「"分速60mで歩き続ける兄"なんていない」算数文章題に突っ込んでいた子が開成→東大→人気作家になれたワケ
プレジデントオンライン / 2024年9月26日 10時15分
※本稿は、『プレジデントFamily2024秋号』の一部を再編集したものです。
■秘密基地のわんぱく小僧が受験塾へ
子供時代は一言でいうなら「わんぱく小僧」。学校から帰ると、ランドセルを置いて牛乳を1杯飲んだら、すぐに遊びに出る。当時、横浜の自宅の周りは自然に恵まれていて、友達と近所の雑木林に入って、秘密基地をつくって、マシュマロを焼いて食べたり。下水道のなかに入って探検したりもしていました。
一方、家にいるときは、よく本を読んでいました。本好きになったきっかけは親の読み聞かせ。母親も本が好きで、小学校3年生くらいまで、読み聞かせをしてくれたのです。今でもよく覚えているのは『ハリー・ポッターと賢者の石』。
発売されてすぐに母親が分厚い本を持ってきて、これ読むわよって。3年生ぐらいになると、だんだん自我が芽生えて「読み聞かせなんてだるい、自分で読めるわ」なんて思っていましたが、読み聞かせをしてもらったら、もう面白すぎて。次の『ハリー・ポッターと秘密の部屋』からは自分で読むようになりました。
野山で冒険をしていたように、本も探検ものやファンタジー系にはまった。『デルトラ・クエスト』や『指輪物語』も読んでいました。
家には本がたくさんありましたし、毎週、図書館に行っていました。書店にもよく連れて行ってもらい、本であれば、欲しいものはすべて、制限なく買ってくれたのも嬉しかったです。
うちの親は、どちらかといえば教育熱心なほうだったと思います。でも、勉強を強いるタイプではなく、外で泥んこになって遊んでいる私を好きにさせていました。学校の宿題以外でやっていたのは、国語と算数のドリルだけです。
■「わんぱく小僧」がなぜ開成を目指したのか
それが中学受験塾に入ることになったのは、小学校4年生の2月。中学受験に関しては「そういうもんだから」という感じで、親に塾の体験授業に連れて行かれ、入塾テストを受けていました。自分としては、通っていた水泳教室で選手コースに入るつもりでしたが、なぜか塾に通うことに。
中学受験をすることで将来の可能性が広がるし、自分と価値観の近い友達関係で過ごしたほうがいいんじゃないか、などと両親の教育方針が合致して“決まっていたこと”だったのでしょうね。
なし崩しで中学受験塾に入ったのですが、今まで自由に遊べていた時間に塾に行かなければいけなくなる、土日にテストがある、それ以上に小学校の友達と同じ中学校に行けなくなる。そんなモヤモヤが払拭されたのは、志望校が明確に決まってからでした。
小学校5年生の5月に、開成の運動会を見たのです。全員、上半身裸で血気盛んに棒倒しをして、負けたら男泣きして……。その熱気に一瞬で引き込まれました。これに混ざりたい!
ここに行くためなら勉強もがんばる‼ と明確に思ったんです。
得意な教科は、国語でした。中学受験は、4教科あっても結局すべて読解力に収束すると思っています。どの教科も、問題文を読み解き、どういう条件があって、何を問われているのか整理する能力が求められる。私はそれが得意だったので、国語以外も苦にはなりませんでした。
周りの子は3、4年生から塾に入って理科・社会を始めているので、スタート地点はかなり後ろでしたが、国語・算数に関しては負けている気がしませんでしたね。
これは塾長のアドバイスでしたが、6年生の夏までは得点配分の高い国語・算数を徹底的にやる。理科・社会はそのつど単元は勉強するけれど、暗記で追い込みをかけるのは6年生の夏から。そういう作戦を立てて勉強を進めました。
当時の私が勉強をがんばれたのは、まず開成に行きたいという強い思い。そして、やったことが成果に結びつく実感を得られたことも大きかった。勝負ごとが好きなので、全国順位で何位とか、偏差値が前回よりいくつ上がったとか、ゲーム感覚で楽しんでいました。
毎週末のカリキュラムテスト後には、本屋に行って好きな本や漫画を買ってもらっていたので、テストの日が楽しみだったぐらいでした。
そうやって楽しく学べるように考えてくれていたのかもしれません。両親からは、「5年生から勉強漬けになったら息切れする」と言われていました。本当に詰めてやるのは、6年生の夏以降でいいから、それまではケガをしない範囲で遊んだほうがいい、と。
6年生の夏までは夕方5時まで遊んで夕食までの1時間は勉強する、などメリハリをつけて、最後、夏休み明けからは一気に机に向かいました。序盤に遊んで適度に体力をつけていたからこそ、最後の半年、そのあり余ったパワーを受験のために投入できたのだろうと思います。
■作家になることを誓った開成の卒業文集
初めて物語をつくる楽しさを知ったのは、小学校2年生のとき。授業で教科書に載っている地図をもとに、話をつくることになったんです。
そこで私は、浜辺に流れ着いたビンのなかの地図を広げたら、その地図に入りこんでしまい、ピンチをくぐり抜けながら宝をとって元の世界に戻れたといった話を書きました。班の代表に選ばれてクラス全員の前で発表したら、教室は水を打ったように静かに。読み終わったときに「めちゃくちゃ面白い!」って、みんなが言ってくれたんです。それが創作の喜びを知った原体験ですね。
自分のつくった物語をみんなが楽しんでくれて、フィードバックが返ってくるのが嬉しいし、気持ちいいということを初めて知ったんです。
母親からも「よく書けたね」と、褒められました。その辺りの批評は実はかなりシビア(笑)。3年生のときに授業参観で社会科見学の感想文を読み上げたときは、家に帰ったら「『楽しかった』『面白かった』ばかりで、何がどう面白くて楽しかったのか、もっとくわしく書いたほうがいい」と指摘されたんです。
母は元記者。言葉に対して感度が高かったのだと思います。そんな母親からの薫陶を受けたあとだったかな。夏休みのアサガオの観察日記に、アサガオが枯れる様子を「年老いて力をなくしてしおれ、朽ち果てていく」といった表現をしたら、母親がこの描写は素晴らしいと褒めてくれた。嬉しかったです。実は私の小説を読んでも「私はあのアサガオの文章のほうが好き」といまだに絶賛している(笑)。
母親は、うまく書けていなければ指摘するし、美点を見いだせば褒める、といったスタンス。それは私が中学校3年生のときに書いた卒業文集でも同じでした。
実在するサッカー部員たちが開成高校の進学権をめぐり校舎内で殺し合うという、『バトル・ロワイアル』のパロディーを原稿用紙600枚にわたって書いたものです。分量も内容も穏やかではないものでしたが、学校からは何のおとがめもなく卒業文集に掲載されました。
修正指示もしないで載せてくれた学校もそうですが、保護者の方々の懐も深かった。皆さんの息子が殺されているというのに、「うちの子の死に方はカッコ悪いのに、○○くんは仲間を守ってカッコいいじゃない」とか、「○○くんのあのシーンは本当に泣けた」などと、好意的な感想を届けてくれました。
そこで、私ははっきりと思ったんです。小説家になりたいと。
もし事前に学校から掲載を止められてお蔵入りになっていたら、小説家になりたいとも思わなかったかもしれない。ですから、開成の教師陣の判断は、私の人生にとって最大の分岐点だったといえるのです。
その文集に対する母親のコメントは、「小説としては面白いし、卒業文集としては最高だけど、商業デビューするなら、登場人物の描写がないとダメだね」(笑)。確かに登場人物は、全員知っているから名前さえ書けば、説明はいらない。内輪でやるから成立しているだけであって、世に出すなら、この次元ではあかんなと思っていました。悔しいけれど、やっぱり的確(笑)。
この先、私に子供が生まれたら、自分が両親にしてもらったことはしてやりたいですね。本の読み聞かせだったり、欲しいと言われた本は制限なく買い与えたり、できれば自然豊かな環境で育てたい。
書いた文章を辛口批評されたことも、当時はうるさく感じていましたが、今となってはありがたい。自分がやってもらった分を、次の世代に返したいという気持ちです。
■初の児童書で読者に挑戦!
初の児童書『やらなくてもいい宿題』は算数の特殊算をモチーフにした謎解きもの。謎の転校生が出す算数の問題に答えられるか。正攻法で解答しても、さらにひとひねりある。
「私も、算数の問題を見ては、『ずっと分速60mで歩く兄なんていないよ』『100本も鉛筆を持っていて友達に均等に分けたがるたかしくんなんていない』などとつっこんでいる子でした。真面目な問題にみせて、その裏をつくようなお話になっています」。
結城さんからの挑戦状、解けますか?
〈老婆と少年〉
いま、おばあちゃんは80歳、少年は11歳です。おばあちゃんの年齢が少年の年齢の2倍になるのはいまから何年後でしょう?
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作家
1991年神奈川県生まれ。開成中学・高校を経て東京大学法学部を卒業。『#真相をお話しします』(新潮社)は20万部を超えるヒットに。初の児童向け作品『やらなくてもいい宿題』が主婦の友社より発売。
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(作家 結城 真一郎 構成=池田純子 撮影=遠藤素子)
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