12球団トップの得点圏打率を記録。守備の巧さに定評があり、2014年に連続守備機会無失策のNPB新記録を樹立。2018年に現役引退、「楽天イーグルスアカデミー」のコーチに就任。180cm80kg。右投左打。

----------

(元プロ野球選手 聖澤 諒)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください