会社が絶対に手放さないベテラン社員の共通点…ソニー元社長「30代の過ごし方で人生が決まる」と断言する理由
プレジデントオンライン / 2024年10月11日 9時15分
※本稿は、平井一夫『仕事を人生の目的にするな』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。
■「30代のホウ・レン・ソウ」は自分で考えてから
まだ経験の浅い20代のうちは、おそらく、それほど大きな仕事を任されることはありません。仕事を振るほうとしても、若手社員には主に「経験から学ぶこと」を求めているものです。
たとえトラブルが起こっても大損害にはならないような仕事を振られることが多いはずですから、積極的にトライアル・アンド・エラーをするつもりで取り組むといいでしょう。
トラブルから学ぶ必要はありますが、責任を感じすぎて気に病むことはありません。よほどEQ(Emotional Quotient:心の知能指数の略で、自己や他者の感情を理解し、適切に管理・活用する能力)の低いダメ上司でもない限り、一方的に責められることもないでしょう。EQの重要性については改めて後述します。
しかし、それなりに経験を積んで30代に突入してからは違います。
30代にもなれば、責任あるポジションに就けられたり、大きなプロジェクトの重要なポストを任されたりするでしょう。そうなると、当然、トラブルとの向き合い方も20代のころのままでは通用しません。
そこで重要なのが、「まず、自分で考えてからホウ・レン・ソウできるようになること」なのです。よく言われますが、ホウ・レン・ソウ――つまり「報告」「連絡」「相談」は、会社に入ってすぐ覚えるべきことです。
■30代からは“現状報告”だけではダメ
20代をつつがなく過ごして30代に入ったら、それぞれを、もう1つレベルアップさせなくてはいけません。
30代からは「ホウ・レン・ソウは自分の頭で考えてから」が鉄則。具体的には「ホウ・レン・ソウの結果、上司に何を求めるのか」を念頭に、「何が起こっているのか」「それに対してあなたはどう考えたのか」を明確に伝えるということです。
たとえば、失敗や難局にぶち当たったときの「報告」はどうしたらいいでしょうか。20代までは「こういう失敗をしてしまいました」「こういう難局にあります」という現状報告さえできれば合格です。
しかし30代からは、まず自分の頭で考えて、あなたなりにいくつか対策案を編み出してから、上司の「判断」を仰ぐように報告する必要があるのです。10年弱の仕事経験があれば、それくらいはできるだろうという目で上司をはじめ周りの人たちも見ているはずです。
うまくいくと思っていたものが頓挫しかけたら、誰だって焦ります。
でも、そこで急き込んで上司の元に走るのではなく、一呼吸置く。そして冷静に状況を眺め、分析する。ことは急を要する場合もあるので時間をかけすぎるのは禁物ですが、まず冷静に状況を把握し、理解すること。
その上で、「この状況だったら、A、B、Cの3つの対策が考えられるが、どれが一番いいだろうか。それぞれのメリットとデメリットを勘案すると、Cが一番、筋がいいかもしれない」くらいまでは考えてから、上司に報告するのが望ましいでしょう。
■上司への「連絡」「相談」はどうすべきか
「何はなくとも、まず報告!」では、「なるほど。で、どうするの?」と言われるだけです。私も若手社員だったころ、トラブルを上司に報告して、「で、どうするの?」と返されたことがあります。
苦々しい思いで退散しましたが、いざ自分が上司になってみると、かつての上司と同じようなことを部下に言っている自分に気づきました。
20代ならばまだ、現状報告に対して上司がヒントや指示を与えてくれるでしょう。しかし30代にもなって現状報告だけでは、何の解決の糸口もつかめません。
ただ「火事だ! 火事だ!」と騒ぐばかりで、「でも、火を消す方法はわかりません」では、戦力として意味がないのです。
「連絡」「相談」も同様です。「A社の○○さんからお電話があり、××××とのことでした」という単純な連絡では、「わかった。で?」と言われてしまいます。
そこで話を前に進めるには、「A社の○○さんからお電話があり、××××とのことでした。つきましては、私は△△△△しましょうか」という自分なりの申し出を含め、上司の「指示」を仰ぐように連絡する必要があります。
また、「A社とB社の件、日程的に厳しそうなのですが、どうしましょう」という丸投げの相談では、「どうしましょうって……。で?」と言われてしまいます。
そこで話を前に進めるには、やはり「A社とB社の件、日程的に厳しそうです。A社は延期できそうな感触だったのですが、いかが思われますか」という自分なりの打開策を交えて、上司の「意見」を仰ぐように相談する必要があるわけです。
■“将来有望な30代”になるためには
もう1つ重要なことを加えると、忙しい上司に無用なストレスを与えないよう、「タイミングを見計らう」「簡潔に伝える」というのも重要です。
タイミングは、「緊急度の高さ」と「インパクトの強さ」の四象限で考えます。
緊急度が高く、かつインパクトが強いときは、ホウ・レン・ソウは早ければ早いほどいい。両方ともそれほど高くないのなら、上司の機嫌が悪くないタイミングや、上司の頭の回転が落ちていないタイミングを見計らいます。
そして「簡潔に伝える」には、「誰々がこうして、ああして、誰々がこう言って、ああ言って」という枝葉末節は削ぎ落として、要点だけを伝えられるようにすること。
最初のうちは、何が枝葉末節なのか、何が要点なのか、見極めにくいかもしれません。
1枚の紙にホウ・レン・ソウの内容とあなたの思考を書き出して、伝えるべきことを整理するのもいいでしょう。回数を重ねれば、徐々に書き出さなくても要点だけを簡潔に伝えられるようになっていきます。
このように、ホウ・レン・ソウは、ただ習慣化すればいいというものではなく、短い時間の中でもあなたの思考をいったん噛ませてから上司の元に行くのが、将来有望な30代の行動体系なのです。
■30代をどう過ごすかでキャリアに差がつく
30代は20代より経験を積んでいるとはいえ、ベテラン社員に比べれば、まだ経験が浅いのは事実です。
ですから、本当に有効な策をあなた一人で考案できるとは限りません。上司も、そのまま採用できる提案は必ずしも要求していないはずです。要するに、これも仕事に対する姿勢を見せる機会であり、また、実務能力を上げるための訓練の一環なのです。
もちろん本当に有効な策を提案できれば上出来ですが、あなたが考えた結果だけが重要なのではなく、あなたなりに考えてからホウ・レン・ソウするというプロセス自体にも意味があります。
誰もが最初は新人です。30代でいよいよ一人前に成長していくとはいえ、序盤では、まだ経験が十分でない若手社員です。
本書でお話ししていることすべてに通じることですが、私は、長年の社会人経験を振り返ってみて、今、言えることをお伝えしているだけであって、はじめからすべてできなくてはいけないわけではありません。
いくら「このようにしよう」と心がけていても、しくじることはあって当然です。そうやってしくじりながらも、大事なことを意識しながら仕事の実地経験を重ねるうちに、1つずつ、少しずつ体得していけばいいのです。
30代はますます仕事の経験を積みながら、ホウ・レン・ソウを含め、自分の頭で考えて物事を解決する訓練をする時期といっていいでしょう。この時期をどう過ごすかによっても、その後のキャリアに大きな差がつくことは間違いありません。
■私は“失敗から学ぶ”タイプだった
充実したキャリアを送るためには、仕事の中で学んで成長していくことが大事。この点について異論のある人はいないでしょう。
問題は、いかに学ぶか。世の中には「失敗から学ぶべし」「成功から学ぶべし」両方の議論があります。「得意」と「苦手」に関しても、「得意なことを伸ばせ」「苦手なことを克服せよ」両方の議論があります。
結局、どちらが正しいのか。両方とも理にかなった考え方なので、結局のところ「人による」ということなのではないでしょうか。
したがって、考えるべきなのは「失敗と成功の、どちらから学ぶのが正しいのか」「苦手を克服するのが正しいのか、得意を伸ばすのが正しいのか」ではなく、「自分はどちらのほうが成長できるタイプなのか」。
つまり自分をよく知ることを出発点としたほうが、よほど建設的ではないかと思います。私自身は「失敗から学び、苦手を克服するほうが向いているタイプ」です。
「ここはうまくいかなかった。なんでだろう?」と検証し、修正する。「自分には何が足りないのか」を考え、その部分を自分で納得できる最低ラインにまで引き上げる努力をする。そうすることで成長してきたという自覚があります。
なぜそうなったのかというと、どうも幼少期からの持ち前の性格に理由がありそうです。
■目立ちたがり屋だった幼少期の苦い経験
子どものころの私は(今もそうかもしれませんが)、お調子者でした。ちょっとでも成功したり褒められたりすると、つい調子づいてしまう。それに加えて、目立ちたがり屋のところもありました。
だから授業参観の日などは、親にいいところを見せようと張り切って、先生が「この問題、わかる人?」と言うと「はい! はい!」とすぐに挙手していました。
声が大きいほうだったこともあって「はい、平井くん」と当てられるのですが、そもそも目立ちたくて手を挙げただけなので、問題を理解していない。当然、答えられるはずもなく、当てられてから「ええと、何でしたっけ?」と聞き返す始末でした。
それを見ていた両親は赤面しきり。家に帰ると、「人の話を聞いてもいないのに目立とうとするやつがどこにいるんだ」とこっぴどく叱られるわけです。やれやれですね。
私の目立ちたがり屋の性格は、仕切りたがり屋にも通じていました。たとえば、理科の授業でグループに分かれて実験をするというときも、進んでみんなを仕切ろうとします。
ところが先の例と同様、そもそも先生の話を聞いていないので、実験の内容を理解していません。だから、「はい、平井くんのグループではどういう結果が出ましたか」と聞かれても「いや、まだできていません。……ていうか、何をするんでしたっけ」となる。
当時の自分を振り返ると、何かに没頭すると自分の世界に入ってしまい、周囲の声が耳に入らなくなってしまっていたのだと思います。
しかし、それでは人と協力して物事を遂行することなどできません。上の人からの指示を聞いたり、周りの人たちの意見を取り入れたりしなくては、何も進められない。しかし子ども時代の私には、まだそんなことはわかりません。
■“成長のタイプ”を知れば大成につながる
ただ、さんざん両親や先生に注意されたり叱られたりしていたので、幼いながらも、徐々に「人の話を聞くのは大事なことらしい」と察知します。
そこであるとき、試しに目立ちたがり屋、仕切りたがり屋の自分をぐっと抑えて、「話を真面目に聞く姿勢」で授業に臨んでみたのです。
すると先生から、「平井くん、今日は話を聞いていますね」と見事に指摘されました。やはり人は、ちゃんとほかの人の姿を見ている。それに「話を聞こう」という姿勢は、何もわざわざ自分からアピールしなくても相手に伝わるものなのだと学びました。
もうおわかりでしょうか。私は、もともと人の話を聞かない子だった。それをさんざん注意され、克服しようと思ったことで、ようやく誰かと協力して物事を遂行する最低限の能力――「人の話を聞き、コミュニケーションを取る」という能力を身につけました。
私の場合は、自信満々で得意なことを先鋭化するよりも、至らない部分を修正するほうが向いている。そうなったのは、おそらく幼少期に、短所を克服する必要性に迫られた経験があるからなのです。
念を押しておきますが、「私は失敗から学び、苦手を克服するほうが向いている」という話であって、それが絶対に正しいという話ではありません。ぜひあなたも、これを機にご自身を振り返ってみてください。
私とは逆の人もたくさんいると思います。ネガティブな部分に着目すると、感情や思考までネガティブになってしまう。そのため、成功から学び、得意を伸ばして自分を磨いていくほうが向いている人もいるでしょう。
社会人として大成していくためにも、やはり自分を知ることが先決です。
あなたはどういう成長の仕方をするタイプなのか。できるだけ客観的に見て、失敗から学び、苦手を克服するタイプか、それとも成功から学び、得意を伸ばすタイプなのかを探ってみてください。
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元ソニー社長兼CEO、一般社団法人プロジェクト希望 代表理事
1960年東京生まれ。父の転勤でNY、カナダで海外生活を送る。84年ICU卒業後、CBS・ソニー入社。ソニーミュージックNYオフィス、SCE米国法人社長などを経て、06年ソニーグループ・エグゼクティブ。07年SCEI社長兼CEO、09年ソニーEVP、11年副社長、12年社長兼CEO、18年会長。19年より24年までソニーグループシニアアドバイザーを務める。著書に『ソニー再生』(日本経済新聞出版)がある。
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(元ソニー社長兼CEO、一般社団法人プロジェクト希望 代表理事 平井 一夫)
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