橋下徹「兵庫県知事はやはり辞職すべきだ…僕がそう考えるパワハラ以外の核心的理由」
プレジデントオンライン / 2024年9月27日 10時15分
1969年生まれ。大阪府立北野高校、早稲田大学政治経済学部卒業。弁護士。2008年から大阪府知事、大阪市長として府市政の改革に尽力。15年12月、政界引退。最近の著作に『政権変容論』(講談社)、『情報強者のイロハ』(徳間書店)などがある。 - 撮影=的野弘路
※本稿は、雑誌「プレジデント」(2024年10月18日号)の掲載記事を再編集したものです。
■Question
内部告発の「中身」以上に本質的な問題とは?
兵庫県の斎藤元彦知事への内部告発を巡り、知事が窮地に立たされています。部下へのパワハラや特産物の“おねだり”などが面白おかしく報道されていますが、橋下さんは問題の本質は別にあると指摘していますね。
※編集部注:斎藤氏は9月26日、失職して出直し知事選に出馬すると表明しました。
■Answer
独裁国のような「権力の乱用」は許されない
今回の事件は本連載や公式メルマガで取り上げてきたテーマがてんこ盛りです。要点を絞り、復習してみましょう。まずは些末な「周辺的問題点」と本質的な「核心的問題点」を分けて考えるということです。
斎藤知事が高級ガニなどを“おねだり”した話や、エレベーターのドアが閉まり部下を叱責した話などが面白おかしく報道されていますが、こうした個別の話は、「周辺的問題点」にすぎません。高額商品をねだるのは論外としても、知事・市長が社交辞令の範囲で地元特産品を土産にもらうのは珍しくありません。それを批判するなら、全国一律に禁止すればいいでしょう。
また、斎藤知事にまつわる話の出どころの多くが伝聞であることにも注意が必要です。兵庫県議会の百条委員会は県庁職員にアンケートを実施し、約4割が「パワハラ」を、約2割が「おねだり」を見聞きしたと発表しましたが、直接の目撃情報は1%程度。ほとんどが伝聞です。僕の考える「情報の信頼度」だと「信頼度1」の低レベル。裁判でも伝聞は直ちに重視される証拠にはなりません。
では、仮にこれらパワハラ・おねだりの事実のすべてが「真実」だったらどうか。実は仮に本当であっても当人を懲戒免職にできるかといったら、結構微妙です。殴る・蹴るの暴力は犯罪だから別ですが、口頭での叱責の事実があり、それがやりすぎだったという程度なら、せいぜい〈注意〉〈指導〉、あるいは〈減給〉〈停職〉まで。犯罪レベルでないと「懲戒免職」にはなりえません。こうした事例は普通、組織内の人事異動で対応するものです。
それがわかっているから、斎藤知事も辞意を口にすることなく堂々としています。斎藤知事を選挙で後押しした維新の会も、当初は百条委員会の結果を恐れていないようでした。パワハラやおねだり程度では「懲戒免職」にならないことを知っていたからです。
では橋下も同じ意見なのか?
その疑問には「NO」と答えます。「斎藤知事は辞職すべき」が僕の持論です。
言ってることが違うじゃないかと思うかもしれませんが、そうではありません。いま述べた通り、組織人によるパワハラやおねだりは通常は〈人事異動〉による対応をします。が、今回は組織のトップ、それも他人では代替不能の職を務める、選挙で選ばれた知事なのです。組織内において異動する先もない以上、人事異動はありえません。だとすれば、自ら辞めるしかないでしょう。法的な因果関係は不明ですが、この件に関連して県職員が2人も亡くなっています。その点で知事には道義的責任もあると思います。
ただ今回、僕がより深刻な問題だと感じるのは、こうしたパワハラやおねだりではありません。むしろ本質的な問題――「核心的問題点」だと思うのは、人事権を持つ巨大組織のトップが権力を乱用したという点です。
今回、告発をした元西播磨県民局長を、斎藤知事は第三者調査をやる前に「嘘八百」「公務員失格」と決めつけ、停職3カ月の懲戒処分としました。元局長は、内部告発者を守る「公益通報制度」に則り通報したにもかかわらず、「告発文は噂話をまとめたものだから」と、百条委員会の決定を待たず、一方的に処分を下したのです。元局長はその後、死亡しています。
告発文が「噂話」や「嘘八百」であるかどうかは、告発を受けた知事や副知事本人が判断することではなく、本来なら調査することも許されません。にもかかわらず今回、知事から調査指示を受けた副知事(当時=以下同)は、なんと告発者のパソコンを調査したというのです。告発された当事者たちが告発者を裁くなんて、独裁国家の権力者のやることでしょう。県議会に設置された百条委員会において、知事や副知事が平然と「何も問題がない」「すべて適切だった」と証言する姿には驚きと同時に恐ろしさを感じます。不正の目的なら告発は公益通報にあたらないため、告発を受けた知事・副知事が、この告発は不正の目的だから告発者は保護に値しないと断じているのです。
告発された疑惑の内容についても、副知事は「そんなことはやっていない、虚偽だ」と自分で判断し、知事のパワハラやおねだりについては、知事が否定しているのでその事実はない、と決めつけています。もはや告発の内容を確認するよりも、組織を挙げての作成者捜しに目が向いているのです。
こうした対応について知事・副知事は「手続きを踏んだ適切・適法な調査だ」と言い張りますが到底理解できません。副知事の証言からは、第三者調査の必要を感じていたが知事には進言せず、むしろ知事から「スピード感をもって徹底調査するように」と命じられたので第三者調査を飛ばしたというニュアンスが感じられます。こんな知事・副知事の権力行使がまかり通れば、日本の民主主義は崩壊ですよ。権力者の疑惑を通報すれば潰されるとしたら、誰も公益通報などできなくなります。
もっとも、斎藤知事の苦労も理解はできます。自治体の首長(知事や市長)と職員とでは利害がすれ違うことも珍しくありません。同じ役所で働いていても、民意を背負った首長とペーパーテストで採用された職員とでは政策に対する温度感が異なります。特に改革を掲げる首長は、現状維持を志向する多くの職員と対立関係に陥ります。かつては僕自身もそうでした。内部告発や誹謗中傷、怪文書の類は、斎藤知事の比ではなかったはずですよ(笑)。
■人の生死を左右する権力の怖さを自覚せよ
でも僕はそれらについて、発信者を特定して「嘘八百」と封じ込めることはせず、第三者的な調査を徹底的に行いました。僕に原因があれば厳しく指摘してほしいとも指示しました。結果的にすべてシロ、つまり事実無根という結論が出ましたが、それを大々的に公言することはしませんでしたし、告発者を特定して罰することは絶対にしませんでした。そんなことをやれば後に公益通報がなくなるからです。
知事・市長の権力は、使い方を誤れば他人の人生、場合によっては生死を左右しかねません。役所内の人事はもちろん市民に対しても同様で、例えば不動産業や飲食業では知事名で営業許可証が出ています。万が一にも恣意的に不許可とすれば、その人の生活は絶たれます。その先には中国や北朝鮮のような独裁政治が待っています。大げさではなく、それくらいの意識で政治家は権力を扱うべきだと思います。
もう一つの問題はパワハラです。今回、社会通念ではパワハラと捉えられるようなことを、斎藤知事は「業務上必要な範囲で適切に指導した」と語っています。斎藤さんは本心からそう思っているのかもしれません。というのも、部下への過剰な叱責や土産物をもらって当然という感覚は、国会議員に共通するものです。国会議員が役人を怒鳴り散らしているさまは、およそ対等な社会人同士とは思えません。
斎藤知事は総務省官僚としてキャリアを積んできました。彼自身が国会議員や上司たちにされてきたことを、今度は知事になって県の部下たちに行っている。それが「適切な指導」だと信じ込んでいるのでしょう。「虐待の連鎖」と同じように「パワハラの連鎖」。まずは永田町の政治家たちから、襟を正す必要があるとも思います。
今回の兵庫県の騒動によって全国の知事や市長たち、永田町の国会議員たちが、自分のパワハラも取り上げられないか戦々恐々としているとも聞きます。これまでパワハラ気質だった、知事、市長、国会議員が急に大人しくなったとも役人たちから聞きます。
この一件で、政治家たちが自分のパワハラに気付き、それが止まり、役人たちもこれまでのおかしさに気付いて、今後はそれらを許さない職場環境になることを強く願っています。
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元大阪市長・元大阪府知事
1969年生まれ。大阪府立北野高校、早稲田大学政治経済学部卒業。弁護士。2008年から大阪府知事、大阪市長として府市政の改革に尽力。15年12月、政界引退。北野高校時代はラグビー部に所属し、3年生のとき全国大会(花園)に出場。『実行力』『異端のすすめ』『交渉力』『大阪都構想&万博の表とウラ全部話そう』など著書多数。最新の著作は『政権変容論』(講談社)。
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(元大阪市長・元大阪府知事 橋下 徹 構成=三浦愛美)
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