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なぜ「逆走ママチャリ」がここまで炎上したのか…自転車が絶対に「右側通行」で走ってはいけないワケ【2024上半期BEST5】

プレジデントオンライン / 2024年9月22日 8時15分

【画像1】自転車レーンのある坂を逆走する自転車 - 筆者撮影

2024年上半期(1月~6月)、プレジデントオンラインで反響の大きかった記事ベスト5をお届けします。社会部門の第2位は――。(初公開日:2024年5月2日)
なぜ自転車は左側通行で走らなければならないのか。自転車評論家でジャーナリストの疋田智さんは「交差点において、右側通行する自転車はクルマにとってもっとも視認しにくく、距離が近い。中でも、歩道を右側通行する自転車は最高に危険だ」という――。

■右側通行は自転車の最もメジャーな事故原因

今年4月、ドライブレコーダーに映るママチャリ主婦が炎上したことがあった。交差点を右折したママチャリがクルマの正面にやってきて、ドライバーを恫喝し、車線に居座ったというやつだ。その姿は「迷惑自転車の典型」とされ、ネットでプライバシーまでさらされるというヒドいことになった。

私はこの人の住所や夫の勤務地など、ネットでさらし者にするのは最低だと思う。正義を笠に着て私憤を満足させる。そんなのはただの私刑(リンチ)だろう。しかも、今回の事象には「通学路」「時間帯」の事情まであったという。

それは前提として、この主婦がここまで叩かれた理由のひとつには、「逆走」があると考えざるを得ない。逆走すなわち右側通行の自転車は、ものすごく迷惑で危険だからだ。

それはイメージとしての「正面衝突になって危ない」というだけじゃない。それはむしろ小さな理由で、右側通行は自転車の最もメジャーな事故の主な原因なのである。

■左側通行であればクルマから見えやすい

まずは、交差点に近づく自転車➀~⑤を描いた画像2を見ていただきたい。出会い頭の事故の典型は、こうした交差点で起きる。交差点にさしかかったクルマにとって(クルマはもちろん左側を通る)左側通行をする自転車は、①も②も③も④も視認が可能だ。

【画像2】⑤右側通行の自転車は交差点で危ない
筆者提供
【画像2】⑤右側通行の自転車は交差点で危ない - 筆者提供

④などはクルマとの距離が近くて、一見、危険に思えるかもしれないが、自転車より絶対速度の速いクルマは、この交差点に至るまで、ずっとこの④の自転車を認識してきたわけで、ドライバーにとって、少なくともそこに自転車がいることは分かっていることになる。

これら①、②、③、④の左側通行をしている自転車は、ドライバーが「邪魔だな」と思おうが「危なっかしいな」と思おうが、そこに自転車がいることを認識していることだけは間違いない。見えるからだ。

■最高に危険なのは「歩道を右側通行」

ところが問題は⑤の自転車だ。この⑤の自転車は、ドライバーにとって、交差点に出てくる直前になるまで、まったく見えない。

そして、この⑤自転車が突然キュッと出てくる際に起きる事故、これこそが「出会い頭」なのである。

中でも、最高に危険なのは、この⑤自転車が、歩道を走っている場合だ(画像3の⑤’自転車)。

【画像3】⑤’歩道を右側通行する自転車がもっとも危険
筆者提供
【画像3】⑤’歩道を右側通行する自転車がもっとも危険 - 筆者提供

■出会い頭の事故が起きるのは必然

この⑤’自転車は、クルマにとって最も視認しにくい自転車であり、なおかつ最も距離的にクルマに近い(つまり危険に近い)自転車になってしまう。

さらにいうなら、歩道というものは、電柱、ポスト、電話ボックス、看板、駐車車両、ほかさまざまな障害物に紛れて見えにくくなっているし、加えて、ドライバーの心理も「歩道は別領域」というものになってしまって、いわば「心理的な目」が覆い隠されてしまっているといえる。このことが⑤’自転車をいっそう危ないものとする。

⑤、そして⑤’の自転車が、ドライバーの死角からいきなり出現して起きる事故。クルマはこれを避けることができない。これこそが出会い頭の本質であり、自転車が右側通行をしている限り、この事故は必然として起きているのだ。

【画像4】センターラインのない道路を右側通行する自転車。その先の交差点で右側からクルマが出てきたら…
筆者撮影
【画像4】センターラインのない道路を右側通行する自転車。その先の交差点で右側からクルマが出てきたら… - 筆者撮影

「必然として起きる事故」というのもすさまじい話だと思うんだが、ただ、このことは日本人は誰しも薄々と知っている。

その証拠と言うべきだろう、交通安全教室などでよく出てくるスタントマンの再現(スケアード・ストレイトという)は、必ず自転車が右側を走っている。そうでないと誰もリアリティを感じないからだ。

こんなことがいつまでも放置されている。それが日本の自転車を取り巻く現状なのだ。

■自転車の右側通行こそが諸悪の根源

そして、さらに驚くべきは、この出会い頭事故が、自転車事故の大部分を占めている、という事実だろう。

図表1にあるとおり、警察庁の統計では自転車対クルマの事故の54%を出会い頭事故が占めている。

【図表】「自転車対自動車」事故の類型別事故件数
出典=警察庁交通局「平成29年における交通死亡事故の特徴等について」

同庁平成29年の発表資料には、ご丁寧に「全ての交通事故における出会い頭衝突事故の割合……24.5%」などとわざわざ書いてある(赤丸【参考】部分)。つまり自転車の出会い頭事故の割合は、すべての交通事故の割合の倍をはるかに超えるわけだ。

そりゃそうだ。自転車以外の車両はほぼ100%逆走しないんだから。自転車だけが「なんとなく逆走」し、その逆走が「なんとなく許され」ていて、その結果54%もの事故を引き起こしているのである。

■「向こう岸に渡るのがめんどくさい」

そう、問題はその「なんとなく」の部分なのだ。われわれはなんとなくやってしまう。大通りの向こう岸に渡るのは面倒くさいし、歩道上なら大丈夫だろう(実際に歩道には左右の規制法がない)と思ってしまう。冒頭の主婦も、当たり前のように右側通行で突っ込んできていた。それがどんなに危険なことか、恐らくこの主婦は知らないだろう。

目の前の利便性に、「まさか」の危険認識は負けてしまう。でも、考えてみていただきたい。スクーターが、クルマが、逆走するだろうか。

私はこうとしか言えない。どうしても右側通行したいなら、降りて押して歩道を行きなさい。それならあなたは歩行者だ。降りて押すのがイヤなほど目的地が遠いならば、向こう岸に渡って左側通行しなさい、と。

【画像5】自転車に乗った女性が大きな車道を逆走していた
筆者撮影
【画像5】自転車に乗った女性が大きな車道を逆走していた - 筆者撮影

毎年300~400人前後が亡くなる自転車乗車中の死亡事故。他の車両と異なり、今や自転車死亡事故だけが増えている。右側通行をやめさえすれば、少なくとも出会い頭事故の半数以上を減らすことができる。これは決して過言ではないのである。

諸先進各国に較べて日本の自転車の事故率がかくも高い最大の原因は、実は「日本の自転車だけが左右デタラメ」という、ここにある。

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疋田 智(ひきた・さとし)
自転車評論家
1966年生まれ。東京大学工学系大学院(都市工学)修了、博士(Ph.D.環境情報学)。学習院大学、東京都市大学、東京サイクルデザイン専門学校等非常勤講師。毎日12kmの通勤に自転車を使う「自転車ツーキニスト」として、環境、健康に良く、経済的な自転車を社会に真に活かす施策を論じる。NPO法人自転車活用推進研究会理事。著書に『ものぐさ自転車の悦楽』(マガジンハウス)、『自転車の安全鉄則』(朝日新聞出版)など多数。

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(自転車評論家 疋田 智)

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