葬式で「故人とは生存中はたびたびお会いした」と言ってはいけない…遺族を悲しませる「忌み言葉」を解説する
プレジデントオンライン / 2024年10月6日 17時15分
※本稿は、千 宗屋『いつも感じのいい人のたった6つの習慣』(小学館)の一部を再編集したものです。
■突然の訃報に際し、普段からやっておくべきこと
訃報は突然やってきます。
葬式に臨むにあたって、他の冠婚祭といちばん異なるのは、準備の時間がほとんどないということです。
報せを受けてどうするか、失礼にならない装いや正しい弔意の示し方はどうだったか……。昨今は知人や隣人の葬式に参列する機会が少なくなっていることから、いざとなった時にあわてることも多いでしょう。ましてや遺族側は、精神的な痛手を受けている中でさまざまな支度をしなければなりません。
できれば日頃から、お通夜や告別式に備えて季節ごとの衣服やバッグ、靴などを用意しておき、数珠や袱紗などの置き場も決めておきたいもの。動転しながらでも必要な身支度を整えることができるでしょう。
かといって、葬式に対していつも準備万端というのも、それはそれで不自然です。突然もたらされる親しい方の訃報に対し、心残りのない対応ができるよう、心がまえだけはしておきたいものです。
■葬式とは社会を知ることである
冠婚葬祭の四大儀礼の中で、葬式は特に社会的な意味が大きいように思われます。かつては新聞に大きな死亡広告欄があり、地方紙などでは一面を使うところもありましたが、今では少なくなりました。それは、亡くなったという事実を広く社会に知らせることが必要だったからと考えられます。
現代では葬式そのものも小規模になりつつあり、逝去したことを周囲に知らせるのも、SNSを使ったり個人的に一斉メールで送信したりといった手段がよく取られます。その場で知らせるまでもない間柄の人には、年賀状の代わりに喪中葉書を出すことで亡くなったということを報告する人も多いでしょう。
そんな現代においても、葬式というのは単に個人と個人の関係を越えて、社会のつながりのあり方を再確認したり、整理をしたりする機会であると思うのです。ご遺族への共感、共通の友人や知人との再会、思わぬつながりの発見など、葬式を通じて自分が属する社会の関係を感じることもままあるはずです。
■葬式においてタブーとされる言葉とは
葬式の意味はもうひとつあります。
それは、葬式に参列して祭壇の前で手を合わせ、ご遺族や知人と話をすることで、気持ちの整理がつき、心の安らぎを得られるということです。亡くなったことを知らず、喪中葉書や人の噂で知った場合は、なんとも気持ちのやりどころがないものです。親しかった方に対しては、できることなら悔いなくお送りしたいと思うものです。
それだけに、葬式というのはたいへん重要でおろそかにしてはならないと、私は常々感じています。
結婚式に関する忌み言葉にもまして、葬式には忌み言葉やタブーが数多く存在します。
葬式での忌み言葉の例としては、まず、重ね言葉があります。「重ねがさね」「次々に」「繰り返し」「たびたび」「ますます」「くれぐれも」のように、不幸が重なることを連想させる言葉は使いません。
また、生や死に対する直接的な表現も使いません。「死亡する」や「亡くなった」は、「他界する」「ご逝去」などに言い換え、「生きていた頃」「生存中」などは「お元気だった頃」に、「事故死」「病死」などの死因について葬儀の場で言及するのは避けましょう。
■これ以上、遺族を悲しませてはいけない
大切なのは、遺族に対してかける不用意な言葉や、葬儀での失礼なふるまいにより、ただでさえ心痛の深い遺族をさらに悲しい気持ちにさせてしまってはならないということ。葬式では、どの儀式よりもよりいっそうの繊細な気づかいが必要です。
遺族側のタブーは、故人の棺に生きている人の写真は入れないなどがありますが、葬儀社から説明があるので、くわしく知っておく必要はありません。
例
再び→今一度
追って→後ほど
引き続き→これからも
忙しい→多用
■原則として身内でなければ喪服でなくても良い
葬式全般において、何よりも優先すべきは遺族の心情です。それは、他の冠婚祭の祝いごととは人と人との距離の取り方が変わってくるからです。
祝いごとの儀式に関しても、基本は相手の都合や考え、心情を慮り優先させることは同じですが、葬式ではそこはさらに厳しく守りたいものです。
お通夜や告別式に列席する際の服装は、今では一般的にどちらも喪服とされているようですが、もともとは少し事情が違っていました。
お通夜というのは、突然の訃報を受けて取るものも取りあえず駆けつけるものです。むしろ喪服で固めて伺うというのは、準備をしていたかのようで失礼にあたるとする考え方が、かつては主流でした。
現代においても、アクセサリーや派手な時計などは外し、地味な色合いの装いであれば、平服でお通夜に伺っても問題はありません。
原則として、喪服というのは遺族や近親者が喪に服していることを示すための服装で、喪章も同様です。ですので、身内ではない参列者は必ず喪服でなければならないというわけではないのです。
もっと言えば、紋付のきものの喪服は第一正装とされ、配偶者や子どもなどの近しい遺族のみが身につける決まりです。そのため、弔問客がきもので参列する場合は、地味な色の無地のきものに黒の帯というふうに、格差をつけることが正しいとされています。
■訃報がもたらされたときにやるべきこと
とはいえ、昨今のようにほとんどの人がお通夜も告別式も喪服で参列するのがふつうになっている中で、その正しさや考えを押し通すのもいかがなものかと思われます。また、地域や家によってそれぞれの習わしが決まっている場合もあります。
葬式とは、深い悲しみの中にある遺族と共に、故人を弔う場です。あくまでも遺族の心情を優先し、悪目立ちせず場にふさわしい装いを心がけたいものです。
関係者から訃報がもたらされた時、すぐに遺族に直接連絡を取ろうとするのは控えましょう。おそらくは、いまだ深いショック状態の中で葬儀の準備に追われるという、混乱の渦中にあると思われるからです。そうした事情を考慮し、これ以上のご負担はかけないようにしたいものです。
ここでできることは、故人の共通の知人や仕事の関係者などと連絡を取り、お通夜や告別式の日時や場所、葬儀の種類、偲ぶ会などが開かれる予定なのかどうか、花や弔電の宛先はどこか、といった情報を集めることです。
それがわかれば、その後弔問の予定を立て、スケジュールを調整することができます。
■弔電を送ることに躊躇はいらない
遺族にはすぐに連絡を取らないと前項で述べましたが、逆の場合ももちろんあります。故人と非常に親しい関係で、なおかつ日頃から家族とも懇意にしている間柄ならば、何をおいてもまず駆けつけたいものです。
故人に最後の別れをさせていただき、遺族と悲しみを共有することで、互いに慰められる一瞬が訪れるのではないでしょうか。こうした行為は、自身の動揺や心の痛みに対処する意味でも大切なことだと思います。葬儀の準備など手伝いを申し出、できることには積極的に参加させていただくのもよいでしょう。
昨今は、お通夜や告別式へ伺うこと、供花を送ることを遺族が辞退されるケースも多くなっています。そんな時でも、弔電を送ることに躊躇はいりません。
いまだお悔やみを受け入れられない遺族の心情に寄り添いつつも、できるだけ負担のかからない方法で心のこもった弔いの気持ちを伝えるのは、遺族の慰めにもなり、自分なりの心の整理、グリーフケアにもつながることです。
コロナ禍を機に大規模な告別式が減っています。故人が高齢だった場合などは、家族葬ですますという連絡が来ることもしばしばです。また、似たようなニュアンスで密葬という言葉もよく使われます。まずはこれらの意味と違いを正しく理解しておきましょう。
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茶人、慶応義塾大学特任教授
千利休に始まる三千家のひとつ、武者小路千家家元後嗣。1975年、京都市生まれ。慶應義塾大学大学院前期博士課程修了。2003年、武者小路千家15代次期家元として後嗣号「宗屋」を襲名し、同年大徳寺にて得度、「隨縁斎」の斎号を受ける。2008年、文化庁文化交流使として1年間ニューヨークに滞在。2013年、京都府文化賞奨励賞受賞、2014年から京都国際観光大使。2015年、京都市芸術新人賞受賞。今秋、人間関係をよくする日本人のふるまい方を説く書籍『いつも感じのいい人のたった6つの習慣』(小学館)を上梓。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任教授、明治学院大学非常勤講師(日本美術史)。一児の父。
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(茶人、慶応義塾大学特任教授 千 宗屋)
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