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田中角栄の話はなぜ"予備知識ゼロ"でも面白いのか…披露宴でも面接でも大ウケする「15秒トーク」の真髄

プレジデントオンライン / 2024年10月3日 8時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kuppa_rock

話が上手な人と下手な人の違いとは何なのか。明治大学の齋藤孝教授は「話が『無駄に長い』人は、コンパクトに要約できていないのに、それをおかしいと思わずにスピーチしてしまう。時間感覚を養うための簡単な方法がある」という――。

※本稿は、齋藤孝『40代から人生が好転する人、40代から人生が暗転する人』(宝島社)の一部を再編集したものです。

■話が下手な人は論理性に欠ける

論理性に欠ける人は、思いつくまま、だらだらとカオスな話し方ばかりしてしまいます。これが職場であれば「あのプレゼンはいつもわかりにくい」という評価になってしまうわけです。

話が苦手な人は、相手が聞きたいことを先に言わずに、頭の中に浮かんだことから先に話したり、自分が言いたいことだけを多めに話したりする傾向があります。

一方、多くの人は日常会話でそれほど神経をとがらせてはいないものです。ためしに居酒屋などで仲間が話している会話を録音し、それをそのまま文字に起こしてみたら、文法や単語の選択はかなり乱れた形になっているはずです。

書くのはなんとかできるけど、話すのは苦手という人もいますし、そもそも「話し言葉」と「書き言葉」は同じではないですが、どちらもスラスラとできるのにこしたことはありません。会社でプレゼンを成功させるには、わかりやすく構成された資料を自身が作り、さらにわかりやすい言葉で、限られた時間で伝えるという両方の作業が必要になります。

■難しい話を子どもにも説明できるかどうか

話すことが上手な人というのは、難しい話を小さな子に説明するのも上手にこなします。

話の内容を正しく構造化し、再整理して語彙(ごい)を平易なものに置き換え、省くところは省き、わかりにくそうな部分は繰り返したり、強調したりできる人。つまりは、論理的な思考ができる頭のいい人ということです。

言葉の置き換えができるということは語彙力があるということで、なにより問題の本質を深く理解しているため、別の角度から違った表現で説明ができます。新聞の難しい記事を、そのまま平行移動して難しくしか話さないというのは、実は誰にでもできることです。記事の内容を構造化して再整理し、頭の中で編集することが必要になります。

40代の皆さんが社内で、大人同士で話すのであれば、「仕事ってそういうもんだよ」「それが世の中だからね」という前提で、大概のことは細かく話さなくて済んでしまいます。ところが小さな子どもは妥協を知らないイノセントな思考ですので、「なんであいさつが大切なの?」と、こちらの目を見て真剣に聞いてきます。その際、「いや、そういうもんなんだよ」では納得させられませんし、自分自身がわかっていないことにも気づくことになります。

■構造を理解し、話を正しく配列する

あいさつをするということは、突き詰めれば「自分はあなたの味方です」という気持ちを示す行動です。味方に対して人は危害を加えませんし、むしろ仲間となって何かをしたいと考えるでしょう。

「あなた」が何かに挑戦したいと考えたとき、困っているとき、それに気づいて手助けしてくれるかもしれません。こうしてつながりが大きく拡がっていく。あいさつは人と人のつながりの一番基本なことであり、これを大人の言葉ではコミュニケーションと呼び、会社で働いている大人が一番大事にしていることの一つなんだよ――例えばそんな風に噛み砕いて説明してみるのも方法かと思います。

40代の人であれば、相手が30代の部下か60代の上司かで、同じ企画でも伝えるポイントは変わってくるでしょう。また、相手が同じ20代の部下でも、その人たちの性格によって語彙や表現を変えるということはあると思います。

「早急にこれをするべきだね」という表現と「これをしてみたらどうだろうか」では、同じプランの提案であっても受け取る側の印象は大きく変わるはずです。あるいは、「AとBとCの課題のうち、Bについては難易度が高いので、彼には今回はAとCだけ伝えておこう」という場合もあるでしょう。

話を構造化して正しく置き換え、理想的な配列で言語化できる人が「話し上手な人」といえるでしょう。

■長いスピーチが喜ばれる場はどこにもない

話が苦手な人のさらなる特徴として、「無駄に長い」というものがあります。無駄に長い文章が職場の上司をイラつかせているのと同じで、披露宴のスピーチが長すぎると聞いている側はうんざりしてしまいます。

話が長い最大の理由は要約力が無いことにつきます。伝えるべきポイントがわかっていないため、要らない言葉まで混ぜこんでしまい、さらに話す順序も適当でないので、言葉にすると無駄に伸びてしまいます。

そもそもコンパクトに要約できていないのに、それをおかしいと思わずに披露宴でスピーチしてしまうのは、その人に時間感覚が無いということです。「できるだけ手短に話そう」という意識を持たずにスピーチに挑むのは、40歳以降の残りの人生で絶対にしないと固く決意すべきです。

講演会でもない限り、長いスピーチが喜ばれる場など世界のどこにもありません。また、上手な話し方には具体的な類似エピソードをつけ加える「例示」の感覚も必要です。これにより話の中身がぐっと説得力を増すのです。つまるところ、上手な話し方は「要約力」「時間感覚」「例示力」を意識するところからはじまります。これは披露宴のスピーチのみならず、業務上のプレゼンやキャリア採用の面接など、あらゆる「会話」に通用します。45歳の方がこの3つを常に意識して話す癖をつけるだけで、50歳になる頃にはまったく別の話し方をする人間になっているはずです。

■新聞紙面のように「大事なこと」から話す

この3点を意識しながら話す中で、たとえば「新聞紙面のように話す」という方法もあります。最近はニュースをネットで見るのが主流なので、40代の方にもあまりピンとこないかもしれませんが、新聞の一面は大きな横書きのドーンとした見出しからはじまり、次に縦書きの中くらいの見出し、次に数行のリード、そして本文という流れになっています。その本文もいくつかの段落に分かれています。

新聞というのは原則的に大事なことから先に書いてあります。極論すれば、見出しとリードだけで最低限の事実は伝わるわけです。一番大事なことを最初にズバリと書いてしまい、それを補足する形で次の段落にも情報を記し、エビデンスとなるグラフや表をつけることで理解をしやすくしています。先の「要約力」「時間感覚」「例示力」と重なることがわかると思います。話し方もそんなイメージですると自然とうまくなるということです。

話が苦手な人は、相手が聞きたいことを先に言わずに、頭に浮かんだことから先に話したりする傾向があるという話をしましたが、この方法が習慣化していると、そういう過ちはまずしなくなります。

与えられた時間が仮に3分あるとすると、紙面でいえば「一面を全部話せるかな」となりますし、5秒であれば「うーん、見出しまでか」ということになります。この時間感覚を身につけておくと様々な場で役に立ってくれると思います。

プレゼンを行っている男性
写真=iStock.com/takasuu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

■説明が上達する4段階の話し方

この新聞方式をよりシンプルに、4段階のフォーマットにした話し方についてもご紹介します。基本的な考え方は同じです。

話し方の基本構造を4つの段階に分け、①「まず、ひと言でいうと●●です」(本質の要約)→②「詳しく言えば●●です」(ポイントを3つほど)→③具体的に言うと●●です(例示、エピソード)→④「まとめると●●です」(最終まとめ)――という流れです。

どんな説明でもこのフォーマットに乗せて話すことを習慣化するのです。そして大切なのは時間間隔です。ストップウォッチを片手に持ちながら、「1分で」「30秒で」あるいは「15秒で」話す練習を繰り返してみてください。最初に15秒の感覚が完全に身につけば、30秒はその倍としてイメージすることができるでしょう。

15秒といえば平均的なテレビCMの1本分の尺ですから、そう考えればかなりの情報を伝えることができるはずです。披露宴の席で中身の薄いとっ散らかった話を10分もしている場合ではありません。この4段階の基本フォーマットを取り入れて、ストップウォッチで時間感覚を染み込ませるだけで、見違えるほど説明は上達するはずです。

■論理的で本質的な話を目指そう

話し方や考え方の原則を理解するには、「論理性←→非論理性」と「本質的←→非本質的」の四分割で考えるとわかりやすいと思います。

もっとも望ましいのは、論理的かつ本質的であるということ。話が本質を突いているうえに、論理的にも正しいという意見です。図表1で言えば右上のゾーンということになります。

【図表】話し方と思考の関係性
出典=『40代から人生が好転する人、40代から人生が暗転する人』(宝島社)

正反対なのが左下のゾーンで、論理的にもおかしいし、そもそも関係の無い話をしているというパターンです。話すときも書くときも、基本は「論理的で本質的」な話し方を心がけるということになります。

この話し方が飛びぬけてうまかった1人が政治家の田中角栄です。人間臭さと豪快さに溢れた歯に衣着せぬトークが真骨頂でしたが、その内容は実に論理的に構成されていました。芯を食うように本質を突き、根拠となるエビデンスも数字として織り交ぜるため、予備知識が無い一般大衆にも説得力を持って響きます。そこにテンポよくユーモアも織り交ぜるため、聴衆は「もっと聞きたい」という気持ちになるのです。

論理的で本質的な文章や会話は、人の心を気持ちよくするのです。

■ただし、論理性だけが全てではない

一方、論理性は無いけれど、本質を突いているという感覚も世の中には必要です。いわゆる芸術家タイプ、天才タイプの中には「あの人は、理屈はめちゃめちゃなんだけど、芯を食ったような鋭いことをよく言うんだよな」という人が多いのです。

また、受験生が試験で数学的な問題を解く際にも、理論より先に直感が先に閃き、それに基づいて計算したら合っていた、従ってこの公式で……というように、言わば後づけで立証するようなことも少なからずあるのです。頭の中で起こっていることと論理性とは、必ずしも一致しないということ。比重が論理に傾きすぎると閃きが消えてしまうという考え方もできるのです。現実社会は理屈や論理だけで動いているわけではありませんので、キラリと輝く感覚も掬い取っていくことが必要です。それにより楽しいコンテンツが生まれ、文化が育ち、多様性のある豊かな社会になっていくことにもなるからです。

■話し上手になるとコミュニケーションも円滑になる

齋藤孝『40代から人生が好転する人、40代から人生が暗転する人』(宝島社)
齋藤孝『40代から人生が好転する人、40代から人生が暗転する人』(宝島社)

これとは別に、テレビのバラエティ番組などで、芸人さんがわざとズレたことを言い(ボケ)、これが視聴者にドっとウケるというパターンがあります。これは、本質が何かを理解したうえで、意図的に本質的でない言葉を言うことにより、「今はその話はしてないだろ!」という笑いを作り出すという一つの技術です。全体の場の空気を読み取り、会話の流れを正しく把握しながら本質をズラすという構図がそこにあるわけです。

リサーチ会社の楽天インサイトが2024年に行った調査によると、「社会人に特に求められていると思うスキルは」との問いに対し、40代男性の63%が「コミュニケーション力」と答えています。

40代の社会人が円滑なコミュニケーションを日々行うには、まずは論理と本質を突いたアウトプットが自然にできるようになることが必要です。

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齋藤 孝(さいとう・たかし)
明治大学文学部教授
1960年静岡県生まれ。東京大学法学部卒業後、同大大学院教育学研究科博士課程等を経て、現職。専門は教育学、身体論、コミュニケーション論。ベストセラー作家、文化人として多くのメディアに登場。著書に『孤独を生きる』(PHP新書)、『50歳からの孤独入門』(朝日新書)、『孤独のチカラ』(新潮文庫)、『友だちってひつようなの?』(PHP研究所)、『友だちって何だろう?』(誠文堂新光社)、『リア王症候群にならない 脱!不機嫌オヤジ』(徳間書店)等がある。著書発行部数は1000万部を超える。NHK Eテレ「にほんごであそぼ」総合指導を務める。

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(明治大学文学部教授 齋藤 孝)

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