「振られた仕事には意味がある」と気づいた…ソニー元社長・平井一夫氏が明かす「入社1年目のしくじり経験」
プレジデントオンライン / 2024年10月10日 9時15分
※本稿は、平井一夫『仕事を人生の目的にするな』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。
■「振られた仕事」こそ前向きに取り組んだほうがいい
あなたが採用されたことには理由があるのと同様、社内で振られる仕事にも、必ず意図や理由があるものです。自分としては「この仕事は何のため?」「どうして自分に振られたのか」と疑問に思うこともあるかもしれません。
しかし、まだあなたには仕事のことが何もわかっていません。まず仕事を選別できる立場にないし、仕事の意味や要不要をジャッジできるような知識も経験もない。
ですから、基本的には「何かしらの意図や理由があって、その仕事は自分に振られたんだ」と思ってください。
あなたがどう受け止めようと、どのみち、やらなくてはいけないのが仕事です。ふてくされていたら、「じゃあ、それはやらなくていいから、もっといい仕事をあげよう」となるのか。なるのなら、いくらでもふてくされたらいいと思いますが、そうはなりません。
どのみちやらなくてはいけないのなら、ポジティブに変換して取り組むに越したことはないでしょう。
実際、「なんでこんなことをやらなくちゃいけないんだ」と不満たらたらで取り組むのと、「何かしら意味があるんだろう」と思って取り組むのとでは、その仕事から学び取れるものに雲泥の差が出るものです。
この意識でいることは、新人から中堅になり、ベテランの域に達しても、ずっと大切です。
つまらない仕事を振られて「なんで自分が?」と思ってしまったときも、逆に大役すぎて「どうして自分に?」と思ってしまったときも、「何かしら理由、意図があって自分に振られたんだ」と思えば、前向きに取り組むことができるでしょう。
■私が“大役”を引き受けた理由
実は、私自身もそうだったのです。
1996年、ソニー・コンピュータエンタテインメント・アメリカ(SCEA)の副社長(のちに社長)になってくれと言われたときには、「え? 僕ですか」と思いました。
かねてより、私はCBS・ソニーグループの大先輩である丸山茂雄さんの頼みで、「プレイステーション」の北米での展開を手伝っていました。
丸山さんは、ソニー・ミュージックエンタテインメント社長などを歴任し、世界的に有名なゲーム機・プレイステーションの誕生に大きく貢献した人です。
やがて丸山さんはSCEAの会長を兼任するようになり、日本とアメリカを絶えず行き来して経営に当たっていたのですが、さすがに激務すぎたのでしょう。半年も過ぎると「君が社長をやってくれ」と言われました。
当時、まだ35歳と若かったこともあり、私は、自分が社長の器とは到底思えませんでした。きっと現地の社員たちに反発される。でも、あの丸山さんが言うのだから何か理由があるはずだとも思いました。その期待に応えたいと思って引き受けることにしました。
■自分を前進させる意識を変えてはいけない
このときのみならず、2006年にソニー・コンピュータエンタテインメント(現在のソニー・インタラクティブエンタテインメント)の社長を任されたときも、さらには2012年にソニー(現在のソニーグループ)の社長を任されたときも同じでした。
自信なんてなかったけれども、その人事は、何もくじ引きで決まったものではない。誰か一人の独断と偏見で決められたことでもない。錚々(そうそう)たる幹部メンバーの話し合いによる総意で決定されたことには違いありません。
だったら腹をくくるしかない。「尊敬し、信頼している人たちが任せたいと言ってくれているのだから、そういうことなんだろう。がんばって期待に応えよう」という思いだけで、これらの大役を引き受けることにしたのです。
ソニーのような大企業の社長就任時の話をされても、社会人として働き始めたばかりの今のあなたとはかけ離れすぎていてよくわからないと感じてしまったかもしれません。
ただ、ここで私が伝えたかったのは、どのような立場になっても、どのような仕事を任されても、自分を前進させる意識は基本的には変わらないということです。
「そこには必ず理由がある」――
一見、つまらない仕事を振られたときも、あるいはあなたには荷が重すぎると思う仕事を任されたときも、さらには社長のような大役を打診されたときですらも、そう信じることで熱心に取り組むことができるでしょう。
■「無意味な仕事」だと感じた時は…
失敗したっていいのです。若いうちは、もしかしたら、そこで失敗させることにこそ上司の意図がある可能性も高い。
実際、本当に目端の利く上司は、往々にして、絶妙なタイミングで絶妙な失敗を部下に体験させるものです。ただし1つ厄介なのは、仕事を振る側の資質もピンキリであることです。
現実問題として、何の考えもなしに仕事を振る上司も少なくはないでしょう。いわゆる「ブルシット・ジョブ」を平気でさせる上司に当たってしまう可能性もあります。
そんな場合が疑われるときも、「何か理由がある」と信じて熱心に取り組むべきか。
結論から言えば、「熱心に取り組む」という部分については「イエス」です。つまり「理由がある」と信じられなくても、熱心に取り組んだほうがいい。
こう聞いて、「理由がある」と信じられなければ、熱心に取り組むこともできないと思ったに違いありません。しかし1つだけ間違いないのは、どんなにその仕事が無意味に思えても、上司に楯突くのは得策ではないということです。
■周囲の人たちは「仕事に対する姿勢」を見ている
そもそも仕事は「手段」、会社は「取引相手」です。
現実問題として無意味な仕事を振られる可能性もゼロではない以上は、「給料がもらえるんだからいいや」と割り切る心構えをしておくことも、仕事人生を前向きに進めていく上では役立つでしょう。
特に入社1〜2年の間は、与えられた仕事にはすべて一生懸命取り組み、最初から最後まで責任を持ってやり切る。そういう姿を見せることが大切です。なぜかというと、そんな姿を上司のみならず、周りの人たちが見ているからです。
前にも述べたことですが、誰も入社したての新人に成果など期待していません。
では何を見ているのかというと、「仕事に対する姿勢」です。一生懸命に取り組めるというのは、仕事において最も重要な資質です。
どんな仕事も文句を言わず、嫌な顔もせず、とにかく一生懸命やる人かどうか。そこを見極められているのです。
そういう意味では、つまらない仕事に熱心に取り組むのも、自分の社内マーケティングの内と考えるといいでしょう。「あいつは、いつも一生懸命だ」と評価されている人には、必ず、やりがいのある大きな仕事が回ってくる。そういうものです。
■入社1年目の「しくじり経験」
誰も新人に成果など期待していないといっても、「いかに仕事をするか」で評価が分かれることは間違いありません。
実のところ、仕事を覚える前の段階でも「できる人材になりそうか、どうか」は、仕事の取り組み方から、ある程度は窺い知れるものなのです。
社内の誰かへの連絡の仕方1つを取っても、それをどのようにするかで評価は分かれます。この点については先に私の失敗談を知ってもらったほうが、話が早いでしょう。
入社1年目のある日のことです。当時、私は海外渉外を担当する「外国部」という部署に所属していました。主な業務は、海外アーティストの日本でのプロモーションを手伝うことでした。
具体的には、取材のセッティングや、ラジオや音楽番組の出演のアレンジメントなどですが、それらを実現するには、アーティストが所属しているレコード会社にあらかじめ話を通しておく必要があります。
アーティストのマーケティングを担当している洋楽部のディレクターから「あの雑誌の取材を受けてほしい」「この番組に出演してほしい」という要望を受けたら、外国部から本国のレコード会社に連絡を取り、許可を得るというのが大まかな仕事の流れでした。
■「馬鹿野郎! 何度聞きに来てるんだ!」
さて、そのときは、ある海外のビッグアーティストが近々来日することになっていました。担当ディレクターから、「この雑誌の取材を受けてほしい」との要望を受けた私は、早速、本国のレコード会社に許可を取るための要望書を作成し、上司に見てもらいました。
ところが上司は、「これではダメだ」と言います。「取材の詳細がほとんど書かれていない。たとえば、この雑誌はどういう媒体なの? それがわからなかったら先方も検討できないでしょう」と。
「たしかにそうだ」と納得した私は、担当ディレクターのところに行って、「かくかくしかじかで、どういう媒体なのか教えてください」とお願いしました。
そこで新たに得た情報を書き込んで上司に見せたのですが、「媒体のことはわかったけど、まだ足りない。取材時間はどれくらい必要なの? あと、その取材を受けることには、どんなプロモーション効果があるのかも伝えないと」と、またダメ出しです。
再び「たしかにそうだ」と納得した私は、またもや担当ディレクターのところに行って、「かくかくしかじかで、これらの詳細をください」とお願いしました。新たな詳細を盛り込んで勇んで上司に見せると、またダメ出しです。
そこでまた「たしかにそうだ」と納得して担当ディレクターのところに行き、さらに上司にダメ出しされ……というのを何往復か繰り返していたら、少し離れたところから、「馬鹿野郎! 何度聞きに来てるんだ!」という怒鳴り声が飛んできました。
声の主は、洋楽部の課長でした。担当ディレクターと自分の上司の間をピンポン玉のように行ったり来たりしている私を見るに見かねて声を上げたのです。
■ただの「伝書鳩」になっていた
私は困り果てました。上司からは「あの件、どうなった?」と聞かれるし、洋楽部に行けば課長が「もう聞きに来るな」とばかりに怖い顔をしている。両者の板挟みです。
どう切り抜けたのかはよく覚えていないのですが、落ち度は私にありました。何がダメだったのかというと、自分なりに考えていなかったことです。
私は、上司から言われたことをそのまま担当ディレクターに伝え、担当ディレクターから聞いたことをそのまま上司に報告していました。要するに「伝書鳩」のようなことをしていたのです。
欠けていたのは、その仕事に対する当事者意識です。だから、「Aが足りない」と言われたら「A」だけを確認し、「Bが足りない」と言われたら「B」だけを確認する、という伝言ゲームを繰り返してしまいました。何度も聞きに来られるほうの迷惑も顧みずに……。
洋楽部の課長が思わず声を上げたのも、「こいつ、何も考えていないな」と思ったからでしょう。
もちろん新人がすべてを見通すことはできませんが、それでも、自分なりに考えて行動すべきでした。そうしていれば、A〜Zをすべて一度に把握するのは無理だったとしても、A〜Hくらいまでは自分で確認できたでしょう。
その上で、まだ足りていないところを、上司の指摘を受けて確認する、というのが正しい取り組み方だったのです。
■大切なのは「思考の痕跡」が行動に現れるかどうか
言われたことしかやらない、自分で考えている様子が一切感じられない、というのはよくありません。いかに仕事をするか。ここでも問われているのは、やはり仕事に対する姿勢です。
当事者意識があれば必ず、「こうしたらいいかな。確認しよう」「上司はああ言っていたけど、こういう場合はどうなんだろう。聞いてみよう」といった思考が働くはずです。そんな思考の痕跡が行動に現れるかどうかを、周りの人たちは見ているのです。
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元ソニー社長兼CEO、一般社団法人プロジェクト希望 代表理事
1960年東京生まれ。父の転勤でNY、カナダで海外生活を送る。84年ICU卒業後、CBS・ソニー入社。ソニーミュージックNYオフィス、SCE米国法人社長などを経て、06年ソニーグループ・エグゼクティブ。07年SCEI社長兼CEO、09年ソニーEVP、11年副社長、12年社長兼CEO、18年会長。19年より24年までソニーグループシニアアドバイザーを務める。著書に『ソニー再生』(日本経済新聞出版)がある。
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(元ソニー社長兼CEO、一般社団法人プロジェクト希望 代表理事 平井 一夫)
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