相手の依頼を文字通り受け取ったら絶対ダメ…一流コンサルタントが「真の問題設定」で頻繁に使う言葉
プレジデントオンライン / 2024年10月4日 15時15分
※本稿は、堀紘一、津田久資『本物のコンサルを選ぶ技術』(クロスメディア・パブリッシング)の一部を再編集したものです。
■わざわざコンサルに頼む意味は「時間を買う」にある
「時間を買う」ことで機会損失を避けることができる
「時間」は、ビジネスにおいて重要なファクターである。たとえば新規分野に参入が遅れれば、他社にシェアを確保され、莫大な利益をフイにすることもあるだろう。
反対に、適切なコンサルティングによって参入が半年早まれば、他社に先駆けてシェアを確保して、大きな利益を得ることができる。
新規事業や海外進出などの際に、コンサルティング・ファームを雇えば、自社だけで取り組むよりも、より適切で迅速な対応ができ、機会損失を防ぐことができる。
コンサルタントは「時間」という価値を、企業に提供しているのだ。
どれほどの大企業の経営戦略部門でも、一流と呼ばれているコンサルティング・ファームの蓄積されたノウハウと情報に適うものではない。
経営戦略コンサルティングに限らず、総合系にしてもIT系にしても、すべて同じことが言えるだろう。それぞれが専門分野での経験値を積み上げ、多くの実例と膨大なデータを有している。
コンサルティングはノウハウや情報だけでなく、「時間を買う」という点で大いに効用があると考えてよいと思う。
■顧客が抱える背後に潜むもっと大きな問題
企業が抱える「真の問題」が明確になる
「うちの会社の○○が問題なので、何とかしてほしい」
顧客からの依頼は、こんな形で来ることが多い。
しかし、顧客の指摘している問題が“真の問題”だったことはほとんどない。
多くの場合、顧客が問題だと言っているその背後に、もっと大きな問題が潜んでいるのである。
たとえば営業力が弱いので、営業力強化のコンサルティングをしてほしいと依頼されたとしよう。
そこで私たちが調べてみると、営業力の弱さは、営業に向いている人を採用しているかどうかの「採用基準の問題」である場合がある。
すると問題は営業力の強化ではなく、採用基準を見直すことにあるといえる。あるいは、その後の評価基準がおかしいために、営業マンのモチベーションを下げているということもある。
つまり、企業が問題としているのは真の問題ではなく、真の問題のたんなる「結果」に過ぎないということだ。
■何が問題かが問題だ
「結果」を「問題」として取り違えているうちは、いくら対処しても問題解決にはならない。
胃が痛いのは、痛みそのものが問題なのではなく、胃にできた潰瘍やガンが本来の原因であり問題なのだ。痛み止めを飲めば、一時的に痛みを忘れるかもしれないが、手術や適切な薬の処方で病根を断たねば、いつまでも同じ痛みが襲ってくる。それと同じことだ。
よく私自身は「何が問題かが問題だ」という言葉を使う。ところが、これがじつに難しい。
本当の問題を見極めるには、因果関係を読み解く論理的な思考や分析力、経験値や勘など総合的な力が必要になる。
問題さえしっかりと認識できれば、解決策は自然と導かれてくる。問題解決の方策はそれこそいろいろな方法があり、難しいことではない。本当に難しいのは何が問題か、つまり「問題をどう設定するか」ということだ。
この「問題設定能力」を徹底的に鍛えているのが、一流のコンサルタントである。この点1つを取ってみても、コンサルティングを雇う意義と効用があることがわかっていただけると思う。
■顧客が何を望んでいるかがわかっていない
内側からはわからない“ズレ”を外からの視点で矯正する
日本企業の場合、「会社の中」のことに関しては、社員はじつによく知っている。でも、「会社の外」のこと、世の中のことになると意外と知らない。
たとえば自分の会社の顧客が、どんな商品を望んでいるか?
こんな基本的なことは、社員であれば知っていて当然と考える。ところが、日本の会社では、当の社員が気づいていない場合が少なくない。
それは日本の企業が、構造的にエンドユーザーとの接点が希薄だからだ。顧客に商品が行く前に問屋があり、卸があり、そこから各店舗に商品が渡ってようやく消費者の手に渡る。顧客の反応を直接見たり聞いたりできないから、エンドユーザーが何を欲しているか、何を望んでいるかが見えていない。
人材が欧米に比べると、比較的固定しているのも大きいだろう。日本企業の終身雇用制は崩れて久しく、人材の流動化は以前よりも高くなっている。とは言っても、欧米に比べると転職する人間はまだまだ少ない。
アメリカなどの場合は、業界内で同業他社にどんどん転職するけれど、日本でそれをやると裏切り者扱いされてしまう。たとえばエンジン設計をやっている人間がトヨタから日産に移るということはあまり考えられない。
やはり農耕民族である日本人は、どこかに自分の根っこをしっかりとおろして仕事をする方が合っているのかもしれない。
■気がつくと社内の常識が社外の非常識に
そのような風土の中で会社勤めが長くなるほど、思考は内向きになっていく。会社の中のことはよく知っているが、外のことからはどんどん隔絶され、気がつくと社内の常識が社外の非常識になってしまうなんてことが起きる。
このような状況の中で、社内の人間だけでものを考えていると、自分たちでは気がつかない「ズレ」が出てくるものだ。
気がついたとしても発言しにくい雰囲気がある。
そこで、外からの風が大きな効果をもたらすことになる。
腕の良いコンサルタントが来て、その点を客観的に指摘して分析する。自分たちが思いもしなかったズレや縛りがあることに気がつくと同時に、そこから自由になることで一気に視野が広がり、思考の枠が広がる。この付加価値は、大変大きなものがあると思う。
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経営コンサルタント
1945年兵庫県。東京大学法学部卒業後、読売新聞経済部を経て、73年から三菱商事に勤務。ハーバード・ビジネススクールでMBA with High Distinction(Baker Scholar)を日本人として初めて取得後、ボストン コンサルティング グループで経営戦略策定を支援。89年より同社代表取締役社長。2000年6月、ベンチャー企業のコンサルティングを行うドリームインキュベータを設立、代表取締役社長に就任。05年9月、同社を東証1部に上場させる。著書多数。
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戦略コンサルタント
東京大学法学部卒業。カリフォルニア大学バークレー校経営大学院修了(MBA)。博報堂、ボストン コンサルティング グループ、チューリッヒ保険などで、一貫して新商品開発、ブランディングを含むマーケティング戦略の立案・実行にあたる。現在はコンサルティング業務を行いながら大手企業などの研修において、論理思考・戦略思考の講座を多数担当。のべ1万人以上の指導実績を持つ。著書に『あの人はなぜ、東大卒に勝てるのか──論理思考のシンプルな本質』『新マーケティング原論』(ともにダイヤモンド社)など、共著に『ロジカル面接術』(ワック)などがある。
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(経営コンサルタント 堀 紘一、戦略コンサルタント 津田 久資)
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