夜にどうしてもスマホやパソコンを見る必要があるならこの方法で…医師「質の良い睡眠を決める行動」
プレジデントオンライン / 2024年10月4日 15時15分
※本稿は、櫻井武『すぐに実践したくなる すごく使える睡眠学テクニック』(日本実業出版社)の一部を再編集したものです。
■「肌のゴールデンタイム」に根拠はない
「寝る子は育つ」ということわざがありますよね。これは科学的にも正しいです。
ノンレム睡眠のなかでも、深いノンレム睡眠(N3)になると、脳の「下垂体」という器官から「成長ホルモン」が分泌されます。この成長ホルモンは細胞の分裂を促し、骨や筋肉を成長・発達させます。
成長ホルモンは、子ども時代の成長のためだけに働くわけではありません。大人になっても分泌されており、全身の細胞の修復・再生を助けます。新陳代謝だけでなく、疲労回復、免疫機能の維持などの働きもあります。
また、成長ホルモンは「若返りホルモン」とも呼ばれ、肌の新陳代謝を活発にしたり、脂肪を分解したりします。
若返りホルモンには、根拠のない睡眠神話があります。「肌のゴールデンタイム」という言葉を聞いたことはありませんか?
「美容に影響を与える成長ホルモンの分泌は、午後10時から午前2時までで、その時間帯に睡眠をとろう」というものです。または「お肌のシンデレラタイム」という表現もあります。これらは科学的な根拠はありません。
たしかに成長ホルモンが寝ている間に分泌されることは間違いありません。ただし、分泌に時間帯は関係ありません。「午後10時から午前2時」という特定の時間帯ではなく、最初の睡眠周期で現れる深いノンレム睡眠(N3)のときに、健康にも肌にも良い成長ホルモンは多く分泌されるのです。
■大切なのは「深いノンレム睡眠」を取る習慣を作ること
ノンレム睡眠とレム睡眠の組み合わせを1つの周期とすると、通常、一晩寝ているときに、この周期を4〜5回繰り返します。ただし、ノンレム睡眠は起床に近づくにつれてだんだん浅くなるので、もっとも深いノンレム睡眠が出るのは1回目のサイクルなのです。
若い人ならば、深いノンレム睡眠が2回現れることもありますが、年齢を重ねていくと、眠りが全体的に浅くなります。
大切なのは、寝る時間帯よりも、きちんとした睡眠習慣をつくって、最初の睡眠サイクルでしっかり深いノンレム睡眠をとること。あまりに寝る時間帯にこだわるのは、睡眠に悪影響を及ぼしかねません。
子どもだけでなく、大人の健康と美をサポートする成長ホルモンですが、いくら最初の深い睡眠時に多く分泌するといっても体内のリズムが整っていることが大前提です。ある日は早く寝て、次の日は夜更かしでは、体内のリズムが乱れて、成長ホルモンが思うように分泌しないことも心に留めておきましょう。
■昼夜を問わず「強い光」に囲まれている現代社会
「眠りの質を高めたい」と考える方も多いでしょう。睡眠の質は、夕食以降に浴びる光の量に大きく左右されます。
私たちの体には、1日のリズムを生み出す仕組みである「体内時計」が備わっています。個人差もありますが、体内時計の平均的な周期は24時間10分ぐらいです。
体内時計には、脳の松果体(しょうかたい)という器官で分泌される「メラトニン」という(調整因子の)ホルモンが関係しています。メラトニンそのものに直接睡眠をコントロールする力はありませんが、分泌によって体内時計に働きかける結果、私たちの体を眠りに誘っています。
メラトニンは、とりわけ目から入る光によって分泌量が変わります。具体的には、光の多い昼間にはメラトニンの分泌量は少なく、光の少ない夜になると徐々に増えていくのです。実際に、メラトニンは睡眠中に分泌され、血中濃度がどんどん高くなります。
そもそも人間は、大昔から昼間に活動して、夜は睡眠をとる、昼行性の生き物です。
ところが現代社会ではどうでしょう?
夜でも街灯や蛍光灯がついていますし、スマートフォン(以下、スマホ)やパソコンのブルーライトが身近にあるなど、私たちは強い光に囲まれています。目から入る光は体内時計に間違った時刻情報を伝えることになるので、日が暮れても光を浴び続けることで「視交叉上核(しこうさじょうかく)」にあるマスタークロックに影響を与えてしまいます。
■夕食後は寝るまで強い光を浴びないようにする
これにより、体内時計が後ろのほうにずれていきます。夕方以降になっても光を浴び続ける結果、体内時計が狂ってしまうのは、現代人の宿命なのかもしれません。
しかし睡眠にとっては、この現代の宿命は好ましくありません。光の影響を少しでも防ぐためには、夕方以降は睡眠に向けた“助走”だと認識することが大切です。
飛行機にたとえると、日が沈んだあとは、眠りというフライトに向かうために滑走路に向かっている状態だと捉えることが、現代を生きる私たちにとって不可欠です。
睡眠への助走のために、夕飯時の照明を落としてみるのも1つの方法です。真っ暗にする必要はありません。欧米のホテルや雰囲気の良いレストランでは間接照明が使われていて、少し薄暗い感じがしますよね。その程度の明るさを意識してみましょう。
せめて、直接、目に光が入らないように工夫してみてください。部屋の明かりをオレンジなどの暖色系にすることもおすすめです。
できることなら、夕食後は寝るまでは強い光を浴びないようにしましょう。スマホやパソコンのモニターもできるだけ見ないほうが良いですが、どうしても見なくてはいけないのであれば暗めに設定してください。
質の良い睡眠を決めるのは、日が暮れてからの光を避ける行動といっても過言ではありません。
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医師、日本睡眠学会理事
医学博士。筑波大学医学医療系および国際統合睡眠医科学研究機構教授。筑波大学大学院医学研究科修了。日本学術振興会特別研究員、筑波大学基礎医学系講師、テキサス大学ハワード・ヒューズ医学研究所研究員、筑波大学大学院准教授、金沢大学医薬保健研究域教授を経て、現職。1998年、覚醒を制御する神経ペプチド「オレキシン」を発見。平成12年度つくば奨励賞、第14回安藤百福賞大賞、第65回中日文化賞、平成25年度文部科学大臣表彰科学技術賞、第2回塩野賞受賞。著書、テレビ出演など多数。
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(医師、日本睡眠学会理事 櫻井 武 イラストレーション=坂本奈緒)
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