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運転手が「ヨボヨボの高齢者」だからではない…"恐怖の逆走車両"を次々と生み出す高速道路の知られざる真実

プレジデントオンライン / 2024年9月28日 7時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Tashi-Delek

逆走事故はなぜなくならないのだろうか。モータージャーナリストの会田肇さんは「日本の高速道路のICは物理的に逆走可能な構造のものが多い。それ以上に、有料道路特有の『損したくない』という感情が逆走を生んでいる可能性がある」という――。

■痛ましい逆走事故が相次いでいる

逆走事故が頻発している。

今年8月中旬、東北道において2日連続で逆走を起因とする事故が発生した。特に15日に那須塩原市付近で発生した軽ライトバンと乗用車が正面衝突した事故では、共に運転していた男性2人が死亡し、乗用車に乗っていた子ども2人が重傷を負うという痛ましい結果となった。

相次ぐ逆走はどうして発生するのか。また、どうすれば逆走を防ぐことはできるのかを考えてみたい。

この事故は8月15日に那須塩原市付近の東北道下り線で発生。報道によれば、軽ライトバンが東北道下り本線上をUターンして追い越し車線を逆走したことによって生じたと伝えられている。現場をGoogleマップのストリートビューで確認してみると、付近には「黒磯板室IC」があるが、よく見るとこの出口からは「黒磯PA」に向かうこともできるようになっている。ただし、黒磯PAに入ってしまうと黒磯板室ICから出られなくなってしまう。

この状況から推察すると、軽ライトバンのドライバーは、東北道下り線・黒磯板室ICから出ようとしていたのではないか。しかし、このドライバーはそのまま本線上をスルーしてしまったか、あるいは一旦は本線上から出口へと向かったものの、誤って黒磯PAへとクルマを進めてしまい、再び本線へと戻ってしまった可能性がある。

そして、目的の出口である黒磯板室ICから出たいという思いが先行し、一般道と同じ感覚でUターンして左側車線、つまり本線下り線の追い越し車線を逆走してしまったのではないだろうか。

■高速道路の逆走件数はあまり減っていない

NEXCO東日本の資料によれば、高速道路における逆走事案発生件数は調査を始めた2015年をピークに、少しずつ減っていき、コロナ禍による行動制限もあって20年には激減した。しかし、翌21年に再び増加に転じ、23年には15年の約9割にまで達している。

また、この逆走が事故につながった件数は年度ごとにバラツキはあるが、2016年をピークにそこから23年は3割減少している状況にある。とはいえ、逆走がある限り、正面衝突の可能性は高く、その時の相対速度を考えればそれによって受けるダメージは甚大だ。

■高齢者は「片側2車線道路」に慣れていない

では、逆走する要因には何があるのだろうか。

まず考えられるのがドライバーの資質の問題だ。NEXCO東日本の資料には、逆走した人の68%が65歳以上の高齢者であることが示されている。加齢によって正しい状況判断ができにくくなることは考えられるし、一方で年齢が上がっても自分の運転に自信を持ち続ける人も少なくないと聞く。つまり、自信があるからこそ、逆走してもそれが誤りであることをなかなか自覚しない可能性もあるのだ。

特に高齢者は古い時代から運転の経験を積んだこともあり、そもそも複数車線の道路に不慣れな人も少なくない。つまり、片側2車線以上の追い越し車線を左側通行用の車線と勘違いしがちなのだ。これは一般道で多く見かける事例で、特に交差点での広い道路では右折する際に勘違いしやすい。本来なら中央分離帯の奥側に入るべきなのを手前で進入して反対車線を逆走してしまうのだ。

■「物理的に逆走可能」なICが全国にある

特にデータが上がっているわけではないが、日本の高速道路でよく見かける、インターチェンジのある構造にも逆走へつながる問題が潜んでいるような気もしている。

逆走事故があった現場付近の黒磯板室IC。路面で色分けされ、「進入禁止」の看板もあるが、物理的には進入可能になっている。(Google Mapより)
逆走事故があった現場付近の黒磯板室IC。路面で色分けされ、「進入禁止」の看板もあるが、物理的には進入可能になっている。(Google Mapより)

冒頭に紹介した逆走事故が発生した場所の近くにある東北道の黒磯板室ICの状況を例に紹介すると、料金所を過ぎて、本線へ向かうと「東京」方面と「福島」方面への分岐点があるが、問題は東京方面へ向かったその先。ストリートビューで現場を確認すると、そこには「左折できません」「左折禁止」の警告標識と、路面のカラー舗装で東京方面へ進むように案内されてはいるものの、構造的には単純な「T字路」なので、行こうと思えば福島方面へと逆走して進むこともできるのだ。

実はこのような構造になっているインターチェンジは全国には数多くあり、私がよく利用する東関東自動車道の四街道ICも似た構造になっていて、その気になれば簡単に逆走できてしまう状況にある。要は、物理的に逆走できる構造をインターチェンジに作ってしまっているわけで、思い込みから間違えてしまう可能性は十分あると言っていいだろう。だからといって、このインターチェンジの構造を変えることがそう簡単ではないのも理解できる。

■国交省が議論を進める「逆走防止対策」

こうした状況の中で、国土交通省や高速道路会社もさまざまな対策を講じてきた。2014年から対策を開始し、翌15年には高速道路での逆走対策の有識者委員会を設置。19年には「2029年までに逆走による重大事故ゼロ」という目標を掲げて逆走対策を推進していくとした。

逆走対策技術についての公募も行われており、テーマ別に3つの方法が検討されている。

ウェッジハンプ(NEXCO東日本HPより)
ウェッジハンプ(NEXCO東日本HPより)

「テーマI」で扱われているのは、道路側での物理的・視覚的対策を行って逆走車両へ注意喚起を行う技術だ。11種類の注意喚起技術からいくつかピックアップすると、「ウェッジハンプ」は路面にくさび形の非対称段差を設置して、車両が乗り越える際の衝撃で注意喚起を行うもの。「LED発光体付ラバーポールウイングサイン」は、既存のラバーポールへ文字や矢印を大きく表示させることで逆走を未然に防止する。

これらはほとんどが表示による注意喚起が中心だが、中には路面に設置した突起で車両に衝撃を与える「路面埋込型ブレード」や、料金所前後の通行分離帯に設置する「開口部ボラード」を使って、物理的に逆走車を阻止しようとする仕組みも検討されているようだ。

「テーマII」では、準ミリ波レーダーやマイクロ波、3Dステレオカメラなどを活用して、アクティブに逆走車を検知して情報を収集する技術など4技術が選定された。また、「テーマIII」では自動車側で逆走を発見してその情報を他の車両に伝えて事故の発生を未然に防止するものとなる。

■逆走の4件に1件が「故意」によるもの

こうした取り組みは一定の効果を生むのは間違いない。しかし、これらが逆走を根絶するには十分ではない気もする。というのも、「故意」に逆走するドライバーも一定数いることも明らかになっているからだ。

先のNEXCO東日本の資料によれば、2023年に高速道路上で発生した逆走は224件だが、なんとそのうちの24%、53件が「故意」による逆走だったというのだ。故意で逆走するとなれば、いくら警告や注意を促しても効果はほぼないに等しい。これは有識者委員会でも議論の対象となった。

そこで逆走対策としてもっとも効果的と考えられるのが、欧米などで採用されている「トラフィックスパイク」「スパイク・ストリップ」などと呼ばれるものだ。

一方通行道路の交通対策
写真=iStock.com/3sbworld
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/3sbworld

これは、路面から“スパイク”状の突起物を出しておき、順方向で通過する際はこのスパイクが車両の重さで路面内に沈む。これによって、正常な方向に進む車両は問題なく通過できる。しかし、逆走車に対してはスパイクは突き出たままで、これをタイヤが踏めばパンクして走行できなくなるというもので、いわば逆走を強制的に止めてしまおうというわけだ。

■「強制的にパンク」は高速道路では難しい

しかし、この件は逆走対策技術についての公募に含まれていない。近いものとして公募されたのが「路面埋込型ブレード」だが、これは仕組みこそ「トラフィックスパイク」「スパイク・ストリップ」などと似ているが、路面から出ているのは突起物であり、逆走車両に対して衝撃を与えるだけのもの。これだと乗り越えて通過することは可能で、ウェッジハンプと大きな違いは見受けられない。

路面埋込型ブレード(国土交通省の資料より)
路面埋込型ブレード(国土交通省の資料より)

では、どうして「トラフィックスパイク」「スパイク・ストリップ」は採用されないのか。最大の理由は、この技術はあくまで低速で対応するもので、それは一般道での路地進入を阻止する役割でしかないとされているからだ。しかも、頻繁に車両が行き交う高速道路では耐久性にも課題は残る。もっと言えば、強制的にパンクさせる行為が日本では馴染まないとの考えが底辺にあるのではないか。

ならば、どうすれば逆走は防げるのか。個人的に提案したいのは、高速の出入口やサービス/パーキングエリアにおけるQRコードを活用した逆走防止策だ。これを読み取ることでエンジンの出力を抑えるか、停止させることで逆走防止につなげるのだ。QRコードは一部を読み取るだけで認識できるため、多少の汚れにも強く、屋外の設置にも十分対応できると思う。

すでに多くの車両には自動ブレーキ(衝突被害軽減ブレーキ)が搭載され、2021年以降の新型車からは搭載が義務化されてもいる。これに使うカメラを活用することで対応はできるのではないだろうか。

■「行き過ぎても申告すれば正規料金で戻れる」ことを周知すべき

それと、出口を誤って通過してしまった時の特別対応をもっとPRすべきではないか。これは、「行き過ぎてしまったと気付いたら、次の料金所へ進み、そこで一般レーンで行き過ぎてしまった理由を料金所で申し出ることで、本来の料金所までの通行料金で済む特別対応を行う」というもの。高速道路会社ではこの対応をホームページにも記載しているが、これをどれだけの人が認知しているだろうか。

小田原本線料金所
写真=iStock.com/gyro
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/gyro

先日、身内で不幸があり、その時に集まった高齢ドライバーにこの特別対応の話をしてみると、知っていたのは元警察官だけだった。大半の人が出口を通過したらその分の料金は支払うことになると思い込んでいるのだ。これでは本来の出口に戻りたくなる気持ちが生まれても不思議ではない。

いずれにしても、逆走事案は高速道路だけでも年間で200件以上も発生している。逆走は死亡事故にもつながる可能性が高い迷惑行為そのものだ。なんとしても根絶すべき事案であることは間違いない。

今、各ドライバーが考えられる逆走に対する自己防衛策は、なるべく追い越し車線は走らないか、走ったとしても逆走車がいる可能性をいつも念頭に置いておくことぐらいだろうか。一日も早い逆走の根絶を願ってやまない。

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会田 肇(あいだ・はじめ)
モータージャーナリスト
1956年茨城県生まれ。明治大学政経学部卒。自動車雑誌編集者として勤務後、1987年よりフリージャーナリストへ転身。カーナビなどカーAV機器のレポートを行う一方で、自動運転やEVなど新エネルギー車を含む最先端のITS(Intelligent Transport Systems) についての取材も行う。趣味は好きな音楽を聴きながらドライブすること。これがクルマからカーオーディオ、カーナビ、ひいてはITSにまで関心を寄せる礎となった。

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(モータージャーナリスト 会田 肇)

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