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JA農協&農水省がいる限り「お米の値段」はどんどん上がる…スーパーにお米が戻っても手放しで喜べないワケ

プレジデントオンライン / 2024年9月30日 18時15分

新米の販売を開始した売り場=2024年8月2日、東京都小平市 - 写真=時事通信フォト

新米が店頭に並ぶようになっても、値段が下がらないのはなぜなのか。キヤノングローバル戦略研究所の山下一仁研究主幹は「減反政策によってコメの生産量が減っており、新米が供給されても『コメ不足』であることに変わりはないからだ。JA農協はコメ不足を見越して、2024年産米は農家に支払う概算金を2割以上も上げた。値段は下がるどころか、今後ますます上がっていくだろう」という――。

■新米が高いのは「コメ不足」が続いているから

農林水産省は9月になれば新米(2024産米)が供給されるので、コメ不足は解消されるという見方をしていた。確かに新米は供給されたが、値段は一向に下がらない。

坂本哲志農林水産大臣は「今後、新米が順次供給され、円滑な米の流通が進めば、需給バランスの中で、一定の価格水準に落ち着いてくるものと考えています」(9月6日記者会見)と主張している。

「需給バランスの中で」とは、供給が増えるから価格は低下すると言っているのである。だが、実際にそうならないのはなぜなのか。それは、「需給バランス」についての農林水産省の見方は間違っているからだ。

コメ不足が起きた7月末の在庫は前年同月期より40万トン少ない82万トンと近年にない低水準となっていた。農林水産省はこれを「猛暑による高温障害」や「インバウンドによる需要増」の影響と説明したが、根本原因には減反によるコメの生産量減少があると前稿で解説した。

JA農協と農林水産省は、コメの需要が毎年10万トンずつ減少するという前提で減反を進めてきた。その結果、昨年産は前年の670万トンから9万トン減少していた。昨年産のコメ供給量は、猛暑の影響を受ける前から減反で減少していたのだ。

農林水産省は高温障害で減少した供給は20万トン、インバウンドの消費増は11万トンとしている。これらに減反による減少分9万トンを合わせると、トータルで40万トンの不足になる。これは7月末の在庫が前年同月比で40万トン減少していることと符合している。

今年産のコメ生産は前年並みなので、来年8月頃の端境期にはまた同じことが起こるだろう。今年も猛暑だった。8月に集荷された新米の一等米(破裂した粒や白濁した粒など被害粒の少ないコメ)の比率は前年を5.2%下回る63.7%で16年ぶりの低い水準となった。今後収穫される予定のコメの被害は少ないと言われているが、ある程度の被害は覚悟していたほうが良い。さらに今年はコメ不足によって、本来なら10月から食べ始める新米を先食いしている。来年は今年以上にひどいコメ不足に陥る可能性が高い。

農林水産省の見方と異なり、需給バランスは、コメ不足だ。だから、一向に米価は下がらないのだ。

■今後コメの価格はさらに上がっていく

JA農協と農林水産省はここ数年、減反政策を強化し、農家にもっとコメの生産量を減らすように指導してきた。それによってコメの全農と卸売業者との取引価格は、60キログラムあたり、2021年産1万2804円、22年産1万3844円、23年産1万5306円(8月は1万6133円)で、この2年間で20%も上昇し10年ぶりの高米価となった。米価の上昇はJA農協と農林水産省にとって成果以外の何物でもない。コメ不足は彼らの筋書き通りなのだ。

その証拠に、今年産の概算金(JA農協が農家に支払う仮払金)の価格は、前年産より2~4割上昇している。JA農協が農家に払う概算金(仮払金)の上昇は、JA農協が今年産の米価は高い水準で推移すると見ていることを表している。つまり、農林水産省の見立てと異なり、コメ不足が来年の出来秋(9~10月頃)まで続くと判断して、高い米価を農家に払っているのだ。

もし、需給が緩和して卸売業者への販売価格(相対価格)が下がると、JA農協は自腹を切るか農家から過払い分を取り戻すしかない。概算金とは仮払金で後に清算される性質のものだが、現実には清算後に農家から過剰な支払い分を取り返すことはなかなかできない。JA農協はそんなことは起きないと思っているのだ。

コメ不足の状態では、売り手市場となる。

売り手はJA農協である。概算金を上げると、JA農協は損をしたくないので相対価格(卸売り価格)も上げる。相対価格が上がるなら、卸売業者はスーパーへの販売価格を上げるので、小売価格はさらに上がることになる。新米が出回ってもコメの値段は下がらないどころかさらに上がっていくだろう。

コメ不足を受けて、農林水産省とJA農協は来年産のコメの作付け制限を緩和しようとするだろう。しかし、米価は上がったもののコストも上がっている。農家がこれに反応するかどうかは分からない。また、作付けが増えたとしても、その収穫は来年9月以降まで待たなければならない。それまでコメ不足は続く。

田植え機を利用して田植え中
写真=iStock.com/SAND555
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/SAND555

■農家より組織の利益を優先するJA農協

JA農協は需給に厳しい見方をする。過剰になると在庫が増えるのを嫌がって、概算金を下げ、コメの引き取りを事実上拒否したことがあった。

2007年、JA農協は過剰作付けを見通し、米価低下を予測した。JA全農は、概算金を、前年の1万2000円から7000円へと大幅に減額した。全農に売ると7000円しか払わないという、組合員に対する事実上の集荷拒否だった。売れないコメを抱えると、金利・保管料を負担しなければならないからだ。

全農は、組合員農家より自らの組織の利益を優先した。組合員農家は、建前は農協の主人だが、実際には農協ビジネスの客体である。コメ業界でこれは「7000円ショック」と言われた。コメの業界関係者は「農家の組織がそこまでするか」と思った。事実米価は下がった。コメの商売については、経済が分からない農林水産省よりJA農協の見方のほうが信用できる。

■減反は消費税以上に逆進的な政策

家計の消費支出に占める食費の割合を示す「エンゲル係数」は、29.8%(2023年度)と40年ぶりの高水準になった。このような中でさらに米価が上がっていけば、国民生活はますます苦しくなる。

政府は財政負担を行って国民に安く医療サービスを提供している。減反は、農家に3500億円もの補助金(納税者負担)を出して供給を減らし米価を上げる(消費者負担増加)という異常な政策である。主食のコメの価格を上げることは、消費税以上に逆進的だ。

1961年から世界のコメ生産は3.5倍に増加しているのに、日本は補助金を出して4割も減少させた。食料自給率低下は当然である。戦前農林省の減反案を潰したのは陸軍省だった。減反は安全保障とは真逆の政策だ。

【図表】コメ生産量の推移(1961年=100)
出所=FAOSTATより筆者作成

減反を廃止すれば、1700万トン生産できる。国内で700万トン消費して1000万トン輸出していれば、国内の需給が増減したとしても輸出量を調整すればよいだけである。

今ではカリフォルニア米との価格差はほとんどなくなり、日本米の方が安くなる時も生じている。減反を廃止すれば価格はさらに低下し、輸出は増える。国内の消費以上に生産して輸出すれば、その作物の食料自給率は100%を超える。コメの自給率は243%となり、全体の食料自給率は60%以上に上がる。最も効果的な食料安全保障政策は、減反廃止によるコメの増産と輸出である。平時にはコメを輸出し、輸入途絶という危機時には輸出に回していたコメを食べるのである。今備蓄米に毎年500億円かけている。平時の輸出は、財政負担の必要がない無償の備蓄の役割を果たす。

■なぜ減反は廃止できないのか

しかし、減反は廃止できない。

減反はJA農協発展の基礎だからである。高い米価でコストの高い零細な兼業農家が滞留した。かれらは農業所得の4倍以上に上る兼業収入(サラリーマン収入)をJAバンクに預金した。また、農業に関心を失ったこれらの農家が農地を宅地等に転用・売却して得た膨大な利益もJAバンクに預金され、JAは預金量100兆円を超すメガバンクに発展した。減反で米価を上げて兼業農家を維持したこととJAが銀行業と他の事業を兼業できる日本で唯一の法人であることとが、絶妙に絡み合って、JAの発展をもたらした。

減反補助金を負担する納税者、高い食料価格を払う消費者、取扱量の減少で廃業した中小米卸売業者、零細農家滞留で規模拡大できない主業農家、輸入途絶時に食料供給を絶たれる国民、すべてが農政の犠牲者だ。

特に、政治力のないコメの販売業者は、農政に抗議をすることもできず、店をたたみ消えていった。JA農協という既得権益に奉仕する農林水産省は、「すべて公務員は、全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではない」とする日本国憲法第15条第2項に違反している。

■コメ農家が赤字でも生産を続ける理由

米価が下がるとコメ生産が維持できなくなるという主張がある。しかし、米価を上げてコメ生産を維持するためにコメ生産を減少させる(減反である)というのは矛盾していると思わないようだ。

また、農業界は、今の米価はコストを賄えないのでもっと米価を上げるべきだと主張する。

そもそも多数を占める1ヘクタール未満の農家のコメ生産はずっと赤字である。赤字なのになぜコメ作を止めないのか? 農家は赤字でも国民のためにコメを生産していると一部の農業経済学者は主張するが、これはウソである。

【図表】コメの規模別生産費・所得(2018)
出典=平成30年農業経営統計調査

1俵当たりコストが1万5000円で生産者米価が5000円だとすると、コメを作れば1万円の赤字となる。コメを作らなければ、2000円の地代を得て町で小売価格8000円の米を買うと、6000円の支出(赤字)で済む。コメを作らない方が得だ。

ここで生産者米価が1万円に引き上げられると、米作りの赤字は5000円に縮小する。町の小売価格も1万3000円に上がる。コメ作りを止めて2000円の地代を得ても、町でコメを買うと1万1000円の支出(赤字)になる。自分でコメを作った方が赤字は少ない。コメ作りの赤字をコメの購入代金と考えれば、スーパーで買うよりもはるかに安く手に入れることができるのだ。

【図表】零細農家が赤字でもコメをつくる理由
図表=筆者作成

零細農家が赤字でもコメ作りを止めないのは、そのほうが有利だからだ。決して、兼業収入からコメの赤字を補塡(ほてん)してまで、国民のためにコメを作っているのではない。さらにコメ農業の赤字を損金算入して給与所得者として納付した税の還付を受ければ、利益が出る。彼らも、我々と同様経済合理的に行動しているのだ。

■農家の所得補償は「直接支払い」で行う

米価が市場に任せられていれば、他の農業と同様、零細な農家は農業を止めて、農地を主業農家に貸し出し、地代所得を得ようとするはずだった。米価引上げは、兼業農家の滞留、コメ消費の減退、コメ過剰による減反の実施をもたらし、コメ農業を衰退させた。

アメリカやEUは農家の所得を保護するために、かなり前から価格支持ではなく直接支払いという政府からの交付金に転換している。米価を下げても主業農家に直接支払いをすれば、主業農家だけでなくこれに農地を貸して地代収入を得る兼業農家も利益を得る。財政負担は1500億円くらいですむ。

■二毛作を復活させよ

以前は、麦を収穫した後の6月に田植えをしていた。

それが兼業化によりゴールデンウィークの期間になり、二毛作は消えた。田植えを元に戻し10月にコメを収穫すると高温障害はなくなり、麦の生産が増加し食料自給率は70%まで上がる。

国民のために政府が行うべきことは、減反廃止、直接支払い、二毛作復活である。

■石破政権は減反を廃止できるか

総理となった石破茂氏は、かねてより減反廃止と直接支払いという政策を提唱してきた。総裁選挙でも、「補助金を払ってコメ生産を減らすことはおかしい、直接所得補償をすればよい」と主張した。コメが不足し値段も上がっている今は、改革実行の絶好のチャンスである。

しかし、これは石破氏の持論である「一内閣一仕事」に匹敵する改革となる。小泉内閣の郵政民営化と同程度の仕事である。総理として、それを実行できるだろうか? 食糧管理制度の下政府がコメを買い入れていた時代、政府がコメの買い入れ価格(生産者米価)を下げようとすると、自民党などから選挙があるという理由で拒否されてきた。10月にも総選挙が予定されている。

しかも、総理が単独で改革を実行できるわけではない。コメ政策に影響力を及ぼすと考えられる森山裕幹事長や小野寺五典政調会長は、農林族議員でもあるうえ、必ずしも農政改革に前向きではない。党の幹部だけでなく選挙地盤が弱い他の自民党農林族議員やJA農協を説得しなければならない。国会論戦になれば、民主党の戸別所得補償との違いも説明できなければならない。農相に相当な知恵と覚悟と腕力が必要とされるが、農林水産大臣に起用される小里泰弘氏は石破氏の主張を実現できるだろうか?

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山下 一仁(やました・かずひと)
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹
1955年岡山県生まれ。77年東京大学法学部卒業後、農林省入省。82年ミシガン大学にて応用経済学修士、行政学修士。2005年東京大学農学博士。農林水産省ガット室長、欧州連合日本政府代表部参事官、農林水産省地域振興課長、農村振興局整備部長、同局次長などを歴任。08年農林水産省退職。同年経済産業研究所上席研究員、2010年キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。著書に『バターが買えない不都合な真実』(幻冬舎新書)、『農協の大罪』(宝島社新書)、『農業ビッグバンの経済学』『国民のための「食と農」の授業』(ともに日本経済新聞出版社)、など多数。近刊に『日本が飢える! 世界食料危機の真実』(幻冬舎新書)がある。

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(キヤノングローバル戦略研究所研究主幹 山下 一仁)

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