「うちの子、布団から出られなくなっちゃって…」子育ての専門家が見た、悩む親ほどやっていない"習慣"
プレジデントオンライン / 2024年9月30日 16時15分
■休む習慣が身についていない子どもは無理をしてしまう
疲れたときに休む習慣が身についていない子は無理をします。限界まで無理をした結果、学校に行けなくなってしまう子がたくさんいます。
「疲れたな」「学校を休みたいな」と思ったときは、堂々と休むべきなのです。休めば心と体は回復します。2〜3日学校を休んで、また行けるようになれば何も問題はありません。しかし、その選択肢をとらなかったがために、ストレスと疲れをため込んで、最終的にまったく学校に行けなくなることもあります。
本格的に不登校になったときには、すでに心と体のダメージがかなり蓄積している状態なので、回復にはたくさんの時間が必要です。そのようなことになる前に、疲れたときは休んだほうがいいのです。
なかには、自分の心と体のサインに気づけず、「無理をしている」「疲れている」という自覚がない子もいます。そのような子が、「急に」今までとまったく「別人のような言動をするようになった」「ある日突然布団から出られなくなった」と、親子で相談に来られることもありますが、それは実は「急」ではないことが多いのです。
■休む習慣が身につくと大人になっても役に立つ
社会人になってからも同じことが言えます。無理をしすぎて体を壊したり、精神心理疾患と診断されたりして、休職せざるをえなくなる若い人が増えたと社会問題になっています。その一因には、もともと家庭生活の中で休む習慣や、ストレスに対処する方法を身につけていないことがあるのではないかと、私たちは考えています。
休む習慣やストレス対処は、自立してからも一生必要になるスキルなのです。どのような人も、「なんだか疲れたな」「今日は休みたい気分だ」というときがあります。
もちろん、社会人として働いていれば、おいそれとは休むことはできませんよね。
しかし、「今日は大事なミーティングがあるから休めないけど、明日の会議は自分がいなくても回るから、体調がよくないことにして欠席しよう」「今週のどこかで半休(半日休暇)を使ってマッサージに行ってこよう」などと、うまく自分をメンテナンスする術を知っていれば、疲れが初期の段階で回復して元気な状態を保てます。
ましてや、小学校や中学校の義務教育の期間は、多少休んだところで罰則があるわけでも、給料を減らされるわけでもありません。そのようなうちに「疲れたら休む」ことを学んでおくと、高校生になった頃には、「この授業を休むと単位がとれないからまずい」「この授業は休んでも大丈夫」などと、自分で考えて休む計画を立てられるようになります。それが、社会人になってからの、自分をメンテナンスする術につながっていくのです。
■親が無理をしていたらそれが当たり前になってしまう
大人も子どもも、疲れたときは休むべきです。休むことに罪悪感を抱く人もいますが、そのような必要はありません。無理をして急に倒れてしまうほうが、よほど周りにも迷惑をかけてしまいます。もちろん、自分のためにもなりませんよね。
いつまでも元気でいるために、ぜひ、子どものうちから、休む習慣やストレスに対処する方法を、家庭で身につけさせましょう。
とはいっても、「そんなこと、親から教わったことなんてないよ」と言いたくなる人もいるかもしれませんね。
確かに、「これがストレスの対処法ですよ」と、親から手取り足取り教えてもらう機会はなかったかもしれません。しかし、親の休む姿勢を見ていれば、子どもはそれを見て、自然と学んでいきます。つまり、やり方を口頭で教えるのではなく、親御さん自身がしっかり休む、その姿をお子さんに見せてあげてほしいのです。
親がいつも無理をしていたら、その背中を見た子どもは「無理するのが当たり前」と学ぶでしょう。親が休むことに罪悪感を抱いていたら、子どももその気配を敏感に察知するでしょう。そうして、休むことを知らない人間に育ってしまうかもしれません。
休む習慣を身につけることは、自立した人間になるために必要なことです。あなたが無理をしないでゆっくり休むことは、子どもの将来のためになります。親は、堂々と休むべきなのです。
■自分を犠牲にして子どもに尽くしていると視野が狭くなる
子どもが生まれて以来、子育てに必死でほとんど休めていないよ、という人がいたら、今すぐパートナーにお子さんを任せて、1週間くらいの旅行にでも出かけてきてください。
「そんなこと、絶対に無理」と思ったでしょうか? それとも、「えっ、いいのじゃあ、行ってくる」と思ったでしょうか?
アクシスでもよく同じ話をするのですが、ほぼ全員が前者の反応をします。
なぜ一人で出かけられないのかを聞くと、「罪悪感に耐えられない」「子どもがかわいそう」「パートナーに任せられない」などと答えが返ってきます。どうやら、子どもを置いて出かけるのは悪いことだと思っているようです。でも、そうなると、親自身のリフレッシュや休息は、いったいどうなってしまうのでしょうか……?
自分を犠牲にするような子どもへの尽くし方をしていると、「自分」がどんどんなくなっていきます。頭の中は子どものことで占拠され、子どものために「あれもしなきゃ、これもしなきゃ」と、見える世界がどんどん狭くなっていきます。
そうなると、わが子の成長や成績が気になってきて、他の子と比べたくなってきます。そして、他の子よりちょっといい学校に行かせたくなったり、習い事でちょっといい結果を出させたくなったりと、子どもにいろいろとさせたくなってしまうのです。
それが、早期教育や習い事の掛け持ちなどの過熱につながることもあると、私たちは考えています。子どもの脳の発達を考えると、そのようなことは望ましくありません。
■「なんだ、平気じゃん」とやがて気づく
だからこそ、子育てに必死になっている人ほど子どもと離れて、一人で出かけてみてほしいのです。
最初は心配で、居ても立っても居られない気持ちかもしれません。しかし、何日か経つと、気持ちが落ち着いてきて冷静になれます。「なんだ、けっこう、平気じゃん」と気づけるはずです。
子どもと離れて過ごす時間は、自分が一番快適に過ごせることをやってみましょう。ちょっとぜいたくなホテルに1泊だけ泊まってもいいし、映画や演劇を観るのもいいでしょう。時間や予算は人それぞれなので、できる範囲で構いません。
完全に自分のためだけの時間を持つことは、家に帰ってからの育児の質を高めます。
■パートナーに任せることで新たな親子の絆が生まれる
また、その間、パートナーが完全に自分たちだけで生活することも、とても大切なことです。
子どもはいつも一緒にいるはずの親の姿が見えなくて泣きわめくかもしれません。いつもと違う味のごはんにとまどい、食欲が落ちるかもしれません。気温の変化に対応して何を着せたらいいかもパートナーは判断できないかもしれません。
しかし、「どんなにお手上げ状態でも自分が対応するしかない」という育児環境の中で、本当の意味での親子関係はつくられていくものです。
あなたがリフレッシュして帰ってきたとき、片付けもままならなくてぐちゃぐちゃに散らかっている家の様子に、ため息が出るかもしれません。でも、困難を一緒に乗り越えたパートナーと子ども(たち)の間には、家を空ける前までになかった結びつきが感じられるのも確かなことです。「よく頑張ってたね!」と明るく認め、片付けをしましょう(笑)。
■親と離れる時間が子どもの想像力を育む
また、普段から親が子育てとは別の世界を持っていると、子ども自身の脳が豊かに育ちます。
ぜひ、本を読んだり、映画を観たり、出産前からの趣味を楽しんだりと、子どもと離れる時間をつくりましょう。違う世界を見ることで、子どもに必死になりすぎることを防げますし、子どもに語れる話の幅が広がります。
「でも、子どもを預けられる人がいない」と思った人もいるかもしれません。「夫は子どもの面倒をみるのが下手だし、部屋も散らかすから嫌だ」と話す人もいます。しかし、そこは「死ななきゃいい」の精神が大事です。
子育ては長期戦ですから、無理をしていては心と体がもちません。思い切ってパートナーに任せることを何度か経験すると、「一人の自由を味わう喜び」を思い出すことができるはずです。そうなれば、多少家が散らかっても、パートナーのお世話の仕方が雑でも、目をつぶることができるようになるでしょう。
また、どうしてもパートナーに頼むのが難しい場合は、祖父母、保育園、一時預かり、子育てサポート、ベビーシッターなどを利用することも検討してみましょう。保育園なども、現在は親のリフレッシュのために一時預かりを利用できるところが増えてきていますので、積極的に活用しましょう。
とにかく、どのような手段を使ってでも、親が子どもと離れてリフレッシュする時間は必要です。それが結局、子どものためになるからです。
親が子どもから離れれば、子どもは自由に好きなことをしたり考えたりして、脳が刺激されます。脳が活性化することで想像力が豊かに育ちます。
逆説的ですが、親が子どもから離れることで、子ども自身の育ちを促せるのです。
ですから、親がリフレッシュすることは決して悪いことでも、罪悪感を抱くべきことでもありません。子どもを幸せにする子育てがしたいのなら、ぜひ、お子さんと離れる時間を日常的につくってみてください。
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文教大学教育学部教授、子育て支援事業「子育て科学アクシス」代表
小児科医・医学博士・公認心理士。1987年神戸大学卒業後、米国ワシントン大学医学部や筑波大学基礎医学系で分子生物学・発生学・解剖学・脳科学の研究を行う。臨床医、研究者としての活動も続けながら、医療、心理、教育、福祉を融合した新しい子育て理論を展開している。著書に『「発達障害」と間違われる子どもたち』(青春出版社)、『高学歴親という病』(講談社)、『山中教授、同級生の小児脳科学者と子育てを語る』(共著、講談社)、『子どもの脳を発達させるペアレンティング・トレーニング』(共著、合同出版)、『子どもの隠れた力を引き出す最高の受験戦略 中学受験から医学部まで突破した科学的な脳育法』(朝日新書)など多数。
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公認心理師・臨床心理士・子育て科学アクシススタッフ
公認心理師・臨床心理士・子育て科学アクシススタッフ。1999年、茨城大学大学院教育学研究科を修了した後、適応指導教室・児童相談所・病弱特別支援学校院内学級に勤務し、子ども達の社会性をはぐくむ実践的な支援に力を注ぐ。また、茨城県発達障害者支援センターにおいて成人の発達障害当事者や保護者を含めた家族支援に携わる。2014年より現職。
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(文教大学教育学部教授、子育て支援事業「子育て科学アクシス」代表 成田 奈緒子、公認心理師・臨床心理士・子育て科学アクシススタッフ 上岡 勇二)
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