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20代社員の文章にストレスを感じる人が84.5%…「頭が悪いな」と思われる報告書に共通するパターン

プレジデントオンライン / 2024年9月26日 8時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/maroke

上手な文章を書くために必要なことは何か。明治大学の齋藤孝教授は「誤字や脱字以前に『主語がわからない』『文章が論理的につながっていない』ことに気づくことができない人が多い」という──。

※本稿は、齋藤孝『40代から人生が好転する人、40代から人生が暗転する人』(宝島社)の一部を再編集したものです。

■文章が上手な人は「構成力」がある

日本人として「文字を書く」ということの大切さについても、40歳の節目でしっかりと考えていくべきテーマだと思います。人生の折り返し地点を迎えた40代にとって、「読む力」も「書く力」もこれからますます社会から求められるはずです。

近年はチャットGPTのような生成AIが浸透していますので、「別に自分で書かなくてもいいじゃないか」と考えている人も中にはいるかもしれません。あるいは、書かなくていいとまで言わなくても「上手に書けなくたっていいでしょ」という人は多いのではないでしょうか。

しかし、それは「考える」という作業を人間が放棄することを意味しています。考え続けるということは、人間の知的活動で欠くべからざる重要な作業です。

頭がいい人がなぜ文章もうまいのか。それは一つには構成力があるからです。目の前にまっさらな原稿用紙を置かれて「さぁ、日本の少子化について思うことを30分で書きなさい」と言われたら、これまで少子化について多少なりとも考えてきたこと、実際に経験してきたこと、不思議に思ってきたことなどの情報を、制限時間の中で構築し、文字化する作業を強いられることになります。

その際、少子化問題について日頃から専門的に学んでいればかなり有利ですが、必ずしも特化した知識がなくても、自分なりに得てきた情報を再構成し、読みやすく組み立てて書くのが文章力というものです。

■文章力は労働環境にも影響する

文章を書く能力が上達していくと、気持ちも楽になって日常からストレスが減っていきます。文章が上手であることは、実は心の安定にもつながるということです。

こんな話もあります。日本漢字能力検定協会が2022年に行った調査によると、部下や後輩が書いた文章にストレスを感じたことがある(「ややある」を含む)と回答した30歳以上の社員が84.5%に達し、その主な原因に「説明不足」「語彙や表現が合っていない」「文が無駄に長い」「筋道が立っていない」「主語がわからない」などが挙がったそうです。

おそらく「顧客ターゲットがあいまいだな」「データの出所がよくわからない」「この長い説明文は今回必要なの?」といったことでしょうか。本書の主な読者層である40代であるなら、管理職として思い当たる節があるのではないでしょうか。

さらに、上司から文章を指摘されることにストレスを感じている20代の社員も53%いるとのことですので、こうなると作文力が原因で日本中の職場がギスギスしているという話なのです。文章の技術力が企業の労働環境に影響し、ひいては日本経済を左右するということになりかねません。メールでの文章のやりとりがビジネスの中心になってきている現在、文章力は社会的に大きな課題であると言えます。

■自分の文章のおかしさに気づくために

この調査結果を見て私が「危険だな」と感じたのは、自分が書いた文章のどこが変であるかがわからないという人が多いということです。

上司に報告するレジュメや企画書ですから何度も読み返しているはずなのです。誤字や脱字、事実関係の見誤りといった類のミスならともかく、「主語がわからない」「文章が論理的につながっていない」ことに気づくことができず、「よし、これでOK」と意気揚々と提出してしまうのは、ある意味で怖いことだと私は思っています。しかも、そのような不完全な文書を提出して上司をイラつかせ、その指摘に自分もまたイラついているのでは、自分発信の負の連鎖です。

一方、この調査結果には出てきていませんが、40代で文章が苦手という人も大勢いるはずです。むしろ20代なら「まだ若いから」で許されるところ、40代で部下から「課長の文章、わかりにくいんですよ」などと言われたら、それこそ立つ瀬がありません。他人事ではないはずです。

自分の文章のおかしさに気づけない人は、文章を構造化して整理することができません。

■書く前に構成を作る

文章を書きはじめる前にまずやらなければならないのは、まず何を書きたいのかテーマを確認し、これをもとに構成していくことです。この構築作業は頭の中でするのではなく、必ず紙に書き出したほうがいいでしょう。考えていることを文字にして可視化し、それにより整理していくことです。

まず、大きなテーマが決まったら、それを考察するためのポイントを3つほどあげてみます。たとえば、最初にあげた少子化問題について書くのであれば、その主な原因を「晩婚化や未婚化」として大きなテーマとし、その背景として①経済的な不安定さ、②女性の社会進出、③結婚に対する社会的価値観の変化――などとしてみましょう。

これで大きな構図が構築できたことになります。次に①から③に関する解説や背景、解決策などを拾い出してみると、文章全体の構成も固まってきます。あとはこれにエビデンスや自分の考えを交えながら文章にしていくことになります。先ほどの調査であがった「説明の過不足」「主語があいまい」「語彙や表現」「文の長さ」なども、陥りがちなポイントとしてチェックしてみてもいいでしょう。この流れで作成していけば、語彙や表現力などはさておき、少なくともピントが大きくズレた文にはなりません。

■架空の評論家になって文章力を磨く

何か自分の好きなテーマを決めて、それの“評論家”になって文章を書き続けてみるという方法もあります。知り合いの編集者は大学生の頃、架空の映画評論家になってブログを立ち上げ、見た作品を批評する文章を週一くらいのペースでアップしていたと言っていました。

最近は「note」という情報発信サービスもありますし、いろいろ活用してみてもいいかと思います。実際、映画の評論というのは文章力を磨くのに効果的です。

まずは、その作品がおもしろいのかそうでないのか、自分が好きか嫌いかといった大枠から入り、内容のポイントがどこにあり、他の作品と違う特殊性がどこにあるのか、つまらない中でも光るところはあったのか、企画の商業的な意図はなんだったのか、監督の狙いはどこにあったのかなどを、的確にわかりやすくまとめる技術が求められます。ときにはユーモアもちょっと混ぜてみる必要があるかもしれません。

ノートにメモを取る男性の手元
写真=iStock.com/Pra-chid
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Pra-chid

なにしろ、架空とはいえ「評論家」として文章をアップするのですから、あまりにピントがズレてわかりにくい文章では、「ほんとに評論家? 見当違いなこと言ってるよ」ということになり、匿名とはいえ恥をかきます。何より自分が楽しくありません。

■言語化するために正しく理解する

「ヤバいくらいおもしろい。とにかく観たほうがいい!」では、意図が1ミリも伝わりませんし、そもそもそんなブログは誰も読みません。何がどう「ヤバい」のかを言語化しなければならないのです。その作品ならではのポイントを最低でも3つくらいあげてみて、その3つを解説するだけでそれなりの感想にはなります。

また、ストーリーを正しく分析するには、登場人物の相関関係、それぞれの性格と立場、台詞から想像できる事実、製作された国や地域の文化なども正しく理解する力が求められます。

書いているうちに語彙が不足していることにも気づくようになり、最初のうちは「めちゃめちゃ感動した」で済ませていたところを「胸を打たれた」「心に染みた」「ハートに響いた」というように表現の“武器”も徐々に増えていきます。いうなれば、読書感想文を書くという作業と似ています。物語を正しく読み取り、それを文章にするには理解力と文章力が必要です。映画を「観る」のは本を「読む」よりも脳の作業は楽ですので、文章のトレーニングとしてはより取りかかりやすいといえるでしょう。

■反対の立場に立つことが論理力を高める

ときには、あえて自分の感覚に逆張りをして書いてみるというのもいい練習です。ディベートのトレーニングでも「賛成派」と「反対派」の両方の立場に立って、交互に意見を言い合うというやり方があります。

これと同じことを、映画を見てしてみるのです。とてつもなくつまらなく感じた作品でも、それを無理やりおもしろい作品であると解説してみるのです。実際に配給会社はその作品を売るために、様々なキャッチコピーや宣伝文句で煽っているわけです。宣伝の担当者個人が「これは売れないなぁ」と思っていても本音を言うわけにはいきません。

そこで、架空の宣伝担当となって文章を書いてみるわけです。やってみるとわかりますが、好きな作品を褒めるのよりずっと難しいはずです。言ってみれば、社内にいる苦手な人の良いところを無理やり見つけ、他の人に「この人、悪い人じゃないんだよ。こういうところが素敵なんだ」と紹介するような作業です。そういう意味では文章力以上に論理力を高めるトレーニングになるかもしれません。

■第三者の目に触れるからこそ文章力は向上する

ブログの最大の利点は、書いた文章を自分以外の不特定多数の人に読んでもらえることです。文章というのは第三者の目に触れることが大切ですし、上達にもつながります。伝わりにくいのであれば何が原因なのか、どこを工夫したら評価が上がるか、それを常に考えて書くことで文章はどんどんうまくなります。

齋藤孝『40代から人生が好転する人、40代から人生が暗転する人』(宝島社)
齋藤孝『40代から人生が好転する人、40代から人生が暗転する人』(宝島社)

実際、その編集者氏は「おもしろくないブログ」の特徴を分析し、「冗長でまわりくどい」「結論が遅い」「日本語が正しくない」「調べ方があまい」などを拾い出し、まずはそれをしない文章を書くように心がけたといいます。賢者は歴史から学ぶといいますが、自分以外の過去の失敗例などを分析して抽出し、自分がそこに陥らないようにするのも上達するにはいい方法です。

いずれにせよ、まずははじめてみることです。この方の場合、ブログをはじめたことで書くネタが必要になり、学生時代に映画を見る回数が急激に増えたと言っていました。これが読書感想のブログやnoteであれば、本を読むペースも増えることでしょう。

別のテーマであっても、今まで以上に深堀りする習慣がつくはずです。そこに新たな発見が生まれることで、人生もより豊かになるということです。

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齋藤 孝(さいとう・たかし)
明治大学文学部教授
1960年静岡県生まれ。東京大学法学部卒業後、同大大学院教育学研究科博士課程等を経て、現職。専門は教育学、身体論、コミュニケーション論。ベストセラー作家、文化人として多くのメディアに登場。著書に『孤独を生きる』(PHP新書)、『50歳からの孤独入門』(朝日新書)、『孤独のチカラ』(新潮文庫)、『友だちってひつようなの?』(PHP研究所)、『友だちって何だろう?』(誠文堂新光社)、『リア王症候群にならない 脱!不機嫌オヤジ』(徳間書店)等がある。著書発行部数は1000万部を超える。NHK Eテレ「にほんごであそぼ」総合指導を務める。

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(明治大学文学部教授 齋藤 孝)

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