スーパーからコメが消えても心配無用…最大2カ月しかもたないコメを「長期保存できる備蓄米」に変える方法
プレジデントオンライン / 2024年9月29日 8時15分
※本稿は、高荷智也『今日から始める本気の食料備蓄 家族と自分が生き延びるための防災備蓄メソッド』(徳間書店)の一部を再編集したものです。
■「米不足」への備えがあると安心
ここから、「日常備蓄」による個別具体的な備蓄のお話をしてまいります。
まずは「お米」ですが、毎日食べる主食類は「ローリングストック」に向いた食品です。全て食べきってから補充するのではなく、賞味期限内に食べきれる量の在庫を常に持つようにすれば、それだけで相当量の備蓄が完了します。長期備蓄には、ぜひ主食類を追加してください。
例えば毎月5kgの米袋を2袋、合計10kgのお米を消費するご家庭があったとします。米びつが空になる直前にお米を購入している場合、ある日突然お店からお米が消えてしまうと大変困ってしまいます。日頃から未開封の米袋をいくつか確保し、米びつが空になったタイミングで一番古いお米を開封して補充、同時に1袋を購入すれば、突然お米が買えなくなっても、一定量は確保された状態となります。
平時に食べるお米の1カ月分の在庫を持つなら10kg、3カ月分なら30kg。半年分のお米をローリングストックする場合は、常に60kg――5kgの米袋にして12袋分のお米を手元に確保することができます。突発的な食料危機に対し、とても心強い量であるといえるでしょう。
■夏場は1カ月以内に、冬場でも2カ月以内
一方、お米の備蓄にはひとつ問題があります。
お米は生鮮食品であり、「美味しく食べられる期間」が主食類の中では短いという点です。そのため、数カ月分以上のお米をローリングストックしたい場合は、お米の賞味期限を伸ばすための工夫が必要になります。
そのままで数年間の保存ができるパスタや乾麺と異なり、生鮮食品であるお米は、そのまま保管をすると、すぐに食味が落ちてしまいます。玄米も白米も同じことがいえます。
お米は、夏場は1カ月以内に、冬場でも2カ月以内に食べきることが望ましいとされていますので、1年を通じて「手元に確保」できるお米のローリングストック量は、1~2カ月分が最大ということになってしまいます。
長期備蓄にはもう少しの量が欲しいところですが、なぜお米はすぐに味が落ちてしまうのでしょうか。お米を劣化させる主要な要因は「化学反応」「微生物」「環境」の3つです。
まずは化学反応。玄米は呼吸により、白米は酸化により、食味が低下していきます。周辺に酸素がある限りこの反応が生じますが、特に温度の高い夏場は顕著になります。
次に生物の影響、お米の天敵といえば害虫ですが、代表的な虫には「ノシメマダラメイガ」と「コクゾウムシ」がいます。最初から米袋の中に潜んでおり、気温15~20度で活動を始め、20~25度以上になると活発化します。春になるといきなりお米が襲撃されるのです。さらに、湿気の多い場所で保管をすると、カビにも襲われるため、湿度管理も重要になります。
そして環境の影響、カビを防ごうと乾燥させると食味が落ちたり、においの強いものと一緒に保管するとにおいうつりが生じたりします。お米はデリケートな食品なのです。
■理想は低温保管だがハードルは高い
どうすればお米を長期間保存することができるでしょうか、最も良い方法は低温保管です。農家または国家備蓄されるお米は、温度15度以下、湿度60~65%を目安に、安定した環境で保管されます。この環境であれば、呼吸・酸化・害虫・カビ・乾燥・においうつりの全てを防止し、お米の美味しさを保つことができるのです。
家庭の場合は、お米をプラスチック容器やペットボトルに入れて、冷蔵庫保管をすると品質を保つことができます。食べる直前のお米、米びつなどを冷蔵庫に入れることで、お米の美味しさを維持できます。本格的に実施するのであれば、お米専用の冷蔵庫を導入する方法もありますが、導入費用・設置場所・電気代を考えると現実的には難しいでしょう。
手軽な方法は「虫よけ剤」の活用ですが、害虫以外の要素には無力であるため、長期保存には向きません。その他、真空パック機を使うことで、外部環境からお米を守れますが、袋の中に残っている酸素で呼吸・酸化・害虫の活動が進んでしまうため、やはり完全ではありません。
■オススメは「無酸素保存」
そこでオススメの方法が「無酸素保存」です。私自身も10年以上無酸素保存でお米を備蓄し続けておりますが、常温でも1年程度はお米の鮮度がほぼ保たれ、10年保存したお米も問題なく食べられる優れた方法です。
無酸素保存は名前の通り、食品の周りの酸素を取り除いて保存をする方法です。酸素をなくすことで、お米の呼吸や酸化を止め、害虫やカビを死滅させ、外気と遮断することで乾燥やにおいうつりもなくなります。常温によるお米のローリングストックが可能になるのです。
密封されたお菓子や生ものの中に、「食べられません」と書かれた乾燥剤のような小袋が入っていますが、これが無酸素保存。幅広く活用されている方法です。
■長期保存に向いているお米は「玄米」か「無洗米」
無酸素保存による長期備蓄に向いているお米は、「玄米」か「無洗米」です。玄米は栄養価の面で優れている他、精米することで食味を取り戻すこともできます。精米時に得られる糠(ぬか)も、食料危機下においては有効ですね。
無洗米は白米に比べて酸化しづらく、米とぎも不要なため、水が貴重になっている状況において有利となります。日頃から玄米を常食しているならば玄米保存を、白米を食べているならば無洗米の保存がいいでしょう。
■脱炭素に「使い捨てカイロ」が使える
では本題です。無酸素保存には「脱酸素剤」と「ガスバリア袋」が必要になります。袋の中の酸素を取り除いた後、外からの酸素の浸入を防ぐ組み合わせです。
脱酸素剤でよく見かけるものは、三菱ガス化学(株)の「エージレス®」です。鉄粉の酸化反応が空間中の酸素を吸着し、周囲を無酸素にしてくれます。また、これと同じ原理のものが「使い捨てカイロ」です。カイロもまた鉄粉の酸化反応で熱を作り出しますが、密封空間に入れると周囲の酸素を全て吸収するため、脱酸素に使うことができます。
■酸素を透過させない袋を用意
なお、脱酸素剤やカイロが吸える酸素の量には上限があるため、外から空気が入ってしまうと無限に酸素が供給されてしまい、無酸素状態が失われます。そのため無酸素保存には酸素を透過させない「ガスバリア袋」があわせて使われます。
一般的な米袋やレジ袋、また各種「普通の袋」の多くは「ポリエチレン」という素材でできています。いわゆるポリ袋ですね。ポリ袋は気体を透過させやすく、完全密封しても外から空気が入ってきたり、逆に中身のにおいが外に漏れたりします。脱酸素剤で無酸素にしても、外から徐々に酸素が浸入し、無酸素状態でなくなってしまうのです。
酸素を通さないガスバリア性能の高い袋には、レトルト食品やコーヒー豆などによく使われる「アルミ蒸着袋」や、真空パック機の袋としてよく使われる「ナイロンポリ袋」があります。ナイロンポリ袋は真空パック機のロールタイプの交換袋をネット通販などで購入可能です。
真空パック機でお米を保存する場合は、一緒に使い捨てカイロを入れることで中が無酸素になるため、かなり長期間の保存が可能となります。が、少々手間がかかります。
■防災アドバイザーが勧める保存袋
ガスバリア袋には、「EVOH樹脂袋」というものもあり、私自身はこの袋をお米の保存に使用しております。
写真1の袋は、EVOH樹脂・エバール®製の袋です。愛知県の袋メーカー(株)愛知商会が製造している「虫キラー」という名前の製品で、5kgサイズの米袋がちょうど入る大きさです。ヒートシーラーなどを使わずチャックを閉じるだけで、ほぼ完璧な密封状態を作ることができます。この袋にお米と、脱酸素剤または使い捨てカイロを入れてチャックを閉じれば、常温で1年以上お米を保存することが可能となります。お米の長期保存袋を求めて色々な袋を試してきましたが、今のところこの袋がベストで、私も愛用しております。
2022年7月、わが家で11年前の2011年10月に無酸素保存した5kgのお米を、実際に開封して食べてみました。開封したところ、なんと11年前に入れた使い捨てカイロが発熱しました(室温25℃・カイロ30.4℃)。カイロが生きているということは、まだ酸素を吸う余力がある、つまり袋の中は無酸素状態を維持していました。
その後、通常の手順で1合を炊きました。「おかずなしでも美味しい銀シャリ!」とまではいかないまでも、古米臭や気になる味などはなく、十分そのまま食べられました。無酸素保存は素晴らしい!
■パスタ類は賞味期限が長く食料備蓄に最適
お米以外の主食類も、定期的に食べているものがあれば、ローリングストックによる備蓄が可能です。賞味期限を迎えるまでの期限内に、食べきることができる量であれば、スペースが許す限り自宅内で保管できます。
スパゲティやマカロニなどのパスタ類や、そうめん・乾そば・乾うどんなどは、安価で入手しやすく、また賞味期限がそのままでも数年と長いため、長期保存に向いています。
お米と同じく調理が必要となるため、災害直後に食べる食事というよりは、食料危機発生時に少しずつ食べる食材になるでしょう。加熱手段や水、そして付け合わせとなるパスタソースや、だし・めんつゆをあわせて準備してください。
その他、オートミールやコーンフレーク、インスタントラーメンなどもローリングストックが可能です。賞味期限が多少短めになりますので、コンテナストックに追加をしてもいいでしょう。お米やパスタよりも調理の手間がかからないため、併用するのもオススメです。
いずれも重要なことは「非常時専用」にするのではなく、「平時に食べられる」量の範囲で日常備蓄をすることです。賞味期限の長い食べ物であれば、毎月の消費量がそれほどでなくとも、かなりの量を手元に確保することができます。
調理前の主食は比較的「密度」が高いため、パスタや乾麺などはそれなりの量を備蓄しても場所を取りません。非常時に向けたカロリー備蓄に、ぜひ主食を取り入れてください。
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備え・防災アドバイザー
BCP策定アドバイザー、合同会社ソナエルワークス代表。「備え・防災は日本のライフスタイル」をテーマに、個人に対しては“自分と家族が死なないための防災対策”のノウハウを、企業に対しては“経営改善にもつながる緊急時に役立つBCP”の作成手順を、自身が運営する防災Webサイト、各種メディアやセミナーを通じて解説するフリーのアドバイザー。著書に『今日から始める本気の食料備蓄 家族と自分が生き延びるための防災備蓄メソッド』(徳間書店)、『今日から始める家庭の防災計画 災害で死なない環境を作るための事前対策メソッド』(徳間書店)がある。
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(備え・防災アドバイザー 高荷 智也)
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