「首相に最も近い男」小泉進次郎氏はなぜ失速したのか…「やっぱり父純一郎にはなれない」と党員が失望した理由
プレジデントオンライン / 2024年10月2日 9時15分
■進次郎氏ほど「刷新感」のある総裁候補はいなかった
小泉進次郎氏の自民党総裁選への出馬会見は鮮烈だった。
「自民党が真に変わるには、改革を唱えるリーダーではなく、改革を圧倒的に加速できるリーダーを選ぶことです」と高らかに宣言し、「決着」をキーワードに掲げた。不安視された質疑応答でも、フリージャーナリストから「知的レベルの低さで恥をかくのではないか」と問われたのに対して、チーム作りを強調した上で、「『あいつマシになったな』と、思っていただけるようにしたい」と切り返した。
43歳という、9人の立候補者の中で最年少の若さだけではない。滝川クリステル氏との間に2児をもうけ育児休業を取得するなど、「刷新感」を醸し出すのに、進次郎氏ほどの適任者はいなかったのではないか。
ブレーンも揃っていた。出馬会見の司会を務めた小林史明衆議院議員も41歳と若手の代表格であり、内閣官房副長官として岸田文雄首相を支えてきた村井英樹衆議院議員(44)もXに長文をポスト(投稿)し、いかに進次郎氏に期待を託せるかを熱弁していた。
■「小泉劇場」の再来と見られていたが…
週刊現代が、立候補会見の遥か前に「小泉進次郎、総理になる」と大見出しを掲げていたのは、先走りではなく、世の中のムードを反映していたに違いない。次の総選挙の顔となり、自民党を逆境から圧勝に導くのは、進次郎氏しかいないのではないか。そんなムードが、支持者だけではなく、野党側からも諦めに似た雰囲気の中で漂っていた。
しかし、進次郎氏は、選挙戦の中盤で急に勢いを失った。とりわけ、自民党支持者からの支持を得られなかった。実際、党員・党友票は61票と、109票の高市早苗氏、108票の石破茂氏には遠く及ばなかったのである。
なぜ、こんな結果になったのだろうか。
■都市部では高市氏に「ダブルスコア」で惨敗
毎日新聞は、1回目の投票直後に「小泉氏まさかの失速 『次世代のリーダー候補』決選投票残れず」と題した記事をアップしている。時間経過から見て、結果が出る前に用意しておいた予定稿と呼ばれるものだろう。ただ、あらかじめ書いていたとみられるだけに、世間の代表的な見方をあらわしていよう。
失速の理由として記事で挙げられているのが、「実績不足」からくる討論会での頼りなさである。野党第1党の立憲民主党が新しい代表に野田佳彦元首相を選んだことも、党内の不安に拍車をかけたのかもしれない。また、有権者である自民党員・党友は中高年男性が多いのに、YouTubeでの発信にこだわったのは、ターゲットを間違えたとも考えられる。
こうした、毎日新聞の指摘は、たしかに頷ける。
実際、総裁選の得票数ではなく、実際の、党員・党友票の数でいえば、小泉氏は、高市・石破両氏の半分ほどしか取れていないからである。都道府県レベルで見れば、1位になったのは地元・神奈川県だけにとどまる。人口構成から見れば、比較的若年層が多い都市部の東京都や千葉県、埼玉県では、高市氏にほぼダブルスコアで負けている。
■「小泉進次郎ファクト」が示した急所
地方どころか、都市部であっても、自民党を支える人たちから、進次郎氏は、そっぽを向かれたのである。これでは、「小泉旋風」など吹くわけがない。2001年に父・純一郎氏を総裁に押し上げた流れは、進次郎氏には来なかったのである。
とはいえ、当初は立候補を目指していた斎藤健・経済産業大臣や、岸田首相の側近の木原誠二・自民党幹事長代理といった、錚々たる面々までもが支えた(肩書きは総裁選当時)。1回目の投票で得た議員票は75票と、高市(72票)・石破(46票)を上回り、選挙の顔としての希望の灯は最後まで消えなかった。
当初は高い支持を得ていたはずの自民党員・党友から、なぜ、そこまで見放されてしまったのだろうか。
その理由の一端が見えるのが、「小泉進次郎ファクト」と題したウェブサイトである。サイトによると、「小泉進次郎候補の発言や政策についての切り取り・風説について、ファクト(事実)に基づいたQ&Aをお伝えする」という。
進次郎氏陣営の小林史明衆議院議員が、Xに「応援してくれる方たちが事実情報のまとめサイトを立ち上げてくださったようなので」とポストしているため、陣営が作ったサイトではないようだが、それだけに、進次郎氏の支持者にとっての「急所」をあらわしている。
たとえば、同サイトの冒頭にある「年金受給開始80歳」はどうか。
■「年金の受給開始を80歳にする」発言は、本当なのか?
日本の人口に占める65歳以上の割合は29.1%、75歳以上は16.1%といずれも過去最高を更新している。彼らだけではなく、多くの人たちにとって年金をいつから受け取れるのかは死活問題である。
「小泉進次郎ファクト」には、次のように記されている。
進次郎氏の言う「60歳~80歳までの間であれば、受給開始年齢は自分たちで決められるという考え方」は、仕組みを理解している人たちには腑に落ちるが、報道の見出しだけを読んだ人からは「80歳まで年金をもらえない」ととられかねない。
■「善か悪か」という構図を築いた父・純一郎氏
また、「解雇規制の緩和」はどうか。
「『解雇規制の見直し』であって『緩和』ではありません」として、「出回っている風説」だと判定している。また、経営コンサルタントの冨山和彦氏や、経済学者の中室牧子氏のXへのポストを「関連情報」として掲載し、進次郎氏の議論を補強しようとしているように見える。
ほかにも、2024年9月16日の討論会での「大学に行くのがすべてじゃないです」という発言や、視察先の千葉県富津市で記者団から水政策への見解を問われ、「水がおいしい町なのにコンビニで外国のペットボトルの水を飲んでいる。こんなに理屈に合わない消費の仕方はない」といった発言が、ネットを中心に拡散された。
中には「小泉進次郎ファクト」が指摘するように悪質な「切り取り」も見られるが、前述の発言が「庶民」の気持ちを逆撫でしたという側面は否めないのではないだろうか。
父・純一郎氏は、「郵政民営化」を論点に掲げ、「賛成か反対か」=「改革派か守旧派か」=「善か悪か」という構図を築いた。「私の内閣の方針に反対する勢力、これは、すべて抵抗勢力」と国会答弁で言い放ち、国民が喝采を浴びせた。
ひるがえって進次郎氏の「争点設定」は、どうか。
■「進次郎構文」では誤解されても仕方ない
「雇用」「年金」「学歴」といった、極めてセンシティブなテーマについて次々と、しかも誤解を生みかねない、ことば足らずな言い回し(=「進次郎構文」)で発したために、幻滅が広がったのではないか。しかも、「弱者切り捨て」のイメージがつきまとう純一郎氏の「改革」をそのまま引き継ぐのではないか、との懸念が生まれた。
争点を絞りきれなかったばかりか、なまじ勉強をし(ようとし)ているばかりに、発言があいまいで二転三転したとのイメージを与えてしまい、党員からも愛想をつかされたのではないか。
先に挙げた「解雇規制の見直し」が象徴している。なんとも歯切れが悪い。現実的と言えば聞こえは良いものの、玉虫色というか、踏み込みが甘い。
記者会見でのやりとりも、当意即妙ではあるが、「やさしさ」が、進次郎氏の売りであり、優れたブレーンや、年長者からの支援を引き寄せたのだろう。
しかし、それゆえにこそ、自民党支持者たちは、進次郎氏には乗り切れなかったのではないか。
■ことばに自信を持つ「決意」が求められる
もちろん、自民党員・党友が求めるものは、大きく変わりつつある。高市氏が多くの票を集めた背景には、保守層の台頭があるだろう。もともと、彼らは進次郎氏とは相容れない人たちなのかもしれない。
それでも、もし、進次郎氏が、自分のことばに、もっと自信を持てたのなら、旋風を巻き起こせていたのではないか。「小泉進次郎ファクト」などというサイトが生まれる必要もなかったのではないか。
敗戦の弁で「感謝の気持ちでいっぱい」と述べる姿より、「悔しい」とか「やられた」といった、生々しい、血の滲むようなことばを聞きたかった支持者は多いはずだ。
実績や経験不足は、場数を踏み、年を重ねれば解消されるだろう。それだけに、彼に求められるのは、「決着」とのキーワードそのままに、ことばに自信を持つ「決意」であり、「決断力」である。その迫力不足が、今回の結果を招いたのではないだろうか。
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神戸学院大学現代社会学部 准教授
1980年東京都生まれ。東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(社会情報学)。京都大学総合人間学部卒業後、関西テレビ放送、ドワンゴ、国際交流基金、東京大学等を経て現職。専門は、歴史社会学。著書に『「元号」と戦後日本』(青土社)、『「平成」論』(青弓社)、『「三代目」スタディーズ 世代と系図から読む近代日本』(青弓社)など。共著(分担執筆)として、『運動としての大衆文化:協働・ファン・文化工作』(大塚英志編、水声社)、『「明治日本と革命中国」の思想史 近代東アジアにおける「知」とナショナリズムの相互還流』(楊際開、伊東貴之編著、ミネルヴァ書房)などがある。
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(神戸学院大学現代社会学部 准教授 鈴木 洋仁)
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