「あの人かっこいいよね」と言われて「どこが?」は絶対ダメ…そのとき賢い人が切り返す「8文字の相槌」
プレジデントオンライン / 2024年9月29日 15時15分
※本稿は、齋藤孝『自分を動かす魔法』(三笠書房)の一部を再編集したものです。
■人との比較で何一ついいことはないが抜け出せない
いまはほとんどの人が子どものころから、誰かと比較して、自分のほうが上だとか、下だとか判断するのがクセのようになっています。
たとえば勉強については、テストの点数や偏差値など、自分の評価がはっきり数字で出ます。運動にしても、体力測定や球技の得点力など、数字が明確に示されます。
何かと数字で比較され、喜んだり、落ちこんだりしてしまうのです。
数字にあらわれないことについても同じです。たとえば、
「自分より勉強ができないあの子が学級委員に選ばれるなんて」
「うちもお金持ちだったら、あの子みたいにかっこいい服を着られるのに」
「あの子くらい積極性があったら、友だちがいっぱいできるのに」
「どうして女子からは嫌われているあの子が、あこがれの先輩の彼女なの?」
など、誰かと比較しないと自分を認識できないようになっている感すらあります。
けれども「自分が劣っているところ」や「自分にはないもの」を考えたところで、気持ちは暗くなる一方です。自己肯定感も下がります。
残念ながら、こうして身についた“比較グセ”は、大人になってもなかなか抜けません。「比べていいことなどない」とわかっていてもなかなかむずかしい。
■「優劣」ではなく「違い」ととらえる
誰かと何かを比べるのがよくないのは、そのとき、つい「優劣」をつけてしまうからです。これが落ちこみのもと。
では、優劣ではなく「違い」ととらえてみるとどうでしょう。
幻の童謡詩人と呼ばれた金子みすゞの「私と小鳥と鈴と」という詩にあるように、
「みんなちがって、みんないい」
ということになりますね。
「自分は自分。ほかの誰かと比べることに意味はない」
というシンプルな事実に気づきます。
自分を主語にして、ものごとを考えられるようになるのです。
「違い」は「個性」という言葉にも置きかえられます。
そんなふうに考えられるようになると、コンプレックスという概念そのものがなくなるのではないでしょうか。
■誰よりも“藤井聡太情報”に詳しいことを突き詰めてみる
とはいえ、それでも他人と自分を比べてしまうことはあると思います。それがふつうです。それならむしろ「人にはなくて自分にあるもの」に注目するといい。
そんなにすごいことでなくてもいいから、「自分にはこれがある」というものを見つけられると、人よりすぐれているとか劣っているとかが気にならなくなります。
「自分がはまっていること」「自分が好きなこと」「自分が得意なこと」「自分が詳しいこと」など、何でもいい。
そういうものが、この先も自分を肯定して生きていく「心の支え」になるのです。
たとえば、ぼくの教え子のある学生はフリートークの授業で、「将棋のことなら話せる」といって一年間、毎週、将棋の藤井聡太棋士の話だけをしました。
誰よりも“藤井聡太情報”に詳しいことに加えて、数学が得意だったようです。毎回、藤井棋士がどれだけ強いかを、数値化して紹介していました。
また別の学生は、鉄道が大好きで、ものすごく詳しい。どの路線のどの駅がおもしろいとか、この列車はここがすごいとか、話しはじめたら止まらない感じでした。
彼らが夢中になって話していると、それを聞いている学生にも熱意が伝染するのでしょう。一生懸命に耳を傾け、「へえ」を連発しながら、「すごいね」「よく知ってるね」「おもしろいね」と、ほめ言葉を投げかけていました。
そういう反応がまた、彼らの自己肯定感を高めることにつながったのです。
しかも、鉄道好きの彼は、鉄道の話を披露したことで、同じように鉄道好きの学生がクラスにいることが判明。二人は授業が終わってからも、ずっと仲よく、楽しそうにしゃべっていました。
得意なものや好きなものがあったら、ちょっと究めてみる。どこで役に立つかわからないけれど、鉄道好きの彼のように、楽しい人間関係が手に入ることもあります。
■「この深い世界を知っているのは自分だけ」と思えるか
好きな世界を探訪するのは、たとえるなら、
「自分が深海魚になって、ほかの誰も見たことのない深い海のなかの景色を見る」
というようなイメージです。
自分だけが見ているという特別感と、格別の心地よさが味わえます。
ぼくは中高生のころ、図書館に通っては、そういう深い世界にひたる喜びを感じていました。
図書館にはかならず、「この本は誰も読んでいないんじゃないか?」と思える本が何冊かあります。ほこりをかぶっていて、本自体もしょうゆがしみたような茶色に変色していて……。ぼくはなぜか、そういう本に引きつけられるのです。
「海の浅いところを泳いでいる、わりととりやすい魚よりも、深い海にいるかもしれないきれいな魚を求めたい」
というのにも似た気持ちがあるのです。
そうやって見つけた本を読みながら「この深い世界を知っているのは自分だけかもしれない」と思うと、気持ちが上がっていくのを感じます。
こんなふうに自分の世界をつくっていくと、そこが「心の居場所」になります。人のことが気にならなくなるのです。
■嫉妬心との正しいつき合い方
人と比べるのがよくないもう一つの理由は、とくに自分のほうが劣っていると感じた場合に嫉妬心が生まれてしまうことです。
たとえば自分が好意を持っている人に好きなタレントがいたとします。たんなるあこがれにすぎないのに、そのタレントに嫉妬する人がいます。
「あの人かっこいいよね」とか「あの子かわいいよね」とその人がいっただけで、自分がないがしろにされたように感じるのかもしれません。でも、そこでそのタレントについて、
「全然イケメンじゃないじゃん。どこがいいわけ?」
とか、
「メイクが上手なだけでしょ。性格、悪そうだし」
などといってしまうと、そこに険悪な空気が生まれます。
そういうときは、
「たしかに! いいよね」
というだけでいい。
そういってしまえば、自分も気がラクになるし、逆に「わかってくれている」と、相手によく思ってもらえます。
ムダな嫉妬心が生まれそうになったら、一緒にほめちぎりましょう。
「ダンスもうまいし、最高!」
「こないだのドラマの役、ぴったりだったね」
といった具合に。
嫉妬心や妬みの感情は、心を疲れさせるもの。大きくならないうちに、相手をほめちぎってそれらの感情を追い出してしまうのがベストです。
「嫉妬心がある」ことを自分で認め、むしろほめてしまう。これが嫉妬という怪物を退治する方法です。
■嫉妬心を成長のための刺激にする
これは、勉強や運動のライバルや、何かと恵まれている人に対しても同じこと。
妬みそうになったら、とにかくほめちぎる。「心にもないこと」でも効果があります。
「すごいね」
「自分にはとても真似できない」
「才能あるね」
「センス、抜群だね」
など、どんどんほめましょう。
ほめるとふしぎと嫉妬心がスーッとなくなります。ほめ言葉の持つプラスのパワーは、嫉妬心から生じるマイナス気分を払拭してくれるのです。
人をほめるもう一つのメリットは、本心からでなくてもけっこう気分がよくなることです。相手にしても、妬まれるよりはほめられたほうがうれしいに決まっています。お互いの関係がさらによくなることはあっても悪くなることはありません。
ほめ言葉は自分に対しても、他人に対しても、上手に使うべし。いたずらに人と比べることが減り、コンプレックスを感じることが少なくなります。
また人のよいところを認めると、「嫉妬心」を「自分が成長するための刺激」に変えることも可能になります。
シェイクスピアは嫉妬について、『オセロー』の中で次のように言っています。
ひとの心を餌食にしてもてあそぶのです。
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明治大学文学部教授
1960年静岡県生まれ。東京大学法学部卒業後、同大大学院教育学研究科博士課程等を経て、現職。専門は教育学、身体論、コミュニケーション論。ベストセラー作家、文化人として多くのメディアに登場。著書に『孤独を生きる』(PHP新書)、『50歳からの孤独入門』(朝日新書)、『孤独のチカラ』(新潮文庫)、『友だちってひつようなの?』(PHP研究所)、『友だちって何だろう?』(誠文堂新光社)、『リア王症候群にならない 脱!不機嫌オヤジ』(徳間書店)等がある。著書発行部数は1000万部を超える。NHK Eテレ「にほんごであそぼ」総合指導を務める。
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(明治大学文学部教授 齋藤 孝)
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