「石破茂首相」と組む公明党に"異変"…新代表を「"婦人部"のアイドル→東大卒官僚」に変えた創価学会の裏事情
プレジデントオンライン / 2024年9月28日 15時15分
■異色の存在となった公明党の新代表
9月28日の公明党党大会で新しい党代表に就任した石井啓一氏(衆議院議員)は、公明党の歴史のなかで特筆すべき存在となる。それは何かというと、彼が元官僚だったということにある。
今の国会議員のなかで官僚出身者など珍しくもないが、「公明党の代表」となると、少し話が異なる。まず、前任の山口那津男氏は弁護士出身。その前の太田昭宏氏は、もともと公明党の母体である新宗教団体・創価学会の青年部長を務めていた人物で、「創価学会のプリンス」などとも称されていた、すなわち“バリバリの宗教活動家”だった。さらにその前の神崎武法氏は検察官だったが、いわゆる行政官僚ではなかった。
その前の浜四津敏子氏、藤井富雄氏(公明党が「公明新党」と「公明」に分裂した際に、公明代表に就任)、石田幸四郎氏、矢野絢也氏、竹入義勝氏らともなると、これまた創価学会のバリバリの活動家出身で、学会のカリスマだった故・池田大作名誉会長の側近のようなことをしていた人物も、多々含まれる。
一方で石井啓一氏は1958年、東京都に生まれ、東京大学を経て旧建設省に入省。十数年の官僚暮らしを経て93年に公明党の衆議院議員となり、現在に至るという人物である。創価学会の中央よりも、“国家の中枢”の何たるかをしっかりこの目で見てきたことのある存在で、そしてその種の政治家(官僚出身者)が公明党のトップとなったのは、これが初めてのこととなる。
すでに述べたように、公明党とは創価学会を母体とする、紛うことなき宗教政党である。
しかし、その学会のカリスマ・池田大作氏が世を去った後、公明党はそのトップに“宗教活動家”ではなく、初の官僚出身者を就けた。この意味するところはやはり、これからの創価学会・公明党が、「一人の絶対的カリスマによって率いられる体制」から、そのあり方を変えようとしている、ということではないのだろうか。
■かつては露骨な宗教政党だったが…
公明党は1964年に、池田大作氏によって設立された政党である。そして公明党はその設立当初、「王仏冥合(王様の行うこと=現実政治と仏教の融合)」や「国立戒壇建立(国家に自分たちの宗教施設を作らせること)」などを政策課題として掲げる、「政教一致体制の確立を目指している政党」としか思えない活動を、さまざまに展開していた。
特に党として初めて挑んだ67年の衆院選で25議席を獲得した際には、池田大作氏が直々に国会を訪れ、応対に出た竹入義勝氏が「次は総理としてお迎えいたします」などと語った、といった話まで伝わっている。
ただし、こうした公明党の“政教一致路線”は早々に頓挫する。1969~70年にかけて、創価学会が自分たちを批判する書籍の発行や流通に圧力をかけていたことが明るみに出た、「言論出版妨害事件」というスキャンダル事件が発生。池田大作氏は全面的な謝罪に追い込まれ、公明党の王仏冥合や国立戒壇建立などのスローガンも、取り下げざるをえなくなったのだ。
以後、公明党は創価学会の宗教的価値観を、例えば福祉問題などの現実的な政策課題に落とし込んでその実現を目指していくといった、自身の宗教色を薄める方向に舵を切っていく。創価学会との関係も、「公明党と創価学会は別組織で、ただ学会が公明党を支持しているだけ」というのが建前になった。
■なぜ活動家議員が減り、エリート議員が増えたのか
そして、「池田大作先生を総理大臣に!」といったことが創価学会内で叫ばれなくなったのと軌を一にして、学会内部で強く押し出されていったのが、「総体革命」という路線だった。
これは創価学会の若手会員たちを、官僚や学者、大企業社員などのエリートに育てて社会の要所要所に送り込み、いわば“無血革命”的に社会を掌握しようとする方針のことを指す。具体的な証拠および統計資料などがあるわけではないが、実際に中央官庁で官僚として働く創価学会員はかなりの数にのぼるのではないかとされており、また創価学会現会長・原田稔氏の後継者だろうと常に話題に上る、谷川佳樹・学会主任副会長は、東京大学から三菱商事勤務を経て、創価学会の教団職員になったというエリートだ。
前述の元検察官・神崎武法氏は、年齢的にこの総体革命路線に沿って検察官の道を目指したのかどうか、判然としないところがあるが、山口那津男氏などは、恐らく総体革命のために司法試験に挑んで、弁護士となった人物である可能性が高い。
すでに述べたように、全体的に見れば公明党の代表とは創価学会の“バリバリ活動家”が就く例が多かったのだが、ここへきて総体革命路線から生まれたと思われる“学歴・体制側のエリート”が、山口氏、石井氏と2代続けて党トップを務めることになった。これも公明党の歴史上、初めてのことである。創価学会現会長・原田稔氏もまた東大卒であり、現在の創価学会、公明党とは、その最高幹部層の多くが東大OBになっているという現実があるわけだ。
■「学歴ばかりが立派」という現場の声
創価学会とは基本的に、その絶対的カリスマ・池田大作氏の圧倒的かつ個人的な指導力によって率いられてきた団体である。しかし、そのカリスマが去ったいま、創価学会は明確に、総体革命が生み出したエリートたちによる、賢人政治か貴族制のような指導体制に移行しつつあるように見える。石井啓一氏が初の官僚OBとして公明党代表に就いたのも、その表れなのではないかとも感じられる。
ただ一方、池田大作氏とは別段学歴エリートではなかった人物で、彼は創価学会を「民衆の城」だとし、また学会員たちは池田氏を「庶民の王」と呼んで称えていた。そして創価学会に限らず、戦後に急成長した日本の新宗教とは、高度経済成長期などに都会に出てきた寄る辺のない地方の農家の次男、三男といった人々(言うまでもないが、彼らは非エリート層である)を吸収することで大きくなってきた。
彼らは後期高齢者となった現在でも、熱心な信仰心を持つ“1世信者”として、各教団の基盤をガッチリと形成している。よって総体革命路線から輩出された“創価エリート”たちは、実際の活動現場で一般の学会員たちとすれ違うことも、ままあるという。確かに筆者は、ある若手公明党議員に対し「学歴ばかり立派で、われわれの気持ちがわかっていない」と愚痴る、古参学会員の話を聞いたことがある。
■豪快なリーダーから、真面目な役人へ
また総体革命といっても、すでにある“日本国家の機構”のなかに入り込んでいく試みであるわけで、あえて悪い言い方をすれば一種の“寄生虫”であり、“宿主”を倒してしまうような、傍若無人な態度はとれない。
筆者は「私の上司は創価学会員だった」と語る、ある官僚から話を聞いたことがあるのだが、「その上司は非常に物腰丁寧で、部下にも優しく、とにかく周囲との軋轢を引き起こさないよう、常に気を配っていた」との印象を語っていた。
山口那津男氏はとにかく温厚で物静かな性格で知られ、またその甘いマスクもあって、創価学会の重要な実働部隊であった旧・婦人部(現在では「女性部」に改組)の女性会員たちから、一種のアイドル的な人気さえ得ていた存在だった。山口氏は、そうしたキャラクターが評価されて2009年から今年まで公明党代表を務めてきたところのある人物なのだが、それまでの(池田大作氏がそうであったような)“豪放磊落(ごうほうらいらく)なリーダー”という姿とは違う、ある種の“線の細い優等生”のようなものが、総体革命の申し子たちの一つの典型的な人物像でもあるらしいのだ。
そして公明党のニューリーダーとなった石井啓一氏だが、公明党関係者などに聞いて回ると、「真面目で優秀な人物だが、よくも悪くも“お役人”っぽくて華がない」といった印象を語る向きが多い。彼もまた池田大作氏がそうであったような、破天荒なタイプの人間ではないようだ。
■“学会エリート”は民衆を導けるのか
池田大作氏が死して1年。また彼はすでに2010年以降、公の場からは姿を消していた。そして遺された総体革命の申し子たちは、創価学会をどんどんエリート主義の団体にして今に至り、その一つの表れとして、「官僚OBたる公明党新代表・石井啓一」を生んだようにも見える。
もちろん、現在の創価学会、公明党とはとてつもない巨大組織である。事務能力に長けた人々による集団指導体制でも敷かない限り、円滑な運営は困難だろう。しかし、そうしたエリート軍団が、池田氏から引き継いだ「民衆の城」をどこまでうまく取り回していけるのかは、なお未知数な部分が多いようにも感じる。
今秋中にも行われる公算が高い衆議院議員選挙は、創価学会のカリスマ・池田大作氏が昨年11月に死去してから初めて行われる解散総選挙である。公明党もこれを、池田氏の“弔い選挙”と位置付け、かなりの力を入れてのぞむと思われる。
一方で、いわゆる裏金問題などで世間から多くの批判を浴びている自民党は、現状で公明党以外に頼れそうな外部勢力もない。そういう意味で自公連立はまだまだそれなりの固さで続くだろう。しかし、“次の次”以降にも、石井氏の率いる“新しい公明党”がどこまでその地力を維持できるかには、要注目と言うべきだろう。
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『宗教問題』編集長
1979年、熊本県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。宗教業界紙『中外日報』記者を経て、2014年、宗教専門誌『宗教問題』編集委員、15年、同誌編集長に就任。著書に『池田大作と創価学会 カリスマ亡き後の巨大宗教のゆくえ』(文春新書)、『南北戦争 アメリカを二つに裂いた内戦』(中央公論新社)など。
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(『宗教問題』編集長 小川 寛大)
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