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東京ドーム移転→後楽園に「巨大カジノ構想」が急浮上…都知事選で小池百合子氏がボカした「IR誘致」の現在地

プレジデントオンライン / 2024年9月30日 7時15分

岸田文雄首相との面会後、記者団の質問に答える3選を果たした小池百合子東京都知事(=2024年7月9日、首相官邸) - 写真=時事通信フォト

カジノを含むIR(統合型リゾート)の建設をめぐっては、大阪府・大阪市が夢洲地区に2030年秋ごろの開業を目指している。一方、東京ではIR誘致の状況はどうなっているのか。『カジノ列島ニッポン』(集英社新書)を出したジャーナリストの高野真吾さんがリポートする――。

■都知事選の論戦テーマになる「東京カジノ」

小池百合子氏が3選を目指した2024年の東京都知事選が、同年6月20日告示、7月7日投開票で実施された。広島県安芸高田市長だった石丸伸二氏や立憲民主党で参院議員を務めた蓮舫氏ら多彩なメンバーが立候補し、首都トップの座をめぐり、熱戦を繰り広げた。

2016年8月からトップを務め、今回の選挙で3選を果たした小池氏は、どう語ってきたのだろうか。前回2020年7月にあった都知事選は、「東京カジノ」が論戦テーマの一つになっていた。そこでの発言から拾っていこう。

振り返ると2020年になって本格的に広まった新型コロナウイルスへの対応に伴い、小池氏のメディア露出が激増。強いリーダーを演出することに成功し、その年の都知事選では当初から圧勝が見込まれていた。実際の得票数も366万票を超え、得票率は6割近くに。次点の宇都宮健児氏(弁護士・元日弁連会長)は84万票超にとどまり、下馬評通りの結果となった。

コロナ対応の是非などに加え、会見や候補者討論会ではカジノ誘致の是非も繰り返し問われた。同年6月15日、小池氏の政策発表会見では、一人の記者が質疑の時間に切り込んだ。

■「誘致の是非について」記者からの問いには…

【記者】IR誘致についてお尋ねします。知事は常々、IR誘致について是非は明言をしてきておりませんでした。例えば今度の知事選では、競合される候補者に反対の方がいたり、積極的だったりする方がいます。有権者にIR誘致に関する選択材料を与えるという意味でも、誘致の是非について、姿勢を明言していただけますでしょうか。

【小池氏】これについては、ずっと申し上げていますけれども、メリット、デメリット両方があるわけでございます。そしてまた、例えば、今コロナというような状況もございますけど、今後どうやってこの東京を魅力的な街にしていくのかという点でのIRの存在。また一方で、それによる依存症という問題もございますので、引き続き、メリット、デメリットについては検討をしていくという姿勢には変わりがございません。

続く6月17日には、立候補予定者の共同記者会見があった。候補者同士による質問タイムがあり、IR誘致反対を明確にしている宇都宮氏が小池氏に問うた。

■「賛否を明らかにすべきではないのか」

【宇都宮氏】カジノの誘致計画はきっぱりと中止すべきではないかと思いますけど、その点、どのようにお考えでしょうか。カジノは博打なので、負けた人の犠牲の上に成り立つ商売なのですね。人の不幸の上に成り立つような、カジノ誘致はきっぱり中止すべきだと思いますけど、いかがでしょうか。

【小池氏】今お話もありましたように、勝つ人というか、負ける人のことをベースに成り立っているというようなご質問だったかと思います。一方、観光という点では、それは誘客についてはメリットもある。これらメリット、デメリットを含めまして、研究をしているということで、総合的な検討が必要だという姿勢でございます。

この会見では、日本記者クラブの企画委員も重ねて質問している。

【委員】カジノを含む統合型リゾートの誘致に関して質問させてください。今のところですね、小池さんも先ほどおっしゃっていましたけれども、メリット、経済成長というメリット、またギャンブル依存症、そういうデメリットの両面を踏まえて検討するということで、はっきりと賛否は明らかにされていないのですけど、この選挙戦でやっぱり小池知事も賛否を明らかにすべきではないのかと私たちは考えております。

このように迫られても、小池氏は定型を崩すことはなかった。

■「東京にカジノを誘致する?」の質問には「△」

【小池氏】かねてより、申し上げておりますように、まず外国人の旅行客を始めとする観光、経済への成長を進めていくというメリットはあります。まさしく稼ぐ東京であります。一方で、先ほどから出ておりますように、依存症の問題等があるわけでございまして、ここをずっとメリット、デメリットの検討をしているということであります。

国もですね、さまざまな計画が今後ろ倒しになっているというふうに聴いております。それらのことを見ながら、総合的な判断、検討をしていくということであります。

6月27日には小池氏、宇都宮氏ら候補四氏が集まった討論会があった。報道やドキュメンタリー制作に携わるディレクターや監督らによる有志の映像制作集団「Choose Life Project」が企画した。「東京にカジノを誘致する?」の質問に対し、小池氏の回答は「△」。司会のジャーナリスト津田大介氏から理由を問われ、次のように答えた。

【小池氏】これはご承知のように観光産業としてのメリット、そしてまた、それによってさまざまな依存症をつくってしまうということ、メリット、デメリットがあるということで検証を、または研究を重ねているということから「△」を出させていただきました。

■カジノ候補地・江東区の状況は

2023年11月、旧知のカジノ反対派の2人に改めて連絡を取った。一人は「カジノいらない!東京連絡会」代表幹事の一人で弁護士の釜井英法さん。もう一人が、「市民と政治をつなぐ江東市民連合」事務局次長の芦澤礼子さんだ。2020年10月、臨海都民連の矢野政昭さんと青海地区を回った時、お二方に同行してもらっている。

東京の青海コンテナターミナルのガントリークレーン
写真=iStock.com/HanzoPhoto
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/HanzoPhoto

釜井さん・芦澤さん・矢野さんの3人は、2020年1月に発足した「カジノいらない!東京連絡会」のメンバーでもある。同会は「主婦連合会」「東京消費者団体連絡センター」のほか、芦澤さんの「江東市民連合」、矢野さんの「臨海都民連」など七団体で構成されている。

2月には「東京のカジノ建設予定地 江東区青海地区(北側)見学会」を開催。6月には小池知事に対し、2064筆のカジノ誘致反対署名と「IR誘致の是非に関する態度表明を求める申入書」を提出した。また、10月には、静岡大学教授(国際金融論)で『カジノ幻想』の著者である鳥畑与一氏を招いたオンライン学習会を開いている。

釜井さんは2020年10月の取材時、30年超にわたる弁護士活動の経験からカジノに反対する理由を語った。

■コロナ禍を経て東京都の姿勢は後退?

多重債務や自己破産の相談者には、ギャンブルが原因となった人たちが少なくない。そのような人たちは、多重債務を整理する過程で多くの人が再度、ギャンブルに手を出してしまう。その結果、生活再建に支障が生じるだけでなく、家族との信頼関係にもひびが入ってしまう。「本来カジノは賭博罪に該当する犯罪です。人の不幸を生み出すカジノを賭博罪の例外とし、国策として受け入れるのはあり得ない」。力強くこう言い切った。

今回の取材では、東京都が2023年1月にまとめた「未来の東京戦略2023」で、IR誘致への言及がなかったことへの一定の評価を口にした。172ページ分の資料をめくると、「MICE誘致競争力強化」とは出てくる。

そこには「環境配慮型MICE」や「次世代型MICE」とあるものの、確かにIR誘致と絡めた文脈にはなっていない。2019年に官民連携チームが出した資料とは、印象がかなり異なる。この点について、釜井さんは「コロナ禍を経て都のIR誘致への前のめりの姿勢が、やや後退しているように感じる」とした。

しかし、もちろん東京カジノへの警戒を解いているわけではない。釜井さんが代表幹事の一人になっている「カジノいらない!東京連絡会」は前回、2020年7月の都知事選候補者にIR誘致に関する公開質問状を出した。2024年夏に実施される都知事選でも、「同じく実施を検討していきたい」と話したが、その言葉通りに実行した。

■地元選出の秋元司氏が「IR賄賂」で逮捕され…

芦澤さんとはオンラインでの再会となった。彼女が事務局次長を務める「江東市民連合」は、2017年に改憲阻止と野党連合政権の成立に貢献しようと立ち上がった。連合がカジノの問題に関心を持ったのは2019年の終わり頃から。

同年12月に東京地検特捜部が衆院議員の秋元司氏を逮捕する。IR参入を目指していた中国企業側から370万円相当の賄賂を受け取ったとされる収賄容疑だ。現職国会議員の逮捕は約10年ぶりだった。

この「IR汚職」の渦中の人物となった秋元氏は、江東区の選出。江東市民連合は江東区役所前にある秋元氏の事務所前で抗議行動をしたり、同氏に公開質問状を提出したりと動いた。現場ルポでも説明したように、東京カジノの有力候補とされる青海地区は同区にある。江東市民連合のメンバー間で、「カジノ問題にきちんと取り組んでいこう」との意識が高まった。そうした流れもあり、「カジノいらない!東京連絡会」にも加わった。

■「カジノで街おこしをしなくても十分に成り立つ」

2020年の取材時、芦澤さんは「江東区は財政的にも文化的にも豊かで、カジノで街おこしをしなくても十分に成り立つ」「カジノが来たらその周辺は荒廃する。私たちの江東区でそんなことを絶対に許してはならない」と語っていた。

その後、芦澤さんは2023年4月に開かれた江東区長選に共産、社民の推薦を受けて立候補している。当選には至らなかったが、「カジノ反対」の論陣を張った。

改めて連絡を取った同年11月、芦澤さんは多忙を極めていた。芦澤さんも出馬した選挙で当選して区長になった木村弥生氏が同月、突然に辞職したからだ。4月の区長選で、有料のインターネット広告をYouTubeに掲載した公職選挙法違反容疑で捜査を受けたことが原因だ。この件への関与が浮上した地元選出の自民党衆院議員、柿沢未途氏も法務副大臣を辞めることになるなど、余波も大きかった。

こうした状況下、芦澤さんは2020年の時よりもさらに強く、「東京カジノ」への危機感を示した。その背景には、拙著『カジノ列島ニッポン』(集英社新書)の第6章で詳述する「維新」の動きがある。

■「IR推進派」が江東区議選で3人当選

大阪から始まった「日本維新の会」は、全国政党化に向けて勢力を伸ばしている。IR推進を掲げるこの党が、江東区でも着実に浸透中なのだ。2023年4月にあった同区議選では、59人が立候補し、定数44を争った。その結果、維新の区議が3人誕生した。しかも、2人は得票順で5位、6位と上位で当選。残る一人も、20位と余裕の通過だった。

「東京都がカジノへの立場をはっきりさせないから、確かに反対する私たちも動きにくい。しかし、都は諦めたわけではない。IR推進派の維新の影響力が江東区内や他の地域で高まっていることを考えると、皆の危機感を高めていきたい」

芦澤さんの熱量は、画面越しからでも、はっきりと感じられるほどだった。

一連の取材を続けていた2023年冬、興味深い話を聞いた。その情報をもたらしたのは、自民党政治家にパイプがあり、IR事業への参入を目指している実業家のAさん。新型コロナウイルスの流行以前から定期的に面会し、メディアには載らない霞が関・永田町界隈でのIR情報を教えてもらってきた。その流れで、この書籍の出版計画も初期の段階で打ち明けている。

■東京ドーム跡地がカジノに?

肌寒さを感じるようになったある日、出版に向けた準備状況報告のため、都内事務所に伺った。すると、旧築地市場(中央区)の跡地再開発計画と絡めた、とある構想を持ち出した。

小池知事は2023年9月、募集していたこの計画に複数の事業者から提案書の提出があったことを定例記者会見で明らかにしている。この際の一部報道では、本命は三井不動産を主体とする企業グループで、そこには鹿島建設や大成建設などゼネコン数社のほか読売新聞グループ本社も参加するとされた(実際2024年4月に同企業グループに決定したことが発表され、約5万人を収容可能なスタジアムの建設構想が明らかになった)。

読売が加わるのは、プロ野球の巨人が東京ドーム(文京区)に替わる本拠地にするためと伝えるニュースも出た。確かに東京ドームは1988年の開業から35年以上が経過し、そう遠くないうちに、老朽化問題が浮上すると言われている。

ここまでは表に出てきている情報だが、Aさんによるとプラスの構想がある。それは、東京ドームや温浴施設「スパ ラクーア」などからなる「東京ドームシティ」一帯を再開発し、東京IRに造り変えるというものだ。同シティは都心のど真ん中に位置し、文京区は東京大学本郷キャンパスがあるなど日本屈指の文教地区として知られている。

青空の東京ドームシティ
写真=iStock.com/naotoshinkai
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/naotoshinkai

■「IR推進派からすると、やっぱり東京に欲しい」

そんな落ち着いた街のど真ん中に、カジノを含むIR施設が誕生する可能性はあるのか。しかも、大阪IRに比べると敷地面積ははるかに狭い。カジノはIR施設の3%までとするルールがあるため、敷地面積が狭くなると当然、カジノエリアも縮小する。

高野真吾『カジノ列島ニッポン』(集英社新書)
高野真吾『カジノ列島ニッポン』(集英社新書)

この点について、Aさんは次のように説明した。

「カジノの規模は大きければ良いというものでもないですし、周辺地区とIRをうまく隔てる設計の仕方もある。ようは、やろうとすればできるわけですよ。IR推進派からすると、やっぱり東京に欲しい。あくまで一つの構想ですが、近いうちに具体的な計画に向けて青写真を描き始めると聞いています」

僕はさすがに実現の可能性は低いと見るが、予断を持たずに情報収集に当たることにする。

こうしたさまざまな情報や構想が飛び交うほど、「東京カジノ」には妖しい魅力がある。そして、コロナという足かせがなくなった今、またぞろ実現に向け動き出している人々がいる。

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高野 真吾(たかの・しんご)
ジャーナリスト
1976年生まれ。埼玉県川越市出身。早稲田大学政治経済学部在学中に、早稲田マスコミ塾に入って文章を書く面白さに目覚め、1998年に報道機関に入社。社会、経済、国際ニュースに幅広く携わりながら、次第にネットニュースにも活動の幅を広げる。20代からマカオ、韓国、ベトナムなどの海外でカジノを経験してきた。

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(ジャーナリスト 高野 真吾)

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