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「子作り、愛情、快楽」性行為の全要素を一生一人が賄うなんてムリ…性行為なしの新しい結婚のかたち

プレジデントオンライン / 2024年9月28日 8時16分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/whyframestudio

恋愛や性行為が存在しない新しいかたちの結婚が徐々に増えている。友情結婚相談所「カラーズ」を運営する中村光沙さんは「性行為がなくなると寂しいと感じる結婚ではなくて、最初から性愛が存在しない異性と子どもを作った場合、その分、より子どもに集中できる結婚ができる。成婚された方々を見ていると、とりわけそれを感じる」という――。

■実際と違った「友情結婚」のイメージ

(前編からつづく)

2015年3月に、恋愛を伴わない「友情結婚」専門の結婚相談所、「カラーズ」を立ち上げた中村光沙(ありさ)さん。

「自分の生活費だけがあればいい」と赤字覚悟でスタートした1年目だったが、2年目からは黒字に転じ、3年目から事業は軌道に乗ったと振り返る。

「2016年は17件の成婚があり、その翌年は11件と下がりましたが、以降、年間40件ぐらいで推移して、今年は初めて50件になりそうです」

順調にいきそうだと早い時期に思えたのは、想定していたよりも固定費が少なく、事業拡大のための投資資金の積立が大幅に早く達成できたためだ。ここ数年はより多くの人に広めようと、広告宣伝にも力を入れている。

起業からもうすぐ10周年。それは当初思い描いていた、「友情結婚」のイメージと実際とは違う、と思い知らされた年月でもあった。

「友情結婚の当初の私のイメージは、ゲイの方とレズビアンの方の結婚でした。『親を安心させたい』、『周囲にセクシャルマイノリティだとバレたくない』ための結婚だから、めちゃくちゃドライな結婚だと思っていたのです。でも蓋を開けてお客さまと話してみると、特に男性の方は、『性行為をしないこと以外は、普通の、あたたかな家庭を築きたい』と言われることが多いです」

■面談で自覚するセクシャルマイノリティ

登録会員を見れば、男性は同性愛者が多いが、女性はそうではなく、アセクシャル(恋愛感情も性的な欲求もない)やノンセクシャル(恋愛感情はあり性的な欲求がない)がほとんどだというのも、これも蓋を開けてみなければわからないことだった。

「男性と性行為ができない」と、中村さんを前に初めて告白する女性も多い。

「多くの女性は、普通に男性と結婚するものと思っていて、でも男性と性行為ができなくて、いろいろな方法でトライしてみてもできなくて、カラーズに来られるわけです」

中村さんと面談することで、自身のセクシャリティを自覚する女性たち。彼女たちは自分と同じような女性が少なくないことを知り、性行為のない結婚を選ぶ道に踏み出していく。その女性たちの多くもまた、「夫婦に性行為がないという以外は、普通の家庭を築きたい」と望んでいる。

「カラーズができて、友情結婚のイメージはめっちゃ変わったと思います。多くの方が、結婚して、協力して家庭を築いて、妊活して、子どもを授かったら、子どもを産む。夫婦で協力して子どもを育てていきましょう、という結婚生活を考えているわけです」

■恋愛が存在しない結婚だからこそ

外側から見れば、一般の結婚となんら変わらない夫婦のありようだが、「恋愛」が存在しない友情結婚には、「好きな人の子どもが欲しい」、「好きな人と自分の子どもだから、愛おしい」などという、恋愛結婚の大前提は存在しない。だからこそ、と中村さんは思う。

新生児
写真=iStock.com/kuppa_rock
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kuppa_rock

「恋愛感情のない相手との子どもを、わざわざ妊活して産んで育てるということは、相当『子ども好き』でないとできないことです。だから、友情結婚の子どもはものすごく幸せだと思う。両親ともに子どもが好きで、子どもが欲しいから、人生をかけてここまでの選択をしているわけですから」

恋愛や結婚生活の中で、残念ながら思わぬ形での望まない妊娠はあり得る。でも友情結婚では夫婦同意のもとで妊活を経て妊娠出産へと至るので、「カラーズ」で誕生した夫婦間の子どもは、人生の全てを賭けてでも、会いたかった存在なのだ。

「友情結婚への批判に、『そこまでして、結婚しなくて良くない?』とかありますが、『そこまで』って何? って、思います。皆さん、子どもが欲しくて、その子どもをあたたかな家庭で育てていくために、結婚という手段を選んでいるのです。『性行為がないって、出生率、下げない?』という批判にも、いや、友情結婚ができたおかげでもともと出産を考えていなかった人が出産されているので出生率は上がっています、と」

■性行為や恋愛への呪縛

カラーズは入会希望者全員に、必ず会って話を聞くことを鉄則としているが、なかには「入会NG」、要するに断らざるを得ない人もいる。

「異性と性行為ができる人は、カラーズの対象ではありません。女性に多いのですが、恋愛結婚はできないけど、友情結婚だったらできると。いやいや、友情結婚のほうが難しい。『男性が好きで、性行為ができるんですよね?』って聞くと、『性行為、もう誰とも何年もしてない』って。セックスレスと友情結婚での性愛の考え方は話が違う」

こんな時、友情結婚は当事者にだけ届いて欲しいと、中村さんは心底思う。

一方、男性で多いのは女性と性行為ができないけれど、「したい」と望むケースだ。友情結婚でも、「ちょっとでも、性行為ができる女性」がいいと言う。「友情結婚であっても、性行為が一回もないのは夫婦として寂しい。欠陥があるみたいだから」と。セクシャルマイノリティを自認しながらも、性行為や恋愛への呪縛に囚われている人が少なくないわけだ。

「特に恋愛をしたことがない人ほど、恋愛は素晴らしいものだと思い込んでいる。“恋愛至上主義”に囚われているというか」

■社会に溶け込み普通に生きていたい

「カラーズ」の経験で、中村さんは結婚に、恋愛や性行為が必ずしも重要ではないことを強く感じる一方、相談者たちが「普通」に固執したい気持ちもよくわかる。

登録会員たちは皆、「一般社会に順応し、普通に生きていたい」と思っている人たちだ。となれば、「普通って、みんながしている恋愛結婚だよね」となってしまう。

「『LGBTQ理解増進法』などを見ていると多くの同性愛者が同性婚をしたいと思っているといった印象を持たれそうですが、多くの当事者がLGBTQ理解増進法については関心がないと言います。同性婚を認めてほしいと当事者全員が思っているわけではないし、当事者の悩みを理解できるわけがないからです。それよりも一般社会に順応し、普通に生きたいと思っているLGBTQの人たちに、友情結婚という選択肢もあると知ってほしいです」

何が、「普通」なのか。結婚がうまくいかなかったケースも、「普通の」結婚となんら変わらない。

「恋愛結婚の離婚理由の最多は、価値観の違い。いっとき恋愛マジックにかかって見えなくなっていたものが、見えてくるからです。友情結婚は恋愛ではないので、『価値観についてお互いにしっかり話し合ってください』と伝えます。そのために『話し合い冊子』を作っていますし、条件が合うか、感情的にならずに話ができるかなど、話し合い期間を大事に過ごしてくださいとお願いしています」

■性行為にある3つの要素

友情結婚の「話し合い期間」とは、「交際」を意味する。話し合い期間をカラーズでは最も重要視するものだが、中には“超スピード婚”のケースもある。

「性行為のない相手と安心して出会えますし、成婚率が高いのも、狭いパイの中で同じ目的を持っているから。これまで交際経験がないと、波長が合ったからうまくいくと勢いで結婚して、同居したら違っていたと離婚に至るケースもありますし、同居して子どもを作ることが怖くなったというマリッジブルーのようなケースもあります。そこは一般の結婚と同じです」

性行為が要らない結婚を「普通に」見てきた中村さんは、結婚に必須とされる性行為には、「子作り、愛情、快楽」の3つの要素があると言う。

ベッド上で2人の恋人の親密な手
写真=iStock.com/Prostock-Studio
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Prostock-Studio

「この3つを一人の結婚相手で一生、全て賄うというのは難しいなーって思います。自分がそうですが、子どもを産むと女性って性欲が無くなりませんか? だから、性行為が初めからないのって、めっちゃ、楽じゃんって。性行為がないと寂しいと思う結婚ではなくて、性行為が存在しない異性と子どもを作るからこそ、子どもにより集中できる結婚ができる。成婚された方々を見ていると、とりわけそれを感じますね」

■結婚は選択肢の一つでしかない

結婚相談所を掲げていながら、中村さんは改めて、結婚が全てではないと考える。

「結婚は幸せになるための手段であり、選択肢の一つでしかない。子どもが欲しくない人の結婚したい理由の多くは、世間体や老後ひとりの不安。世間体は職場を替え、年齢を重ねれば変わるもの。だから、本当に結婚が必要かどうか。『老後ひとりの不安って、結婚以外の選択肢はないですか?』と話すと、多くの方は『助け合い、支え合える人がいれば、結婚は必要ない』って言いますね」

現在「カラーズ」が配信、運営している「マッチングアプリ」は、人生のパートナーを見つけるためのものとされている。

「つまり、結婚以外の選択肢です。セクシャルマイノリティのために、性的関係のない相手を探すアプリとして売り出していますが、セクシャリティに関係なく、人生のパートナーを見つけるためのアプリとして広げていきます。結婚にこだわらない女性は、同性でいいと言いますね。ルームシェアでいい。一緒にいられれば、老後も安心ですって。そういうパートナーって今まで、どうやって探せばいいかわからなかったので」

日本では未だに、女性の幸せの選択肢は結婚しかないという固定観念が、二重にも三重にも女性を縛り付けている。サラリとそれを外し、心地いいものに組み替えていく、一つの道がここにある。手枷足枷(てかせあしかせ)が消えていく爽快さは、自分で人生の幸せを決めていく“自由”の大切さを、改めて呼び起こしてくれるかのようだ。

■結婚における性行為の役割を切り分ける

中村さん自身は「カラーズ」の活動を通し、結婚して子どもを育てる人生を自ら選んだ。

中村光沙さん
本人提供
中村光沙さん - 本人提供

「会員の方々から影響を受けました。29歳で、30代半ばや40代の人の話を聞いていたわけですが、『経済的に自立していても、結婚したい』、『産めるうちに、子どもが欲しい』という本音に接し、自分も考えなくてはと。会員の方々と話していると『結婚と、恋愛は、違うもの』だとわかります。そのころ、友人のように思っていた男性と冷静にいろいろ話し合って、条件も合ったので、彼と結婚を決めました」

結婚は32歳。2人の子どもも授かった。自然妊娠にこだわらなかったことも、夫とうまくいっている秘訣だと言う。

「妊活を始めると言ったら、夫は一緒に病院に行ってくれました。夫は子どもが欲しい人だったので、自然妊娠できたらラッキーぐらいに思って、人工授精をしましょうと。『子作りの基本は、人工授精でいこう』って。そのほうがお互いにプレッシャーがないから、と」

結婚にまつわる性行為のがんじがらめの役割を、夫婦合意の上で見事に切り分けたのだ。

中村さんが「友情結婚相談所カラーズ」を立ち上げ、「結婚」から性行為を除いたことで、全く違う視界が鮮やかに、さまざまな角度から見えてくる。「結婚」という名の下に潜む呪縛から、私たちはそれぞれの立ち方で、もう少し自由になってもいいのかもしれない。

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黒川 祥子(くろかわ・しょうこ)
ノンフィクション作家
福島県生まれ。ノンフィクション作家。東京女子大卒。2013年、『誕生日を知らない女の子 虐待――その後の子どもたち』(集英社)で、第11 回開高健ノンフィクション賞を受賞。このほか『8050問題 中高年ひきこもり、7つの家族の再生物語』(集英社)、『県立!再チャレンジ高校』(講談社現代新書)、『シングルマザー、その後』(集英社新書)などがある。

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(ノンフィクション作家 黒川 祥子)

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