だから大谷翔平は何度も前人未到をやってのける…世界初"50-50"達成の背景に挑戦を支えた"恩師の言葉"
プレジデントオンライン / 2024年9月20日 13時15分
※本稿は、桑原晃弥『限界を打ち破る 大谷翔平の名言』(ぱる出版)の一部を再編集したものです。
先入観は可能を不可能にする 『大谷翔平 野球翔年I』
大谷翔平の恩師の1人、栗山英樹が大切にしている考え方の1つに「予備知識は重いほどいい。先入観は軽いほどいい」があります。栗山が現役選手時代の監督・野村克也の言葉です。
栗山によると、野球というデータがものを言うスポーツにおいては、予備知識というのは作戦を練るうえでとても大切なものですが、それが「先入観」になってしまうと、「この選手はこうだ」「この選手はチャンスに弱い」といった決めつけにつながり、本来、見えるはずのものが見えなくなるという怖さがあるというのです。
たしかに大谷翔平が日本ハムに入団するにあたり、ほとんどのプロ野球関係者が「二刀流なんてできっこない」と批判したのは「球界の常識」に反するという、言わば「先入観」のなせる業でしたが、栗山は先入観なしに大谷という選手の才能や素質を見ることで、「もしかしたらできるんじゃないか」と思えたからこそ大谷の挑戦を本気で後押しすることができたのです。
先入観を持たずにものを見て、挑戦することの大切さを、大谷は高校時代に経験していました。大谷は花巻東高校時代に当時としては考えられなかった「160キロ」を目標にしていますが、この時も「できないと思ったら終わりだ」と自分に言い聞かせながら練習に励むことで高校3年生の時に見事に達成しています。こう振り返っています。
「自分で無理じゃないかと思ってたら(160キロ達成は)できなかったと思います。だから、最初からできないと決めつけるのはやめようと思いました」
この時の経験がその後の大谷に大きな自信を与えるわけですが、当時、高校生の大谷を支えていたのが監督の佐々木洋に言われた「先入観は可能を不可能にする」という言葉だったのです。
以来、大谷は日本で、そして大リーグで不可能と思えるようなことを次々に実現していますが、それを可能にしたのは、「できない」という先入観を捨て、「やってみよう」「できるはずだ」と果敢に挑戦を続けてきたからなのです。
ビジネスの世界でも、最初から「できない」と思い込んでしまうと、本来は「できる」はずのことまで「できなくなってしまう」というのはよく言われることです。難しい課題にぶつかったなら、つい「無理だ」と言い訳をしたくなるものですが、まずは先入観や思い込みを捨てることが「無理」を「できた」に変えてくれるのです。
ワンポイント:先入観を捨て、白紙でものを見ること、「やってみる」ことを習慣にしよう。
もちろんお金はあったに越したことはないですし、いらないなんて気持ちはないですけど、ただ今の自分に、その金額が見合うかと言えば、僕はあまりピンとこない 『道ひらく、海わたる』
大谷翔平が2024年1月、ドジャースとの間で結んだ10年7億ドルの契約は、北米のプロのアスリートとしては史上最高額であり、日本円に換算すれば1000億円を超えるということで大きな話題になりました。
1995年、野茂英雄がドジャースとマイナー契約を交わした時の契約金は200万ドル、年俸はわずか10万ドルという驚くべき安さだったことを考えると、大リーグにおける日本人選手への評価がこの30年で劇的に変わったことがよく分かります。実際、同じく2023年12月に山本由伸は12年3億2500万ドルという投手としては史上最高額の契約を締結しています。
いずれも日本のプロ野球界では考えられない金額だけに、若い日本人選手が「いずれ大リーグで」と考えるのは当然のことと言えます。とはいえ、大谷が最初に大リーグのロサンゼルス・エンゼルスと交わしたのは契約金230万ドル、年俸約54万ドル(メジャーリーグの最低年俸)という破格の安さでした。
当時、メジャーでは労使協定により25歳未満の海外選手(大谷は23歳)は契約金の上限が決められていたため、これほどの安価な契約になったわけですが、あと2年待てば確実に数億ドルの大型契約が結べるにもかかわらず、あえて最低年俸でのメジャーリーグ移籍を選んだことは大きな話題になりました。
「なぜ大金を棒に振ってまで」という声に対し、大谷は「お金よりも今やりたいことを優先したい。たまたま優先したいものがあったということなんです」と、大金を手にすることよりも、メジャーでプレーするという「やりたいこと」を選んだ、これは何ものにも代え難いんですと話していました。お金に無頓着だったわけではありません。こんなことも言っています。
「もしも2年待てば一生安泰ぐらいの金額を貰える可能性はあるかもしれません。親のこととかを考えれば。もちろんお金はあったに越したことはないですし、いらないなんて気持ちはないですけど、ただ今の自分に、その金額が見合うかと言えば、僕はあまりピンとこないので、それよりも今やりたいことを優先したい」
優先すべきは「お金」よりも「大リーグで戦うこと」でした。大谷の姿勢はメジャーの選手からも「彼はお金のためにアメリカに来るのではないと示したんだ。野球をやるためだけに来るのさ」と好意的に受け止められ、アメリカのファンからも歓迎されました。
ワンポイント:「お金のため」がすべてではない。もっと大切なことがあると知ろう。
160キロを目指していたら、158キロぐらいで終わっちゃう可能性があるので、
目標数値は高めにしました 『道ひらく、海わたる』
目標の掲げ方は人さまざまです。自分には絶対に無理だろうと思えるほどの高い目標を掲げて、そこに向かって頑張ろうとする人もいれば、今の自分でもほんのちょっと頑張れば達成できそうな目標を掲げる人もいます。
後者は何よりも「達成する」ことを重視するのに対し、前者は「たとえ達成できなくても、限界を超えることができる」ことを期待するやり方と言うことができます。
大谷翔平は花巻東高校恒例の「目標設定シート」に「スピード160キロ」と書き込んでいます。今でこそ160キロを投げる投手はいますし、高校生でも150キロを超えるボールを投げる投手が増えていますが、大谷が高校1年生だった15年くらい前には160キロというのは「夢の数字」であり、「実現不可能」と思えるほど高い目標でした。
しかし、監督の佐々木洋は高校入学時から130キロ台中盤のボールを投げる大谷を見て、鍛え方によっては夢の160キロが出せるのではないかと考えます。
その期待に応えるかのように大谷は「目標設定シート」に「160キロ」と書き込むわけですが、驚くべきは別の用紙には「163キロ」という数字を書き込んでいたことです。なぜ2つの数字を書いたのでしょうか? 大谷はその理由をこう話しています。
「160キロを目指していたら、158キロぐらいで終わっちゃう可能性があるので、目標数値は高めにしました」
160キロを出すためには、さらに高い163キロを目標にして、練習を積んでこそ可能になる、というのが15歳の大谷の思考法でした。
これには佐々木も驚きます。「1位を目指して2、3位になることはあっても、3位を目指して1、2位になることはない」はバレーボール女子全日本チーム監督としてロンドンオリンピックで28年振りのメダルをもたらした眞鍋政義の言葉ですが、佐々木自身も、これまでの経験から「10」を目指していたとしたら、「8」になることがあるように、目指したものよりちょっと下の地点になってしまうことがあることを知っていました。
後日、大谷を呼んで「160キロは出る。そのために目標を163キロと書きなさい」と伝えますが、実はその時には既に大谷は別のシートにその数字を書き、ウェイトルームに貼っていたのです。どこまでのレベルを成就できるかは、最初に置く目線で決まりますが、大谷は高校生の時から早くも「はるか高み」を目指していたのです。
ワンポイント:目標は高く掲げよ。達成できなくとも、今よりも大きく成長できる。
(出典書籍)
▼『道ひらく、海わたる 大谷翔平の素顔』(佐々木亨著、扶桑社文庫)
▼『大谷翔平 野球翔年I 日本編2013―2018』(石田雄太、文春文庫)
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経済・経営ジャーナリスト
1956年、広島県生まれ。経済・経営ジャーナリスト。慶應義塾大学卒。業界紙記者などを経てフリージャーナリストとして独立。トヨタ式の普及で有名な若松義人氏の会社の顧問として、トヨタ式の実践現場や、大野耐一氏直系のトヨタマンを幅広く取材、トヨタ式の書籍やテキストなどの制作を主導した。著書に、『スティーブ・ジョブズ名語録』(PHP研究所)、『ウォーレン・バフェットの「仕事と人生を豊かにする8つの哲学」』『トヨタ式5W1H思考』(以上、KADOKAWA)などがある。
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(経済・経営ジャーナリスト 桑原 晃弥)
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