「トヨタ1社分」が丸ごと蒸発したが…AIバブルの象徴「エヌビディア」がさらに爆発的成長を遂げるといえる理由
プレジデントオンライン / 2024年9月19日 9時15分
■たった1日で「トヨタの時価総額より多い額」が蒸発
9月3日、米エヌビディア(NVIDIA)の株価が急落した。値下がり率は9.5%であり、1日で時価総額が2789億ドル(約40兆5460億円)減ったことになる。米国市場の1銘柄としては過去最大の金額で、トヨタの時価総額(約39兆円)よりも多い。
今回の株価急落が注目されたのは、これまでエヌビディアの急成長がすさまじかったからだ。株式市場の一部で“エヌビディア祭り”と言われ、「バブルではないか」と疑う声はあった。
エヌビディアの株価は、今年6月20日に140.76ドルの最高値をつけ、時価総額は約3兆3300億ドルに達した。一時的とはいえ、時価総額が世界一高い企業となった。1年ほどで、時価総額が3倍以上になる驚異の成長ぶりだった。
半導体メーカーのエヌビディアは1993年に設立され、カリフォルニア州サンタクララに本社がある。
画像処理に特化した高性能GPU(Graphics Processing Unit:グラフィックス処理ユニット)で世界をリードし、2010年代前半までゲーミング市場で成長をつづけた。2010年代半ばからAI分野で存在感を高め、2010年代後半から大規模なデータセンターに同社のGPUは不可欠といわれるようになった。
2020年代になり、ChatGPTはじめ生成AIに注目が集まると、AI開発の半導体需要が期待され、エヌビディアの株価は高騰した。ゲーミング、データセンターのほかにも、製造業やエンタメ業界が利用するプロ向けのグラフィックス技術、クルマの自動運転技術など、エヌビディアの高性能GPUが求められる分野は広い。
「AI産業の牽引役」「AI革命の立役者」と呼ばれるのも納得できる。
■株価急落は、あくまで「調整局面」である
それだけに今回の株価急落が市場に与えたショックは大きい。「AIバブルが弾けた」「本当はAIに将来性はない」と早まった見方が出てくるのも無理はないだろう。
株価急落の要因はいくつか考えられる。一番大きいのは、8月28日に発表された今年8~10月期の売上高見通しだ。
売上高が前年同期比で79.4%増、前四半期比で8.2%の伸びというのは、他社であれば好業績といっていい。しかしエヌビディアでは、株を手放すマイナスの材料となる。
ここ数年の決算を見ると、たしかに「業績悪化」だ。今年の5~7月期まで、売上高は前年同期比で2倍以上、前四半期比で10%以上が当たり前だった。今年8~10月期の見通しが市場予想より低いことから、投資家たちは「成長のペースが鈍化した」と判断したのだ。
8月28日に発表された5~7月期決算は、売上高が前年同期比2.2倍の4兆3500億円、純利益は同2.7倍の2兆4000億円。いずれも市場予想を上まわる結果だった。
前の四半期が好調だったにもかかわらず、同時に発表された8~10月期の見通しによって株価が急落。筆者は一報を聞いて、「調整局面」だと判断した。急成長が続けば、どこかで調整局面を迎えると考えるのが妥当だろう。
もちろん、エヌビディアにリスク要因がないわけではない。
■むしろAI開発競争は「激化」が予想される
米国の株式市場は、9月は株式市場のパフォーマンスが低下するうえに、現在は景気後退が懸念されている。この日はダウ平均、S&P500、ナスダックなど各種指数は悪化し、エヌビディア以外のメガテック企業も軒並み株価を下げた。米国の株式市場を牽引するエヌビディアだから目立ったのだ。
景気が後退し、メガテック企業がAI投資を減らせば、GPUを供給するエヌビディアの業績は悪化する。ただし、景気が後退すると同時にAI投資の減速が長く続くことは考えにくく、エヌビディアが影響を受けるとしても半年、1年と続くことはまずないだろう。中長期で見たら、業績も株価も上昇するものと予想される。
実際にエヌビディアの株価は、同じ週の9月6日(金)に102.83ドルまで値を下げたが、翌週には以前の水準まで回復した。
現在の生成AI産業は、メガテック企業どうしの競争が激しく、最大のトレンドであるAIへの投資を減らして勝つことは困難だ。むしろAI開発が競争の要点になるだろう。
筆者が考える生成AI、AIモデルでの競争条件は、以下の3つだ。
① AIモデルの規模と性能
② 計算資源(GPUクラスタ)
③ データの質と量(データセット)
■これからAI業界は「二極化」が進んでいく
AI産業は「規模の競争」であり、GPUが重要な計算資源となる。ほかにクラウドプラットフォームの有無、エコシステムとパートナーシップなども考えられる。
基幹となるAIモデルではアマゾン、グーグル、マイクロソフトのメガテック3社やメタが、新興勢力を取り込みながら覇権を握ろうとしている。一方、独立系の新興AI企業は、対象とする言語や用途に特化する「差別化集中戦略」を採用して生き残りを図っている。日本では富士通が資本・業務提携しているカナダのコーヒアが代表例だ。
AI業界は将来的に、二極化すると筆者は見ている。ひとつは、メガテック企業が独自のLLM(大規模言語モデル)を開発し、ユーザーはAPI(アプリケーション・プログラミング・インタフェース)で利用するもの。もうひとつは、新興企業が特化型LLMを開発し、知的財産をコントロールするものだ。
エヌビディアの売り上げは、現在はデータセンター向けが87%を占めている。そのうち40%以上はアマゾン、グーグル、マイクロソフトなどのクラウド大手向けである。
エヌビディア急成長の背景には、生成AIの加速度的な進歩があり、同社は生成AIに会社の資源を集中してきた。ハードウェアのGPUを製造するだけでなく、ソフトウェア開発の支援環境、開発ツールなども同時に提供してきた。いわばGPUをめぐる「エコシステム」を構築してきた企業といえる。
■生成AIの成長は、まだほんの入り口
筆者も戦略コンサルティングの実務で生成AIを活用している。その実感からも生成AI産業が成長を続けることを確信している。
例えば、あるテーマについて過去に作成したパワーポイントの資料が100枚ほどあるとする。生成AIに100枚の資料を読み込ませ、文章にまとめて原稿を作成してもらう。あるいは、コンサルティングのアイディアを出してもらう。10個のアイディアが1分もかからないで提示され、そのうち3つは筆者がまったく思いつかないものだった、ということも珍しくない。筆者にとって生成AIは、すでに日々の仕事に欠かせないものとなっている。
特に画像や音声、動画をAIに読み込ませ、特徴や差異を解析する「ディスクドライブ」の能力はかなり高いと感じている。
例えばコンビニの店頭で、棚に並んでいる商品をスマホで撮影する。GPT-4oに画像データを読み込ませて解析させると、目立つ位置にイチオシ商品があるか、顧客が選びやすいか、商品の価格から顧客がどんなイメージを持つか、といったことを瞬時に解析してくれる。購買行動などの大量なデータを読み込ませることで、経験豊富なベテラン社員でないと気づかない点を見つけて指摘してくれるのだ。すでに実務的には分析対象によってはベテラン社員や店長の水準に到達していることは驚異的だ。
短期的にAI関連のメガテック企業の株価が急落しようと、生成AIの将来性は揺るぎない。重要なことは、これから指数関数的に技術が進むということだ。ChatGPTが登場した頃から考えると、2年足らずで生成AIの回答はずいぶん進化したと感じられる。実際にオープンAIの2019年GPT2はパラメター数が15億、2020年GPT3は1750億、GPT4は1兆超えと、モデルの大きさは指数関数的に拡大している。パラメターは、AIモデルの心臓部とも言える要素であり、モデルの学習能力と最終的な性能を決定する重要なものだ。
いわゆる「キャズム(※)」を超えるのは時間の問題だろう。
仕事やプライベートに生成AIが本格的に活用され、生成AI対応のスマートフォンが普及している未来を想像すると、現在の局面はまだほんの入り口に立っただけにすぎないことと感じている筆者である。
※:アメリカの経営コンサルタント、ジェフリー・ムーアが提唱した企業・商品・サービスの成長における「壁」のこと。大半の新商品や新サービスは成長に伴って、キャズムに直面する。
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立教大学ビジネススクール教授、戦略コンサルタント
専門は企業・産業・技術・金融・経済・国際関係等の戦略分析。日米欧の金融機関にも長年勤務。主な著作に『GAFA×BATH』『2025年のデジタル資本主義』など。シカゴ大学MBA。テレビ東京WBSコメンテーター。テレビ朝日ワイドスクランブル月曜レギュラーコメンテーター。公正取引委員会独禁法懇話会メンバーなども兼務している。
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(立教大学ビジネススクール教授、戦略コンサルタント 田中 道昭 構成=伊田欣司)
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