「低血圧は朝が弱い」は大間違い…睡眠のプロ「起床直後に体と脳を"活動モード"にさせる3つの方法」
プレジデントオンライン / 2024年10月8日 15時15分
※本稿は、櫻井武『すぐに実践したくなる すごく使える睡眠学テクニック』(日本実業出版社)の一部を再編集したものです。
■「低血圧の人は朝が弱い」に医学的な根拠はない
朝の目覚めの善し悪しは、睡眠の質を確かめる1つの目安です。
スッキリ目が覚めて、体調も万全ならば、その日の睡眠がある程度、満足のいくものだったことが考えられます。朝食を摂って会社に向かえば、その日は、高いパフォーマンスが期待できるでしょう。朝が苦手で寝起きが悪いという人も多いですよね。
朝が苦手な理由に「低血圧」を挙げる人がいますが、「低血圧の人は朝が弱い」という医学的な根拠はありません。寝起きが悪いのは、低血圧によるのではなく、生体リズムや自律神経のバランス、睡眠不足、睡眠の質の低下などが影響しています。
その日の睡眠が十分でないことがもっとも大きな要因の1つで、寝起きが悪いままでは日中の仕事にも影響してしまいます。
起きてすぐの行動で体と脳を“活動モード”にさせる方法を知っておくことは、現代人にとっては必携の手段です。
ベッドから出て、両手両足を伸ばして全身に血液を行き届かせるようなストレッチをするのも良いでしょう。伸びをすることで、寝ている間に硬くなった筋肉がほぐれます。起き上がって太陽の光を浴びながら、手を肩よりも上に背伸びするのも効果的です。
■冷たいタオルを当てるだけでも倦怠感は解消出来る
コップ1杯の水や白湯(さゆ)を飲むのも有効です。睡眠中に、1リットルも失われる水分を補うだけでなく、水や白湯を飲むことで胃腸のぜん動運動を促す「胃結腸(いけっちょう)反射」が起こります。胃や腸を無理やり起こして、体のなかから目覚めさせていくようなものです。
また、起きてすぐに冷たいタオルを首や足にあてるだけでも、倦怠感を解消することが期待できます。
手足は毛細血管が密集しています。また首には、太い血管が走っています。ここをタオルで冷やすことで、脳が「体が冷えた」と誤反応を起こし、血圧を上げて全身に血液を届けようとします。
その結果、交感神経が優位に働き出し、血圧や体温も上昇していくのです。冷たい刺激で脳をごまかすことで体を目覚めさせるのです。
大事な会議の前なのに、急に眠気が襲ってきた……。そんなときにも手足や首に冷たいタオルをあてるのは有効な手段です。
■運動が睡眠に良い影響を与える理由
「昨日は、よく運動したから、ぐっすり眠れた」
誰でも、こんなことを感じたことがあるでしょう。長時間体を動かして疲労したことが、睡眠に良い影響を与えていると考えている人もいますが、それだけではありません。
実は、運動することで、体が疲弊する以上に脳が疲労し、深い睡眠をもたらしています。
そもそも私たち「動物」は、体を動かすために脳を発達させてきました。動物のなかでも人間は、多くの機能を使って体を動かすため、脳を飛躍的に大きくさせてきました。脳の半分以上が、体を動かすためにあるといっても過言ではありません。
加えて、運動することにより脳はじっとしていただけでは行なわない、さまざまな情報処理をします。
ウォーキングを例に、脳の働きを見ていきましょう。
歩いていると周囲の環境が変わっていきます。違う景色が現れたり、騒がしい場面に出くわしたり、ときに花の香りが漂ってきたりすることもあるでしょう。視覚や聴覚、嗅覚の情報は、そのときどきで脳の後頭葉や側頭葉で処理されていきます。
■「歩く」行為ひとつにも脳の多くの部分が使われている
また、「今日は風が強いな」「体がちょっと重いな」というのも脳で感じることです。歩いているときに、自転車が来たから避けよう、人混みだからぶつからないように気をつけよう、と考えるのも頭のなかで決めています。
そもそも、真っすぐ歩こう、つまずかないようにしよう、という「歩く」ために当たり前の行為さえ、脳が考えて指令していることなのです。
そして、起きているときにたくさん使った脳の部分は、就寝中、深い眠りに陥ります。運動をすると脳の多くの部分が使われます。そのため、寝ているときは、脳のほとんどの部分で深い睡眠に入ります。これが、体をたくさん動かしたときに、ぐっすり眠れる仕組みです。
パソコンに一日中向かうデスクワークでは、脳の特定の部分しか使われません。就寝中は脳のなかで、ある部分は深く眠り、ほかの部分は浅く眠るといった偏りが生じます。
体を動かすことが勧められるのは、睡眠学的には、脳全体がしっかり眠っている状態をもたらすからです。
■光のエネルギーが強いブルーライトを浴びた結果
夜の暮らしを照らす照明の種類は、白熱電球から蛍光灯になり、現在はLED照明が普及しています。LED照明は、電球や蛍光ランプよりもブルーライトが多く含まれています。
またLEDディスプレイにも多く使われているため、パソコンやスマホ、タブレットからもブルーライトが多く出ています。
近年では、このブルーライトをカットする眼鏡も売られていますが、ブルーライトは私たちの体に、どのような影響があるのでしょうか?
ブルーライトは、可視光のなかでも波長が400〜500ナノメートル(1ナノメートルは、1メートルの10億分の1)と波長がもっとも短い青色の光です。光のエネルギーは、波長が短いほうが強いため、ブルーライトはほかの光に比べて、光のエネルギーが強いのです。
夜遅くにエネルギーの強い光を浴びると、体内でリズムを刻む時計の針が1~2時間ほど巻き戻されます。
通常は、だいたい覚醒した時刻の16時間後の「寝るべきタイミング」になると、体内時計が脳の各所に覚醒出力を低下させるよう働きかけて、眠りに誘います。しかし、体内時計が後ろにずれ込むと、この眠りに誘うタイミングが遅れてしまい、睡眠時間が確保できず、睡眠の質が悪化するのです。
■夕方以降には強い光の刺激を避ける
もう少し、光と体内時計のメカニズムについて紹介しましょう。
光の情報は、眼の網膜の「視細胞」という光を捉えるセンサーから、網膜の「神経節細胞」を中継して、脳に届けられます。そして、神経節細胞の一部には、視覚の処理ではなく、明るさの情報そのものを脳に伝える役割をもっているものがあります。
この明るさの情報そのものを伝える神経節細胞のなかに、波長460ナノメートル前後の青い光を感じ取る分子が現れて、体内時計に影響を与えているというメカニズムです。
「明るさの情報が影響するなら、ブルーライト以外の光も悪者じゃないの?」と思ったあなた、大正解です。ブルーライト以外の光も体内時計に影響します。
ブルーライトだけを問題にする以前に、明るい光全般が悪いと考えておいたほうが良いでしょう。ただし、体内時計にもっとも強力に働いてしまうのがブルーライトなのです。
自然な眠りに入るためには、夕方以降には強い光の刺激を避けることがポイントです。たとえば、夜になったら部屋の照明は暗めにすることです。
できればリビングやダイニングは間接照明を使ったほうが良いでしょう。また光の強さや色を変えられる「ツーウェイタイプ」の照明にするのも1つの案です。
■刺激的な動画や他人のSNSによる刺激にも注意
また最近のスマホは明るさを調節することができます。スマホの画面の「色温度」を調節して、寒色系のブルーライトから、暖色系に切り替えることでも光の刺激を弱める効果が期待できます。スマホの便利な機能を利用して、光による刺激で体内時計が乱れない工夫をしてみてください。
さらに、スマホやタブレットなどデジタルデバイスには、睡眠の質を低下させるコンテンツが多く含まれているので注意が必要です。YouTubeで刺激的な動画を次々と見たり、他人のSNSを見ながら嫉妬やコンプレックスを感じたりすると、脳が興奮して睡眠の妨げになります。
寝る前にスマホを使うときは、脳を刺激しないようにする──。睡眠に悩む現代人に求められているスキルの1つだといえるでしょう。
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医師、日本睡眠学会理事
医学博士。筑波大学医学医療系および国際統合睡眠医科学研究機構教授。筑波大学大学院医学研究科修了。日本学術振興会特別研究員、筑波大学基礎医学系講師、テキサス大学ハワード・ヒューズ医学研究所研究員、筑波大学大学院准教授、金沢大学医薬保健研究域教授を経て、現職。1998年、覚醒を制御する神経ペプチド「オレキシン」を発見。平成12年度つくば奨励賞、第14回安藤百福賞大賞、第65回中日文化賞、平成25年度文部科学大臣表彰科学技術賞、第2回塩野賞受賞。著書、テレビ出演など多数。
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(医師、日本睡眠学会理事 櫻井 武 イラストレーション=坂本奈緒)
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