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値上げしたのに「ありがとう」の声であふれていた…うまい棒「3円値上げ」が好感度アップにつながったワケ

プレジデントオンライン / 2024年9月29日 9時15分

うまい棒12円に値上げへ=2022年1月25日、東京 - 写真=ロイター/共同通信イメージズ

日本を代表する駄菓子「うまい棒」が12円から15円へと値上げすることがメーカーから発表された。しかし、値上げを非難する声はほとんど聞かれなかった。桜美林大学准教授の西山守さんは「ディズニーリゾートやNetflixなど、炎上しない値上げには特徴がある」という――。

■値上げなのに「ありがとう」の声が上がった「うまい棒」

円安と原材料費の高騰により、値上げラッシュが続いている。多くの消費者は、値上げはやむを得ないものとして受け入れつつも、SNSやネット上では不満の声が吐き出され続けている。

そうした中で、値上げが素直に受け入れられたのみならず、賞賛された商品がある。菓子メーカーのやおきん(東京)が販売する、スナック菓子「うまい棒」だ。

「うまい棒」は、2024年10月出荷分から、現在の販売価格12円から3円値上げし、15円で販売される予定となっている。なお、同商品は、2022年1月に10円から12円に値上げてしている。

「うまい棒」は、2022年からの2回の値上げで価格は1.5倍になってはいる。しかし、1979年の発売当初から1本10円で販売されており、約42年間この価格を維持してきた。

今回の値上げに対して、批判的な声はほとんど見られない。むしろSNS上では「値上げしても買います」「これまで安く売ってくれてありがとう」といった、応援、感謝の声が多数投稿されている。値上げしたことで、これまで安い価格を維持してきたことが逆に注目を浴びる結果となっている。

■「ガリガリ君」との共通点

この例で思い出されるのが、赤城乳業(埼玉)のアイスキャンディー「ガリガリ君」の値上げである。「ガリガリ君」は2016年に25年ぶりに60円から70円に値上げした。さらに、その8年後の2024年3月1日の出荷分から80円に値上げとなった。

「うまい棒」と同様、消費者は「ガリガリ君」値上げを受け入れたのみならず、応援、感謝の声がSNSで相次いだ。最初の値上げ後、「ガリガリ君」の販売数は減少するどころか増加し、その後も安定的に年間4億本の売り上げを確保している。

両者に共通する要素として、下記のことが挙げられる。

1.長期にわたって低価格を維持してきた
2.競合がいない唯一無二の存在である
3.固定ファンが付いている
4.値上げに対して正直、誠実なコミュニケーションを行った

すべての商品やサービスにおいて、同様のポジションを築けるわけではないが、「値上げ時代」に両商品から学ぶべきところは多いように思う。

■「唯一無二の存在」に固定ファンが付いていた

前述の「1.低価格の維持」は、競争の激しい現代においては、必ずしも賢明な戦略とは言えない。しかし、値上げの際に「企業努力をしていない」と消費者から見なされると、反発を招いてしまう。コスト削減の努力はもちろん重要だが、付加価値という点でも、企業努力を行っていることを顧客に示していくことが求められる。

特に重要なのは2、3であるが、この2つの要素は裏表の関係にある。「スナック菓子」「アイスキャンディー」というカテゴリーで見ると、競合商品は存在する。ただし、多くの顧客にとって「ガリガリ君」「うまい棒」というのは、唯一無二の存在で、指名買いするものだ。

筆者自身も、いまでも両商品ともによく買うのだが、他の商品と比較することなく、迷わずに購入している。同一価格帯の類似商品が店頭に並んでいないこともあるが、並んでいても、学生時代から長きにわたって親しんできた味とブランドイメージから、他の商品に手を出そうとは思わないのだ。

「うまい棒」や「ガリガリ君」は、誰でも購入できる低価格で長きに渡って提供されてきた商品だが、多くの人々が子供の頃から食べてきただけでなく、大人になってからも食べ続けられるような、親しみのあるブランドであり、価格以上の価値を生んでいる。そこが両商品の他商品にない「付加価値」と言えるだろう。

■顧客が愛着を持つ商品の値上げは受け入れられる

こうしたポジションを築けるのは、歴史がある商品、サービスに限らない。

例えば、2015年に日本に上陸した動画配信サービス「Netflix(ネットフリックス)」は、2018年に月額料金をベーシックプラン650円→800円、スタンダードプラン950円→1200円、プレミアムプラン1450円→1800円と早々に値上げをしたのだが、利用者からは温かく受け入れられている。当時のSNS上の声を見ても、「これまでが安すぎた」「これからも契約を続ける」という声が優勢だった。

「Netflix」はその後も何度か値上げを含む価格改定を行っているが、その間に日本独自のコンテンツを拡充するなどして、価格に見合った付加価値を提供しており、利用者にとって唯一無二の動画配信サービスとして受容されている。

値上げしても顧客離れを起こさないためには、顧客が商品やサービスに対して強い「愛着」を持っているか、企業が値上げに見合った「付加価値」を提供できているかが重要になる。

両者ともに実現できているのが、東京ディズニーリゾートだ。同施設のチケット価格は、開園当初の1983年は3900円だった。その後、段階的に値上げをし、現在は来園日や季節によって料金は変動するものの、最高で1万円を超える金額となっている。

ディズニーリゾートは固定ファンを抱えている。加えて、多額の設備投資により、新エリアや新アトラクションを開発しており、新たな価値を創出し続けている。最近は、若者のディズニー離れが進んでいると言われているが、顧客単価を上げ、混雑回避をしたほうが顧客の体験価値が高まり、集積性も高まる可能性が高い。

上海ディズニーランド
写真=iStock.com/MonicaNinker
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/MonicaNinker

■「値上げ」の根拠を正直に説明し、誠実な態度で伝えること

「うまい棒」「ガリガリ君」の話題に戻ろう。

「ガリガリ君」は2回の値上げの際に、赤城乳業の会長・社長をはじめ社員一同が、神妙に頭を下げる「謝罪広告」を展開している。2016年の広告は、SNS上で賞賛を浴びただけでなく、多数の広告賞を受賞している。さらに、日本のみでなく、米ニューヨークタイムズで記事として取り上げられ、海を越えて話題になった。

60円→70円の値上げの際に話題になった「ガリガリ君」のCM
60円→70円の値上げの際に話題になった「ガリガリ君」のCM(画像=プレスリリースより)

実は、これは単なる謝罪広告ではなく、「ネタ」として話題化することを狙って企画されたことが明かされている。

一方の「うまい棒」は、2022年に「42年間、ありがとう。うまい棒は12円(税抜)へ。」という、「感謝広告」を展開している。この広告では、値上げの理由とともに、企業としての「思い」が語られていた。

「ガリガリ君」の広告も、「うまい棒」の広告も、誠実な企業態度に賞賛の声が寄せられる結果となっている。

2024年の値上げはリリース配信とその文章を公式SNSアカウントから発信するに留まっており、広告出稿はされていない。しかしながら、SNS上で多くの応援のメッセージが寄せられている。

価格を上げずに量を減らしたり、品質を下げたりする「ステルス値上げ」を行う企業も少なからずあるが、そうした対応はすぐにネット上で広がって悪評を生んでしまい、逆効果であることが多い。

「価格改定」といった言葉でお茶を濁し、値上げしたことを曖昧に伝えようとするのも同様である。

値上げの告知は、正直でわかりやすくあるべきであるし、ちゃんと理由を説明しつつ、企業としての思いをしっかり伝えれば、大半の消費者は理解してくれるものだ。

■炎上した楽天モバイル「0円プラン廃止」

マーケティング論の基本概念として「4P」がある。Price(価格戦略)、Promotion(販促戦略)、Place(流通戦略)、Product(製品戦略)の頭文字を取ったものだが、Price、つまり価格戦略はその一要素を占めている。

価格戦略は、一見シンプルなようで意外に難しく、一筋縄ではいかない。

これまで見てきたように、値上げで賞賛された事例もあるが、批判を浴びるケースのほうが多い。

例えば、2022年に楽天モバイルが「月額0円」の料金プランを廃止し、SNS上で炎上が起きた。これは、月間のデータ利用料が1ギガバイト以下であれば無料だったものを、3ギガバイト以下の利用料を1078円に改定するものだった。

「うまい棒」や「ガリガリ君」のように、「これまで無料で使わせてくれてありがとう」「今後も使い続けます」といった声は上がらなかったのだ。

三木谷会長は決算会見で「ぶっちゃけ、ゼロ円で使い続けられても困る」と本音を吐露した。無料であったから楽天モバイルを契約していた顧客も多かったと思われるし、他社に乗り換えるにはハードルも高い。

楽天モバイル側にとっては、顧客を囲い込むための戦略だったのが、顧客側にしてみると「タダだから使っていただけ」であり、企業と顧客に認識のギャップがあったのだ。値上げをして叩かれるのは必然であったと言える。

■「値下げ」なのに大失敗した大塚家具

値下げをしても叩かれたり、顧客離れが起きたりするケースもある。

大塚家具が象徴的だ。同社は、大塚勝久会長と、娘の久美子社長の対立が続いていたが、2015年の株主総会で久美子社長が勝利、勝久会長は同社を去ることになった。その直後に、大塚家具はセールを行い、低迷していた売り上げは一時的に回復したが、セールが終わると反動で売り上げは落ち込んだ。

その後、同社は会員制を廃止し、これまでの高級路線を転換し、低~中価格帯の商品を増やした。しかし、これによって既存顧客は離反、新規顧客を取り込むことにも失敗し、業績は低迷し、資金繰りは悪化した。

2019年にはヤマダホールディングスの傘下に入り、2022年にはヤマダデンキに吸収合併される結果となった。

値下げをすることには、下記のようなデメリットもある。

1.ブランド価値の棄損
2.既存顧客の離反
3.競争優位性の喪失
4.収益性の悪化

値上げが相次ぐ状況の中で、価格を据え置くことは、「実質的な値下げ」となることもある。それを考えると、「値上げをしないリスク」も顕在化しているように思える。

値上げラッシュが起きている現在こそ、「適正価格とは何か?」「価格に見合った価値とは何か?」を真剣に考えるべき時であるように思える。

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西山 守(にしやま・まもる)
マーケティングコンサルタント、桜美林大学ビジネスマネジメント学群准教授
1971年、鳥取県生まれ。大手広告会社に19年勤務。その後、マーケティングコンサルタントとして独立。2021年4月より桜美林大学ビジネスマネジメント学群准教授に就任。「東洋経済オンラインアワード2023」ニューウェーブ賞受賞。テレビ出演、メディア取材多数。著書に単著『話題を生み出す「しくみ」のつくり方』(宣伝会議)、共著『炎上に負けないクチコミ活用マーケティング』(彩流社)などがある。

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(マーケティングコンサルタント、桜美林大学ビジネスマネジメント学群准教授 西山 守)

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