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6000万戸もの「売れ残りタワマン」に習近平主席もお手上げ…「EV頼み」でも経済を立て直せない中国政府の大迷走

プレジデントオンライン / 2024年9月30日 9時15分

2024年9月14日の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)創設70周年祝賀大会で重要演説を行う中国の習近平氏〔新華社=中国通信〕 - 写真=中国通信/時事通信フォト

■住宅価格の下落に歯止めがかからない

中国の不動産バブル崩壊が始まってから、早くも数年の時が過ぎた。中国政府が対策しているにもかかわらず、住宅価格の下落に歯止めがかからない。むしろ、中国主要都市の住宅価格の下落ペースは加速する傾向さえ見える。

地方都市の中には、住宅の在庫圧縮に10年程度を要すると試算されるケースもある。中国政府は、地方政府に対して住宅市場の下支えのため買い取り策などを指示したが、今のところ目立った効果は出ていない。地方政府は財政の悪化により、不動産市場への介入を緩めざるを得ないところも出ている。地方政府が新築住宅の価格指導を停止し、住宅価格が急激に下落するケースもある。

ここから先、どこまで価格が下がるか予想は難しい。中国の家計部門が抱える不動産ローンを見ても、不動産バブル崩壊の影響が経済全体に重大な影響を与えていることがわかる。当面、個人消費が盛り上がることは考えにくい。不動産市況の回復なくして、中国経済の本格的な回復は望めないだろう。

■“中国のシリコンバレー”でも新築価格が下落

中国国家統計局が発表した8月の新築住宅価格は、主要70都市のうち67都市で前月から下落した。下落した都市の数は前月から1都市増えた。前月から価格が上昇したのは上海と南京、前月から横ばいだったのは陝西省西安だけだった。

政治の中心地である北京や、IT先端企業が集積する“中国のシリコンバレー”と呼ばれる深圳でも新築住宅の価格は下落した。海外の金融データ企業の試算では、70都市の新築価格は単純平均で前年同月比5.3%下落した。約9年ぶりの下落率といわれている。

住宅の需給動向を反映する中古住宅の価格も、下落トレンドは明確になっている。8月、全70都市のうち、下落したのは前月から2都市増えて69だった。70都市全体で前年同月比の下落率は8.2%だ。

2023年半ば、不動産デベロッパーの破綻懸念を背景に、中国の新築・中古住宅ともに下落に拍車がかかった。足許の価格下落ペースは当時を上回る。不動産バブル崩壊により住宅市場の厳しさは増している。

■「売るから下がる、下がるから売る」負の連鎖

長期的なトレンドとして、2020年8月に3つのレッドラインが実施されるまで、変動を伴いつつ中国の住宅価格は相応にしっかりした歩調にあった。2015年の年央、本土の株価が急落した局面では、株式からマンションに投資資金を再配分する人は増えた。

当時、成長期待の高いIT先端企業が集積する深圳市などでは、数カ月間で平均価格が60%近く上昇するケースもあった。中国の不動産バブルは膨らんだ。その後、基本的に中国政府は緩和的な金融環境を維持しつつ、主に住宅購入者の借り入れ規制を調整し、住宅市場の成長を目指した。投機熱は高まりマンション建設は増加した。

不動産業者の財務内容を規制する3つのレッドラインは、業者の借り入れなどに重大な影響をもたらした。大手デベロッパーであるカントリーガーデンなど、不動産業者の経営体力は急速に低下した。2021年秋ごろから、住宅価格は下落に転じた。マンション建設の減少、資金繰り確保のための値下げなど、バブル膨張とは逆に、「売るから下がる、下がるから売る」という弱気心理が連鎖し、不動産バブルは崩壊した。

■マンションの売れ残り在庫は6000万戸にも

それ以降、マンションなどの需給バランスは悪化傾向だ。過去、中国では住宅在庫の面積を成約面積で割った消化月数は、12~14カ月が適正な水準といわれてきた。易居研究院によると、2023年末時点で主要100都市の消化月数は22カ月程度、2024年4月時点では26.5カ月まで伸びたようだ。供給が需要を上回る状況に拍車がかかった。

中国全体で、マンションなど集合住宅の売れ残り在庫は6000万戸あり、未完成の物件は4800万戸との試算もある。相場の格言に「落ちてくるナイフをつかんではならない」とある。住宅の買い手や投資家は、今後もマンション価格は下落すると警戒を強めている。足許、完成前にマンションを販売し住宅ローンの返済を始める、いわゆる“予約販売”の比率が18年ぶりの低水準に落ち込んだ。人々の警戒心が高まっていることを物語っている。

■鉄鋼、EV、太陽光パネルなどに注力するが…

今年5月、需給バランスの改善を目指し、中国政府は200以上の都市に住宅在庫の買い取りを指示した。開始から3カ月程度で、その指示に従ったのは29の都市にとどまったようだ。地方財政の悪化による買い取り資金の不足に加えて、今後の住宅価格下落リスクから地方政府でさえ手を出せないのが実情だろう。中国人民銀行が設定した資金枠(3000億元、約6兆円)も少なかった。

今のところ、中国政府の経済運営は手詰まり状態といってよい。中国政府は、基本的には投資を軸にした経済運営に固執しているようだ。重視する目標は、鉄鋼やアルミなどの基礎資材、EV、太陽光パネル、デジタル家電などの供給増加にあるようだ。EVなどに関しては、民間主要企業と国有・国営企業に土地や産業補助金を支給して価格競争力を高め、世界シェアを高めたいのだろう。

ただ、その発想だとデフレ圧力の上昇は避けられない。不動産市況対策が思ったような効果を上げていないこともあり、政府内部でも2024年の経済成長率目標(5%前後)の達成は難しいとの危惧も出ているようだ。

電気自動車工場
写真=iStock.com/Wengen Ling
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Wengen Ling

■不動産業者の破綻処理を重視していない?

不動産市況の悪化に伴い、これからさらに地方政府の財政は悪化する恐れがある。住宅需要の減少によって、地方政府の土地使用権譲渡収入は減少傾向だ。2024年前半は前年同期比18.3%減だった。2021年と比較すると土地使用権の譲渡益は4割近く減少したとみられる。経済対策などとしてのインフラ投資、公務員給与の支払いなど歳出の削減を余儀なくされる地方政府が増加するだろう。

今年8月、国際通貨基金(IMF)は中国が住宅在庫の圧縮などを進めるには、最低でも140兆円程度が必要と指摘した。不動産バブル崩壊対応のための不良債権処理などのコストも含めると、政府の対策費はそれを上回る可能性は高い。

それに対して中国政府は、既存の政策で十分であるとIMFに反論した。中国は中央政府の財政支出拡大による地方政府の救済、不動産デベロッパーなどの破綻処理、規制緩和による成長産業の育成などの必要性は低いと判断しているのかもしれない。

■交通違反の罰金収入にはしる地方政府も

財政の悪化を食い止めるため、交通違反など罰金収入の増加に取り組む地方政府が増加傾向だ。内陸部など経済規模が小さい都市ほど、罰金依存は高い傾向にあると考えられる。公安と連携し、脱税などの摘発に取り組むケースもある。電気、ガスなど公共料金を引き上げる都市もある。

IMFの予測によると、地方融資平台の債務残高は2024年の約66兆元(1320兆円)から、2029年に約92兆元(1840兆円)に増加する。今後、財源確保のため罰金の徴収など、苦肉の策に頼らざるを得ない地方政府は増えるだろう。

地方政府の財政悪化により、産業補助金政策などの持続性は低下するだろう。公共料金の引き上げなどは、個人消費にマイナスだ。低価格競争の激化などでコストカットに追い込まれる企業も増え、雇用・所得環境も悪化する可能性は高い。それにより、中国の株式や不動産などの価格は下落し、デフレ圧力は高まるだろう。

足許、中国の新規融資が伸び悩んでいることを見ても、先行きの経済環境悪化に身構える中国の企業や金融機関は増加傾向にある。中国経済の本格的な持ち直しは容易ではないだろう。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
多摩大学特別招聘教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授、法政大学院教授などを経て、2022年から現職。

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(多摩大学特別招聘教授 真壁 昭夫)

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