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「分割払いでお布施を払え」離壇料700万円を要求されるケースも…住職に「墓じまい」を拒まれる終活の落とし穴

プレジデントオンライン / 2024年10月6日 8時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kazunoriokazaki

「墓じまい」をめぐるトラブルが後を絶たない。日本女子大学名誉教授の細川幸一さんは「離檀料として高額なお布施を請求されるケースがある。お寺との話し合いが必要だが、埒があかない場合は消費生活センターに相談するか、宗派の本山に訴えるのが効果的だ」という――。

■宗教に「お布施トラブル」はつきもの

旧統一教会の献金(お布施)をめぐるトラブルが、安倍晋三元首相の銃撃事件によって注目されることになった。宗教法人を所管する文部科学大臣が宗教法人世界平和統一家庭連合に対する解散命令請求を行うという前代未聞の事態が進行中だが、お布施をめぐるトラブルは統一教会だけのことではない。

いわゆる「お布施」に関する苦情や不満も聞かれる。そもそもお布施とは、読経や戒名のお礼として僧侶に渡す金銭のことだが、僧侶のサービスに対する対価ではなく、ご本尊に捧げるものとされる。そのため、基本的に金額に決まりはないとされている。しかし実際には、高額のお布施を請求されたという事例が後を絶たないのだ。

筆者自身の周りでもトラブルを聞くことがある。

「法事で支払ったお布施が少なすぎると、後日、僧侶からクレームをつけられた」
「家族の葬儀でお布施を300万円請求され、葬儀社も指定された。すでに葬儀社を手配していたので、高額のお布施に加えて葬儀費用も二重に支払うことになった」

といった内容だった。

そうした中で近年特にトラブルになっているのが、墓じまいに関するものだ。

■容易に「墓じまい」ができないケースも…

お墓じまいとは、墓石を撤去して墓所を更地にして使用権を返還することだ。お墓に納められている遺骨を持ち出して別の場所に納骨したり、廃棄したりするには、行政手続きが必要で、そのためには墓地管理者に墓じまいの意思を伝え、「埋蔵証明書(埋葬証明書)」の発行を依頼する必要がある。

墓地管理者とは、寺院墓地の場合は寺の住職、公営・民間霊園の場合は霊園管理事務所だが、寺院の墓地の場合、墓じまいはお寺の檀家から離脱することを意味し、高額の離檀料なる布施を請求される事例が問題になっている。

近年、転居による地方の過疎化や少子化などの影響もあり、継承者がいない無縁墓が増えるとともに、「子どもに負担をかけたくない」、「お墓が遠方にありお墓参りが難しい」、「夫婦それぞれの実家のお墓を守るのが大変」など供養に関する価値観の変化から、墓じまいを検討する人が増えている。

檀家制度が崩壊しているともいわれる。檀家とは特定の寺に属し、葬祭供養や墓の管理を行ってもらう家のことだが、過疎地に限らず地方から関東圏に移り住んだ人たちの中には、檀家制度をきらい、離檀するケースが増えているという。

秋川雅史が歌う「千の風になって」が2006年以降大ヒットしたが、「私のお墓の前で泣かないでください そこに私はいません 眠ってなんかいません」という歌詞が人々の心に響いたように、亡くなったら墓石の下の真っ暗なカロートに入るという考えを支持しない人が増えたことも一因だろう。

■「過去帳に8人が載っているので700万円かかる」

2022年6月に国民生活センターは「墓じまい・離檀料に関するトラブルに注意」という注意情報を出して、以下の二つの事例を紹介している。

●自宅から遠く、自分も入るつもりはないので、墓じまいを寺に申し出たところ、300万円ほどの高額な離檀料を要求され困惑している。払えないと言うとローンを組めると言われた。(80歳代 女性)
●跡継ぎがいないのでお寺に離檀したいと相談したところ、過去帳に8人の名前が載っているので、700万円かかると言われた。不当に高いと思う。(70歳代 女性)

前述の通りお布施はサービスへの対価ではないはずだが、お墓を片付け、寺など墓地の管理者に返還する墓じまいの際に、高額なお布施を請求されるケースが目立ち、「離檀料」という言葉も注目を集めた。離檀料とは本来、檀家をやめるときに寺へのお礼として慣習的に支払うお布施だ。

問題は、墓じまいは勝手にできず、先ほど述べた寺などが発行する「埋葬証明書」が必要であることだ。これがないと、墓じまいした後に遺骨を別の墓地や霊園に納骨できないので、お寺が強気に出てくることもあるようだ。

苦情事例にある「ローンを組んでお布施を払え」という僧侶がいるのは驚きだ。「高額なお布施を請求され、払えないというと、分割払いでよいと言われ、後日、僧侶が取り立てに来た」という話も聞いたことがある。

手を合わせる僧侶
写真=iStock.com/nattrass
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/nattrass

■霊感商法の救済策は拡充されたが…

政府広報オンラインは、2024年7月17日に「不当な寄附勧誘行為は禁止! 霊感商法等の悪質な勧誘による寄附や契約は取り消せます」と題する記事を公表し、「不当な寄附勧誘を防止し、被害からの救済や再発を防ぐため新たな法律が制定されました。また、消費者契約法等の改正が行われ霊感商法等による被害の救済が拡充されました」としている。

前者は、不当な寄附勧誘を未然に防止し、被害の救済、再発防止を図るため、2023年6月1日に全面施行された「不当寄附勧誘防止法」だ。同法は、「寄附勧誘を行う法人等への規制等」と「不当な勧誘により寄附した人やその家族の救済」の2つを軸に構成されている。

ただし、「不当な勧誘によって高額な寄附をせまられ、家庭が困窮したり崩壊したりする事例が相次いで報告された問題を受けて、こうした不当な寄附勧誘を未然に防止し、被害の救済、再発防止を図るため」(同オンライン)に施行された法律で、寺院の高額のお布施請求をただちに否定、違法と判断できるものではない(法は宗教法人に限定していない)。

後者の消費者契約法については、霊感等による知見を用いた勧誘による消費者被害の深刻化に対応するための改正が行われ、2023年1月5日に施行された。内容は「霊感等による告知を用いた勧誘による契約に対する取消しの対象範囲の拡大、行使期間の延長」だ。

これも、霊感商法にあたる行為を行っている場合の被害防止が目的であるので、問題になっている高額の離檀料請求事案に適用できるケースは多くないと思われる。

筆者提供
ある宗派で実際に利用されている誓約書の一例 - 筆者提供

■離檀料について正面から見解を表明する宗派

離檀料を含むお布施は「料金」ではないので、明確な基準はなく、金額に納得がいかない場合は、基本的には寺などと話し合う必要がある。それでも納得できず、埒が明かない場合は、寺が所属する宗派の本山に相談するのが良いようだ。

離檀料問題に正面から見解を表明する宗派もある。曹洞宗のHP「SOTOZEN-NET」の「宗務庁より」に「離檀料・墓じまいに関する報道について」(2023年10月25日)という記述があり、以下のように述べている。

昨今、テレビ、雑誌等にて、離檀料・墓じまいという言葉を用いた報道がなされています。特に、「離檀料は一般的に○○万円」というように、あたかも離檀料に相場があるかのような報道や、寺院維持や住職の生活保障のために離檀料を請求する寺院があるかのような意見が述べられることがあり、誤った認識が広がることを懸念しております。そこで、正確な情報に基づく報道を行っていただくため、宗門の見解として以下のとおりご案内申し上げます。

1、離檀料について
(1)宗門公式としての離檀料に関する取り決めはありません。
(2)特段の理由により離檀される場合において、檀信徒から、離檀料を頂くようになどという指導も行っておりません。
(3)離檀に当たり、これまで先祖代々がお世話になった感謝の気持ちとして、布施を納めてくださる場合がありますが、(1)、(2)に記載のとおり、宗門において統一的な取り決めや指導はありません。地域の風習や慣行、寺院と檀信徒との関係性において、当事者間の話し合いにより決まるものと考えております。
(4)菩提寺との関係について疑問や要望をお持ちの場合は、出来る限り早い段階で、菩提寺にご相談されることをお勧めします。

2、墓じまいについて
(1)宗門公式として墓じまいという用語は用いておりません。
(2)使用している墓地区画を、特段の理由により別の場所へ移す場合、市区町村から墓地改葬許可を得た上で、墓地区画内の墓石を撤去し、原状に復することが必要となります。この場合、墓地撤去費用等の工事費用がかかる場合があります。また、墓地使用規則等が存在する寺院においては、当該規則等で定められた手続や義務を遵守すべき場合があります。墓地使用規則等の有無・内容については、墓地管理者(寺院墓地の場合は菩提寺の住職等)にお尋ねください。

■独りで抱え込んではいけない

大阪府箕面市の臨済宗妙心寺派「松雲峰 寒山寺」は良心的だ。HPの「よく頂くご質問」で「檀家を離れるときに、離檀料は必要ですか?」問いに対して、「当寺から請求することはありません。」と回答している。

不要とはしていないが、あくまでお布施としてお気持ちの金額をということだろう。

ネット上では、常識的な離檀に対するお布施として5万~20万円をあげているケースが多い。ただし、これはお布施としての金額なので、お寺の提示額がお布施だけなのか、墓の更地化に要する費用を含むのかの確認が必要だ。

高額離檀料などのお布施を請求された場合は、まずはお寺と話しあうことが重要だが、埒が明かない場合は、全国の消費生活センター[全国共通ダイヤル188(イヤヤ)]に相談することができる。

ただし、話を聞いたうえで、お寺との話し合いを勧めることが多いと思われるが、お寺としても公的機関に話をされると態度が変わることもある。高額のお布施請求をされ、宗派の本山にクレームを入れたところ、とたんにお寺の態度が変わり、お気持ちでけっこうですといわれたという事例がある。

宗派の本山としては、本来お布施であるはずの離檀における「献金」をあたかも料金のように請求し、しかも国民生活センターの発表事例のようにローンを勧めたとか、過去帳の名のある故人の人数で決めるようなお寺の態度は苦々しく思っているはずだ。

墓。京都、日本 2015年10月10日
写真=iStock.com/sguler
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/sguler

また、そもそも離檀が必要なのかも考えてよいだろう。年間数千円から数万円程度の管理費用をお寺に支払っておけば基本的には維持できるわけで、頻繁にお墓詣りができなくても、本来、弔いとは気持ちの問題だ。自分がお寺のお墓に入るか否かの自由はある。

宗教の自由とは、信仰する自由に加え、信仰しない自由、信仰をやめる自由も当然含まれるはずだ。お寺も人口減などで檀家が減り、苦しい事情があるからこうした問題が起きるのだろうが、こうした法外なお布施の請求が仏の御心に反しないのか質したい。

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細川 幸一(ほそかわ・こういち)
日本女子大学名誉教授
独立行政法人国民生活センター調査室長補佐、米国ワイオミング州立大学ロースクール客員研究員等を経て、日本女子大学教授。一橋大学法学博士。消費者委員会委員、埼玉県消費生活審議会会長代行、東京都消費生活対策審議会委員等を歴任。専門:消費者政策・消費者法・消費者教育。2024年3月に同大を退職。著書に『新版 大学生が知っておきたい生活のなかの法律』『大学生が知っておきたい消費生活と法律【第2版】』(いずれも慶應義塾大学出版会)などがある。歌舞伎を中心に観劇歴40年。自ら長唄三味線、沖縄三線を嗜む。

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(日本女子大学名誉教授 細川 幸一)

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