「200m男子90代前半クラス」の世界記録保持者は60歳まで競技未経験…弘兼憲史がすすめる後半生の楽しい趣味生活
プレジデントオンライン / 2024年10月9日 18時15分
※本稿は、弘兼憲史著『迷わない生き方』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
■新しい趣味を持つのに年齢は関係ない
「趣味がないんです」
「何か始められたらどうですか?」
「いやー、いまさら」――。
「今更」とは、もっと早ければともかく、今となっては遅すぎる――という意味。趣味を持つことに「遅すぎる」はあるのでしょうか?
パワーリフティング ベンチプレスの世界大会で5つの金メダルを獲得した奥村正子氏がベンチプレスを始めたのは、73歳のときです。
世界マスターズ室内陸上競技選手権200メートルM90(男子90~94歳)クラスで世界記録を樹立した田中博男氏が陸上を始めたのは、60歳のときです。
元NHK放送記者の稲田弘氏は70歳でトライアスロンを始め、“世界一過酷なレース”といわれるアイアンマン世界選手権に9回出場。2023(令和5)年には90歳にしてレースを完走しました。
■新しい趣味を持つのに「もう遅い」はない
もちろん、誰もが鉄人になれるわけではありませんが、新しい趣味を持つことに「もう遅い」はないと言いたいのです。それが、好きなことならなおさらです。
「趣味」とは、仕事ではなく、あなた自身の個人的な楽しみとして愛好するものです。
専門家になるわけではないのですから、高いレベルに到達しなくてもいい。目指すのは、「うまくなる」ではなく「楽しむ」ことなのですから。
■中年になってから始めるスポーツの代表は「ゴルフ」
中年になってから始めてもまったく問題ないスポーツの代表といえば、やはり「ゴルフ」でしょう。
ぼくがゴルフを始めたのは36歳のときです。
きっかけは仕事。ゴルフ漫画『紅い芝生』のための取材目的だったのですが、やってみたらこれが面白くてすっかりはまり、現在も続けているものの1つです。
2022(令和4)年の話ですが、漫画仲間とのゴルフコンペでドラコン賞(コースを外すことなくどれだけ飛距離を出したかを競う)を取りました。とはいえ、若い頃のベストに較べたら3分の2くらいの距離。すっかり飛ばなくなりましたが、それでも、やっぱりゴルフは楽しい。
歳を取って飛距離が伸びなくなったら、クラブを変えればいいのです。
■ゴルフはハンデがあるからみんなで楽しめる
ゴルフのいいところは、ハンディキャップを決めて、腕前に差がある人同士でも男女が一緒に楽しめるところです。
たいていのスポーツは、筋力・体力に勝る若い男性が有利ですが、ゴルフは違います。対戦相手との戦いよりも、自分との戦いが優先されるからです。
ゴルフをする人の多くは、相手に勝つよりも自分が設定した目標をクリアすることを重視します。初心者は初心者なりに、ベテランはベテランなりに、今の自分に合わせた目標を追いかける。
年齢性別問わず、公平に楽しめる生涯スポーツだといえるでしょう。
■40代からサイクリングが趣味になったAさん
気がついたら趣味になっていたという、こんな話を聞きました。
家族で国営公園に出かけた40代サラリーマンのAさん。小学生の息子に誘われてレンタル自転車を借り、サイクリングを楽しむことになりました。
近頃は自動車ばかりで、自転車に乗るのは久しぶりだと思いながらも、まさか小学生に負けるとは思えません。
いっちょ息子に、いいところを見せてやるか――。
ところが、いざ走り始めると、脚力の衰えがはっきりと出てしまい、長い登り坂で脚がつってしまいました。息子はその横を、涼しい顔でスイスイと追い抜いていきます。自分にがっかりしたAさんでしたが、気持ちを切り替えてスローダウンします。
■ペースを落とすことで、周囲が見えてきた
ペースを落とすと、周りが見えてきます。公園の外周に整備されたコースは、実に自然豊かで、風を切って走ることがなんとも心地よかったそうです。
以来、Aさんは、息子とあれこれ相談して、サイクリングに出かけるようになりました。「一人でのんびり、泊まりがけのサイクリングもしてみたい」、密かにそんな計画も練っているとか。
無理をせずに自分のペースを守れば、まだまだ長く楽しめそうです。
■嫌なことは学ばなくていい
どんな趣味でもいいのです。きっかけは日常生活の中にヒントがあるはずです。
始めてみれば、初歩の中にも楽しさはあります。仮にそれが「苦行」だと感じたら、やめてしまえばいい。
嫌なことは学ばなくていい――。それが大人の特権。つまらないことはすぐにやめて、さっさと次にいきましょう。
目標は、生涯「楽しく」続けられる趣味に出会うことです。今からでも遅くはありません。趣味を持つのに、適切な時期などないのですから。
■かつての趣味にリターンする
新しいこと、新しい趣味に「飛び込む」「出会う」「見つける」ことに、どうしても抵抗を覚える人も少なくありません。
そんな人は、昔の趣味を再開してみるのはどうでしょう。
好きだから、楽しいから続けていたはずなのに、受験、部活、就職、結婚などで環境が変わり、どんどん忙しくなって、いつの間にか遠のいてしまった――という趣味が、誰にでも一つくらいはあるはずです。
■切手やコイン、自然石などの収集
切手や硬貨、紙幣、鉱物などを集めていたことのある人は少なくありません。ならば、コレクション自体は、いつの間にかどこかへ消えてしまったとしても、もう一度、集め始めてみませんか。
子供の頃、手が届かないと思っていたものが意外と安かったり、近所のショップでは探せなかったものがネットで簡単に見つかったりという新しい発見もあります。
また、収集が性に合っているのなら、対象を変えてみるのもいいですね。
アンティーク陶器、ブリキ製のおもちゃ、ミニカーなど、フリーマーケットや蚤(のみ)の市などを巡って探す楽しみも味わえます。
■プラモデルを作っていた
俳優の石坂浩二さんが結成したプラモデルクラブ「ろうがんず」をご存じでしょうか? 「プラモデルを気楽に楽しく作り、人生を豊かにしてくれたプラモデルへの“恩返し”と、プラモデルを輝けるものとして、広い世代と未来に伝えていくこと」を趣旨に結成されたそうです。
かつて絶大な人気を誇っただけあって、今もプラモデルを作り続けている愛好家は多く、ぼくの友人であるフリーアナウンサーの松井康真さんや、マジシャンのメイガスさんも「ろうがんず」のメンバーとして、模型コンテスト「ろうがんず杯」や作品展示会「ろうがんず展」で作品を披露するなどの活動を行っています。
ちなみに、毎年開催されている「ろうがんず杯」の応募条件は、「新たに現行品のプラモデルキットを購入し、製作していただける方」。対象作品は「スケールモデル(フルスクラッチ=完全自作・SF系は対象外)」となっています。
大賞賞金30万円を目指して、渾身の作品で挑戦してみるのもいいかもしれません。
■バイクに夢中だった
高校生のときに二輪の免許を取ってバイクに夢中になったものの、18歳で普通免許を取って自動車に乗り換え、バイクを手放してしまった……という話をよく聞きます。
ところがここ数年、さまざまな理由でバイクに乗らなくなった人が40~50代となり、再びバイクに乗り始める「リターンライダー」がブームになっています。
日本自動車工業会「2023年度二輪車市場動向調査」によれば、バイク購入者の16%が40代、32%が50代、28%が60代で、平均年齢は55.5歳となっています。もはやバイクを走らせるライダーの中心は若者でなく、中高年になっているのです。
ただし、この趣味は危険が伴いますから、家族の理解を得ることに加え、日本二輪車普及安全協会が主催する安全運転講習会などに参加してから、「リターン」することをお勧めします。
■音楽を聴きまくった
「ロック」という音楽の誕生には諸説ありますが、エルヴィス・プレスリーが「ハートブレイク・ホテル」を発表した1956年との見方があります。
ぼくは1947(昭和22)年生まれですが、このとき9歳。13歳のときにはベンチャーズがメジャーデビューを果たし、15歳のときにビートルズが颯爽(さっそう)と登場しました。
ぼくらの世代は、ロックの誕生と進化をリアルタイムで体感してきたのです。友人・知人にもロックファンが多く、中高年になってからアナログ盤レコードにドップリはまったり、押し入れの奥からギターを取り出してきてバンドを組んだりする人も少なくありません。
あなたが青春時代に夢中になったアーティストは誰でしたか?
古いCDを久々に聴いてみる、メロディを思い出してカラオケで歌ってみる、ギターやピアノが弾けるなら練習してみる――そんな趣味も素敵だと思います。
■ずっと野球少年だった
学生時代、野球やサッカー、バスケットボールやバレーボールなどの部活動をしていた人も多いと思います。
とくに球技は一人ではできないため、卒業と同時にやめてしまうことが多いと聞きます。そんなスポーツを復活させるのもいいですよね。
今や便利なネット時代。住んでいる地域とスポーツ名、「メンバー募集」と検索すれば、メンバーを募集している草野球チームやクラブ、教室などがヒットするものです。
いざ始めてみると、自分のブランクが気になることもあるでしょうが、長く打ち込んできたものは「昔取った杵柄(きねづか)」、体が覚えているものです。
チームスポーツは、練習や試合後の打ち上げも楽しみの1つになります。
■趣味は人生を楽しむための「ツール」
ぼくの趣味で「昔取った杵柄」(?)といえるのは、大学時代に腕を磨いた「麻雀」かもしれません。
サラリーマン時代も、漫画家になってからも、ほとんどやる機会がなかったのですが、ここ数年、頻繫に卓を囲んでいます。
がむしゃらに勝ちに行くという学生時代の打ち方とは打って変わって、30人ほどの愛好会的なグループを作って、ゲームとして楽しむ。会話中心の和気藹々(わきあいあい)とした会となっています。
趣味は絶対になくてはならないものではありません。
あくまでも、人生を楽しむための「ツール」です。なくても困りませんが、あったら人生が何倍も楽しくなる――それは間違いありません。
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漫画家
1947年、山口県生まれ。早稲田大学法学部卒業後、松下電器産業(現・パナソニック)に入社。74年に漫画家デビュー。作品に『人間交差点』『課長 島耕作』『黄昏流星群』など。島耕作シリーズは「モーニング」にて現在『会長 島耕作』として連載中。2007年紫綬褒章を受章。
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(漫画家 弘兼 憲史)
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