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「財産が少ないから相続トラブルは起きない」は幻想…「両親を世話してきた姉vs疎遠の弟」が勃発したワケ

プレジデントオンライン / 2024年9月29日 16時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kieferpix

遺産のトラブルを避けるにはどうすればいいか。弁護士の古山隼也さんは「生前に現金を手渡ししていると証拠が残りにくく、相続で争いごとになりやすい。また、相続において実印や印鑑登録証明書は非常に重要なものなので、内容もわからずハンコを押すのはやめたほうがいい」という――。

※本稿は、古山隼也『弁護士だからわかる!できる! あんしん相続』(Gakken)の一部を再編集したものです。

■相続でもめるのは「億万長者」だけじゃない

「いやー、ウチはもめるほど遺産がないから相続も楽勝でしょう」と思い込んでいる方もいます。でも「相続でゴタゴタするのはお金持ちだけ」というのは、幻想です。

遺産が少ないからといって、相続がスムーズに進むとは限りません。

最高裁判所事務総局「令和4年司法統計年報」によると、2022年に家庭裁判所で取り扱った遺産分割事件の件数は1万2981件です。そして、遺産分割事件で認容・調停成立したもののうち、遺産額1000万円以下が約33%、遺産額1000万円超から5000万円以下が約43%と、約4分の3が遺産額5000万円以下です。

つまり、遺産が少なくても、もめるときはもめるということです。

■いままでの不平不満が表面化してしまう

・不動産が多いともめやすくなる

特に遺産のほとんどが不動産で預貯金は少ないという場合は、もめやすい傾向にあります。

不動産は評価方法が複雑なため、相続人(故人の遺産を相続する人)の間で意見の食い違いが発生しやすいだけでなく、被相続人(故人)の自宅に以前から同居しており、当該自宅を引き継ぐなどの場合、他の相続人に代償分割として支払う金額は自腹を切らなければならないため、評価方法・評価内容に関してシビアになりがちです。

・感情面の問題が残っている

親やきょうだいとの関係でこれまで溜め込んできた不平不満など、感情面のわだかまりが相続をきっかけに表面化することが多いです。

「お金の問題じゃないんだ!」と感情をぶつけ合うようになると、相続のもめごとは泥沼化します。

相続は単なる財産の分配ではありません。家族の歴史や関係性、それぞれの気持ちが複雑に絡み合って、当事者だけではほどけなくなることもあるのです。

■現金の手渡しは相続トラブルのもと

相続では実にさまざまなトラブルが起こります。

これから「事例集」として実際にあった相続トラブルをご紹介します。個人が特定されないよう内容の一部を変えていますが、すべて実際にあったトラブルです。

ケース1:母親が生前、記録など残さないまま兄を優遇

相談者のCさんは2人兄弟の弟です。

Cさんの母親は昔から兄に甘く、何かというと兄を優遇していました。

兄は大学を卒業してもしばらく無職で実家に住み続け、その後、起業して事業を始めましたが長続きせず、事業をコロコロと変えていました。

その間ずっと、母は兄の借金を肩代わりしたり、事業資金を援助するなど、多額のお金を渡していました。

ただ、どれも現金手渡しで、契約書などの書面はもちろん、メールやLINEのやり取りも残っていませんでした。

日本円のお札を両手で広げて見せる手
写真=iStock.com/Nuttawan Jayawan
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Nuttawan Jayawan

母が死亡して、遺産分割の際に兄に対して、これまで兄が母からもらってきたお金を清算したいと告げると、兄は「お金をもらったことはない」としらばくれました。

どう考えてもウソなのに証拠がありません。「なんとかならないか」とCさんは考えています。

■母→兄の贈与の証拠がなく、困ったことに

事業資金の援助や借金の肩代わりなどは特別受益に当たる可能性があります。

特別受益として認められれば遺産の前渡しを受けていると扱われ、遺産から新たに取得できる分が減るという意味で、贈与を受けた相続人にとっては不利益となります。

しかし、特別受益は、贈与を受けた相続人が認めない場合、証拠がないと認められません。

このケースは母親が生前、記録など残さないまま現金を手渡していたため、兄が受け取ったとの証拠が存在しないのです。

贈与を主張するCさんが、その時期や額などを主張するとともに、裏付けとなる証拠を提出しなければならず、これらができないと兄の特別受益は認められません。

現金手渡しは証拠が残りにくいので、特別受益を受けた相続人がしらばくれてしまうと、これを清算することが難しくなってしまいます。

■両親を世話してきた姉に弟は「金を返せ」

ケース2:両親と疎遠の弟から、財産の横領を疑われる姉

こちらのケースの相談者Dさんは2人きょうだいの姉です。

父親が病院に入院していて、母親は実家でひとり暮らしをしています。

Dさんの弟は実家の近所に住んでいますが、たまに顔を見せる程度で、両親の世話をする気はまったくありませんでした。

そのため、弟よりも実家から遠いところに住んでいるDさんが母の世話をするようになり、父の見舞いや母の通院のために送迎をしたり、外食や旅行に連れて行ったりしていました。

やがて、心身が弱ってきた母から頼まれて通帳とキャッシュカードを預かり、母の代わりに買い物や必要な支払いなども任されるようになりました。

ある日、母から「日ごろのお礼に孫の大学にかかる費用を出してあげる。300万円を口座から引き出して受け取って」と言われました。

Dさんは「銀行の窓口に行くのは面倒なのでATMで小出しして」と母に言われたため、ATMで50万円ずつ6日間出金して、子どもの学費に充てました。

母が死亡し、弟から母の通帳を見せるよう言われたので提示すると、「母が孫に300万円あげるはずはない、取ったんだろう? 返せ」と言ってきました。

■信頼している相手に裏切られるとも限らない

このように一部の相続人が被相続人の財産管理をしていた場合、疎遠だった他の相続人から横領を疑われるケースは珍しくありません。

そういう場合、被相続人の財産は被相続人のために適切に使用し、そのうえで贈与を受けた、などの説明をする必要が出てきます。

しかし、家族間の贈与は契約書などの資料がないことも多いため、贈与を受けた事実が認められないことになる可能性があります。

このケースでは結果的に300万円を返還しなければならない、となりかねません。

証拠がない現金の贈与はトラブルを招きやすく、家族間でも贈与の証拠、つまり契約書を作成するなど、明確な証拠を作っておく必要があります。

ケース1、ケース2に共通していることは、「贈与を受けたことを認めてくれるだろう」「親のお金をちゃんと使っていたことを分かってくれるだろう」と相手を信頼していて、証拠を準備することをしなかった場合、相手にその信頼を裏切られてしまうと、苦しい立場に追い込まれてしまう危険がある、ということです。

そして、現金手渡しは証拠のないことが多いため、このような状態になってしまう可能性が高いといえます。

■兄の「ひとまずハンコ押して」を信じたら…

ケース3:兄に言われるままに遺産分割協議書に署名押印したら……

相談者Eさんの父親が亡くなり、四十九日法要で親族が集まったとき、Eさんは兄から遺産分割協議書を見せられ、こう言われたそうです。

「相続税の申告などをしなければならないし、こちらでさっさと手続きを進めたいと思っている。落ち着いたら遺産から1000万円を渡すので、ひとまずこれらに署名押印してくれ」

Eさんは「1000万円もらえるならそれでいいか」と兄を信頼し、言われるまま署名押印して印鑑証明書を兄に渡してしまいました。

書類にハンコを押す人と朱肉
写真=iStock.com/RichLegg
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/RichLegg

ところが、1年経っても兄から1000万円の話が出てきません。そこで「あの件は……」と、尋ねたところ、兄から「そんな約束をした覚えはない」と言われてしまいました。

「1000万円もらえないなら遺産を法定相続分に従って受け取りたい」とEさんが言うと、兄は「もう遺産分割手続は終わっている」と言い放ち、Eさんが署名押印した「兄が遺産全部を相続する」と記載された協議書を見せました。

■1000万円を請求することは難しくなった

Eさんはこの事態をなんとかしたいと思い私のもとへいらしたのですが、すでに遺産分割協議書に署名押印してしまっており、あとで1000万円をもらうという約束に関する証拠もまったくなかったので、遺産分割協議のやり直しや1000万円の支払いを求めることは難しいと判断せざるを得ませんでした。

兄は最初からEさんを騙すつもりだったのでしょう。遺産分割協議書は署名押印をする前に記載内容をしっかり確認する必要がありますし、遺産分割協議書に書かれていない口約束を簡単に信じてはなりません。いくら信頼している相手でも目的があいまいなまま実印や印鑑登録証明書を渡すのは避けるべきです。

そもそも通常、1人の相続人が遺産全部を相続したあとに他の相続人へ贈与する行為にメリットはありません(遺産から1000万円渡すと決めるのであれば、それを遺産分割協議書に記載すればよいだけの話です)。

■相続の約束事は口頭ではなく文書で

相続手続きで使用される実印や印鑑登録証明書は思っているより重要なものです。

古山隼也『弁護士だからわかる!できる! あんしん相続』(Gakken)
古山隼也『弁護士だからわかる!できる! あんしん相続』(Gakken)

納得がいかなかったとしても自ら実印を押してしまっている以上、すでに成立した合意をなかったことにするのは困難です。

納得できていないことがあるなら、それをそのままにして「とりあえず」ハンコを押す、という選択肢は採るべきではありません。

また、内容が理解できないまま、あるいはあやふやなまま実印や印鑑登録証明書など重要なものを相手に渡すべきではありません。

内容を知らされないまま勝手に使用されたのであれば、当該手続きが無効になると考えることができますが、「内容を知らされないまま勝手に使用された」という事実を証明するのは難しいでしょう。

遺産分割協議書に記載のない約束は、録音やその他の証拠がない限り、その約束をしたこと自体を証明できないため、なかったこととして扱われてしまう可能性が高いです。

遺産分割協議においては、すべての約束事を文書に明記し、協議書にはそれが反映されるようにすることが重要です。

■相続では言われるがままになってはいけない

「相手が内容をよく理解できていないのに乗じて、自分にとって有利な内容の遺産分割協議書を完成させてしまおう」と考えている場合、相手に考える余裕を与えないために、遺産分割協議書を見せたその場で署名押印するようしつこく求めたり、署名押印するまで相手を帰らせないようにするケースもよく見られます。

特に、法要のときは他の親族の目もありますし、自分の意見を言いづらい状況になっていることもあります。また、日ごろから頭が上がらない、怖い、などと思っている人が相手の場合、その人から凄まれたりして、言われるがままという状態になってしまうこともあります。

そのため、理由などをちゃんと説明されないまま「今度の法要のときに実印と印鑑登録証明書を持ってきて」と言われたときは、本当にこれらを持っていくべきなのか、慎重に検討するほうがよいでしょう。

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古山 隼也(こやま・しゅんや)
古山綜合法律事務所 代表弁護士(大阪弁護士会所属)
1980年2月2日生まれ。大阪府枚方市出身。大阪市立大学(現・大阪公立大学)法学部卒業。もともと弁護士を目指していたが、地域に貢献できると考え、公務員に進路を変更した。2002年、大阪市役所入庁。西淀川区役所・介護保険係、大阪市政改革プロジェクトチームなどを務める。公務員としての業務の傍ら、神戸大学大学院法学研究科へ入学して、主に高齢者法を研究する。しかし、弁護士への憧れを捨てきれず退職し、京都大学大学院法学研究科法曹養成専攻に入学。2011年、31歳で司法試験に合格。大阪市内弁護士法人、京都市内法律事務所勤務を経て、2017年、古山綜合法律事務所を設立。著書に『弁護士だからわかる!できる! あんしん相続』(Gakken)がある。

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(古山綜合法律事務所 代表弁護士(大阪弁護士会所属) 古山 隼也)

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