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なぜ「新築マンション離れ」が起きているのか…「高い、狭い、チープ」でステルス値上げを図る住宅政策の大問題

プレジデントオンライン / 2024年10月6日 7時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AH86

首都圏の新築マンション市場は、ピーク時の2000年には9.5万戸が大量供給された。だが、不動産コンサルタントの長嶋修さんは「実はこの10年で新築マンションの魅力は大きく減退している」という――。

※本稿は、長嶋修『グレートリセット後の世界をどう生きるか 激変する金融、不動産市場』(小学館新書)の一部を再編集したものです。

■「超高い」「価値低下」「マイナス価値」に3極化

それではまず、筆者の本業の一つである不動産市場の未来から見ていきましょう。今後はどうなるでしょうか。

結論を最初に言えばこうなります。

「1990年のバブル崩壊以降進行してきた不動産市場の三極化が、引き続き、よりコントラストを強める形で、少なくとも2070年くらいまで進行する」

図表1を見ていただければ一目瞭然ですが、15:70:15の三極構造の法則は、不動産市場でも次のような三極化の現象として当てはまるのです。

【図表1】不動産市場の三極化
出所=『グレートリセット後の世界をどう生きるか 激変する金融、不動産市場』(小学館新書)

・上位15パーセントに該当する不動産は、もし今「高い」と感じたとしても今後もその価値は落ちないどころか、一段の上昇
・中位70パーセントはだらだらと下落し、その程度は立地などの要因により年率2~4パーセントの価値低下を継続
・下位15パーセントは無価値あるいはマイナス価値に

つまり、この10年程度起きてきた現象が続くだけのことです。

このことは、2017年に上梓した『不動産格差』(日本経済新聞出版)ですでに指摘済みであり、ここまで実際その通りになってきました。今後も時間の経過とともにその傾向が極まるばかりで、2070年あたりまでこの三極化が継続すると考えています。

あまりにも単純明快すぎる結論に見えるかもしれませんね。

■日本の土地資産総額は2000兆→1000兆円に

しかしここから、超高密度で、類書にはない角度と幅、奥行きで、本書を手に取ってくださったあなたに有用な知見をお届けしていきます。知的好奇心が強めの方はどんどん読み進めることができる一方で、直接的な答えやノウハウ「だけ」を知りたい方にはもしかすると向いていない書籍かもしれません。

本書はただの「不動産売買ノウハウ本」でもなければ「金融経済知識本」でもありません。そうした直接的な知識だけを求めている方には、おそらく本書は向いていません。

不動産売買の意思決定はもちろん、各種の投資行動、仕事をどうするか、ひいてはどのように生きるかを考える時、その前提となる「未来予測」は必須と言えるでしょう。

とはいえ昨今、世の中には何やらきな臭いニュースも飛び交っており、未来を明確に見渡せない不透明感に満ちています。

世間ではやれ不動産バブルだ何だと騒いでいますが、1990年バブル期における日本の土地資産総額はおよそ2000兆円だったところ、現在では約1000兆円と、実は半減しています。日本全体としては順調に縮んできたわけです。モノの価格が半分になるって、すごいことですよね。

■バブルが起きているのはほんの一部のエリアだけ

要するにバブルと言われるのは、ほんの一部のお話です。2021年、首都圏の新築マンション市場が1990年の平均価格6123万円を超えたことで「マンション価格が90年バブル期超え」となり、メディアが大騒ぎをしました。

しかしその実態をよく見てみると、「都心・駅前・駅近・大規模・タワー」といったワードに代表される上位15パーセントに該当する高額マンションが大量に供給されている一方で、下位15パーセントの「都心から遠い・駅から遠い・築年数が古すぎる」といった条件に難のある中古マンションは相当のダンピング価格で取引され、あるいは取引すらままならない状況です。

そもそも首都圏の新築マンション市場は、ピーク時の2000年に9.5万戸の供給数、約3.8兆円の販売総額を誇っていたものの、現在の供給数は3万戸程度と激減し、販売総額も2.1兆円程度と大幅に縮小しています。

立地条件の悪い新築マンションが減少し、好条件マンションの供給がメインとなった昨今では、過去と平均価格「だけ」を比較しても無意味です。供給戸数や販売総額を見れば、新築マンション市場は実は典型的なデフレ産業だということがわかります。

■新築マンション界隈でも“ステルス値上げ”が起きている

実はこの10年で新築マンションの魅力は大きく減退しています。

2002年における東京23区新築マンションの平均専有面積は80平米を超えていましたが、2023年には60平米台と、大幅に縮小しているのです。これは、およそ20年にわたる価格上昇の中で、グロス(販売総額)を上げないための、マンションデベロッパーの企業努力とも言えます。

インフレ時にお菓子の容量を200グラムのところ180グラムにして価格を据え置く、といった戦略と同様で、マンションの専有面積を縮め、天井高も低くすることで体積を縮小、同時にキッチンやユニットバスといった設備の仕様をグレードダウンするなどして、販売総額の上昇を抑制する試みです。

こうなると、ただでさえ価格が高く、しかも収納が少なくて、リビングや各居室が狭いうえに設備グレードまで陳腐化している新築マンションより、過去に供給された中古マンションの方が広くゴージャスで、相対的に魅力的に映ります。このことは各住戸に限らず、エントランスや廊下をはじめ各共用施設についても同様です。

■日本の住宅は「新築文化」などではない

またある程度立地を絞ってマンション購入を検討する場合、供給量が少ないため、そもそもそのエリアに新築マンションがないといった現象も昨今の新築マンション供給減の中ではよくあることです。

新築マンションは価格が高く、部屋は狭く、設備もチープで魅力がないうえ、供給数も少ないことから、代替的選択肢として中古マンション市場は大いに盛り上がり、リフォーム・リノベーション事業者も増加しています。

住宅ローンと別途でリノベーション費用を現金で用意するか、信販系などの高金利・短期間ローンを利用せざるを得ないといった一昔前の状況から脱し、今となってはマンション購入費用+リノベーション費用セットでほぼ全ての金融機関で一本化ローンを組めるようにもなり、中古マンション市場は活況を呈しているわけです。

住宅市場において「日本は新築文化だ」などと言われ続けてきましたが、それは文化というようなものではなく「新築をたくさん造り、税制優遇などで買いやすくする国策があったから」そう見えていただけで、昨今の新築マンションのように供給が細ると、おのずと中古市場が活況を呈するわけです。

白い壁を備えたリビングルーム
写真=iStock.com/Martin Barraud
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Martin Barraud

■「団塊世代向けの政策」を長い間変えられない

新築優遇策は、かつて戦後の高度経済成長期の圧倒的に住宅が足りない時代に、庶民の住宅ニーズを満たすためにできた政策の名残です。

当時は田舎に仕事がなく、実家を継がない次男坊以下は東京をはじめとする大都市部に出て仕事を求め、都市近郊に住宅を求めるという行動様式が主流だったためと、そもそも人口増加局面であったため住宅の絶対量が足りなかったという事情があったからです。

この新築優遇策は、本格的な少子化・高齢化・世帯数および人口減少局面に入る現在においても、長らく政治と強く結びついてきた業界団体の強い要望もあり、ある意味既得権益的な形でだらだらと続いているわけですが、それでもさすがにもうそんなに新築が売れる時代ではなくなりつつあります。理由は主に3つあります。

1つ目。ピーク時に160万戸、このところ年間90万戸程度で推移している全国の新築住宅着工戸数はやがて40~50万戸へと、ここからさらに半減していくでしょう。理由は単純で、上述した通りまず「そもそもそんなにニーズがないから」。

戦後の高度経済成長期を、労働と消費という2つの側面で支えてきたいわゆる団塊の世代(1947年~1949年生まれ)に比して現在の住宅購入ボリュームゾーン(30代中後半)の世代は、団塊世代の子供たちである団塊ジュニアよりもおよそ一回り下ですが、この世代は団塊世代の人口の半分程度。絶対的に需要が足りないのです。

■建築資材費・人件費はまだまだ上がる

新築住宅が売れなくなる2つ目の理由は「これまでのような新築優遇策は、日本の財政上いつまでも続けられないから」。補助金や助成金、住宅ローン控除や固定資産税減免などの税制優遇を含めた広義の住宅予算のうち、およそ半分を新築住宅が占め、残りを中古住宅や賃貸住宅、介護系などで分け合う構図はいかにもいびつであり、このようなアンバランスさは早晩解消されるでしょう。つまり新築が買いにくくなるということです。

3つ目には「建築費はさらに上がる可能性が高い」ことです。2020年に始まったコロナ禍で、またその後のインフレ傾向で建築費は25~30パーセント程度上昇し、BtoB(Business to Business 事業者間取引)における価格転嫁はおおむね行き渡りましたが、BtoC(Business to Consumer 事業者から消費者)への価格転嫁はまだ終わっていません。

さらにはここから人件費の上昇が押し寄せます。長らく3K(きつい・汚い・危険)と言われた建設業界の現場は恒常的な人手不足で、若年層が手薄で高齢化も進む中、現場の大工さんの日当を相当程度上げないと人が集まらなくなりつつあります。正確には、数のうえでは足りるものの、まともな仕事ができる人を確保しようとすると、コストアップせざるを得ないということです。

建設現場
写真=iStock.com/CHUNYIP WONG
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/CHUNYIP WONG

■郊外の「3000万円台の新築」が売れない時代

都市郊外の徒歩圏外や地方では、しばしば2000万~3000万円台の新築住宅が売れたりします。それは超低金利の住宅ローンを利用し、住宅ローン控除を加味すると、近隣で賃貸住宅を借りて賃料を払うより月々の支払いが安く上がるからです。

しかしこうした立地のニーズは昨今、「超」がつくほど限定的です。共働き世帯が圧倒的多数となった現在、求められるのは駅前・駅近など利便性の高い物件で、また若年層であるほど自動車保有比率が低いという現状もあります。

自治体の経営上、そうした徒歩圏外の立地において「上下水道・道路・公園・橋」といったインフラ修繕をはじめ各種の行政サービスをまんべんなく提供するのは極めて非効率であるため、早晩「背に腹は代えられない」として、行政サービスは後回しにされるか、提供されなくなるでしょう。

もっと思い切って「人が居住できる都市計画」の定義から外される可能性も十分にあります。中長期的には、たとえ東京のような大都市であっても、街のコンパクト化を進め、行政効率を上げていかなくては、自治体経営が立ち行かないのです。

■補助金をアテにする自治体で家を買うとどうなるか

自治体の主要財源は「住民税」と「固定資産税」です。金融リセット後の世界では、中央から入ってくる「地方交付税交付金」やらいろんな名目の補助金をあてにした自治体経営はしない、できない前提で世の中が動きそうだと考えておいた方がいいでしょう。

こうした将来は都市計画から外れそうな立地にも、現在では新築住宅が造られ、個人の損得勘定で売れてしまうという、経済用語でいう典型的な「合成の誤謬(ごびゅう)」が起きています。「合成の誤謬」とはかんたんに言えば「個人やミクロの視点では合理的な行動も、全体やマクロの世界では、必ずしも好ましくない結果が生じてしまうこと」です。

新築住宅の「合成の誤謬」を具体的に言えばこういうことです。

「新築を売りやすい制度設計のもと、事業者が新築を提供」
「新築を買いやすい税制や低金利のもと、消費者が新築住宅を購入」

「しかしこの時、自治体経営の観点はなく野放図に建設されるため、自治体の経営効率が悪化」

■市民を待ち受ける「ゆでガエルのワナ」とは

詳しくは第2章で解説しますが、このような構図の中で新築住宅の建設が進めば、次のような取り返しのつかない事態になりかねません。

長嶋修『グレートリセット後の世界をどう生きるか 激変する金融、不動産市場』(小学館新書)
長嶋修『グレートリセット後の世界をどう生きるか 激変する金融、不動産市場』(小学館新書)

「自治体の経営を持続するには税金を上げるか行政サービスを減らすしかないが、前者は現実的にはなかなか難しいため、後者を選択するしかない」
「こうした事態はじわじわと進行するため、市民も行政もゆでガエルのワナにはまり、気づいた時には取り返しがつかないくらい自治体が衰退している」

ゆでガエルのワナとは「カエルは、いきなり熱湯に入れると驚いて逃げ出すが、常温の水に入れて徐々に水温を上げていくと逃げ出すタイミングを失い、最後には死んでしまう」という意味で、「ゆっくりと進む環境変化に慣れてしまい、気づいたころには取り返しのつかないことになっている」といった事態の比喩です。

本来は、個人の合理的な行動がマクロ(全体)にうまく働くよう制度設計するのが政治や行政の仕事なはずですが、ありとあらゆるできない理由を挙げて、あるいは既得権益にしがみつくことで、「壮大な無駄」を生み出し、全体として歪みが生じているのです。

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長嶋 修(ながしま・おさむ)
不動産コンサルタント
さくら事務所会長。1967年生まれ。業界初の個人向け不動産コンサルティング会社「さくら事務所」を設立し、現在に至る。著書・メディア出演多数。YouTubeでも情報発信中。

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(不動産コンサルタント 長嶋 修)

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