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ロボット掃除機「ルンバ」ではない…発売6年で驚異の世帯普及率45%と爆発的ヒットした掃除便利商品とは何か

プレジデントオンライン / 2024年9月21日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/svengine

顧客が満足する商品・サービスづくりとはどんなものか。それにはニーズとウォンツをきっちりと切り分けることが必須だ。上場企業の役員層・部長層など経営人材育成を行なう会社経営者の丹羽亮介さんは「売り手は顧客側の視点に立つことを忘れやすく、つい自社の視点で考えがちだ」という――。

※本稿は、丹羽亮介『マーケティングの大事なところを3時間で学ぶ』(フォレスト出版)の一部を再編集したものです。

■マーケティングと顧客視点

マーケティングという言葉は、わかるようでわかりにくい言葉です。市場調査と思う人もいるでしょうし、販売戦略のことを指して使う人もいるかもしれません。もし、「商品を売るための施策全般のことでしょう?」と言う人がいたら、その人に対して皆さんは何と答えますか?

「マーケティング」という言葉のもとになっている「market」という動詞は、「商品を市場に出す」という意味です。「商品を売ること」、あるいは「市場で売れるような宣伝をすること」という意味で使われています。

しかし、ビジネス用語としてのマーケティングを「商品の販売促進をすること」と説明したら、それは完全な間違いと言わざるを得ません。というのも、マーケティングの本質は「商品の販売促進をすること」ではなく、「顧客を満足させること」だからです。そもそも商品が売れるということは、顧客が喜んで買ってくれているからであって、顧客満足のない商品販売はあり得ません。

では、「商品の販売促進をすること」と「顧客を満足させること」は何がどう違うのでしょうか?

これは企業側からの視点か、顧客側からの視点かで根本的に違ってくるのです。ビジネス書をよく読む方は「顧客はドリルが欲しいのではない。穴が欲しいのだ」という言葉をご存じでしょう。

たとえば、ある人がホームセンターにDIY用の電動ドリルを買いに行ったとします。その理由は「ドリルが欲しい」からでしょうか?

深く考えるとそうではないことに気づくはずです。この人の本当の目的は壁や木材に「穴を空ける」ことであって、そのためにドリルが必要だということです。穴を空けられる器具であれば、別にドリルでなくてもよいかもしれませんし、最初から穴が開いている木材があれば、何も必要ないかもしれません。

■ニーズとウォンツを分ける

この「穴」のことをマーケティング用語で「ニーズ」といいます。そして、「ドリル」のことを「ウォンツ」といい、両者は明確に区別されています。

ニーズは顧客の根本的な欲求のことで、ウォンツはそのニーズを満たすための手段の1つにすぎません。「商品を販売すること」はウォンツ視点、「顧客を満足させること」はニーズ視点であることが、このドリルと穴の関係からおわかりいただけるのではないでしょうか。

ニーズとウォンツの違いを意識することはとても重要です。

身近な例として「掃除機」で考えてみましょう。皆さんは、掃除機のニーズは何だと思いますか? おそらく、ほとんどの方が「部屋をきれいにすること」と答えるのではないでしょうか。

では、それを踏まえた上で1つ質問をします。

1994年に日本で発売され、6年後の2000年には世帯普及率が45%と爆発的にヒットした、掃除機と同じニーズを満たす商品があります。さて、何でしょうか?

ロボット掃除機の「ルンバ」を思いついた方が多いかもしれません。しかし、ルンバは2002年発売なので不正解です。

ロボット掃除機ルンバ
写真=iStock.com/Beano5
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Beano5
事例1:クイックルワイパー

答えは「クイックルワイパー」です。立った状態のままで床の雑巾がけができる優れものの掃除道具です。この商品は電機メーカーではなく、日用品メーカーの花王が販売しています。

フローリング掃除用のモップ
写真=iStock.com/s-cphoto
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/s-cphoto

多くの電機メーカーが掃除機の吸引力向上や騒音抑制といったハードウェアのスペック向上に血道を上げている市場において、顧客ニーズを深堀りした花王が見事に成功した事例といえるでしょう。

ニーズとウォンツ
出所=『マーケティングの大事なところを3時間で学ぶ』

私たちはいったん製品やサービスを作ってしまうと、どうしてもそれにとらわれてしまい、顧客ニーズを満たすことよりも、自分たちが作った商品・サービスを売ることに力を入れてしまいがちです。

たとえば、石油会社はエネルギーというニーズではなくガソリンという商品にこだわり、鉄道会社は輸送というニーズではなく鉄道というサービスにこだわります。もちろん、それらに莫大な投資をしてノウハウを培ってきたからという事情があるからなのですが、実のところそういった企業側の事情など顧客にとっては何の関係もありません。顧客は、自分のニーズによりマッチした解決策が登場すれば、あっという間にそちらに移ってしまうでしょう。

■顧客視点がないサービスは失敗する

全日本空輸(ANA)の失敗
事例2:全日本空輸(ANA)の海外ホテル事業

先ほど、多くの企業は顧客ニーズよりも、自分たちの商品・サービスにこだわりがちだと述べました。これは「このレストランは顧客サービスがなっていない」といったサービス水準の問題ではなく、「根本的な発想の起点が違う」ことであり、とても重要です。やや古くなりますが、全日本空輸(ANA)が展開した海外ホテル事業の事例を見てみましょう。

全日本空輸は1986年に国際定期便の就航を開始し、それに合わせて海外の就航地でホテルの買収・開発を行ないました。1989年のシドニーでの高級ホテル建設を皮切りに、米国、欧州と次々にホテルの買収を進めたのです。

当時の近藤社長は、ウィーンのホテル買収の際に、理由を次のようにコメントしています。

「ウィーンは欧州共同体諸国へ行くにしろ、東欧に行くにしろ、訪問客の手近な玄関である。それだけに航空会社としても足場をきちんと築くことが重要だ」(日本経済新聞、1990年5月8日朝刊)

しかし、結果的に2003年にはすべての海外ホテル事業から撤退することになり、推定で240億円の損失を計上しました(図表2)。いったい何が問題だったのでしょうか?

全日本空輸(ANA)のホテル事業の営業利益の推移
出所=『マーケティングの大事なところを3時間で学ぶ』

理由は単純です。顧客の立場からすると、海外旅行をする際に航空会社の直営ホテルを選ぶ理由などどこにもありません。皆さんにも考えていただきたいのですが、フライトがANAだったからといって、ホテルもANAにしようと思いますか? それよりも、いろいろな選択肢の中から価格帯や個人的な嗜好に応じてホテルを選ぶのが普通でしょう。

確かにANAにとっては、海外ホテル事業の展開は輸送事業における垂直統合的な動きではありますが、それはあくまで企業側の理屈であって、「うまくいくといいな」という希望的観測以上のものではないのです。

■D2Cの顧客メリットは何か?

事例3:D2Cのメリット
丹羽亮介『マーケティングの大事なところを3時間で学ぶ』(フォレスト出版)
丹羽亮介『マーケティングの大事なところを3時間で学ぶ』(フォレスト出版)

このような話は現在でも枚挙にいとまがありません。

最近、筆者が企業の方とお話しすると、「D2C(ダイレクト・トゥー・カスタマー:商品の直販)を進めている」と聞くことがよくあります。

たとえば、ナイキをはじめとするスポーツ用品メーカーにとって、直営店やインターネットを通じて顧客と直接結びつき、ブランドの世界観を伝えていくことには大きなメリットがあります。ただ、顧客にとってみれば、量販店に行けばいろいろなメーカーの商品を比較して選べるにもかかわらず、あえて特定のメーカーと直接やり取りするメリットがどこまであるのでしょうか? このことは意外と明確に語られていません。

実際、メーカー側に聞いてみても、「何となくD2Cというトレンドに乗ってみただけ」ということが多い印象を受けます。私がメーカーの方に「量販店で買う以上の顧客メリットはどのようなものがあるのでしょうか?」とお聞きしても「いや、それは……」と口ごもってしまうケースもよくあります。

要するに、「売り手は顧客側の視点に立つことを忘れやすく、つい自社の視点で考えがち」ということです。この手の施策はそもそも顧客ニーズが存在しない可能性も高く、根本的に失敗しやすい思考形式といえるでしょう。

皆さんにも、自社の商品・サービスや新規事業が「こうだったらいいな」という自社の都合だけで作られていないかをぜひ確認していただきたいと思います。

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丹羽 亮介(にわ・りょうすけ)
マインドシーズ 代表取締役
1985年、三重県鈴鹿市生まれ。東京大学法学部卒業、同公共政策大学院修了。三菱UFJ銀行にて法人営業、組織再編プロジェクト、管理会計などに携わったのち、2014年に独立。経営人材育成を行なうマインドシーズを設立、上場企業の役員層・部長層を中心に1000名以上の育成、評価を行なう。2021年にシンガポールに進出、MINDSEEDS SG PTE.LTD.のDirector就任。オンライン教育プラットフォームであるUdemyにて経営戦略を中心とした動画セミナーを多数配信。個人向けの学びの場である「寺子屋」も開催。

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(マインドシーズ 代表取締役 丹羽 亮介)

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