"50-50"に目もくれない…大谷翔平「打率10割で100%」とてつもなく高い目標と1試合をやり尽くす"今ここ"主義
プレジデントオンライン / 2024年9月20日 13時15分
※本稿は、桑原晃弥『限界を打ち破る 大谷翔平の名言』(ぱる出版)の一部を再編集したものです。
バッターは3割打ってすごいと言われますけど、やっぱり一度のミスもなく打率10割の時に100%と思えるんじゃないですかね 『道ひらく、海わたる』
メジャーリーグで「マダックスを達成する」というのは、投手が100球未満で9回以上を投げ切り、相手打線を完封することを意味します。精密機械のようなコントロールを武器にこの偉業を13回も達成、通算355勝を記録した大投手グレッグ・マダックスにちなんでこう呼ばれています。
チームにとっても、投手にとってもまさに理想的なピッチングと言えますが、大谷翔平がピッチャーとして理想としているのは「27球のピッチングと81球のピッチングのバランスを併せ持っている」というものです。
27球のピッチングというのは、1試合をすべて初球で打ち取って27球で終わらせる、究極の「打たせて取る」ピッチングです。もう1つの81球のピッチングというのは、全員を3球三振で打ち取るというものです。
どちらも理想的に見えますが、大谷はどちらかではなく、どっちもできるのが理想と考えています。27球で終わらせようとすると、全部の球をバットに当てさせなければならないため、場合によってはその一打が風に乗ってホームランになるかもしれません。
そうならないためには序盤のリスクの少ない場面では球数を多く費やさないように27球のピッチングをして、得点圏にランナーを背負う場面や終盤の1点を争うような場面では、間違っても一発を打たれないように、3球三振に打ち取るような81球のピッチングが必要になってきます。
この両方を使い分けることができてこそ、試合を支配できるというのが大谷の考え方であり、大谷の理想とする姿なのです。
そしてもう1つのバッティングに関しては、こんな目標を口にしています。
「自分のバッティングがどれぐらいのパーセンテージまで来ているのかがわからないし、何を持って100%と思えるのかもわからない。ただ、バッターは3割打ってすごいと言われますけど、やっぱり一度のミスもなく打率10割の時に100%と思えるんじゃないですかね」
とてつもない目標ですし、投手という相手がいる以上、すべての試合で「打率10割」を達成できるとは思えませんが、そんなあり得ない目標を追い求めるからこそ大谷は常に変わることができるし、絶えず進化していくことができるとも言えます。人がどこまでいけるかは「目線の高さ」で決まるものなのです。
ワンポイント:目標は限りなく高く掲げろ。目標の高さで何ができるかが決まってくる。
完璧な1試合の延長線上に完璧な1年がある 『Number』1094・1095
大谷翔平の目標は「世界一の野球選手になる」ことです。
大リーグに移籍して以降、2度のMVPや本塁打王が示しているように、挙げている数字は素晴らしいものですが、大谷自身は「打率3割、40本塁打」といった目標を追うよりも、野球の技術をどこまで高めることができるか、野球人としてどれだけ成長しているかを大切にしています。
はるか高みを目指しているのはたしかですが、それよりも「1日1日の継続」を何より大切にしています。日本ハムに入団した当時、大谷の頭の中には「1年目はこう、2年目はこういうことができるように、3年目はこうだ」といった漠然としたプランはあったといいますが、それほど鮮明なものではなかったといいます。
むしろ目の前の1日1日を悔いのないように送り、1年が終わった時に次を考える、という
5年間でした。こうした考え方は大リーグに移籍してからも変わっていません。
根底にあるのは積み重ねを大切にする考え方です。2023年のシーズン中、「健康でシーズンを終われれば。健康に1日、1試合をこなしていくのが目標」と話しています。
同時にこうも言っています。
「完璧な1試合の延長線上に完璧な1年がある」
大谷によると、大リーグで長く活躍する選手というのは、打者にしろ、投手にしろ、ポストシーズンとか、ここは絶対に勝たなければならない試合を見極める能力が備わっており、そういう試合に全力で臨み、なおかつ自分の全力を出すのが上手い。それに対し、大谷自身は、1試合の爆発力はあるものの、5年、10年というスパンで見た時のメリハリは足りていない、といいます。
つまり、1年間いいクオリティを保つためには、目の前の試合で出し尽くしながらも、一方で1年のスパンを考えていかに力を抜くかも求められるわけですが、「ペース配分をしていく器用さがない」と自らを分析しています。
たしかにシーズンを戦い抜き、ポストシーズン、ワールドシリーズと戦い続けるためにはペース配分も必要なのでしょうが、理想は大谷が言うように「完璧な1試合の延長線上に完璧な1年がある」です。
目の前の1試合と日々の積み重ねを大切にしながら、充実した日々を送ることが結果高みに登ることになる。それが大谷の考え方です。
ワンポイント:1日1日の積み重ねを何より大切にする。全力の1日を経て大きな目標が達成できる。
僕は今まで、結果を出すためにやり尽くしたと言える1日1日を、誰よりも大事に過ごしてきた自信を持ってます 『大谷翔平 野球翔年I』
「怠惰であることには隠された無意識の駆け引きがあることが分かる」は心理学者アルフレッド・アドラーの言葉です。アドラーによると、怠惰な子どもたちは、綱渡りをする人に似ているといいます。
ロープの下には網が張ってあり、たとえ落ちたとしても衝撃は柔らかなものになります。
努力をしたのに成果が上がらない時、普通は努力不足や能力不足に向き合うことになりますが、怠惰な人は「もっと一生懸命にやれば成果は上がったはずだ」という逃げ道をつくることができます。
「全力で頑張ったけれどダメだった」は自分の限界や能力のなさを思い知らされることになるのに対し、「中途半端な努力で結果が出なかった」人は、「本気でやればもっとできる」と言い訳ができるし、能力のなさと向き合う必要もありません。
全力を尽くさないこと、それは最初から失敗の言い訳を用意することであり、自分の弱さを隠すことでもあるのです。気分的には「楽」かもしれませんが、こうした人が圧倒的な成果を手にすることは決してありません。
「努力は必ず報われる。もし報われない努力があるのなら、それはまだ努力とは呼べない」は王貞治の言葉です。成功には努力が欠かせないことは誰しも知っていますが、多くの人はそこそこの努力で「もう十分にやった」と納得してしまいます。しかし、それではダメで、「成果が出るまで」やり尽くして初めて本当の努力と呼べるのです。
大谷翔平の二刀流への挑戦を提案し、支え続けたのは日本ハムファイターズの監督・栗山英樹ですが、栗山が「大谷ならできる」と思えた理由の一つは大谷が子ども時代から実践してきた「自分がこうだと決めたら最後までやり続ける強さと忍耐力」だといいます。
大谷は高校時代も、プロに入ってからも「こうするんだ」と本気になったら、できるまで必ず「やり切る」といいますが、だからこそ栗山は大谷に二刀流ができると信じたし、大谷自身も二刀流を形にすることができたのです。大谷はこう言い切っています。
「僕は今まで、結果を出すためにやり尽くしたと言える1日1日を、誰よりも大事に過ごしてきた自信を持ってます」
「やる」ことはできても、最後まで「やり切る」ことが出来る人は案外少ないし、ましてや大谷のように何年にも渡って「やり続ける」ことのできる人はほとんどいません。大谷の「やり切る」力こそがメジャーリーグでの成功を可能にしたのです。
ワンポイント:本当に成功したいなら「言い訳」ができないほどの努力を続ける。
(出典書籍)
●『道ひらく、海わたる 大谷翔平の素顔』(佐々木亨著、扶桑社文庫)
●『Number』 1094・1095 (文藝春秋)
●『大谷翔平 野球翔年I 日本編2013―2018』(石田雄太著、文春文庫)
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経済・経営ジャーナリスト
1956年、広島県生まれ。経済・経営ジャーナリスト。慶應義塾大学卒。業界紙記者などを経てフリージャーナリストとして独立。トヨタ式の普及で有名な若松義人氏の会社の顧問として、トヨタ式の実践現場や、大野耐一氏直系のトヨタマンを幅広く取材、トヨタ式の書籍やテキストなどの制作を主導した。著書に、『スティーブ・ジョブズ名語録』(PHP研究所)、『ウォーレン・バフェットの「仕事と人生を豊かにする8つの哲学」』『トヨタ式5W1H思考』(以上、KADOKAWA)などがある。
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(経済・経営ジャーナリスト 桑原 晃弥)
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