投資家ジム・ロジャーズ「まもなくリーマンショック超の経済ショックが起きる」見逃してはいけない小さな兆候【2024上半期BEST5】
プレジデントオンライン / 2024年9月23日 17時15分
※本稿は、ジム・ロジャーズ/渡邉美樹(著)、花輪陽子/アレックス・南・レッドヘッド(監修・翻訳)『「大暴落」 金融バブル大崩壊と日本破綻のシナリオ』(プレジデント社)の一部を抜粋・再編集したものです。
■いよいよリーマンショックを超える世界大不況が到来か
【ジム・ロジャーズ(以下、ロジャーズ)】2022年の年末、世界中の多くのエコノミストが「2023年中に非常に高い確率で不況が到来する」と言っていました。しかし、その予測は当たりませんでした。実は大勢の人が「くる」と言うときほど、不況はこないものなのです。
では、いつくるのか。私は、2024年以降にくると考えています。そして、その兆候はすでに現れています。
たとえば、インフレが高止まりしていることや、金利が高くなっていることは、遠からずやってくる不況の兆候だと言えます。また、世界中の株式相場に新たな参加者たちが集まっていること。これも不況の前触れです。ここ数年の間に新しく株式投資をはじめた人たちは「お金を儲けるのはこんなにも簡単だ」と思っているかもしれませんが、そうしたときに不況は到来しやすいのです。
【渡邉美樹・ワタミ会長(以下、渡邉)】最近の世界情勢を見ていると、世界の国々の金利が高止まりしはじめたと感じます。各国がしっかりとお金の回収をはじめているという印象があります。各国の状況を経営的な視点で見ると、「本当に世界不況というのはくるのだろうか?」と疑問を感じます。なぜなら、世界経済は十分にコントロールされつつあると思うからです。
ただ、日本の状況はまったく異なります。日銀はマイナス金利を解除し、17年振りの利上げを決定したものの、短期の政策金利は0~0.1%です。これは、本格的に金利を上げると、日銀が債務超過に陥り、国家予算を組めなくなるからです。
一方で不動産バブルがはじけた中国による台湾侵攻が世界不況の引き金になることも考えられます。しかし、それよりも日本の経済破綻が世界に影響を及ぼす可能性のほうが高いと考えています。
私は「日本の問題が世界にどの程度の影響を与える」のか「それが世界不況を招く」のかどうかを、いつも考えています。
■世界各国がお金を刷り続けている
【ロジャーズ】もちろん日本が経済危機に陥れば、その影響は世界中に波及します。アメリカあるいは中国で大きな不況がはじまったとしても、同じく世界中に波及します。今後どこか大きな国が経済危機に陥ったら、全世界が何らかの不況に陥るでしょう。
アメリカをはじめ、世界各国の中央銀行(以後、中銀)は利上げを実施していますが、その裏でお金の増刷は止まっていません。それは、日本でも同じですし、世界中の政府がまだまだお金を印刷し続けているのです。利上げをしても、その裏でお金を刷り続けていれば、借金はさらに増え続けていきます。この傾向は2008年から続いています。世界中の政府はリーマンショック後に大量にお金を刷るアクションをとりました。そのため、世界経済はリーマンショックから2020年のコロナショックまで大きな不況もなく、成長し続けることができたのです。
しかし、お金を印刷し続けたことによって、これまで経験したことのない水準まで借金が膨れ上がっているのは事実です。2008年以降は中国ですら借金を増やし続けており、今後はとてつもなく大きな経済危機がわれわれを待ち構えていると感じています。
次に問題が起きるときは、私の人生で最大の危機になると想定しています。
若い人にとっては非常に怖い時代です。私が生きている間に、国の借金を背負う義務は生じないかもしれませんが、世界中のすべての若者が借金の肩代わりをすることになるでしょう。特に人口が減り続けている日本の若者にとっては、深刻な問題です。日本では天文学的に借金が増えているうえに、それを背負う若者が減っているのですから、大変なことになります。
【渡邉】確かにリーマンショックからコロナショックにかけて、世界各国の政府はお金を刷り続けてきました。しかし、アメリカではバラまいたお金の回収をはじめています。これから2~3年は金利高が続くでしょうが、インフレとの戦いはソフトランディングするのではないかと私は思います。
一方で日本は、別格の借金と財政ファイナンス(※)をし続けています。だからこそ、日本が大きな危機のきっかけになるのではないかと懸念しています。ただ、それが世界レベルの大きな危機に発展するかどうかは疑問です。
※財政ファイナンス:財政赤字を賄うために、政府の発行した国債等を日銀が直接引き受けること
【ロジャーズ】2008年のリーマンショックでは、当時借金が少なかった中国によって世界が救われました。今はその中国でさえも大きな負債を抱えています。そのため、今後の経済ショックの際に中国が世界を救うシナリオは考えにくいでしょう。世界中の国がお金を刷り続けて借金を重ねてきたために、預金を豊富に持っている国はありません。救世主となる国が現れることは考えにくいのです。先進国の中では比較的借金が少ないドイツですら、すでにいくつかの州が財政難に陥っています。次の経済危機が起こった際に、世界を救える国を私は思い浮かべられないのです。
借金をし続ける国の未来がどうなるかを、多くの人が理解する日がやってくれば、借金の膨れ上がった国の国債は、誰も買わなくなります。そして、中銀が市場のコントロールを失えば、その国は破綻するか、衰退の一途をたどるのです。
■2024年、日本は厳しい状況に陥る
【渡邉】世界各国でさまざまな問題がありますが、ジムさんは、2024年はどんな年になると考えていますか。
【ロジャーズ】2024年については、世界一の経済大国であるアメリカに関して、まず考えなければいけません。アメリカは2009年からずっと成長を続けていて、歴史的にはもっとも長い成長期間となりました。そう考えると、2024年には大きなショックがくると予測しています。アメリカで大きなショックが起きれば、それは必ず、日本やほかの世界の国々にも大きなインパクトを与えます。
その意味でも、みなさんはもっと心配するべきです。特に日本は日銀がETF(上場投資信託)を大量に購入(※)し続けてきました。どこかでショックが起きれば、日本の株式市場も大きなダメージを受けるでしょう。日本にとって2024年は、ひとときの楽しい時間が終わる年になるでしょう。
※2024年3月19日、日銀の植田和男総裁は11年にわたり実施してきた、大規模な金融緩和政策解除を発表。大量に購入し続けてきたETF(上場投資信託)のほか、Jリート(上場不動産投資信託)の買い入れも終了すると決めた
【渡邉】日本は17年間も金利を上げることができませんでした。日銀は2023年にこれまででもっとも多くの国債を買いました。利上げに踏み切りましたが2024年は、さらにたくさんの国債を買い続けることになるでしょう。私は、2024年は日本が破綻する最終局面に到達する年になるのではないかと思っています。
【ロジャーズ】どの国も今は借金を増やし続けています。日本は日銀が国債を買っているという独特な問題もありますが、中銀がお金を刷り続けて借金をし続ける、これはどこの国にも当てはまります。
アメリカは世界でもっとも借金を多くしてきた国です。それも2024年に大きな危機が起こるとした理由の一つです。
■世界のインフレは2024年以降、さらに加速
【ロジャーズ】私は、2024年以降の世界経済について、とてつもなく大きな経済的問題が出てくるだろうと予測しているわけですが、その根拠の一つは世界中に不満を抱えている人が数多くいることです。さまざまなニュースを見ている限り、それは明らかです。
不満を持つ人は今後も増えていくでしょう。この問題をいかに早く解決するかが、中銀や政治家にとっての難題です。手っ取り早く解決する唯一の方法は、借金をし続けて、国民にお金をバラまくことです。それによって問題は一時的に解決するかもしれませんが、どこかで効果がなくなります。その後はとても大きな痛みを伴うでしょう。そして、世界各国は経済面で大きな衰退を見せるはずです。2025~27年には、世界各国にとても不幸な国民があふれると予測しています。
【渡邉】コロナショックでお金を刷りすぎたため、世界の多くの国は現在、資金の回収に入っています。2024年以降は、その影響でインフレが続き、ジムさんが言うように大きな痛みと経済衰退が訪れると思います。
先ほども言いましたが、その中で私がいちばん心配しているのは日本の状況なのです。日本でもインフレが進んでいますから、長く低金利を維持することはできないでしょう。しかし、今以上に金利を上げれば、日銀が債務超過に陥ります。つまり、日本は国家予算を組めなくなってしまうのです。
私は、2024年は世界全体が苦しみ、25年には日本がきっかけとなって、大きな世界経済ショックが起きるのではないかと心配しています。日銀の債務超過や日本の国債の格付けの低下などが、大きな引き金になるのではないかと思っているのです。
【ロジャーズ】私も、2024年以降に大きな経済危機が起こると考えていますが、タイミングが唯一の相違点です。まずは小さい国や、小さい企業の破綻がきっかけになるのではないかと思っています。どこかで小さな問題が起きたとき、世界中の人は「大したことはない」と言います。しかし、それから数週間後、数カ月後に、その「大したことない」ことが引き金となって、大きな世界経済危機をもたらします。しかし、その小さな問題がどこからはじまるかは、私にもわかりません。
渡邉会長が言うように、仮に日本がショックの発端になると、非常に大きな世界的危機につながるでしょう。しかし私は、日本が発端になる可能性は低いと考えています。
問題の発端は日本ではなく、ヨーロッパやアメリカになる可能性が高いでしょう。ただし、万が一、日本が引き金となった場合、それはとてつもなく大きなグローバル危機につながることは明らかです。
■世界経済危機への導火線はすでに着火している
【渡邉】ジムさんが危機のきっかけとなると考える出来事はどんなことでしょうか。どこかの国でデモが起きる、などでしょうか。
【ロジャーズ】危機の発生を順序立てて整理すると、まず何かが破綻し問題を起こします。それは小さな企業であったりします。
リーマンショックの場合、最初にアメリカの投資銀行、ベアー・スターンズが破綻しました。その数カ月後にリーマン・ブラザーズが破綻して、世界中に危機が波及していきました。コロナショックではウイルスへの感染拡大を防ぐために、世界中が国を閉鎖したことが引き金となりました。
次に起こる危機は1929年の世界大恐慌、あるいはその後のすべての危機よりもはるかに大きく悪いものになるのではないかと、私は懸念しています。
繰り返しますが、過去の危機のきっかけは小さい銀行や企業の破綻でした。最初は小さい銀行や企業がつぶれていき、そこからどんどん大きくなっていきます。着火点は本当に小さいところであることが多いのです。
今、火花は世界のいたるところに出ています。不動産業界を見ても、オーストリアを本拠とする不動産大手、シグナ・ホールディングスが2023年11月に破綻しました。中国でも不動産最大手の恒大集団が実質破綻しました。こうした大手企業の破綻が飛び火する可能性はあると思いますし、その答え合わせができるのは数年後になるでしょう。
繰り返しますが、1930年代にオーストリアで1つの企業が破綻して、そこから大恐慌がはじまりました。もしかしたら、次の危機もオーストリアが発端になるかもしれません。それが大恐慌につながるかどうかはわかりませんが、ステップの一つになる可能性はあると思います。
ジム・ロジャーズ氏のインタビューは 「プレジデント オンライン アカデミー」の動画でもご覧いただけます。
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投資家
ロジャーズホールディングス会長。1942年、米国生まれ。イェール大学で歴史学、オックスフォード大学で哲学を修めた後、ウォール街で働く。73年にクォンタム・ファンドを設立し、ヘッジファンドという手法にて莫大な資金を運用して財を成した。ウォーレン・バフェット、ジョージ・ソロスと並び世界三大投資家と称される。『大転換の時代』(プレジデント社)、『世界大異変』(東洋経済新報社)など著書多数。
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ワタミ会長兼社長CEO
明治大学商学部卒。2024年に創業40周年を迎えるワタミグループの創業者として、外食、宅食、有機農業、再生可能エネルギー事業などを展開し独自の6次産業モデルを構築。2011年、東京都知事選出馬。2013年~2019年、参議院議員を一期6年務めた。郁文館夢学園理事長兼校長として教育者の顔も持ち、政府教育再生会議委員なども歴任。公益法人「School Aid Japan」代表としてアジア3地域で350校を超える学校建設や孤児院を運営する。『大暴落』(プレジデント社)、『夢に日付を!』(あさ出版)ほか著書多数。
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(投資家 ジム・ロジャーズ、ワタミ会長兼社長CEO 渡邉 美樹)
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